24.Pretty Woman

しばらくしてアウトレットモールに着いて、俺達は真っ直ぐにサルヴァトーレ・フェラガモへ向かった。
靴がメインで服の品揃えは少ないが、どこに行ってもそれは変わらない。
路面店に行けばまだ品揃えはいい方だが、うっかり仄香に定価でも見られたらパニックになるのは目に見えているから、アウトレットの方が都合がいい。
それに女は割引に弱いものだ。
いくら高くても、定価と比べて格安だったら仄香も拒まないだろう。
ついでに靴も季節に合わせて4足くらい揃えてもいい。
俺もフェラガモの靴は履きやすいから気に入っている。
ストックに1足くらい買っておいてもいい。

ドアをくぐると路面店と同じような作りだが、店員がしつこく接客をして来ないので、気兼ねなく入れた。
真っ直ぐに洋服コーナーへ行くと、上品なワンピースやジャケットとスカートの2ピースが並んでいた。
合わせるなら、エルメスのスカーフか、GUCCIの無地のストールが合いそうだ。
仄香に似合いそうなデザインのもので、サイズが38のものを4着選ぶと、それを手に取って店員を呼んだ。
どれもイタリアブランドにしてはおとなしいデザインで、とても上品で生地がいい。
ワンピースが2着と、2ピースが1着とジャケットが1着。
ジャケットと2ピースの上着はワンピースにも合わせられるから、着回しが効く。

「これを全部試着で」
「かしこまりました」
「仄香、結納の一部だと思って値段は見るな。女の服も結納の一部だからな」
「う、うん…」
「まぁ、ご結婚でございますか、おめでとうございます!」
「ああ、どうも。フェラガモは気に入っているからな。俺も彼女の服を選んだらビジネスシューズを買う。彼女の靴も。4cmヒールのヴァラと7cmヒールのサンダル、My Ferragamoを3足だな」
「よくご存知でいらっしゃいますね!サイズはいかがなさいましょう?」
「彼女は6ハーフCでとりあえず在庫を確認だ。その中から選ぶ。ヴァラはフォーマルな色目で。サンダルは黒がいい。俺は8ハーフで底がレザーの黒だ。ガンチーニの金具のな。My Ferragamoは、在庫があるもの全部持って来てくれ。その中から選ぶ」
「かしこまりました。では、試着室にご案内致します」

仄香は試着室に消えて行った。
その間に、店員が二人がかりで靴の用意をした。
俺は買い慣れているから、すぐに決まった。
ガンチーニの金具の靴はフォーマルシーンでなければ使いやすい。
フェラガモのフォーマルシューズは靴の先に小傷がついたらもう使えないから、持っているが滅多に使わない。
むしろ普段のビジネスにもオフのスーツにも履けるのが便利だ。

「悪ぃ、スクエアカットのメンズも用意してくれ。アルマーニにはスクエアの方が合う」
「かしこまりました」

すぐにスクエアカットの靴も用意され、試着してすぐに決めた。
その時、仄香が2ピースを着て出て来た。
年齢を問わない、淡い色合いの2ピースは上品で、少し仄香が大人びて見えた。

「どうかな?」
「よく似合ってる。インナーとスカーフ次第でいくらでもコーディネート出来る無難なデザインだな。大人びて見える。どこに出ても恥ずかしくないぜ?」
「とてもよくお似合いです。黒のヴァラをご用意致しましたが、こちらのゴールドの1cmヒールのヴァラもいかがでしょう?今季限定色で人気でございますし、こちらのスーツならこのお色が映えるかと存知ますが」
「ほう…。そうか、1cmヒールが出たってそう言えば聞いたな。仄香、それ履いてみろ」
「うん」

仄香はゴールドの靴を履き、鏡の前でゆっくりと一周した。
ゴールドと言っても、けばけばしくなく、上品な光沢と淡い色合いで、とても似合っている。

「何か、大人になった気分…。確かに年齢を問わないかも。すごく上品…」
「ああ、ヴァラならメンテナンスが利くから、ずっと履けるぜ?それこそ10年以上だ。減価償却を考えたら安いもんだぜ」
「おっしゃる通りでございます。控え目になさる時はこちらの黒のヴァラがよろしいかと存じます」
「仄香、黒のヴァラを履いてみろ」
「うん」

