似た者夫婦 -6-

遙はそれから15分くらい経って、ようやく目覚めた。
目は開いたものの、まだぼんやりとしていて、まだ余韻が抜け切らないのか、時折身体を震わせる。
そっと触れるだけのキスをすると、ようやく遙は俺をぼんやりと見つめた。

「政宗…?」

すっぽりと記憶が抜けているような様子で、ぼんやりと遙は俺の名を呼んだ。

「大丈夫か?」

髪を撫でながらそう囁くと、しばらくして遙はようやく思い出したように目を見開いた。

「政宗、酷い!待ってってあれだけ言ったのに!」
「待てねぇよ。7年分抱き足りねぇんだ。まだ2回しか抱いてねぇのに耐えられる訳がねぇ」
「政宗、前はあんなに優しかったのに…」
「じゃあ、お前、俺に抱かれるのがもう嫌か?」
「ううん…」
「気絶するまで抱いたのはお前だけだぜ?お前が可愛いから止まらなくなる」
「何か気持ち良すぎて途中から意識が飛び始めて、最後、耐えられないくらいの快感で全身が痺れたみたいになって、頭まで痺れて、ふっと意識が途絶えて、その後の記憶が全然ないの」
「そうか…。お前、幸せ者だぞ?」
「どうして?」
「気を失うほど愛される女なんて滅多にいねぇぞ?」
「そっか…。そうかもね…。気を失うほど気持ち良かったのは初めてかも」
「前にもお前、気絶したけどな」
「あれは酸欠だもん。イキながら気を失ったのは、初めてだよ」
「良かったな。しばらくは覚悟しろよ?その代わり、忘れられないほどのエクスタシーで何度も気絶させてやるよ。一生忘れられねぇくらいにな」
「そんな事されたら、癖になりそう…」
「癖になればいい。お前は、ますます俺じゃねぇと満足出来ない身体になるから好都合だ。身体が気持ち悪いのは直ったか?」
「今はね。幸せだったよ。政宗の唇が触れて、気持ち良かった」
「そうか、なら良かった。うなされなくなるまで、毎日消毒してやるよ。もう、怖くねぇか?」
「うん、今は大丈夫」
「分かった。じゃあ、もうあんなに苛める必要はねぇな。焦れるお前は最高に可愛いけどな」
「あんなに焦らされたら苦しいよ…」
「しばらくは優しい前戯にしてやるから大丈夫だ。俺の気が変わらなければな。可愛いお前が見たくてたまらなくなったらまた苛めるかも知れねぇな」
「やだやだ!」
「分かった、分かった。優しくするから心配すんな。ただし、お前が俺を拒んだら、また苛めるからな?」
「うん…。おとなしくする」
「いい子だ」

俺は、柔らかなキスを一つ落とすと時計を見た。

「もう3時半だな。どうする?風呂に入るか?」
「うん。その前に何か飲みたい。あんなに喘がされて、喉がからから」
「クッ…それもそうだな。小十郎を呼ぶのが面倒だから、残りの茶と水でいいか?」
「うん。あと栄養剤とピルを飲む」
「ああ、そうしろ」

もう一度、柔らかいキスを何度か交わして、俺は身体を起こした。
遙を抱き起こすと、遙は浴衣を着付け直した。
俺も着物を着付けると、二つの湯呑に茶を注ぎ、少し茶を飲んで、タバコに火を点けた。
遙は栄養剤を取り出してピルと一緒に飲み干すと、ホッとしたような表情になり、遙もタバコを吸い始めた。
二人でゆっくりとタバコを吸いながら茶を飲むと、ようやく身体の火照りも治まった。
遙はそれでも足りないようで、水差しから水を注ぐと一気に飲み干した。
流石に2時間近く喘ぎっ放しだったのが堪えたんだろう。
可哀想やら可愛らしいやらで、俺は笑いながら遙の頭をくしゃりと撫でた。

「何で笑うの?」
「いや、何でもねぇよ」
「えー?何か政宗が嬉しそうだから気になる」
「ああ、嬉しいぜ?お前の可愛い喘ぎ声を2時間近く聞いてたんだと思ったら、嬉しくてたまらなくなった。そんなに喉が乾くほど長いことお前の可愛い声を聞いてたと思ったら嬉しいに決まってる」

