みんなのアイドル -4-

「でもっ、でもっ、俺、やっぱり遙に会いたかったっ!!会って抱き締めたかったっ!!7年間待ち続けてやっと再会出来たのに、声しか聞けねぇなんてあんまりだっ!!まぁ、俺が怒り狂ったせいだな…ううっ…。あいつ、攫われるのを警戒して出て来なかった…。遙だって俺に会いたくてたまらなかったはずなのに、声しか聞かせなかった…。でも、永遠に愛してる、男前を期待してるからね、なんて叫ばれたら、未練がましくそこにいられる訳ねぇだろ!?…ぐすっ…。Hell Dragonなんて一発目にかまさなきゃ良かった…」
「Hell Dragonでございますか…。はぁ…」

政宗様の奥義を最初に見てしまったら、遙様は本当に無理にでも攫われると思ったのかも知れねぇな。
ああ、本当に俺がついて行けば良かった!!

政宗様は湯呑を俺に差し出した。
俺は無言で灼をして、自分も手酌で酒を注ぎ、二人で一気に飲み干した。

「遙、今頃きっと泣いてる。俺が遙に会いたかったように、遙も俺に会いたくて泣いてる。一番泣かせたくねぇ女なのに泣かせちまった…ぐすっ…」
「でしたら、次は、落ち着いてお会いしに行けばよろしいのでは?遙様は、そんなに心の狭いお方ではないはずでございます。猿飛佐助の忍隊を遙様が完全に掌握している今、伊達の存在をまた遙様が伏せるでしょう」
「遙が伊達の存在をまた伏せる?どういう事だ?」

俺は、遙様の策略について掴んでいる事を全て政宗様にお話した。
政宗様は目を瞠った後、また目に涙を浮かべた。

「本当にあいつらしいぜ…。誰も傷付くのを嫌うから、戦を恐れたんだな…。猿飛の忍隊も、戦を避けるために遙に従ったか…。いや、猿飛佐助は遙に惚れ込んでたからな。遙の望み通り武田へは知らせなかったんだな。全くあいつらしいぜ。天然男たらしだ。気付いたらあいつの涙に絆されて惚れちまってる。昔からあいつはそうだった…」

そこで、政宗様は遠くを見るような懐かしそうな、優しい視線になった。

来た!!
ここからが本番だ!!

俺は思わず後ろをちらりと振り向いた。
襖の隙間から部下達が頷いた。
ここからが、伊達軍毎日恒例、筆頭愛のロードショーの始まりだ!!

俺は、空になった湯呑になみなみと酒を注いだ。
早く酔い潰せば、二刻スペシャルくらいで終わるかも知れねぇ。
政宗様は、ゆっくりと酒を飲みながら、話し始めた。

「俺と遙の出会いは、7年前、俺が遙のいる異世界に神隠しに遭った時の事だった…」

いつもは、断片的に思い出を話される政宗様が、出会いからお話になっている!!
もし、一ヶ月半分、丸々お話になるのであれば、やっぱり筆頭愛の大河ドラマ12刻スペシャルだ!!

俺も腰を据えて、手酌で酒を飲んだ。
飲まずにいられねぇ。飲めば間が持つ。
政宗様は夢見るように、出会いから恋に落ちるまでのお話をされている。
正直、今回は俺も初耳の事が多くて、次第に政宗様のお話に引き込まれて行った。

失恋をして傷心だった遙様を、政宗様がお慰めしているうちに恋に落ちてしまって、しかし別れが来るのが分かっていたため、政宗様は身を引いてしまわれた事。
遙様も政宗様に嫌われたと勘違いをして、政宗様を避けるようになってしまわれた事。
それでも政宗様は遙様を想い続けて、遙様の好まれる音楽や書物を読み漁って遙様に想いを馳せていらした事。
その時にロミオとジュリエットを読んでご自分と重ねて見られて泣いてしまった事。
それで、こちらにお戻りになってから政宗様直々にロミオとジュリエットを翻訳なさった事。
どれも手に汗握るようなお話で、俺達は固唾を飲んで政宗様のお話に引き込まれていた。

そして、政宗様のお誕生日を鎌倉で遙様がお祝いになった料亭で、政宗様が遙様の恋心に気付かれたお話になった瞬間、背後からどよめきの声が上がり、俺達の緊張感は一気に高まって行った。
政宗様が時折お使いになるライターという火付け石は、遙様の贈り物だと初めて知った。
政宗様によくお似合いの、龍の意匠のライターだ。

遙様の恋心に気付かれた政宗様は、覚悟を決められ、遙様に想いを告げる事になさった。
それが、龍恋の鐘と呼ばれる場所だと聞いて、またどよめきの声が上がった。
正に、政宗様のためにあるような場所だ。
天女に恋した龍が、天女と結ばれて江ノ島を守るようになったという伝説があるらしく、そこで結ばれると永遠の愛になるという。
何という、ロマンチックな場所だろう。
政宗様に振られると思い込んでいらっしゃった遙様を無理矢理抱き上げて、政宗様が龍恋の鐘の所までお連れになった所では、もう、俺も感極まって、手に汗を握り、背後も緊張感に溢れた空気で満ちていた。

「俺は、そこで遙に告げたんだ。龍は天女に恋をした。天女は、遙、お前だって…」

その瞬間、堪えていた涙腺が崩壊して、俺も思わず泣いてしまった。
何という、ドラマチックな告白だろう!!
背後からも感極まったようなどよめきと政宗様を讃える声と啜り泣きが聞こえて来た。

