届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エ切レズニ愛シ続ケタ -3-

「じゃあ、まず尋問の精度の確認。全体的に分かりやすい反応だった。曖昧な部分を差し引いても8割は見込めると思うんだけど、どう?」
「そうですね。8割から9割以上の精度だと思います。元が真っ直ぐなだけに、嘘に対する罪悪感が催眠によってかなり強く作用して、かなりいい結果が得られました」
「了解。じゃあ、ほぼ間違いないという想定に基づいて分析をしよう」

俺は遙に貰ったメモとボールペンを懐から出して、時系列の線を書いた。
俺と焔は、過去から順に尋問の内容を整理する事にした。

「まず、真田幸村が遙に恋をしてたのは間違いない。それが憎しみに変わったのは、俺が涼風を粛清した日だ。つまり、2回目に料亭に行った日だ。それで嫌な予感がして、翌朝すぐにお館様に文を書いて真田幸村の監視をお願いしたんだ。文は部下に届けさせたから、午前中に届いているのは間違いない」

焔は頷いた。

「間違いありません。それでは、姫様との逢瀬に関する情報の整理もついでに致しましょう。真田幸村が姫様と逢瀬をしたのは、複数回。そして、お館様の監視が厳しくなる前です。つまり、佐助様が遙様と料亭に行った日と全く重なります。武田の屋敷に戻った晩から2晩連続で間違いないと思います」
「同意。その時に姫様と身も心も結ばれたって事だね?」
「左様にございます」

俺は、遙との逢瀬と真田幸村の逢瀬、涼風の件をメモした。

「ここからが俺には分からないんだよなぁ、真田幸村の心理が。どこをどうしたら、あの発想になるのか。真田幸村は、姫様の事をすっかり忘れてたくらい姫様の事を何とも思ってなくて、遙にぞっこんだったんだよね。誰かから奪いたいくらいに恋してるとも言ってた。今、考えたらあれは伊達政宗だったんだな。真田幸村は遙の想い人が伊達政宗って知ってた。何で知ったか心当たりもある。だから、2回目の遙との逢瀬を見張らせたのは、嫉妬かなって思ったんだけど、それも違う。でも、遙を憎んだ。ごめん、俺、お手上げ!」

溜息を吐いて、手をひらひらと振ると、焔はくすりと笑った。

「姫様の心理をまず考えて、次に幸村様がどう行動するか読むのです。お二人共単純で子どもっぽい方々ですから、全て猪突猛進に事が運び、感情もそのまま突っ走ると考えると、謎は解けます」

焔が俺を試すようにくすりと笑った。
焔にはきっともう答えが見えているんだろうけれど、俺自身、腑に落ちないと納得出来ないから、答えを誘導するつもりなんだろう。
俺は、溜息を吐いて、姫様の心理について考えながら、分析した。

「そうだなぁ。姫様が真田幸村にぞっこんなのは昔からだ。今も諦め切れていないんだろうね。姫様は真田幸村の唇を奪うくらいの行動派。自分も初めてだったのにね。真田幸村が姫様の事を何とも思ってなかったのに心変わりをしたのは、姫様が動いたからだ。過去に自分も初めてなのに真田幸村とキスをした前科を考えると、今回も自分も初めてなのに真田幸村に抱かれに行った。これで、間違いないかな?」
「おっしゃる通りだと思います」
「でも、解せないなぁ。いくら姫様が抱いてって迫っても、あの真田幸村が抱くはずないんだけどなぁ」