遙は頬を染めて、また水差しから水を湯呑に注ぎ、一気に飲み干して溜息を吐いた。
そしてふくれっ面をする。
その頬をつついて、俺はまた笑った。

「今更だろ?あの頃は、一日中抱き合ってるのもざらだったじゃねぇか。久々にお前の可愛い声を堪能出来て嬉しかったぜ?」
「私も久々だよ?だから、辛かったんだから。こんなに長い時間、ずっと喘ぐの辛かったんだから。それに泣くほど焦らされて苦しかったんだから…」
「悪ぃ。すぐに慣れる。でも、それだけ気持ち良かったって事だろ?お前、焦らされるのも嫌いじゃなかったはずだ。いいじゃねぇか。こんなに愛してなかったら、前戯もそこそこで終わりだぜ?お前を愛してるから、じっくりと可愛がりたくもなる。声ももっと聞きたくなる。どうでもいい女なら、すぐに入れて自分さえすっきりしたらそれで終わりだぜ?お前が俺に愛されてる証だ。諦めろ」

遙はまた溜息を吐いた。

「政宗、やっぱりズルい…。そんな事、言われたら嬉しくて、許しちゃうじゃない…」
「お前、本気で怒ってないくせに。お前は本当に可愛い。可愛くて綺麗な、俺の宝だ」

抱き寄せて、柔らかいキスを何度か交わして唇を離すと、遙は足りないように、俺の首に腕を回してキスをねだった。
ねだられるままに、抱きすくめてキスを繰り返すうちに、また遙が欲しくなって来て、俺は唇を離した。

「ダメだな。こうしてキスをするだけでまたお前が欲しくなる」
「さっき、あんまりキスしてくれなかったから、足りないよ…」
「また後でな。流石に今すぐまた気絶したくねぇだろ?今すぐ抱いたら、今度は長いぜ?そうだな、少なくとも30分は覚悟してもらわねぇとな」

そう言うと、遙はサッと青褪めた。

「えーと、それって…?」
「当然、お前の中で30分だ。休みなくな」
「無理無理!」
「だから、今はしねぇよ。まぁ、江戸に帰ったらそれくらいは覚悟してもらわねぇとな。何せ引きこもるって宣言したからな!」
「ううっ…身体がもたないよ…」
「激しいのも最初のうちだけだ。満足したら、前みたいに優しく可愛がってやるから」
「最初ってどれくらい?」
「分かんねぇなぁ…。7年間お前を焦がれてたからな。その上、女絶ちしてたから、1ヶ月くらいかかるかもな」
「1ヶ月も!?」
「ああ、そうだ。それも、1日1回じゃ全然足りねぇな。今晩だって何度か抱きたいくらいだからな。お前、男並みにバリバリ仕事してたから体力あるだろ?大丈夫だ、1日5回くらいどうって事ねぇはずだ」
「体力はあるけど、それとこれとは別!」
「クッ…それだけ元気なら、今すぐでも大丈夫そうだな?」

遙の顎を指先でくいっと上げると、遙は青褪めた。
その唇に柔らかいキスを一つだけ落として唇を離した。

「冗談だ。半分だけな。とにかく、早く痣を治すために温泉だ。今すぐ行けそうか?」
「うん」
「分かった。おい、小十郎!」

声を張り上げると、小十郎の気配が近付いて、部屋の外に控えた。

「今から風呂に入る。俺は、襦袢と下着も替える。遙の浴衣と腰巻の替えは俺が持って行くからいい。風呂に入っている間に部屋を掃除させろ。用意が整ったら報告だ」
「はっ!」

小十郎は、部下を大声で呼び、言付けた。

「ほら、遙。風呂セット貸せ」
「うん」

遙は、バッグの中から風呂セットを出して俺に手渡した。
遙の着替えと一緒に風呂敷に包む。
タバコを一本吸いながら待っていると、バタバタと足音が聞こえた。

「小十郎様!準備完了ッス!」
「ご苦労だった。下がってろ。何度も言うが、政宗様のお部屋に少しでも近付いたら、この俺自らぶっ殺すってみなにもう一度よく伝えろ!」
「は、はいっ!失礼しまッス!」

