タバコに火を点けて、机の上のiPodをいじる。
あの頃、遙と聴いていた曲が全て入っていて懐かしくなった。
清楚で可愛らしい美人という見かけとは裏腹に、遙が聴いていた曲はほとんど魂が揺さぶられるような激しい曲ばかりで、たまに指ならしと言って曲に完璧に合わせてエレキギターで何曲か弾いていた。
Eternal FlameやBreathlessは、遙の母上の趣味だと聞いた。
特に難しい曲ばかりを好んで弾いていたのを思い出す。
遙の友人が、遙の指先が器用だと言っていた意味が、遙のギターを聴いて初めて分かったんだった。
メタリカ、メガデス、インペリテリ、Mr. Bigをよく好んで弾いていた。
Bon Joviは、男の身勝手な失恋の歌ばかりだからと言って、俺との別れが近付くにつれて聴くのを避けるようになっていった。
懐かしくて聴きたくてたまらなかったけれど、寝ている遙を起こしたくなくて、俺は、iPodを戯れにいじってどんな曲が入っているか順番に見ていった。
その中のプレイリストという所に、「政宗」というタイトルを見つけた。
興味を引かれて、曲のリストを見た。
一番最初がEternal Flame。
その先は、知らない曲がほとんどだったが、タイトルがどれも愛に溢れたものばかりで、遙が俺を想いながら聴いていたと思うと、とても心の中が温かく幸せな気持ちになって行った。
歌手はばらばらで、きっと遙は幸せなラブソングを見つけてはリストに加えて行っていたんだろう。
勉強や仕事で疲れて家に帰って、このリストの曲を聴きながら、あの頃の恋を想って眠っていたような気がする。
俺の知らない遙を知りたくて、俺は音を少し小さくしてEternal Flameから順番に聴いて行った。
懐かしいイントロと、少し遙の声に似たヴォーカルが始まり、俺は目を閉じて、歌詞を噛みしめるように聞き惚れた。
何度聴いても、遙と初めて結ばれた夜を思い出す、特別でとても大切なラブソングだ。
こうして少し遙に似た声の歌声を聴くと、あの夜の幸せでたまらなかった気持ちが蘇る。
最後まで聴き終わると、幸せな気持ちでいっぱいになって、あの夜を思い出して、懐かしさと愛しさで胸が苦しいくらいになって、一筋涙が零れた。
短くなったタバコを消して、そのまま次の曲を聴き始めた。
次の曲は、Missing You -あなたに会いたくて- という曲だった。
曲名を見るだけで、何だか切なくて遙の想いが伝わって来るようで泣けて来そうになる。
俺と離れている間、ずっと遙が俺を焦がれていた証のような曲名だ。
優しいイントロから始まる曲をそのまま聴き始めた。
透明感のある遙に少し声の似た女性ヴォーカリストが、切ない別れの後の恋心を歌い上げる。
その歌の内容が、離れてしまってからの遙の姿にそのまま重なった。
笑顔を取り戻すのに半年かかって、やっと忙しさの中で自分の人生に無理をしながら戻っていく姿が容易に想像出来て、心が痛んで切なくなる。
俺自身がそうだったから。
サビのヴォーカルが始まった所で、俺は息を呑み、そして、涙が溢れて来て声を殺して泣いた。
あなたに会いたくて
会いたくて 眠れぬ夜は
あなたの温もりを
その温もりを 思い出し
そっと瞳閉じてみる
遙がこの歌に託した想いが胸を締め付ける。
きっと、遙はベッドの中で小さく丸まって、薄れて行く記憶の中の俺の温もりを忘れないように、想いを馳せていたような気がする。
俺も、遙に会いたくて会いたくてたまらなくて、何度、その温もりを思い浮かべて泣き濡れただろう。
遙が、恋しくて恋しくてたまらなかった。
遙もずっと同じ気持ちでいたと思うと、愛しくて切なくて、溢れた涙が止まらなかった。
遙の想いを乗せた切ない恋の歌はまだ続く。
あなただけ見つめてた
愛してた 私の全てをかけて
あなたに会いたくて
会いたくて 眠れぬ夜は
あなたの温もりを
その温もりを 思い出し
そっと瞳閉じてみる
一緒に過ごした日々を忘れないでね
後悔しないでしょう?
