届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エ切レズニ愛シ続ケタ -2-

俺と焔は真田幸村の脈を取りながら、じっと顔を見つめた。
目の動き、口の動き、眉の動き、どれ一つ見逃さないように見つめる。
焔が尋問を開始した。

「幸村様、貴方は遙様に恋をしておられましたか?」

真田幸村の表情が苦悶に歪んだ。
脈拍も強く速くなった。
答えは間違いなくイエス。
焔があえて分かり切った質問をしたのは反応を確かめるためだ。
ちらりと焔を見遣ると、目で頷いた。
反応は上々って事だ。
元が単純で真っ直ぐなだけに、予想以上に反応がいい。
この反応なら、精度は少なくとも8割を超える。
焔は尋問を再開した。

「遙様の想い人が伊達政宗だと知っておられましたね?」

また強い反応、これもイエスだ。

「伊達政宗と遙様が両想いだと気付いておられましたね?」

苦しむような強い反応、イエスだ。
多分、遙が熱に倒れた時の寝言で知ったんだな。
俺が見たのはその一部で、遙は間違いなく政宗殿の名前も呼んだはず。
だから真田幸村だけは二人の関係を知っていたんだ…。

「佐助様と遙様の逢瀬を涼風に見張らせたのは嫉妬ゆえですか?」

反応なし。
これはノーだ。
じゃあ、嫉妬じゃなかったんだ。
何か解せない。

「では、涼風の報告を聞いて、遙様が伊達政宗を焦がれながら、佐助様とも寝る軽々しい女だと憎みましたね?」

強い反応あり。
イエスだ。
はぁ、ある意味予想通り。
可愛さ余って憎さ百倍って言うから、惚れ込んでいただけに、どれだけ憎んでたか分からないくらいだ。
これが直接の動機の気がするけど、やっぱり何か引っかかる。
破廉恥男がいくら遙を憎んでも、こんな事が出来るはずがないのは確かだ。
むしろ、顔に一生残る怪我を負わせるとかの方がしっくり来る。

「武田の屋敷で女を抱きましたか?」

反応あり。
ただし、少し曖昧だ。
でも間違いなく、イエス。
抱いたと言えば抱いたのは確かだけど、否定の余地があるって感じだ。
もう少し突っ込んだ質問が必要だ。
ちらりと焔を見遣ると、焔は目で頷いた。

「その女とは姫様ですね?」

真田幸村は暴れるような苦しそうな目付きで顔を顰めた。
絶対間違いなくイエスだ。
遙の言ってた一発逆転王手を、姫様が仕掛けたんだ!
じゃなきゃ、真田幸村が姫様を抱けるはずがない!!
でも、何でそれが遙を襲う動機に結びつくのか全くもって意味不明!!
何考えてんの、本当にっ!?

「姫様の処女を奪いましたか?」

反応なし、これはノーだ。
じゃあ、旦那は童貞のままで姫様も処女のままなんだな。
何だろう、すんごくもやもやする。
煮え切らないって言うか、何かすんごく卑怯だ。
処女さえ守ればお館様も伊達政宗も欺けるって事!?
卑怯にもほどがあるっ!!

「では、姫様とは肌を重ねましたね?」

ビンゴ!!
もがくような強い反応。
イエスだ。
ああ、本当に情けないっ!!
抱くなら最後まで抱いて、姫様の人生の責任取ってよっ!!
俺だって、くノ一の処女を奪うからには最後まで責任持つのに、無責任にもほどがあるっ!!

「その時、姫様と恋に落ちて、身も心も深く結ばれた?」

またすごく強い反応。
イエスだ。
身もって事は、処女は死守しても相当深い繋がりって事か。
挿入寸前の所までって想定すると、姫様は愛撫でイカされたくらいまでは行ってるかも。

「姫様をお館様から貰い受けるおつもりですか?」

反応なし、ノーだ。
姫様を抱けるくせに、お館様から貰い受ける漢気がないなんて、我が主ながら本っ当に情けない!!
やっぱり処女さえ守れば伊達政宗に嫁がせてもいいとでも思ったのか!!
ああ、もう、本当、情けないよっ!!
穢したなら、男なら責任取れよっ!!
ちょっとは伊達政宗の漢気を見習ってよっ!!

