理系女子と文系男子 -5-

「佐渡島の金鉱は伊達直轄だ。お前の言う通り、貿易の切り札に残してある。銅をベースに合金を作って長曾我部に加工させて全国で統一貨幣を普及させた。あいつに持ち帰った小銭を見せてな、精巧な鋳型を作らせた。大喜びで手の込んだ細かいデザインをして開発してたぜ?あれは偽造は無理だな。重さで誤魔化しても、あそこまで精巧には絶対偽造出来ねぇ。長曾我部にしか作れねぇな。管理は伊達がしてるし、資金も伊達が提供してる。だから、俺と長曾我部は縁が深いんだ。長曾我部だけは俺を裏切らねぇな。船の開発も資金は伊達だし、その代わり長曾我部に伊達の水軍の強化もさせて、東の海は伊達と長曾我部が支配してる。南の海は島津だ。西の海は、毛利と前田と上杉だな。ただし、北から伊達が牽制してるから滅多な事は出来ねぇし、あの上杉謙信もいるから、毛利も滅多な事は出来ねぇな。好きに明と貿易してればいい」

遙はまた感嘆の吐息を漏らした。

「元親の技術ってすごいんだね!元親に作らせる発想もすごいよ!でも、貨幣の量の調整は?」

流石の突っ込みだ。
インフレの心配をしてるんだろう。
第一次世界大戦後のドイツの給料の写真は俺にも衝撃的だったから、貨幣の流通量は、最大限に注意している。

「それは伊達の管轄だ。勝手に大量生産されて、長曾我部の力が強大になったら困るしインフレになるからな。必要な量だけ生産させて、厳しく管理している。それは日銀のホームページを熟読したな。長曾我部も、俺から資金を得られなくなったら自由に開発出来ないから、文句も言わずに言う通りにしてるぜ?同じ鋳型は江戸にもあるし、合金を作る技術も江戸にある。長曾我部の技術者を江戸に常駐させてな。だから、長曾我部は貨幣の鋳造は独占出来ないから言う通りにしか出来ねぇ。まあ、それ以前にあいつとは馬が合うから、まず問題ねぇな」
「インフレとかデフレは?」
「今の所、何も問題はねぇ。海外の為替や株の値動きに左右されねぇからな。作物の出来高に応じて貨幣の流通量は調整する事になってる。ただし、もしスタグフレーションとかそんな事態になったら、お前には必死で経済学を勉強させるからな。その四次元ポケットから古今東西の経済学の本でも取り出して、猛勉強して策を練ろ」
「はぁ…経済学には約10年、縁がないのに…」

遙は憂鬱そうに溜息を吐いて、資料集に載ってた経済学者の名前と著作の名前をずらずらと挙げていって、俺は思わず笑ってしまった。
10年間、縁がなくてそこまで覚えてるのが大したもんだし、それなら少し勉強させたら楽勝だろう。
貨幣の流通量は、完璧に今の所コントロール出来てるが、遙がいれば安泰だな。

「お前、天下の東大医学部だろ?その日本最難関の中でもエースだろ?その気になればちょろいはずだ。期待してるぜ?」
「ううっ…分かった。そこまで調べてたのね。まさかバレてたとは…。そこを突かれると痛い。はぁ、仕方ないから頑張る…」
「大学までお前を迎えに行ったんだ。バレてて当然だ。ついでに付け加えると、商人達と技術者を東南アジアとインドに派遣して、日本村を作らせた。そこでインフラの整備と商売をさせて、日本と貿易させてる。まだ始めたばかりだけどな。始めて1年半くらいだ。綿とか茶とか香辛料など色々な物産を輸入して、絹と麻と毛利の銀を輸出してる。オランダが武力で支配しようとしてたから先手を打って兵も派遣した。当然毛利は嫌がったが、石見銀山を全部取り上げた訳じゃねぇし、見返りに銀は統一貨幣で買い上げてるから、それだけ毛利も儲かってるぜ。アジアには島津から兵を送り、交代させながらスペインやオランダからの守りを固めてる。そのための武器と戦艦の開発も長曾我部と総力を上げて進めている所だ。西洋の武力に負けねぇようにな。その代わり、島津では砂糖と南方の植物の生産をさせて、それで利益を上げさせているし、九州を全て与えたから島津も大喜びだ。お陰で砂糖が全国に流通した」
「東南アジアとインドまで目を付けたの!?流石だよ!!元就も島津のおじ様も喜んでるなら尚更いいね!砂糖が簡単に手に入ったら料理の幅も広がるし最高!まぁ、ついでに言えば琉球王国とも交流して、領海の地下資源と水産資源の共有を今のうちに約束して、各国語で書簡を作ってそれも門外不出で保管。絶対に。400年後に間違いなく役立つから」
「分かった。すぐに手配する。ったく、本当にお前は何でも知ってるな?」
「そんな事ないよ。未来で琉球はかなり複雑な問題だから心配なだけ」

