Love Phantom -6-

「お前の右目は疱瘡か?」
「うん…」
「そうか…。俺と一緒だな。俺も疱瘡で右目をなくした」
「お侍さんも?お熱出て、ご飯食べれなくて、お目々痛かったんだね…」
「ああ、そうだ。目が飛び出しちまってな、母上に化け物と罵られた。右目の痛みより、母上の言葉で心がすごく痛かった…」
「えー!?酷ーい!あっ!分かった!何で先生が怒ってたか!」
「遙が、怒った?いつ?」
「んーとね、お目々が見えなくなって、痛くなる前!えーとね、お母さんと先生がお話してたの聞こえたの」
「目が痛くなる前?まだ目が腫れる前だな…。何て言ってた?」
「私の目がこれから飛び出しちゃうって、先生がお母さんに言ってたの。それでも、私を可愛がれる!?嫌いになっちゃわない!?化け物なんて言ったりしない!?って、先生、すっごくおっきな声でお母さんの事、怒ってた!!きっとお侍さんの事を知ってたからなんだね!」

その瞬間、政宗は堪え切れないように、嗚咽を漏らして泣き始めた。

「くっ…!!遙っ!!お前って女はっ!!ううっ…!!どこまで俺を泣かせれば気が済むんだっ!!くぅっ…!!」

伊達の兵士達が、次々に嗚咽を漏らし始め、男泣きに泣いた。

「遙様っ!!ううっ…最っ高にいい女ッス!!最っ高の姐さんッス、筆頭っ!!くぅっ…!!最っ高にcoolな女ッス!!」
「当たり前だっ!!この俺の醜い右目も愛してくれた女だっ!!最高に、情が深い、いい女だ!!この伊達政宗がたった一人愛してる、最っ高にいい女だっ!!最っ高にcoolに決まってんだろっ!!」
「筆頭っ!!うおおおっ!!くううっ…!!」

ひとしきり、男泣きに泣くと、また政宗は涙を拭ってすっきりしたような笑顔を浮かべた。

「お前、良かったな!母上はお前を嫌わなかっただろ?」
「うん!お目々飛び出て来て痛くて泣いてたんだけど、お母さん、ずっと抱っこしててくれた!」
「そうか、そうか、良かったな!…でも、お前、痛くなかったか?右目切る時…。俺は、すっげぇ痛くて一週間以上寝込んだ」
「そんなに痛かったの!?可哀想…。私、ねんねしてたから、分かんなかった!」
「は!?」
「んーとね、先生が、お薬ちくっと入れてね、一、二、まで数えたらねんねしちゃって、起きたら先生がにこにこしてたの!!」

政宗は、ますます訳が分からないと言うような表情を浮かべて悩んでる。

「政宗殿、遙は俺を助手にして、この子の右目を摘出したんだ。麻酔という、痛みを全く感じない強い眠り薬を使って眠らせて、3時間かけて、右目の摘出と、疱瘡の膿疱を5つ全部切り取った。止血も切除も何もかも完璧だった。見事としか言いようがない。傷口が膿む事もない。傷口が内出血で腫れ上がる事もない。この子は、右目を切ってまだ3日目でこんなに元気だ。すごいだろ?」
「猿飛!?お前が助手を!?」
「忍は医術の心得があるからね。でも、本当にただのお手伝い。細かい作業は遙が全部やった。それも完璧にね」
「そうか…そうか…麻酔…手術…遠い昔に聞いたかも知れねぇ。情けねぇな、あいつの話してくれた事、忘れちまってる…。猿飛、恩に着る」

政宗が軽く頭を下げて困惑した。
誰かに頭なんて絶対下げた事のない男だから。
俺は慌てて手を振った。

「いいの、いいの!!遙は、この子の右目に全てを懸けるって決意してたから、お手伝いしただけ。俺も、彼女の願いは叶えてあげたいんだ、本当にね…。呆れるほどお人好しでさ、ほっとけなくてね」
「全くだ。あいつは、本当に呆れるほどのお人好しの上に、変な所で俺でも手に負えないくらい、律儀で頑固だ。はぁ、惚れた弱みでそんな所も可愛いと思うから、仕方ねぇなぁ、全く…。頑固だから、こうして姿も現さねぇ。俺と会ったら決心が鈍るからだろな。この娘、まだ安静なんだろ?今思い出した。麻酔が切れると酷く傷が痛むから、定期的に痛み止めを打つって言ってたな、そういえば…」
「ああ、そうなんだ。だから、遙はこの子を痛がらせないために、ここにしばらくいなくちゃいけないんだ。ごめん。本当は、すぐにでも政宗殿に遙をお返ししたい。遙も政宗殿を恋しがって泣いてたから。誰とは教えてくれなかったけど、こうしてお会いして分かった。遙が切ないくらいに焦がれて想っていたのは政宗殿だったんだって。お揃いの指輪も大切にしてるよ。俺は、武田も真田も今は関係ない。貴方に遙をお返しするのが、最高の一手。これで、天下は完全に太平になる。俺は、お館様を基本的に裏切れないけど、太平の世は、お館様への忠義より優先。必ず貴方に遙をお返しする。俺を信じて欲しい」

