届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エ切レズニ愛シ続ケタ -5-

「焔、ありがとう。それ、全部、俺の気持ちそのもの。真田幸村が伊達政宗の存在を知ったのは、屋敷から外に出た時。駆けつけた時間からすると、恐らく姫様から伊達政宗の存在を知らされた。伊達政宗を見かけていたら、位置的にあの林の裏に回る時間なんてないからね!!もう、これ以上真田幸村に聞く事なんて何もない!!いいね!?」
「もちろんです!!さぁ、制裁のご命令を!!」
「焔、催眠を解く前に、拷問の薬を使え!!催眠を解いたら天井から吊るし二人同時に五臓六腑の急所に打ち込む!!外傷が残らないように死なない程度に気がすむまでね!!その後、荒地に放置!!いいね!?」
「承知!!」

焔は手早く拷問の薬を多めに真田幸村に吸わせると、催眠を解いて、荒縄で両手首を拘束し、俺は手裏剣で天井に荒縄を固定して真田幸村を吊るし上げ、俺と焔は真田幸村の前後にそれぞれ立った。

「行くよ、焔っ!!」
「御意!!」

掛け声と共に、焔とタイミングを合わせながら両拳で二人同時に急所に打ち込んで行く。
死なない程度の力加減をしなければならないのが辛いけど、真田幸村の口から苦悶の声が漏れるのを聞いて、何とか力み過ぎないように持ちこたえる。

簡単に死なせたりなんてしない!!
遙が苦しんだ時間だけたっぷり苦しんでもらわないと気が済まない!!

「焔っ!!遙が苦しんだ時間と同じだけたっぷりだからね!!多めに見てあと20分!!」
「もちろんです!!」

内臓が破裂しないぎりぎりの強さで焔と同時に4ヶ所の急所に一度に拳を打ち込む。
息も出来ないくらいの激痛に、真田幸村の呼吸がその度に少し止まる。
呼吸が開始してすぐにまた別の急所に打ち込む。
それを何度も何度も繰り返す。

丁度20分ほど経った所で俺は拳を引いた。
焔は真田幸村の上着を捲り上げ、外傷の確認をした。
力加減は完璧、外傷皆無。痣もなし。
触覚が過敏になっているだけ、痛みは相当なはずだ。
多めに薬を嗅がせたから、最低丸二日は激痛に苦しむ。
真田幸村の呼吸は速く浅く、激痛を堪えるように眉を顰めている。
俺はその顎を掴んで無理矢理視線を合わせて睨み付けた。

「幻滅したよ、真田幸村。大好きな主だったのにね。猿飛佐助率いる忍隊、全てあんたの配下から完全に離れる。焔、荒地に捨て置け!!」
「承知!!」

俺が手裏剣を回収すると、真田幸村は地面に崩折れた。
焔は荒縄を解いて真田幸村を肩に担いだ。

「遙様の手当ては忍の里にて行いましょう。真田幸村は村外れの藪の中に捨て置きますので、戻る際に遙様を包む布を調達し、遙様の鞄と銃も回収して参ります。しばしのお待ちを」
「ああ、助かる。任せた」
「では失礼仕ります」

焔は外に何も気配がないのを確認して、素早く外に出ると走り去って行った。

俺は眠る遙の頬についた土を手拭いでそっと拭いた。
涙が乾いて土もすっかり乾き、ぽろぽろと零れた。
涙の跡の数だけ土の筋が出来ていて、とても痛々しかった。
綺麗な長い髪も、すっかり乾いた土ぼこりにまみれ、酷い有様だ。
何より酷いのは、透けるような色白の肌に刻みつけられた無数の紅い華だ。
俺は哀しみと悔しさで胸がいっぱいになって、遙をかき抱いて声を殺して泣いた。
細い身体は壊れそうなほど繊細で、こんな身体であの激務をこなして全ての指揮を取っていたんだと思うと、その健気さにも泣けて来る。

何度も見せていた、助けを求めるような表情。
あれは、俺に本当の事を告げたくてたまらなくて見せていた表情だったんだ。
遙の夫が伊達政宗だと、会いたくてたまらないと、そう告げて泣きたかったんだ。
でも、この甲斐においては命取りにもなりかねない。
だから遙も言えなかった。
右目のあの子が完治するまで甲斐から離れられない遙は、大きな戦を避けるために、一人で大き過ぎる秘密を抱え、必死に伊達政宗を抑えようとしていた。
この細い身体には、押し潰されそうなほどの重圧だ。

本当に、俺だけには教えて欲しかったよ。
君の願いが天下の太平に繋がる願いだって知ったら、俺はすぐにでも甲斐を捨てられた。
何より君には本当に幸せになって欲しかったんだよ?
本当に、君は一番肝心な所で俺を信じてくれなかったね…。