「貴方は姫様の幸せを心から望んでいますか?」

強い反応あり、イエスだ。
ふーん、姫様の幸せって何だと思ってんの?
旦那と一緒になるのが姫様の幸せでしょっ!?
あー、もう、訳分かんない!!

「姫様の幸せとは、姫様が伊達政宗に大切にされる事ですか?」

少し弱い反応。
でも、間違いなくイエス。
あの伊達政宗の悲痛な声を聞いて、少し考えが変わったかと思えば、まだ姫様の婚儀が最優先だなんて、本っ当に情けない!!
あの二人を見てたら、誰だって運命の恋人同士で、他人が入る隙なんてないと思うはずなのに。
何をどう理解したらこんな結論に至るのかさっぱり分からない。
姫様が政宗殿に愛されるなんて絶対あり得ない!!
何でそれが分かんないのか、もう意味不明にもほどがあるっ!!

「姫様を何度か抱きましたね?」

またものすごく強い反応があった。
間違いなくイエス。

「お館様の監視が厳しくなる前ですね?」

反応あり、イエス。

「お館様の監視が厳しくなった後も姫様を抱きましたか?」

反応なし、ノーだ。
つくづく真田幸村は本当にお館様に逆らえないんだと思うと、その忠義を褒めるべきなのか、漢気のなさが情けないのか、マジで分かんない。
ああ、本当めっちゃ溜息吐きたい。

「では、遙様を見張らせたのは、遙様の本性が純粋に知りたかったからですね?」

反応あり、イエス。
そこで、焔は言葉を切って、少し思案していた。

「姫様の幸せのために遙様を酷く傷付けたかった?」

目を見開きもがくような強い反応あり。
間違いなくイエスだ。
何だって姫様の幸せが、遙を傷付ける事に結びつくのかさっぱり分からない!!
短絡的というか、何か大事な物を飛び越えていきなり間違った結論に辿りついたというか、そんな感じだ。
遙の言ってた通り、感情だけで動く人間は読めないって本当だ。
呆れて溜息が出そう。
もう、遙が可哀想過ぎて涙出そう。
でも、尋問が終わるまで我慢だ。

「それは、遙様が政宗殿を焦がれられないようにするためですね?」

強い反応あり。
イエスだ。
馬鹿馬鹿しい。
あれ程、政宗殿を想って泣いて、7年間もずっと想い続けてたのに、傷付けたからって遙が政宗殿を忘れられるはずがないのに。
政宗殿だって遙が傷付いたら、怒り狂う事はあってもずっと想い続けるに決まってる。

「軽い女なら簡単になびくだろうと思い、遙様を籠絡して虜にし、手酷く振って傷付けるつもりだった?」

そこそこの反応。
でも、イエスだ。
選択肢の一つだったって読みで間違いない。
ああ、呆れて本当に溜息吐きたい。
あの遙に限って、籠絡とか絶対無理だから!!
あんなに政宗殿を想って、政宗殿との再会のためにあんなに慎重に手を打って行って、最後まで政宗殿の妻だと明かさずにいたくらい意志の強い遙を、恋愛初心者の真田幸村が落とせるはずがない。
もう、本当に、大馬鹿だよっ!!

「では、遙様を襲ったのは籠絡する時間がないと知ったからですね?」

強い反応あり、イエスだ。

「それは、伊達政宗が遙様を攫いに来た事を知ったからですね?」

これもイエスだ。

「お館様の監視の目は緩かった?」

反応なし、ノーだ。
また焔が言葉を切って思案した。

「では、姫様の身に何かがあり、お館様に守役の幸村様が何か命じられた?」

強い反応あり、イエスだ。
また焔がしばらく思案するようにじっと真田幸村を見つめていた。

「姫様は武田の屋敷にずっとおられましたか?」

反応なし、ノーだ。

「では、姫様が屋敷から断りなく外出なされましたか?」

強い反応あり、イエスだ。

「幸村様は、その時に姫様を探しに屋敷の外に出たのですね?」

強い反応あり、イエスだ。
ここまで来たら、真田幸村自身が伊達政宗を見かけたか、姫様から伊達政宗の存在を知らされたかのどちらかだ。
とにかく時間がないと知った真田幸村は、遙を襲いに来た。
居所が知れたのは多分あの銃声だ。
あの時は余裕がなかった。
もしかしたら、真田幸村の馬の音に気付けたかも知れなかったのに、伊達政宗の軍勢に気を取られてそっちに頭をフル回転させてたから、気付ける気配にも気付けなかったのかも知れない。
もしくは、またタイミングのズレか。
とにかく俺の気付かないタイミングで到着したのは間違いない。