憂鬱そうに溜息を吐いた遙の頭をそっと撫でて俺は話を続けた。

「心配すんな。お前の助言通り、必ず手を打つ。ヨーロッパより日本の方がアジアの国々は近いから、アジアとの貿易は圧倒的に有利だな。占領統治はしてねぇ。あくまで商売取り引きだけで、向こうの政治文化を尊重している。明と朝鮮は放置だ。明は勝手に自国が世界の中心だと思ってりゃいい。井の中の蛙だ。船の開発も長曾我部が急速に新型を開発してる。ヨーロッパ侵攻には正直興味ねぇな。遠過ぎる。やるなら商業取り引きまでだ。せいぜい文学と音楽や作物の苗の輸入までだな。アジアと商業で結び付くのが最高の策だ。双方に取って有益だし、ヨーロッパを牽制出来る。その気になれば、高値でヨーロッパに香辛料も売りつけられるから、金も銀も大量に日本に入って来るだろう。だから、俺は異国語を勉強中だ。特に英語とスペイン語とフランス語をな」

遙はまた驚いたように目を瞠った。

「まさか、香辛料を高値でヨーロッパに売りつけて、ヨーロッパから金銀を流入させるつもりだなんて思わなかったよ!!それに、外国語をさらに勉強中だなんて、政宗どこまですごくなるの!?占領統治してないのはすごく嬉しいな。中華思想までよく理解してるんだね。朝貢貿易もガン無視か…。流石だよ!!永楽帝の南海大遠征も終わってるし、清の時代にもうじきなる。そうしたら、南方は手薄になるからね。そうか…。レアアースをその時に中国から奪うのも手だな…。まだ誰も価値に気付いていないから」
「レアアース?」
「うん。地下資源の一つ。もしかしたら、元親の力を借りてすごい物が作れるかも知れないし、後世に絶対役立つ。東南アジアにも地下資源はあるし、スリランカは宝石の産地。後は、南アフリカにはダイヤモンドの鉱山があるよ。まだダイヤモンドの価値はほとんど知られてないから、南アフリカのダイヤモンド鉱山を押さえてもいいな。ああ、あとプラチナの鉱山を調べなきゃ。コンピューターを作るのに必要だ」

そう言う遙は、何だかとても楽しみでたまらないように目をきらきらさせていた。
また、目が知的にきらりと光る。
宝石は分かるがレアアースが全く分からない。
でも、遙のこの目の輝きは、レアアースを使って何か作るのを企んでる目だ。

「宝石は魅力的だな。分かった、手を打つ。お前がそう言うなら、レアアースのために明に朝貢してもいいけどな。明は厄介だ…」
「朝貢してる振りをして、ヨーロッパから流入した中南米の銀で安く大量に買い叩いて、日本国内に貯蔵すればいいよ。今の明は脆弱だから、佐助を遣いにやればきっと簡単に上手く行くと思うな。何でそんなの欲しがるか不思議に思いつつも自分達では使えないから、好きなだけ持っていけって言われそうな気がする。それから、ムスリムは貿易だけはしても損はないよ。余計な干渉さえしなければ、この時代のムスリムは温厚。きっとコーヒーも手に入るよ?」
「はぁ、猿飛を使うつもりか。まぁ、あいつなら表情は自在だから適材かもな。何を作る気かは分からねえが、お前がそう言うなら構わねぇ。コーヒーは魅力的だな。話を戻すが、東南アジアやインドへの九州からの航路は確立されてるし、大阪や堺の商人は商売上手だから現地で上手くやってるぜ?駐在手当を弾んでるし、そこにも監視を交代で派遣してるから、まず賄賂や癒着はねぇな。滅多な事は出来ねぇ」
「よく商人と官吏の癒着まで分かってるね!流石、政宗!!大阪の商人を使う所がまたすごい!もちろん、航路の海峡には軍を配備してるよね?」
「当然だ」