でも、全部俺のせいだ。
初めて出会った時に、あんなに警戒して辛く当たってたから。
それで君は、俺はあくまで甲斐の人間だと思ってたんだね。

ゴメン、本当に、ゴメン…。
せめて真田幸村の事だけでも忠告すれば良かった。
君は、忍の勘はよく当たるって言ってくれてたのに…。
どこかでまだ真田幸村を信じてた俺が馬鹿だったよ…。
ゴメン、本当に、ゴメン…。
俺は、本当に、本当に、君が大切でたまらなくて、誰にも傷付けられないように守ってあげたかった。
君が、愛する人の腕の中で安らかに眠れるその日まで、ずっと守ってあげたかった…。
守ってあげられなくてゴメン…。
こんなに傷付けて、ゴメン…。
全部、俺のせいだ…。

溢れ出した涙は止まらなかった。
本当に悔しくて哀しくてたまらない。
ただ、遙をかき抱いて、涙を流してゴメンと繰り返す事しか出来ない。
そんな事で遙の傷が癒えるはずがないのに、ただ謝る事しか出来なかった。

「佐助様、出立の準備が整いました」

焔が背後から声をかけて、俺は涙を拭って振り向いた。
焔は、少し目を瞠って、そして微笑んだ。

「佐助様は、本当に遙様を愛していらっしゃるのですね」
「ああ、本当に大切にしたい子なんだ」

焔はまた厳しい顔に戻った。

「遙様の心の傷の深さは、この焔にも計り知れません。かなりの覚悟が必要です。遙様をお救いするために、忍隊の指揮の全権をしばらく俺にお預け頂けませんか?佐助様は、遙様のお側についていて差し上げて下さい。俺も催眠が必要になると思うので、出来る限りお側に控えております」
「忍隊の指揮の全権?何で?」
「まず第一に、今の佐助様をくノ一達が見たら、良からぬ事を考える者も出るかも知れません。それから、伊達政宗の動きと姫様の動きに関して探りたいと思います」
「分かった。確かに今の俺は冷静でいられない。焔に一時的に全権を預ける」
「ありがとうございます。それでは、俺は遙様の荷物を持って先に里に戻って指揮を取ります。遙様の自殺を防ぐため、銃は俺が預かります。こちらの布ならば、遙様の全身を包めると思います」

焔は、白い大きな布を俺に差し出した。
俺はそれを受け取って頷いた。

「焔、頼んだよ。馬で帰るしかないな。少し時間がかかるけど、なるべく急ぐ。出迎えはなし。俺の部屋まで人払いの徹底」
「かしこまりました。では、里にてお待ちしております」

焔は軽く頭を下げると、風のように去って行った。
遙の催眠はあと1時間が限度だ。
里に帰るには十分な時間だけど、身体まで清める時間を考えるとぎりぎりだ。
俺は布で遙を頭まですっぽりと包むと、納屋の戸を開けて外を確認した。
焔が既に手を打っていたのか、部下の姿が見えるだけで、村人達はまだ屋内だ。
俺は広場まで走り、遙を片腕で抱いて、馬を駆って里に帰還した。

里に帰ると、既に人払いが徹底されていて、俺は真っ直ぐに俺の部屋に向かった。
残り時間、あと20分強。
部屋には女物の浴衣と腰巻が用意されていた。
遙の鞄も置いてある。
タイムリミットまでに催眠を解かないと深入りしてしまう。
湯浴みと着替えは18分以内に済ませなければならない。
くノ一は頼れないから、俺が一人でやるしかない。
遙にとっては辛い事だけど、早く身体を清めてあげたい。
目覚めた時にきっと取り乱すし、誰が湯浴みをさせたか訝しく思うはずだ。
俺は若草を呼ぶ事にした。

若草は16歳の少女で、忍だけど諜報のくノ一に仕立てるつもりはない。
その記憶力の良さと薬草の扱い方の才能を見込んで、医術専門の忍に育て上げるつもりだ。
だからこそ、若草は遙の医術をとても尊敬していて、熱心に教わり、そして遙の人柄をとても慕っている。
若草が遙の世話をしたという事にすれば、遙も安心するだろう。

「焔、そこにいるね?若草は里に戻ってる?」
「はい、遙様のお世話のために俺が里に連れて帰りました」
「流石だね。時間がないから俺が遙の湯浴みをさせる。催眠を解く時、若草を部屋の中に控えさせて。若草が遙の世話をした事にする」
「かしこましました」

焔は部屋の外で返事をすると、若草を呼ぶよう部下に申し付けた。
prev next
しおりを挟む
top