政宗は、じっと俺の目を見つめていた。
俺の目に偽りがないかどうか、じっくりと探っている。
やがて、フッとおかしそうに笑った。

「あいつ、天然無自覚男たらしだからな!お前も遙の涙に絆されたか!よくよく考えたら、あの猿飛佐助が無給料で顎でこき使われてるんだ。惚れた弱みだな!」
「そういう事、何で嬉しそうに言えるかなぁ?自分の大切な女だろ?嫉妬しないの?」
「あいつは俺しか愛せねぇからな!それに、あいつの涙に絆されたら、絶対泣かせたくねぇって気持ちになるのは、よーく分かってるからな!お前は遙を絶対に傷付けられない。泣かせたくないから、必ず俺に返しに来る。間違いねぇ!そうだろ?」
「はぁ、似た者夫婦だね、全く。一瞬でそこまで見抜くか。ああ、約束する。貴方にお返しするまで、猿飛佐助及び配下の忍隊で、全力で必ず遙を守り抜く」

ごめん、今、すごく後ろ暗い。
でも、これは本音。
全力をかけて、これからは絶対に遙を守り抜く。

政宗は、子どもの頭をくしゃくしゃと撫でると、立ち上がった。

「猿飛佐助。お前を見込んで、遙を託す。この娘の目を完全に治せ」
「分かった、約束する」

手を差し出されて、がっちりと握手を交わした。
そして、立ち上がった子どもの頭を、政宗がまたそっと撫でる。

「それにしても、お前、可哀想に…。女なのに一生眼帯か…」
「眼帯?ああ、これ?あのね、先生がね!本物そっくりのお目々を入れてくれるって言ってたから、眼帯はいらなくなっちゃうの!だからそれまで頑張ってお目々治すの!」

政宗は、驚いたように目を瞠った後、額に手を当てて笑った。

「あいつっ!!そんな事まで出来るようになったのか!!伊達に7年も経ってねぇって事か!最高にcoolだっ!!」

ひとしきり、空を仰いで笑った後、また切なげに目が揺れた。

「あいつなりの決心なんだろうけど、せめて、声だけでも聞きたかった…」

薄っすらと目に涙が浮かび、そして、一筋だけ涙が頬を伝って行った。
その時の事だった。

「政宗っ!!愛してるっ!!政宗っ、愛してるよーっ!!I love you forever!!」

納屋から精一杯の遙の大きな叫び声が聞こえてきて、広場に響き渡った。
間に合った!!無事だった!!
…これは焔が仕掛けた一手だ、きっと。
政宗の瞳が一瞬だけ迷うように揺れて、次の瞬間、満面の爽やかなものすごく嬉しそうな笑顔になって叫んだ。
男の俺でも思わず胸キュンな最っ高の笑顔!!

「I love you, too!!俺だけのマシェリっ!!お前の愛してる、全部解読したからなっ!!テアモっ!!イッヒ・リーベ・ディッヒ!!ジュテーム!!サランヘヨっ!!必ずまた迎えに来るから女磨いて待ってろよっ!!」
「流石政宗!!男前を期待してるからねっ!!」

政宗は声を立てて笑った。
また一筋涙が零れる。

「やっと…やっと声が聞けた…!!7年振りの懐かしい遙の声だ…!!Hey!お前ぇらっ!!引き上げだっ!!」
「ひ、筆頭!?」
「男は引き上げ時が肝心だぜっ!!最高にcoolになっ!行くぞっ!!」

政宗がパチンと指を鳴らすと兵士達がみな政宗の後に続いて疾走し、政宗が捨て置いた兜と籠め手をきちんと回収してまた走り馬に飛び乗った。
ナイス連携プレー!!

「Keep Only One Love!!じゃあなっ!!」

馬上で振り返り、満面の笑みで、村中に響き渡るような声で叫ぶと、政宗は兵士達を引き連れて爆走してすぐに遠ざかって行った。

何か…。
何か、めちゃめちゃカッコ良かった!!
伊達政宗、すんごい男前だった!!
愛する女を目の前に、きっと抱き締めたくてたまらなかっただろうに、あの引き際の鮮やかさ!!
正に、天下一の伊達男!!
たった一つの愛を貫け!!
最後の捨て台詞がまたカッコ良すぎた!!

俺、遙だけじゃなくて、伊達政宗にも惚れた!!
あれでこそ、運命の王子と姫だ!!
絶対に、俺は政宗殿のためにも遙を守る!!
…これからはね!!

俺は、遙の下へと急いだ。

⇒Next Chapter
prev next
しおりを挟む
top