「政宗、寝なきゃダメ?徹夜しちゃダメ?」
「お前、医者の不養生って言葉、知ってるか?徹夜はダメだ。お前、2日間ほとんど寝てないだろ?」
「医学科研修課程の時からずっと5年間位仮眠で生きて来たもん。今日は1時間半寝たから大丈夫だもん」
「お前なぁ…。ずっとそんな生活してたのか?よく倒れなかったな。それでも、手術前とかはそれなりに寝ただろ?徹夜はダメだ。いつまで徹夜するつもりだ?2週間ずっとなんて絶対無理だ。いいから、薬をさっさと四次元ポケットから出せ」
「ううっ…寝るの怖いよ…」
「なら、なるべく強い薬を出せ。お前なら、処方出来るだろ?」
「ううっ…どうすればいいのか分かんない。今の精神状態、客観的に分かんないもん。やだやだ、寝るの怖い!怖いよ怖いよっ、ヤダーっ!また襲われるっ!!政宗の声を聞きながら犯されるっ!!怖いよ怖いよっ!!いやぁあああ!!」
遙は錯乱したように、泣き声を上げた。
身体がかたかたと震えていて、小さく身体を丸めて頭を抱えている。
また真田幸村に対する怒りが込み上げる。
俺は、遙を抱き寄せ、子どもをあやすように頭を撫でた。
「遙、落ち着け。ここには絶対に真田幸村は来ねぇ。来る前に成実に確実に討たれる。だから、落ち着け。薬の事は、一緒に考えてやるから、本か何か出せ。お前の部屋にたくさんあっただろ?精神科の薬の本とかねぇのか?」
「ううっ…それならある…」
遙は、ぐすぐす泣きながら、バッグの中から本を取り出した。
それを遙の手から受け取って、ぱらぱらとめくった。
フルカラーで薬の名前と効果が書いてある。
「まず、お前は、今、極度に精神的に不安定で、不安と恐怖のあまりパニック寸前だ。というか、既にパニックを起こしてる。もっと言えば錯乱状態だ。抗不安剤が必要だな。この中で一番効くのはどれだ?」
遙は、オレンジ色の薬を指差した。
「これ、4錠までなら行ける」
「よし。他にもあるが、追加で飲んでもいいやつは?」
今度は白い細長い薬を指差した。
「これは、2錠まで」
「よし。他には?ん?パニック障害の薬か、これ?」
「うん。12mlを5包までなら大丈夫」
「分かった。他に追加出来るやつは?」
「これ以上は無理」
「じゃあ、忘れないうちに、今、言ったやつ、全部机の上に出せ。あとメモとボールペンだ」
「うん」
遙は薬を出すと、メモとボールペンを俺の前に出した。
俺は、本を見ながら、薬の名前と容量と、数量をメモに控えた。
「じゃあ、次は眠り薬だ。睡眠薬だな。短期、中期、長期って書いてあるが、どれがいい?」
「短期、中期、長期をそれぞれ一種類ずつ」
「分かった。飲み合わせを考えて、選べ」
遙は、それぞれ一つずつ指を差した。
それを素早くメモして行く。
「数量は?」
「それぞれ1個ずつ」
「分かった。バッグから出せ」
遙はぽろぽろ泣きながら、震える手で薬を出した。
こうして並べてみると圧巻だ。
これ、全部は絶対に一口では飲めない。
湯呑二杯は水が必要だ。
俺は、二つの湯呑にいっぱい水を注いだ。
「とにかく、喉につまらせないように、ゆっくり飲め」
「ううっ…理屈では、この組み合わせに間違いないんだけど、こんなに飲んだ事ないからどうなるのか怖い…」
「理屈が合ってるなら、滅多な事は起きねぇだろ?お前、医者だろ?精神科では、この位飲んでるやつもいるんだろ?そいつ、薬で死んだりしたか?」
「これ位飲んでる患者さんはたくさんいる。誰も薬では死んでない」
「なら問題ねぇじゃねぇか。ほら、飲まねぇなら口移しだぞ?」
「ううっ、喉につまらせそうだから自分で飲む」
「分かったから、早く飲め。とにかく少しでも身体を休めろ。ずっと抱き締めててやるから、薬飲んで寝ろ」
「ううっ…じゃあ、せめて寝る前にトイレ。起きれなかったらヤダ」
「分かった、分かった。外で待っててやるから来い」
俺は人払いをして遙を厠に連れて行った。
どうやら、少し吐いてるようでまた心配になる。
そして、部屋に戻ると水を飲ませた。
「吐き気止めも出せ。本当に栄養も水気も取れてねぇじゃねぇか。本気で心配だ」
「うん、分かった」
遙は、吐き気止めもバッグから出して、錠剤を全部机の上に中身を出して、数を数えた。
嫌だと泣きながらも、きちんと確認を怠らないのは、もう職業病だな。
でも、だからこそ安心だ。
遙は更に、薬の山を3つに分けて、順番に湯呑で飲んで行って、2つの山を飲むと、液体の薬を飲み、最後に残りを飲んだ。
そして、深い溜息を吐いた。
「今の睡眠薬はよく出来てるから、多分大丈夫だと思うけど、起こしてもらってもうなされたままで起きれなかったら、どうしよう…。怖いよ怖いよ…また政宗の声を聞かされながら犯される…」
「最終手段で峰打ちで気絶させてやるから大丈夫だ」
「ううっ、痛そう…」
「痛みを感じる前に気絶するから大丈夫だ」
「ううっ、政宗が怖いよっ!」
「だから、絶対、大丈夫だ!起こせたら起こす。無理なら気絶だ。今だけは心を鬼にするからな!とにかく寝ろ!」
「ぐすっ…」
遙は机に突っ伏して、ぐすぐすと泣いているうちに、身体が左右に揺れ出し、そして身体が倒れそうになった瞬間、俺は、遙の身体を支えた。
薬を飲んでから5分も経っていない。
すごい即効性だ。
俺は、遙を抱き上げ、布団の上に下ろすと、抱きすくめて頭を撫でた。
とにかく薬が効いて、深く眠れる事を祈りながら、髪を撫で続けた。
俺の声を聞かされながら犯される、か。
遙を呼ぶ俺の声が、遙を一層傷付けていたと思うと、やるせなくて、悲しくて、涙が溢れ出た。
「遙、悪かった。お前をこんなに傷付けて、悪かった…。一生かけて償うから、許してくれ…」
俺は、眠ったままの遙を抱きすくめて、少しやつれた頬にそっとキスをした。
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