「その通りだ、小十郎。全く早く片付けて江戸に帰って婚儀の仕度をしてぇのにな」
「公卿への根回しはここでも出来ますから、出来る事から致しましょう」
「それしかねぇな。お前、宮家の目星はついたか?」
「色々考えましたが、式部卿宮との養女縁組はいかがでございますか?」
「式部卿宮か…。今上帝の叔父だな?かなり格式が高いが、理想的ではある。俺も目は付けていたが、一発で養女縁組は難しいな。その前にもう少し格下の家柄の養女にする必要がある」
「おっしゃる通りでございます。そこで、一段階目の養女縁組として、最早今となっては何の力もございませんが、征夷大将軍の足利家の養女にする手を考えておりますが、いかがでございましょう?」
「なるほどな。武家のトップの家柄から宮家への養女縁組なら、公卿も付け上がらねぇし、帝も認めざるを得ないな。よし、その手で行く」
「かしこまりました。では、まず、公卿への根回しから始めます」
「Okay, 小十郎、任せた」
「では、失礼致します」
小十郎は部屋を出て行った。
遙を見遣ると驚いたように目を瞠っていた。
「式部卿って、親王様だよね?私、皇族になるの?」
「そういう事だな」
「そんな、恐れ多い…」
「そんな事ねぇよ。俺は、藤原家の太政大臣だからな。平安時代にはよくあった事だから前例はあるし、それ位が丁度いい。武家の養女の後にした後に宮家の養女になれば、大名達の縁談騒動も丸く収まる。伊達家の格式も上がるしな。お前の位を二位か従二位程度にすれば、俺と丁度釣り合う。完璧だ」
「政宗って本当にすごいね。私、武家と言えば将軍だとばかり思ってたから、何かすごく違和感…」
「俺は、源氏じゃねぇから将軍とは縁がねぇからな。とにかく慣れろ。そうとしか言いようがない」
「太政大臣かぁ…。やっぱり光源氏だ」
「まだそんな事、言うか。俺は、お前一筋だからな。他に女を囲うつもりはねぇ。さぁ、一服しながら茶でも飲んだら、消毒でも始めるか」
俺は、タバコに火を点けて、ゆっくりと吸いながら、熱い茶を飲んだ。
上等な熱い煎茶も美味い。
遙は不安そうに俺を見つめている。
「消毒?今日しなきゃダメ?」
「ああ、そうだ。早くうなされないようになりたいだろ?」
「うん、そうだけど…」
「うなされてもさっきはすぐに起きれた。鉄は熱いうちに打て、だぜ?」
「うん、でも…」
「問答無用だ。おい、小十郎!夕七つまで下がれ!」
「はっ!」
小十郎を下がらせると、遙は途端に不安そうになった。
「えーと?夕七つって?」
「今の時期だとだいたい4時くらいか。あと15分くらいで2時だからな。八つ時じゃ時間が足りねぇ」
「今の八つ時って2時45分くらい?」
「そうだな。太陽の高さに合わせて季節によって時間が変わる。太陽ベースだとある意味便利だが、仕事をする上では24時間制の方が都合がいいな。冬は時間に追われてたまったもんじゃねぇ。お前、時計ばっかり見てて、鐘の音、聞いてなかっただろ?」
「うん…。分単位、秒単位で動いてたから、佐助と忍隊には、分と秒を叩きこんで、24時間制で働いてもらってたから、時間の数え方は覚えなかった」
「道理で指揮系統がしっかりしてた訳だ。猿飛が、右目の手術に3時間かけたって言ってたから、お前に叩き込まれたってすぐに分かった。さぁ、一服するなら今のうちだぜ?話を逸らそうったってそうはいかねぇからな。今日は、たっぷり時間をかけて、俺の抱き方を思い出してもらうからな」
遙は溜息を吐いて、タバコに火を点けて、不安な時の吸い方で、タバコを吸い始めた。
そして、熱い茶を飲んで、また不安そうに溜息を吐いている。
その髪をくしゃりと撫でた。
「そんな不安そうな顔すんな。怖いのも分かる。全部俺のせいだ。責任は取る。お前の不安がなくなるまで、ゆっくり時間をかけるから大丈夫だ。お前が取り乱す覚悟も出来てる。だから、何も考えるな」
「政宗、何でそんなに優しいの?政宗のせいじゃないよ?」
「いや、俺のせいだ。色々タイミングが悪かったとしても、引き金になったのは俺の出陣だ。だから、責任を取る。大切なお前をこんなに傷付けて、悪かった。だから、俺が責任を持ってお前を癒す」
「そんな風に言われたら拒めないよ…。でも、やっぱり怖い…」
「とりあえず、一服してゆっくり茶を飲んで落ち着け。俺ももう少しゆっくり茶を飲むから、今すぐはしねぇよ」
「うん…。このお茶、美味しい」
「ああ、上等な煎茶だな。小十郎が手配したんだろ。俺の好みをよく分かってるからな」
「政宗って本当に趣味がいいね」
「そうか?お前も大したもんだと思うぜ?きちんと美味いもんは美味いって分かってるからな。俺と趣味も合うな。お前といると、本当に落ち着く」
言葉を切って、短くなったタバコを消して、もう一本吸いながら、急須から茶を足して、ゆっくりと熱い茶を飲んだ。
そのうちに、遙もタバコを吸い終わり、まだ不安そうな顔をして、茶を飲んでいた。
「お前、本当に身体、大丈夫か?食べられなくても、水気はしっかり摂っておけ」
「うん。お茶なら飲める」
「そうか、じゃあもう一杯飲んでおけ。マジで心配だ」
俺は、急須から遙の湯呑に茶を足した。
遙は、ホッと落ち着いたように、ゆっくりと茶を飲み干した。
それを見て、俺もようやく少しホッとして、俺もタバコを吸い終わり、茶を飲み干した。
しおりを挟む
top