顔を真っ赤にして首を横に振りながら大慌てをする姿は容易に想像出来るんだけど、いくら主だからって、はいそうですか、分かりましたって抱けるような人じゃない。

「では、どう迫ったのか考えれば良いのです。幸村様が姫様の我儘を聞かずにいられないような、弱みを突いたと考えるべきです」
「弱みねぇ…。真田幸村は、姫様の我儘には弱いけど、流石に抱くとは思えないんだよねぇ…」
「我々の籠絡方法と同じですよ?身持ちの固い女が虜になって心揺れた時、どう落とすかです」
「そりゃ簡単だ。君の事、こんなに好きなのに、もうこれで会えないんだ。君を生涯忘れたくないから、最後の思い出に一つだけ俺の我儘聞いて。君を抱かせてくれる?一生の思い出にするから。君の温もりを心に刻んで君を絶対に忘れないよ。でしょ?」
「その通りです。姫様は、婚儀が迫っていたため背水の陣です。それは必死になって幸村様にそう迫ったでしょう」
「それでも落とせないのが真田幸村だと思うんだよなぁ。遙にぞっこんだっただろ?姫様の事を忘れてただろ?ただでさえ身持ちの固さといったらこの上ないのに、障害が多過ぎる。姫様の虜にもなってない」

焔はまたくすりと笑った。

「さぁ、そこで姫様と幸村様の性格と、遙様が口にしてらした、タイミングの問題です。まず、佐助様と遙様がお二人で料亭にお食事に行かれた時、幸村様がどう思ったかでございます。短絡的な思考には間違いございません」
「そうだねぇ。一言で済ませちゃえば、破廉恥でござる!なんだけどなぁ」
「幸村様が武田の屋敷に戻った経緯も考慮に入れるのです」
「真田幸村が武田の屋敷に戻った経緯ねぇ。らい病患者の姿にショックを受けて食欲をなくしたからだな」
「その時の状況を俺は詳しく知らないのですが、八王子の使者と遙様はどのようなやり取りを?」
「遙は八王子の爺さんにすごく同情して、すぐに皮膚の検査をした。それから、伊達政宗の謎かけのような言付けを俺も真田幸村も見て、遙はそれを見て吉原の遊女にまた同情して、詳しい内容が書かれた異国語の文を伊達政宗から預かって、その場で伊達政宗宛にものすごく長い返事を書いたんだったな。八王子と吉原と現在の状況についての文とは言ってた。全く読めなかったから何が書いてあったかは不明。それからすぐに俺と遙、二人で料亭に出かけて、真田幸村には武田の屋敷に帰って休んだら?って俺が提案したら、その通りにして武田の屋敷に戻った」
「なるほど…」

焔は視線を上げて、答えを探るように思案していた。

「幸村様はその時すでに、遙様の想い人が伊達政宗だと知っておられましたか?」
「うん、間違いなく知ってたね、今思い返せば」
「遙様の想いがどれほどか、幸村様は知っておられましたか?」
「そうだね…。遙が以前熱を出した時に、真田幸村が寒がる遙を抱き締めて眠った事があった。その時、遙は政宗殿の夢を見て、真田幸村の頬にキスをして、絶対に離さないでねって言ってたかな。多分俺の知らない間に名前も口走ってそこで真田幸村は遙の想いを知ったはずなんだ。伊達政宗との関係もね」
「そうですか。これで材料は全て揃いました。ほぼ全て想定通りです。まず、幸村様の思考についてです。伊達政宗からの異国語の文を、間違いなく恋文だと幸村様は思ったはずです。幸村様ならば、遙様はすぐにでも政宗殿の文を読むために、料亭は取りやめにすると思ったはずです。しかし、遙様は、佐助様とお二人でお出かけになった。身仕度も男装を止めて小袖で、佐助様に横抱きにされて馬に乗ってお出かけになったと記憶しております。何故、愛しい男の恋文をすぐに読まずに他の男と料亭などで逢瀬をするのだろう、しかも横抱きにされてなどそんなのは浮気だ、と幸村様は遙様に幻滅した。こう考えれば筋が通ります。遙様のお人柄に疑惑が芽生えて恋心が冷め始めた出来事です」
「そっか…。真田幸村はそこで遙への恋心が冷めたのか、納得。正確には疑惑で揺らいだんだな。俺は遙の心理なら分かるよ。すぐに政宗殿の文を読んだら間違いなく泣くから、監視のいない所でゆっくり何度も何度も読み返したかった。あの晩、俺は遙の監視を全て外したから読んだのはその時だな。そして、遙のあの文も俺の知らない単語ばかり使った巧妙な恋文だ。伊達政宗が撤退間際に遙の愛してるを全部解読したって言ってたから間違いない。俺との逢瀬は、遙にとってはまたとない、まともな食事を出来る機会で、それを断ったら俺に不審に思われるのは明らかだから、余計に文を読むのを後回しにした。読みたいのはやまやまだっただろうけど、多分、あの文の表書きも裏書きも本当は伊達政宗の愛の言葉で、遙にとってはあの時はそれで十分だったんだね。意味深な笑みを浮かべて、医者を愚弄してる悪い冗談だって言ってたな。確かに愛の言葉だったなら、それは嘘じゃない。確かに医者に宛てた文じゃないからね。はぁ、下手なくノ一より演技が上手いし、遙は嘘では誤魔化さないから多分それで間違いないよ」

