Surrender -6-

遙は、バッグの中からiPodを出して、いじり始めた。
そして、iPodから軽快で絶妙なタメのあるリズムの曲が流れ出した。
何か、身体が疼くくらいにシビれるリズムだ。

「遙、これ最高にcoolじゃねぇか!」
「うん。このリズムがロックンロール。エルヴィス、見た目もカッコいいからさ、LIVEで女の子失神続出。私が生まれる30年くらい前の曲かな。どうせ古いんでしょ?なんて大学生の頃は思い込みで避けてたけど、めっちゃカッコいいね。大人になって分かったよ」

指を鳴らしながらリズムを取りながら聴いていると、遙は嬉しそうに口ずさんだ。

「知らなかったなんて、何か損した気分だぜ」
「これから色々一緒に聴けばいいじゃない?」
「そうだな。ちょっとiPod貸せ」
「うん、いいよ」

画面には、歌詞まで表示されている。
Jailhouse Rockという曲だ。
7年で随分変わったものだ。
もう一度最初に曲を戻して、歌詞を見ながら歌うと遙は嬉しそうに笑って最後までリズムに乗りながら聴いていた。

「流石、政宗、飲み込みがいいね!政宗にロックンロール、似合うなぁ。それ、すごく難しい曲なのに、一発で完璧に歌うなんて流石!ボン・ジョヴィを歌う政宗も良かったけど、声がいいし、リズム感いいからエルヴィス似合うね!なかなかこうはロックンロール歌えないよ。最高にcoolなのは政宗だよ!」
「そうか?」
「うん。耳がすごくいい。エルヴィスより色っぽいかも。はぁ、エルヴィスよりカッコ良くロックンロールを歌える人がいたとはびっくり!しかも、それが最愛の人だなんて幸せ過ぎるー!」

遙は感じたようにキュッと目を瞑って首を振ると、また目を開けてタバコに火を点けて吸い始めた。
目を瞑って首を振る仕草が、茶目っ気があって可愛くて、俺は、思わず声を立てて笑って、頭をくしゃりと撫でた。
鬱々としていた気分が晴れて行く。
遙は、指を鳴らしてリズムを取っている。
今、流れているのはハウンドドッグという歌だ。
最後まで聴いてから、もう一度、リピートして最初から歌った。
遙は、タバコを揉み消して、指でリズムを取りながら、最後まで聞き惚れながら、時折シビれたように目を瞑った。

「はぁ、政宗のエルヴィス、最高過ぎて、軽く失神しそう。シビれる!」
「峰打ちの代わりにエルヴィス歌ってやるよ」

そう言うと、遙は声を立てて笑った。

「その方が痛くなくていいな。政宗のエルヴィスで、軽く死ねる。死ねるって言うか、Surrenderするかな」
「Surrenderか。いい表現だ」

Surrender、か。
言葉通りなら降伏するという意味だが、陥落するとも取れる、絶妙な表現だ。
それで遙が陥落するならいくらでも歌ってやる。

その時、何かヒントを掴んだ気がした。
遙は昔から俺の声にすごく弱かった。
耳元でラブソングでも歌いながら抱いてやるか。
耳元に顔を埋めていても、俺の存在を確実に感じられるいい方法だ。

「政宗、エルヴィスのSurrenderっていう曲があるから、それ覚えて歌って?すごく好きなんだ。政宗の声で聞きたいな」
「ああ、いいぜ?これ、どうやって曲変えるんだ?」
「ん?ここ触って、ここから歌手選んで、アルバム選んで、曲を選ぶの。これで曲の一覧になったから、聞きたい曲名タッチすればいいの」
「Surrenderか。これだな」

指先でタッチすると曲が変わった。

「政宗様、茶をお持ち致しました」
「ああ、小十郎、入れ」
「はっ!」

俺は、曲をかけたまま小十郎を部屋に呼んだ。
小十郎は、微笑んで急須と湯呑を取り替えた。

「楽しそうですね。お二人の笑い声と歌声が聞こえておりました。英語の歌でございますか?」
「ああ、そうだ。7年前、よく二人で英語の音楽を聴いていた」
「ああ、それで。Eternal Flameでございますか?」

俺は、思わず驚きに目を瞠った。
遙も目を瞠って驚いている。

「お前、何時の間に…?」
「政宗様がよく口ずさんでいらっしゃいましたから。始めは意味が全く取れませんでしたが、この1ヶ月ほどで少しは意味が分かるようになりました」
「参ったな…。意味までバレてたか」
「政宗、Eternal Flame、歌ってたんだ…」
「ああ、思い出の曲だからな。天守閣で海や空を眺めながらよく歌ってた」
「そうなんだ…。私もよく歌ってたよ。あの曲だけは忘れられない…」
「そうか…」

小十郎が茶を湯呑に注いでくれて、遙と二人で茶を飲んでいるうちに、曲が変わった。
甘い声のラブソングだ。
恋に落ちずにいられないという内容の曲だ。
一番の途中から小十郎が鼻歌で音を取り始めて、すぐにほんの少しだけ遅れたシャドウイングで歌い出すと、遙は微かに頬を染めてうっとりしたような表情で小十郎を見つめた。
最後まで歌い終わると、小十郎は微笑んだ。

「いい曲ですね。なるほど。歌だと英語も音を取りやすいですね。意味はよく分かりませんが」
「小十郎、意味、分からなくて歌ってたの?」
「左様にございます。歌い方を真似ただけでございます」
「はぁ…。ここにもエルヴィス級のフェロモン男がいた。政宗だけじゃないなんて、恐るべし伊達主従。意味が分からないのにあんなに色気たっぷりに完璧な英語で歌うとは。小十郎にエルヴィス歌って欲しいとは思ったけど、まさかここまでとは…!!政宗のロックンロールエルヴィス、最高にかっこ良くてシビれて失神寸前だったけど、小十郎のバラードエルヴィスは死にそうなくらい良かった!!ダメだ、あんな声であの歌を歌われたら身体が溶けて死ぬ…。1万人の女がそれで落ちる…。最強だ…」

俺は失神で、小十郎は死にそうなレベルだと…!?
1万人の女が落とせるだと…!?
ふと小十郎を見遣ると青褪めていた。

「遙様?あの歌は何かそのような内容の歌なのですか?」
「貴女と恋に落ちずにいられないって意味だよ。ダメだ。政宗一筋なのは変わらないのに、小十郎のエルヴィスには惚れた。ハートぶち抜かれた。ドキドキが治まらない。身も心も蕩けた…」

それを聞いた瞬間、小十郎は慌てふためいた。

「小十郎、お前は何も悪くねぇからいい。そんなに慌てんな。遙っ!!お前、小十郎に惚れただと!?」
「小十郎の歌声に惚れただけだもん!笛と一緒!」
「うっ…歌声か。笛と一緒なら仕方ねぇな、許す…。クッ…また小十郎に負けた…!!」
「大丈夫、ロックンロールは政宗が史上最強にカッコいいよ?小十郎にももっと歌って欲しいなぁ」
「そ、そうか、史上最強か。ならいい。小十郎の歌はまたそのうちな。お前、俺にSurrender歌って欲しいんだろ?」
「うん!」

小十郎はホッとしたように微笑んだ。

「それでは、一旦下がります。あと少しで朝餉のお時間でございます。またその時にお邪魔致します。失礼致します」
「あ!待って、小十郎!佐助が来たらこれ渡しておいて!」
「かしこまりました」

小十郎は遙から風呂敷包みを受け取ると下がって行った。
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