「避けられない別れが来るのは分かってた。でも、これ以上、想いを抑えられなかったんだ…」

政宗様はその時の事を思い出されたのか、涙ぐんだ。

「遙は、俺の気持ちを受け入れてくれた。あの時交わしたキスと、綺麗な夕陽は今でも忘れられねぇ。夕陽と海が見える丘の上だった…。そして、その夜、俺達は結ばれたんだ…。あの夜の幸せな気持ちは一生忘れられねぇ。だから、俺は鎌倉を落とすのに拘ったんだ。鎌倉は、俺と遙の一番大切な思い出の場所だから…」

そう政宗様はおっしゃって、静かに涙を流された。
俺達も、もらい泣きをして、また酒を飲んだ。
政宗様も俺に湯呑を差し出し、そしてそれを一気に呷ると少しふらついて、机に突っ伏した。
どうやら酔い潰れたらしい。

「小十郎、少しこのまま寝る。起きたら続きだ」
「かしこまりました」

ここまで聞いて、途中だなんて残念過ぎる!!
政宗様と遙様の恋は、どんな絵巻よりもドラマチックで、最後まで気になって仕方がねぇ!!
俺は、襖の向こうに向かって言った。

「おいっ!!中入りだっ!!今のうちに英気を養え!!厠に行きたい奴は行って来い!!」
「了解ッス!!」

俺は政宗様の肩に羽織をかけた。
政宗様のお話が始まってから四刻だ。
もう丑三つ時になっている。
政宗様は一刻はお眠りになるかも知れない。
その間に、俺は黒脛巾組の報告を聞き、また酒の手配をして厠に行くと、政宗様のお部屋に戻り、その幸せそうな寝顔を眺めながら、少しうとうとしていた。

鐘の音が二度ほど聞こえた所で政宗様はお目覚めになった。
丁度二刻ほど政宗様はお眠りになったという事だ。
見た事もないタバコを荷物から取り出し、龍のライターで火を点けると政宗様は一本吸い、お部屋を出て行かれてしばらくしてお戻りになった。
また廊下の向こうから「中入りが終わったぞー!!伝令伝令!!ロードショーの再開だー!!」という大声が聞こえ、バタバタと廊下を走る音が聞こえて来た。
政宗様は、手酌で酒を飲み、また切なそうな目でタバコの箱を眺めると、一本吸い始めた。

「小十郎、鎌倉の話の途中だったな?」
「左様でございます」
「分かった…」

俺も手酌で酒を飲みながら、政宗様がお話になるのを待った。

「遙は、俺と結ばれるまで男の愛に懐疑的で、男は浮気でしか女を愛せないって意味のタバコを吸ってた。翌朝、俺はそのタバコを止めさせて、このKOOLに変えさせたんだ。Keep Only One Love、たった一つの愛を貫けって意味だ」
「KOOLでございますか」
「ああ、離れてしまうまで、ずっとこのタバコを二人で吸ってた。あいつ、まだこのタバコ、吸ってるだろな」

政宗様は短くなったタバコを揉み消して、また手酌で酒を飲んだ。
丁度、空になり、また俺は次の酒の封を切って、政宗様の湯呑みに注いだ。
そして、空き瓶を襖の前に置くと、すかさずまた一升瓶が3本部屋の中に押し込まれた。

「俺のガーネットの耳飾り、城下で有名になって流行ってるだろ?これは、その日に遙と買って一つずつ分け合った対の耳飾りなんだ。互いに耳たぶに穴を空けてな、互いに一生消えない傷を付けた。一生残る愛の証だ。この首飾りも遙と対だ。互いの写真が入ってる。離れてしまっても、色褪せない笑顔をいつでも身に着けられるように…」
「そうでしたか…」

だから、政宗様はいつも身に着けていらっしゃったのか。
温泉に入る時しか外さないとも聞いた。
一度、何処かに紛れ込んで見つからなかった時に大激怒なさったのは、そういう理由だったんだと納得した。

また政宗様は遠い目になって、その日の出来事から順に思い出を噛みしめるように話し始めた。

浜辺で遊ぶ子どもを見て、遙様とのお子が欲しくなった事。
一緒に風呂に入り、そこで初めて遙様が政宗様の右目をご覧になり、そこに口付けなさった事。
それを聞いて、俺は涙を抑えられなかった。
右目を愛したとのお話は伺ってはいたが、遙様が政宗様の右目に口付けをなさったとまでは思いもしなかった。

女中が卒倒してしまったような傷跡に、優しく口付けて、こんな傷跡で政宗様の心を傷付けた義姫様を許せないと怒りを露わにしたというお話を聞いたら、もう涙なんて止まらなかった。
何と健気で、何とお優しいお方なのだろう…!!
俺も手は尽くしたものの消す事が出来なかった、ずっと政宗様の心の奥底に眠っていた心の傷がどんなに癒されただろう…!!
政宗様も思い出しているご様子で、しばらく声を殺して泣いておられた。
襖の向こうの部下達も啜り泣き、口々に遙様を褒め讃えていた。

しばらく泣くと、政宗様はすっきりした表情になり、幸せな日々を噛みしめるようにお話になった。
長い長い、幸せな夢のようなお話だった。
その頃に、以前見せて下さった写真という物を撮ったという事を知った。
それを撮って下さったのは、あの写真に写っていた遙様のご友人だという事も知った。

しかし、その幸せも長くは続かなかった。
遙様の前の男が遙様に連絡を取って来たというのだ。
政宗様は思い出して怒り心頭のご様子で、襖の向こうの背後からも殺気が満ち溢れた。
更に、政宗様を退けて遙様がその男とお話になったと政宗様がおっしゃると悲鳴のような怒りの非難の声が上がった。
俺も、正直、妻にそんな事をされたら怒り狂うだろう。
政宗様のお怒りはよく分かる。
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