二人、愛し合った事…
後悔なんてするはずがない。
一夏の恋でも良かった。
それほど、俺は遙のありったけの愛と温もりに包まれて、幸せでたまらなかった。
その先に別れがあったとしても、言葉では言い表せないくらいに幸せな恋だった。
7年経っても忘れられなかった。
遙は、俺に愛の本当の意味を教えてくれた。
後悔するはずなんてない。
襖の向こう側から、小十郎が声を殺してもらい泣きしている気配が伝わって来た。
それほど、この歌は遙の想いそのもので、真っ直ぐで、心に響いて胸が締め付けられた。
あなたに会いたくて
会いたくて 眠れぬ夜は
あなたの温もりを
その温もりを 思い出し
そっと瞳閉じてみる
愛してると呟いて…
優しいイントロと同じメロディで曲が終わった後も涙が止まらなかった。
会えないのが分かっているのに、愛してると呟きながら、俺を焦がれる遙を想像したら、いじらしくて、愛しくてたまらなくて、切なくてたまらなかった。
こんな歌を聴きながら俺を想うなんて可愛いにもほどがある。
Eternal Flameだけでも嬉しくてたまらないのに、こんな歌をその次に聴いてたなんて、反則だ。
胸が苦しくてたまらない。
「遙様、なんと健気な…クッ…」
「そうだな、小十郎。遙は何度俺を泣かせれば気が済むんだ、本当に…」
俺は指で涙を拭って次の曲のタイトルを見た。
次は、Everythingというタイトルで、歌手はEric Martin。
イントロからメロディが始まると、何となく聞き覚えのあるメロディだった。
あの頃、遙と歩いた街で流れていたのかも知れない。
ただ、何となく記憶と違う。
俺は、英語の歌詞を聴き取りながら、その歌詞の意味を噛みしめた。
ああ、本当に、遙はどれだけ俺を喜ばせたら気が済むんだ。
どのフレーズを聴いても、Eternal Flameよりももっと深い愛の言葉に満ちていて、胸がいっぱいになる。
会えない間、俺に伝えたかった愛の言葉をこの歌に託して、遙が口ずさんでいたような気がする。
最大級の愛の言葉がぎっしりと詰まったこの歌詞に、全ての想いを託して聴いていたのかが分かる。
今まで知らなかったほど、貴方は私を大切に愛して慈しんでくれた。
何があっても、永遠に貴方と一緒にいたい。
貴方を私の運命の相手だと信じる理由は、私にとって貴方の愛が全てだから。
そんなメッセージが伝わって来て、切ないくらいに胸が締め付けられて、嬉し過ぎて涙が溢れて来た。
もう一度、よく歌詞をまた聴きたくて、聴き終わるとまた最初から再生して、じっくりと歌詞をまた噛みしめた。
よく声を聴くと、遙が好きだったMr. Bigのヴォーカリストの声だと気付いた。
何度か聴くと、溢れる想いと共に歌詞を完全に覚えてしまって、曲に合わせて口ずさんだ。
俺にとっても遙は運命の相手で、遙の愛は俺の全てだ。
そんな気持ちを込めて、何度か歌っているうちに、視界の角で、もぞもぞと布団が動き、目をこすりながら、遙はゆっくりと身体を起こした。
寝起きでまだぼんやりとして目を擦っている様子が可愛らしい。
微笑ましくて俺は口元に笑みを浮かべて、そのまま歌い続けた。
You're everything.
You're even more than I could ever dream.
You hold the key to happiness.
You're all I need.
Your love is everything to me.
これ以上の言葉で遙への愛なんて伝えられないくらいにぴったりだ。
遙もそう想いながら聴いていたと思うと、嬉しくて幸せでたまらなくなる。
日本語に訳すと陳腐な表現にしかならない。
英語だからこそストレートに表現出来るこれ以上はない愛の言葉だ。
遙はようやくはっきりと目覚めて、俺を見つめて頬を染めた。
そして、やがて目に涙を浮かべて、胸の辺りをきゅっと押さえて感極まったように静かに涙を流し始めた。
You are the sun, the very air I breathe.
I told the million stars how I loved you from the start.
You're the song inside my heart.
You're everything.
You're everything.
You showed me all the joys that love could bring.
My reason to believe in you're my destiny.
Your love is everything to me.
しばらくして歌い終わると、遙は俺に勢いよく抱き付いて胸元に顔を埋めて嗚咽を漏らして泣いた。
その頭をそっと撫でる。
次の曲へと変わり、それもとても幸せなラブソングだった。
永遠の愛を誓う歌だ。
「ずっと、政宗を想いながら聴いてたの…」
遙は、震える涙声で囁いた。
「政宗にこの想いを届けたくて聴いてたの…。まさか政宗が歌ってくれるなんて思わなかった…。そんな日が来るなんて、思いもしなかった…。今、幸せでたまらなくてっ、涙が止まらないよ…」
震える声でそう囁いて、また遙は俺の胸に顔を埋めて静かに泣いた。
俺は、幸せなラブソングを聴きながら、そっと遙の髪を撫で続けた。
遙の想いがどの歌の歌詞にも込められていて、何だか俺まで泣けて来る。
俺は、遙を抱き締めて、そっと涙を流した。
遙が愛しくてたまらなくて、切ない。
避けられない別れの後も、ずっと愛してるという内容の切ない歌もまたいくつか入っていた。
でも、それすら遙のひたむきな愛の象徴のようで、心に響いて泣けて来る。
きっと、もし再会出来なくても、一生俺を想い続けるつもりでリストに加えたんだろう。
でも、こうして再会した今、もう悲しい曲は聴かなくていい。
「遙、悲しい歌はもう聴かなくていい。俺はもうお前を離さない。これからは、永遠を二人で歩いて行くんだ。さっきの歌みたいに。この胸に強く抱き締めた想いは変わらない。たった一つだけの愛してる、だ」
「その歌は結婚式までとっておきたかったな…。誓い合う約束を忘れないで。誰よりも大切だから、描いた夢を少しずつ叶えていこうよって、プロポーズして欲しかったな」
「そうだな。そのうちな。本当は、7年前にきちんとプロポーズしたかった。でも、お前が拒みそうで出来なかった。いつプロポーズするかは、まだ秘密だ。でも俺は、お前に今度こそプロポーズしてから祝言を挙げたい。それが、俺の夢だった。ずっと再会を夢見てたから」
「嬉しいな…。何だかまだ、政宗と恋人って感じで、結婚した感覚がないの。だから、プロポーズしてくれたらすごく嬉しい…」
「ああ、必ずする。タイミングを見計らってな」
俺は、誓うようにそっと遙の唇に優しいキスをした。
そして、遙を腕に抱いたまま、髪を撫でた。
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