遙はそれを聞いて、くすくすと笑った。

「やっぱり、小十郎って面白いね!本当に政宗命なんだね!」
「面白いか?面白いかどうかは分かんねぇけど、あいつほど頼りになる男はいねぇな。俺の背中を預けられるのは小十郎だけだ。俺と一緒にお前を守れるのも小十郎だけだ。俺と小十郎がここにいる限り、お前は絶対安全だから、安心しろ」
「うん。えーと、お風呂場へは昨日みたいに行くの?」
「ああ、そうだ。痣が消えるまでの我慢だな」
「ううん、その方が安心するから、完全に消えるまでそうして欲しいな」
「分かった。じゃあ、こっちへ来い」

俺は、白い布を広げて、そこに遙を横たえ、頭まですっぽりと包むと、風呂敷包みを持って抱き上げた。

「おい、小十郎。遙を抱き上げた。お前が先導して今日も護衛だ」
「承知」

小十郎は、襖を大きく開けた。
俺が部屋の外に出ると、襖を閉めて、部下達を追いやりながら風呂場へ先導し、俺が風呂場へ入ると戸を閉めて、外で控えた。

遙を下ろし布を解くと、昨日のようには怯えず、風呂敷包みから風呂セットを出して、自分で浴衣を脱いだ。
それでも、腕や胸のキスマークを見ると、怯えたような、悔しそうな表情で涙を浮かべて、記憶がフラッシュバックしそうな表情になって行った。
すぐに抱き締めて、何度も柔らかいキスをすると、俺の背中をキツく抱き締めて、唇を離すとホッとしたように、微笑んだ。

「先に身体、洗って来るね?」
「ああ、構わねぇ」

遙が風呂場へ入ってかけ湯をして、鼻歌を歌いながら身体を洗っている音が聞こえて来た。
歌っている歌は、Eternal Flameだ。
遙の声でこの歌を聴くのはとても久しぶりだ。
やっと遙が落ち着いて、ホッとした。
でも、またいつ記憶がフラッシュバックするか分からないから、俺は手早く着替えを確認してから着物を脱いで、風呂場へ入った。
遙はゴムとクリップで髪を結い上げ、身体と顔だけ洗い終わった所だった。
遙は身体を見ないように温泉に浸かり、俺を見つめながら、つるつるとした肌触りを楽しむように腕を撫でている。

「政宗、ごめん…。背中、そんなに酷いミミズ腫れでいっぱいになってると思わなかった…。夢中で気付かなかったよ。痛い?」
「痛くねぇよ。これは男の勲章だな。お前がそれだけ感じてたと思うと誇らしいくらいだ」

そう言って笑うと、遙は頬を染めて、首まで湯に浸かった。
俺は、髪と身体を洗うと湯船に入り、遙を抱き締めてじゃれるようにキスを繰り返しては見つめ合い、飽きる事なく愛の言葉を囁いて、またキスを繰り返した。
そして、二人とものぼせた頃にやっと温泉から上がった。

身体を拭いて、着替えるとすっきりして、また遙を布で包んで小十郎に先導されて部屋に帰ると、もう4時半を過ぎていた。
部屋は琴はそのままだが、すっかり片付けられていて、布団も新しいものが一組用意されていた。

「遙、どうする?今から薄茶、飲むか?」
「うん。政宗がお茶を立てる所が見たいの」
「分かった。小十郎、昨日と同じ薄茶と道具と菓子を申し付けろ。今日は俺が立てる。ああ、やっぱり建水と茶巾と帛紗を今日は追加だ。それなりの作法で立てる」
「かしこまりました」

小十郎が中居を呼んで申し付けている間に、交換されていた水差しから二つの湯呑に水を注いで、タバコを吸いながら、水を飲んだ。
遙もタバコを吸いながら水を飲んでいる。
タバコを吸い終わると、遙は布団の上に転がった。
のぼせたのか、頬がほんのり赤い。

「湯あたりしたか?」
「うん…。何か、怠い」
「そうか。しばらく横になってろ。何なら寝ても構わねぇよ」
「でも、政宗の薄茶が飲みたいし…」
「薄茶は逃げねぇよ。鉄瓶の湯を沸かし直したらいつでも飲める。眠れそうなら寝とけ」
「うん。じゃあ、ちょっと寝る」

遙は布団に潜り込むと、間もなく小さな寝息を立てて眠ってしまった。
安らかな寝顔を見てホッとして、俺は書き物をしながら、その寝顔を眺めていた。
遙がうなされないのを願いながら…。


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