遙はまた感嘆の吐息を漏らして、目を輝かせた。

「あとね、押さえたらいいかなって所があるんだ」
「どこだ?」
「オーストラリアとカリフォルニア。あと、オスマン・トルコと交渉して、油田を伊達直轄にするの。場所はクウェートがいいんじゃないかな。辺境のはずだから。オスマン・トルコのカピチュレーションを利用して下手に出れば簡単に押さえられる。んー、ペルシャが少し厄介かも知れないけど」
「オーストラリア…。まだ英国の統治前だな。鉄鉱石と石炭か?」
「うん」
「カリフォルニアは?」

遙は悪戯っぽく笑った。

「金鉱と油田。ヨーロッパは東側で百年は戦争するから、その間に西海岸のカリフォルニアで金と石油を掘り尽くして撤退。クウェートの石油はなかなか枯渇しないと思うな。イスラム勢力が強くなり過ぎたら油田の独占権だけ確保。そうだな、オスマン・トルコが油田の重要性に気づかなかったらイラクあたりまでカピチュレーションを利用して油田の独占権を確約させよう」
「油田なぁ。くそう水の事だろ?何に使うんだ?」
「うん…。ザビーはどうしてるの?」
「国外追放だ」
「ザビーの装備も一緒に追放?」
「いや、伊達が預かってる。不可思議な武器だったからな」
「本当!?それ、今度、見せて!出来れば元親が一緒に見た方がいいな!それから、ヨーロッパから来る船の動力は?」
「帆船だ」
「ええっ!?…という事は、全世界に先駆けて、石油を動力にした黒船の開発と化学合成が可能になるな…。面白い!!有機化学は専攻じゃないけど、色々日本初で開発して技術の独占が出来る!もちろん学術も技術も門外不出!国際特許の時代になったら、すぐに全ての特許申請だな。技術は官営で管理。つまり、伊達で管理ね。官僚の技官の養成が必要だね!富国強兵出来るし国民生活も豊かになるよ!わぁい、楽しみだなー!政宗、きっと飛行機も作れるよ!ヨーロッパまで政宗と一日もかからないで行ける!楽しみだなー!」
「マジでか!?」
「うん!原材料の確保と工場さえ出来れば、機械工学と材料開発と流体力学の応用で出来るはず!機械工学は元親が強そうだし、有機化学と流体力学は私が分かる。ザビーの装備を見る限り、小型ジェット機くらいは作れそうだよ。その前にコンピューターの開発かな」
「お前、すげぇな!」
「すごいのは政宗だよっ!!徴税制度と貿易センスには本当に驚いたんだから!」

遙は感心しきったように俺を見つめた。
俺も、驚きと感心のあまり遙を見つめた。
そして二人同時に吐息と共に呟いた。

「惚れ直した…」

そして、どちらからともなく抱き合った。

「政宗、すご過ぎるよ!!すっごく惚れ直した!!古今東西最高の天下人だよっ!!Win Winって実現出来るんだね!!あの短期間で、そこまでのシステムを思い付いてたなんて思わなかった!」
「俺だってお前にすっごく惚れ直した!んなもん出来るの、お前だけだ!俺の政治はお前が教えてくれたんだぜ?恐怖政治ではなく、誰にとっても得になる策はねぇかってな。以前の俺にはない発想だった。でも、やっぱり時間はかかった。主に戦でな。その間、5年弱考えて、天下統一後は大名達に説得だ。案外すんなり納得してくれたけどな。それも一日で。徴税以外は生活変わらねぇし、むしろ得になる事の方が多かったからな。それにしても、お前の戦略には俺もびっくりだぜ。やっぱ、お前、天才的に頭いいな!」

すごいすごいと互いに称え合って、身体を離して、ふと、小十郎を見遣ると、小十郎は絶句して固まっていた。
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