焔は俺を見て、目で合図をした。
尋問の中断の許可を求めている。
俺は目で頷いた。

「閻魔大王の思し召しで審判は一時休止です。さぁ、井戸の水もなくなって、凍えるような冷たさから解放されて行きます。しばしの安らぎにそのまま身を任せてしばらくの間、眠りにつくのです…。何も見えない、何も聞こえない、安らかなしばしの眠りでございます…」

真田幸村の苦悶に歪んだ表情が、段々と緩んで行き、やがて目を閉じて、安らかな寝息を立てて眠り始めた。
俺は、真田幸村の耳元で指をパチンと鳴らした。
全く反応がない。
これなら俺達の会話を聞かれる事もない。
俺はやっと深い溜息を吐いた。

「もう、呆れて言葉も出ないよ…。何なの、この思考回路!?もう、分かるんだか分かんないんだか!!短絡的なの!?複雑なの!?理解の範疇を超えるね!!とにかく分かったのは、すんごくお子様思考って事だけ!!そんな浅い考えだけで、こんなに遙が傷付けられたなんて絶対許せないよっ!!ったく、見当違いにもほどがあるのに、遙の傷付け方だけは確実に傷付く酷いやり方で、そこがますます許せないよっ!!」

俺はイラついて、激情のままに納屋の壁を回し蹴りした。
納屋全体が揺れて、埃が舞い落ちる。
本当、こんな程度じゃ、怒りが全然収まんない。
あー、もう、本当、早く制裁を下したくてたまんない。
怒りで何かが爆発しそう!!

焔がぽんぽんと俺の肩を叩いて、苦笑いをしながら俺の手を握った。
そして、心を落ち着かせるツボを親指で適確に押して行く。
ツボを押しながら、穏やかな声で焔は話した。

「今は怒りを爆発させる時ではございません。佐助様のお望み通りの制裁は必ず下しましょう。しかし、その前に、尋問で得られた情報の整理が必要です。おそらく、佐助様の苦手とするタイプの思考回路でございますね。猪突猛進で真っ直ぐで、正義感溢れる幸村様は俺も慕っておりましたが、悪の思考に染まった幸村様は、なまじ元が真っ直ぐなだけに、暴走する方向と発想が佐助様の理解の範疇を超えているのはよく分かります。ましてや恋愛問題でございますから、理性だけで理解しようとしても不可能でございます。感情だけで動く人間でございます。それも、恋愛に不慣れな男の感情です。その人物になり切って分析するしか方法はございません」
「感情だけで動く人間は怖いって遙も言ってたな…。だから、遙も俺も姫様と真田幸村について読めなかったんだ」
「ええ、お二人共、非常に理性的でいらっしゃいますからね。明確に佐助様も理解出来る所は共に考えを照らし合わせ、佐助様にとっては不可解な発想については俺が解説致します。一時休止とは申しましたが、あらかたの事は明らかになったと思います。足りないようであればまた尋問致します」
「はぁ…。分かった。焔、もう大丈夫だ、落ち着いた」

俺は、焔の手をそっと離した。
焔は柔らかく微笑んだ。

「俺も相当の怒りを今必死に堪えております。とても珍しい事に。それほどまでに、遙様は我々が敬愛し、お仕えするに誠に相応しいお方です。ですから、佐助様のお怒りのほどを考えると相当だと思います。しかし、今だけは冷静にならねばなりません。忍であるがゆえに」
「そうだね…。はぁ、忍なのにこんなに感情に流されて物に当たるなんて情けない。さっさと分析を終わらせて、次の手を考えなきゃね。遙の催眠の期限はあと2時間が限度だな。急ごう」

深呼吸をして気分を切り替えると、焔もまた沈着冷静な表情に戻った。
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