27.Promise Ring

話しているうちに首都高に入り、間もなく銀座ランプから首都高を降りた。
午後6時少し前、ようやくネオンが空に映える時間帯だ。
銀座4丁目の交差点の裏道のパーキングに車を停めて、コートを羽織って外に出た。

「小十郎、どこのお店に行くの?」
「ああ、話すのを忘れてたな。お前ぇ、ブルガリとカルチェ、どっちがいい?正直、カジュアルデザインとなるとこの二択だな。強いて言えばあとはエルメスか。ティファニーは悪いが却下だ。俺には似合わねぇな。まぁ、アトラスのゴールドならまだマシか。ティファニー本店の時計をイメージしたリングだな。いずれにせよ、結婚指輪よりもファッション性が高くて、結婚指輪には見えないデザインの物を選ぶつもりだ」
「エルメスなんて恐れ多い!うーん、ブルガリはゴツいイメージがあるんだよね。カルチェのハッピーバースデーのシリーズは好き。あと、ティファニーの時計のデザインのは女の子の憧れだなぁ」
「エルメスもゴールドのマリッジなら知れてる。ただ、俺にもあと10年は早ぇえな。ティファニーのアトラスは定番でありふれている。ゴールドの色ならそうでもないか。ゴールドでスーツの邪魔にならないのはハッピーバースデーかアトラスかブルガリか。どっちを先に見たい?」
「うーん、ティファニーは憧れだけど、他の人とかぶりそうだから、カルチェがいいな。小十郎もその方が似合いそうだし」
「分かった、じゃあ、カルチェに行くぞ」

歩き出すと、仄香は追いかけるように俺と手を繋いだ。
思わずハッとして仄香を見遣る。
こうして手を繋いで歩くのは何年振りだろう。
仄香は嬉しそうに笑った。

「小十郎と手を繋ぐの、久しぶり。すごく嬉しいな」
「そうか。確かに久しぶりだな」

駐車場から歩いてすぐの所にカルチェの路面店があった。
ドアマンに扉を開けられて中に入ると店員がすぐに出迎え、ペアリングを探している事を伝えると、地下のブライダルコーナーに通された。
仄香は、エンゲージリングのダイヤに目を瞠って見惚れていた。

「エンゲージは、もっと質のいいダイヤを選ばせてやるからまたそのうちな」

耳元で小さい声でそう囁くと、仄香は頬を染めて俺を見上げた。

「質のいいダイヤって?」
「世界で一番大きなダイヤはデビアス鉱山で取れた物でイギリス王室にある。デビアスのダイヤは質がいい。あとはティファニーだな。ティファニーも独自の鉱山を持ってる。他にもフランスのブランドでお前ぇに似合いそうなのがあったな。そのうち連れて行ってやるから、今日はプロミスリングだけな?」
「うん!またデート出来るの楽しみだな」

店員は微笑ましそうに俺達を眺めて、マリッジリングのコーナーに案内した。
仄香は、憧れるように一つ一つ見て回っている。

「マリッジリングは、プラチナにするから今日はピンクゴールドの中から選べ」
「お客様、マリッジリングではないのでございますか?」
「ああ、欧米風にプロミスリングだ。だから遊び心があって、色目もゴールドがいい」
「素敵ですね。かしこまりました。それならばこの二種類をお勧め致します」

店員はショーケースの中から二種類リングを出した。
一つはカルチェのロゴが散りばめられたハッピーバースデー。
もう一つはシンプルにカルチェと刻まれていてダイヤが一粒あしらわれている物。
どちらも遊び心がありながら品が良くて、普段使いにいい。

「仄香、どっちがいい?」
「実際に見ると悩むね。シンプルな方もダイヤが素敵だし、ハッピーバースデーはカルチェのシンボルだし、悩んじゃう」
「カーヴィングのシリーズは大変人気でございます」
「そうですか…。素敵なんだけど…。でも、カルチェのカーヴィングだけじゃ小十郎には少し地味かな。やっぱりハッピーバースデーを見せて下さい」
「かしこまりました」