黒のヴァラを履くと、また雰囲気ががらりと変わった。
おとなしい感じで、もっと落ち着いたフォーマルなシーンにぴったりだ。
先ほど選んだワンピースが一つ秋冬向けだったから、それに間違いなく似合う。

「ゴールドの方が、このスーツには好きだなぁ」
「そうだな。でも、多分、40歳近くになったら絶対重宝するし、秋冬向けのワンピースには黒のヴァラの方が合う。試しにそのワンピースを試着して来い」
「うん、分かった」

仄香は試着室に消えて行った。
その間に用意されたMy Ferragamoを吟味して行く。
スエードの素材の物が多く、中にはキャビアをモチーフにした柄もあった。
おとなしく可愛らしい感じのボルドーのスエードもいいし、華やかなキャビアもいい。
あまり足元が派手になりそうなカラーを除いて、5足に絞った。
これは、普段着にも履けるように用意させたものだから、カジュアルで構わない。
仄香の普段着に合わせても、足元にいい物を身に付けていればそれなりに見える。

「小十郎、ワンピース着てみたんだけど、どうかな?」

ベージュと黒にウエストで切り替わっているワンピースは、どこかレトロな雰囲気ながら上品で、髪をシニヨンに巻いたらパリジェンヌに見える。
目で促すと、仄香は黒のヴァラを履いた。
完璧に上品なお嬢様に見える。

「仄香、完璧だ。合わせるならGUCCIの生成りのストールがいい。ジャケットを上から羽織ってみろ」
「うん」

黒のボレロのようなジャケットを羽織ると、完璧な冬スタイルになった。
計算通りだ。
もう一着は春物の色合いだが、ジャケットの丈の短さなら肌寒い間はこれが合うし、どちらのワンピースも、先ほどのスーツのジャケットを着れば、春も秋も着られる。
夏のワンピースは、アルマーニがいい。

「シルエットが綺麗なボレロだな。シックながら可愛らしい感じがする。秋冬にぴったりだ。黒のヴァラにも良く似合ってる。初夏までは上着なしでも十分着れる。梅雨明けくらいまではな」
「そう?良かった!」
「ジャケットを脱いで、黒のサンダルを履いてみろ。これはジーンズにも合うはずだぜ?」
「うん」

仄香は椅子に座り、少し複雑で華奢な作りのサンダルを履いて立ち上がった。
7cmヒールがあるだけあって、脚が長く見える。
そして、流石同じブランド同士、系統は違うのに相性がいい。
夏のワンピース用にと思ってたが、このワンピースにも悪くない。

「それでフェラガモのサングラスをかけたら、そのワンピースでも足元と調和するな。アウトレットはサングラスの品揃えがあまり良くないから、シーズンが来たら、路面店だな」
「お客様、流石でございますね。全く同感でございます」
「どうだ?歩きやすいかよく確かめろ。ヴァラは間違いなく履きやすいが、サンダルは好みがある」
「うん、ちょっと歩いてみる」

仄香は、ショーウィンドウを見て歩くように店内を一周した。
靴を見ていたカップルが仄香を振り返り、見惚れた男が連れの女に怒られていて笑ってしまった。
それくらいに仄香は可愛らしい。
系統で言えば、オードリー・ヘップバーンのファッションだ。

「小十郎!フェラガモのサンダルって足が痛くならないんだね!すごく歩きやすかったよ!」
「お前ぇの足に木型が合ってるんだろ。良かったな」
「うん!」
「じゃあ、残りのワンピースを試着して、ゴールドのヴァラを履いて来い」
「分かった」