焔はにっこりと笑った。

「遙様の事はよくお分かりですね。俺も佐助様の読みに全く同意致します。遙様ほど賢明なお方なら注意深く行動なさるはずで、佐助様に疑惑を持たれないために恋文を後回しにするのは当然でございます。そして、佐助様の胸を借りて泣くほどに、政宗殿を焦がれてらしたのですから、余計にすぐには読めなかった。また、伊達政宗も遙様もとても頭がキレる方々。佐助様を欺きながら恋文をその時交わしたのも間違いございません。遙様はおそらく政宗殿に今後の方針まで指示したはずですが、遙様が姫様の婚儀の切り札にされるのを政宗殿は恐れて、遙様が動くより先に、伊達政宗の独断で遙様を攫いに来たと考えられます」
「なるほどね。遙の言ってた、政宗殿の動きの二択って、攫いに来るか、遙がお館様の許しを得るまで待つかって事だったのか。遙は政宗殿が攫いに来るのを恐れて日を開けずに追加の文を書いてダメ押しをして、政宗殿の動きを牽制しようとしたんだな」
「その読みで間違いないでしょう。では、武田の屋敷に戻った幸村様の心理について話を戻しましょう」

真田幸村の遙への恋心は揺らいでいた。
焔の言う通り遙に幻滅したのかも知れない。
それならば、遙と俺を見張らせたのが嫉妬ではなく、遙の本性を見極めるためだというのも納得が行く。

「そうだなぁ。遙への疑惑という隙が出来てた真田幸村の所へ、丁度姫様が夜這いをかけた訳だ。それでも、あれだけ貞操に拘る真田幸村が姫様を抱けるはずがないな。じゃあ、姫様がどんな手を使ったか?忍流に籠絡するならば、最終手段はただ一つ。落としたい男の前で全裸か半裸になって涙ながらに迫る事だな。くノ一がよく使う手だ。ここまで据え膳されて男が拒んだら、女の恥だ。ほとんどの男がそれで落ちる。あの姫様がもしそんな事をしたなら、真田幸村は拒みつつも姫様に恥をかかせないよう動くしかない」
「その通りだと思います。姫様に涙ながらに最後に一度だけ抱いて欲しいと全裸で迫られたら、流石の幸村様も拒めません。しかし、幸村様はお館様には絶対に逆らえない。婚儀はそのまま進めるしかない。処女を奪えば、嫁いだ後に伊達政宗に事が知れて、お家お取り潰しの憂き目に遭うのは明白。ゆえに、姫様には女の快楽を別の形で与えて抱いて、姫様を満足させたと考えるのが妥当です」
「はぁ、焔。まるで見て来たみたいに筋が通ってるね。さっきの尋問の結果とも一致する。うん、その読みには俺も同意。はぁ…全く情けないよ、真田幸村っ!!」

結局、誘われるままに受け身のように抱いて、それも処女を守って抱いた訳だろ?
お館様にも政宗殿にも裏切りにもほどがあるっ!!
でも、なんでそれで恋に落ちるかが分からない。
キスされても恋に落ちなかった真田幸村が、別に童貞喪失した訳でもなく、例え童貞喪失したからって恋に落ちるか不可思議だ。
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