店員は、俺達の指のサイズを測ると在庫を出して並べた。
それぞれ左手の薬指に嵌めると、太さも邪魔にならず、とても着け心地が良かった。
仄香は俺の手を取って、俺の顔と見比べている。

「うーん、小十郎、手が大きいから、何か華奢過ぎるような…。ロゴが可愛過ぎるような…。思ったよりロゴが控え目過ぎるような…」
「まぁ、そうだろうな。お前ぇが着けるとさりげなくて可愛いけどな。完全にファッションで着けて見えてお前ぇには理想的だ」
「ダイヤも心惹かれるけど…」
「ダイヤが良ければ、お前ぇにはもう少し華やかな方がいい。それに、重ね付けのエターニティーを毎年記念に増やすのもアリだ。出来れば伊達のパーティーに俺に同伴しても手元が華やかなリングで揃いの方がいいだろう」
「はぁ、小十郎には敵わないな。すぐ、そこまで思い付くんだから。うん、じゃあ、今回はカルチェは見送りかな」
「ティファニーのアトラスには未練はねぇか?」
「うん、ないよ。華やかな方がいいなら、アトラスは少し子どもっぽいかも」
「分かった。申し訳ないが、今回は見送らせてもらう。また新作が出たら見に来させてもらう」
「かしこまりました。ぜひ、マリッジの時はご検討下さいませ」
「ああ、手間を取らせて悪かった。仄香、行くぞ」
「うん」

俺達は、カルチェを後にして、ブルガリへ向かった。
通りを挟んで向かい側なので、都合がいい。
店に入り、ペアリングを探していると伝えると、マリッジリングの階へ案内された。

「どのようなリングをお探しでしょうか?」
「ブルガリらしいのがいい。あまり華奢じゃなくてな」
「それならば、こちらへどうぞ」

俺達は、商談用のブースに案内され、カタログを手渡された。
ソファに座りながら、仄香とカタログを眺める。

「わぁ、ブルガリのロゴが横に入ってるの素敵!結婚しても、チェーンに通したらペンダントになりそう!」
「おっしゃる通りでございます」
「それに、このピンクゴールド、本当に色が綺麗!実物見ないと分からないけど、小十郎の手の大きさなら、このリングが似合いそうだなぁ、重厚感があって」
「俺はな。だが、お前ぇには少しゴツいし、まだ少し地味だな。着けたら横から見れば分かる奴にはブルガリって分かる程度だ。お前ぇには、パーティーに同伴出来るように、同じシリーズの、ダイヤのエターニティーがあしらわれている方がきっと似合うし華やかだ」
「サイズをお測りして、いくつかお持ち致しますのでご検討下さいませ」

店員はにっこりと微笑み、俺達の指のサイズを測ると、席を外した。
仄香はその間もカタログを眺めていた。

「うん、やっぱりピンクゴールド、色がすごく綺麗。エンゲージも憧れるなぁ。ピンクゴールドにダイヤって合うのかなぁ」
「実物を見て決めればいい。ダイヤは実物を嵌めないと分からないだろうな」
「そっか…」
「今日は慌ただしくて悪かった。記念日やエンゲージの時にはまたゆっくり選ばせてやるから、今日はあと行くとしてもエルメスだけな?正直、それ以外、俺には似合う気がしねぇ」
「ふふっ、小十郎はきっとブルガリがいいと思うよ?あとはGUCCIかな」

その時、店員がベルベットの台に、ピンクゴールドとホワイトゴールドの指輪を3点ずつ持ってきた。
仄香は、ダイヤの煌めきに息を呑んで、感嘆の吐息を漏らした。

「ピンクゴールドとの事でしたが、比較のためにホワイトゴールドもお持ち致しました。どうぞお手に取って嵌めて見て下さい」
「ねぇねぇ、小十郎。右手と左手それぞれ違うの着けてみて?」
「ああ、いいぜ?」