仄香は試着室に消えて、しばらくしないうちに出てきた。
今度は明るめの淡いピンクベージュのワンピース。
ゴールドのヴァラとぴったりだ。

「そのままでも十分可愛いが、刺し色にスカーフを選ぶと更にいいな。さっきのボレロを合わせるのもいい。小物はまたゆっくり選ぼう。じゃあ、一旦元の服に着替えて、普段用の靴選びだ」
「ええっ!?普段用!?」
「お前ぇが今持ってる服を活かすためだ。足元と小物さえしっかりしてればそれなりに見える。だから、一旦着替えて来い」
「あ、そっか。今までの服ももったいないもんね。分かった」

仄香が着替えている間、My Ferragamoのカラーを考えていた。
キャビアは外せない。
選ぶとしたら、スエード素材を2足か。
考えている間に仄香が着替えて試着室から出てきた。

「まず、これを履いてみろ」

黒のキャビア柄のMy Ferragamoを仄香の前に差し出した。

「これ、バレエシューズ?」
「バレエシューズをモチーフにしてある。歩きやすいと評判だ」
「そうなんだ。本当に小十郎はよく知ってるね。うん、履いてみる」

仄香は椅子に座って履いて立ち上がると驚いたような声を上げた。

「小十郎!これ、今まで履いた事のある靴の中で一番履きやすいよ!こんなに歩きやすそうな靴、初めて!」
「お気に召して光栄です。歩きやすさを追求したデザインでございます」
「良かったな。それに、よく似合ってる。光沢があるから夏も履けるしな。ゴールドのヴァラもあるからこれでオールシーズン行ける。My Ferragamoが気に入ったら、夏にまた買えばいい。これはメンテナンスが利かないから、値段も安い。でも、丈夫なのは流石フェラガモだ。キャビアは潰しが効くから、秋から春にかけてのスエード素材のやつをこの中から2足選べ。お前ぇの持ち服をよく考えてな」
「うん。えーと、無難なのはボルドーかな。汚れが目立たないし、色も綺麗。寒色系の服の時はキャビアでいいし。悩むなぁ…」
「靴は毎日履き替えて、休ませろ。それが長持ちの秘訣だ。だから、もう一足選べ」
「んー、冬は暖色系が多いでしょ?あとは黒とか」
「そういう時は、襟元に刺し色を入れて、色味を調整だ。お前ぇはバーバリーのマフラーが多かったな。季節が変わったらスカーフになる。GUCCIの定番の赤と緑とGG柄のスカーフだったら、赤のスエードなら行けるな。もしくは、この控え目な豹柄だ。どっちがいい?スエードは夏は履かない物だからよく考えろ」
「んー、豹柄も変わってて可愛いんだけど、ジーンズはいいとして、スカートの時に困るかなぁ。ボルドーとあんまり変わらないのがちょっと残念だけど、赤にしようかな」
「ああ、この色は35歳が限界だからいいんじゃねぇか?普段使いなら、色合いがかけ離れてない方がコーディネートしやすいだろ」
「小十郎って本当に流石だね。うん、そうする」
「分かった。ああ、悪ぃがタグを切って、今話していたやつを全部決済してくれ。仄香、ベージュの切り替えのワンピースとボレロと黒のヴァラに履き替えろ。アルマーニとエトロへ寄ったら銀座へ行くからな」
「かしこまりました。では先にワンピースのタグをお取りしますね。お靴はお箱で結構ですので」

店員は手早くタグを取ると、レジに向かった。

「仄香、俺はレジの所にいる。品数を間違えられないように確認してくるから」
「うん、分かった。着替えて来るね」

俺は、仄香が着替えている間に会計を済ませた。
決して安い買い物とは一般的には言えねぇかもしれないが、値引き率が半端ねぇ。
これで当分仄香は特に靴には困らないし、秋から初夏にかけての服も揃った。
後は、正直、小物類と夏のワンピースとサングラスくらいだ。
本当はコートも新調してやりたいが、ここにはそのブランドが入っていない。
ガリアーノかマックスマーラが理想だ。

カードで決済を済ませて明細をチェックして財布の中にしまうと、仄香が着替えてやって来た。
見違えるくらいに上品で大人びた格好だ。
普通の男なら引くだろう。
でも、俺の隣りには相応しい。
仄香も気後れする事がないだろう。

仄香は着て来た服も包んでもらって、俺達は店を後にした。
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