両方の薬指に色違いの指輪を嵌めると、仄香はじっと俺の手を見つめ、そして顔と見比べた。

「どっちもブルガリのロゴがさりげなくていいんだけど、肌馴染みがいいのはピンクゴールドかなぁ。マリッジがプラチナなら尚更やっぱりピンクゴールドがいいな」
「分かった。じゃあ、お前ぇは、ピンクゴールドの無地とエターニティーダイヤのをそれぞれ着けてみろ」
「うん」

仄香の華奢な指には少し大きすぎる、重量感のある指輪は、やはり無地より断然ダイヤ入りの方が似合った。
例え、ジーンズにカットソーでも、ワンポイント華やかになって、ワンランク上のコーディネートが出来る。
足元がフェラガモなら余計にダイヤのエターニティーの方がいい。
何より揃いのデザインが嬉しい。

「ダイヤなしだと完全にマリッジだな。地味過ぎる。ダイヤ入りの方がいい。案外ダイヤもピンクゴールドに合っている」
「えっ!でも、キラキラし過ぎない?」
「ここが宝飾店だからだ。照明のせいだ。外なら案外目立たないもんだぜ?」
「おっしゃる通りでございます。指が細くていらっしゃいますので、ダイヤなしですと重く見えますし、中央にアクセントがあった方がお似合いです。婚約者様ともお揃いの上、ファッションリングとしてもお楽しみ頂けます。当店一番のオススメでございます」
「そっか…。こういうのは本人より周りの人の方が分かるもんね。分かった、ダイヤ入りのにする」
「本当にピンクゴールドでいいか?」
「うん。こんなに綺麗なピンクゴールド始めてだもん!」
「ああ、そうかもな。じゃあ、これに決めた。着けて帰るから、箱だけ用意してくれ」
「裏への刻印はいかがなさいましょう?」
「小十郎、後で考えるのでいい?何か彫るのももったいないし」
「ああ、そうしよう」
「かしこまりました。それでは準備をして参りますので、カードをお預かり致します。それから、傷など気になる点はないか今一度ご確認下さいませ」
「ああ、分かった」

俺は、クレジットカードを渡すと、二つの指輪を念入りに確認した。
特にダイヤの留め金を念入りにチェックしていると、仄香はまた感嘆の吐息を漏らした。

「綺麗…」
「お前ぇが着けたらもっと綺麗だ。さぁ、チェックも終わったから、これ着けていいぜ」
「わぁい、ありがとう!」

仄香は指輪を左手の薬指に嵌めて、色々な角度から煌めきを楽しんでは、幸せそうな吐息を吐いていた。
俺の指にも指輪を嵌めて、俺の手を取って、嬉しそうに眺めている。
俺は思わず笑ってしまった。

「だって嬉しいんだもん。彼氏と初めてのお揃いの指輪でブルガリなんてなかなかないよ?しかもダイヤのエターニティーだよ?」
「そうだな。俺も来週、旦那ハンターに色々問い詰められそうだが、婚約したの一言で蹴散らせると思ったら楽しみでたまらねぇな。毎晩なるべく早く帰ってお前ぇの顔が見たいしな」

俺は時計をチラリと見た。
7時を少し過ぎた所だ。
ブルガリの並びのデパ地下へ行けば、間に合うか。
飯と、もう一度モーツァルトの調達だな。
仄香があんなに酔ってたら、味を覚えてないかも知れない。
念のため2本くらい買っておくか。
それから屋敷に荷物を置いて、お台場に向かったら、政宗様もお食事を終えているはずだ。

店員が戻って来て、伝票にサインをすると、ブルガリを後にした。
仄香は上機嫌で、甘えるように俺と手を繋いだ。

そして、デパートで簡単な食事とモーツァルトを2本買うと、車に戻った。

「これからいったん屋敷に戻ってから政宗様にご報告に行く。覚悟はいいか?」
「うん…。大丈夫」
「分かった。じゃあ、一度帰ろう」

俺達は、いったん屋敷に戻ると部屋を簡単に片付け、冷蔵庫に食品をしまうと、お台場のホテルへと向かった。
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