そこには、お館様との会見への礼と、遙が思い付いた、姫様への予防接種の方法と同時に真田幸村へ復讐する方法が書いてあった。
そのために、今夜は政宗殿と夕餉を共にし、泊まって欲しいとの旨だ。
正直、俺は、遙が思い付いた復讐があまりに鮮やかで、度肝を抜かれた。
元々、賢い子だとは思ってたけど、ここまでとは…!!
君、本当に何者なの…!?
あ、そっか、天下人の妻だよね、うん。
それにしても、あの伊達政宗が惚れ抜くだけの事はあるよ、全く、本当に!!
俺は、焔を呼んで、政宗殿からの文を見せた。
焔は感嘆の吐息を漏らし、そして微笑んだ。
「流石、誰も傷付く事を嫌う遙様らしい策ですね。更に、これならば、伊達政宗も真田幸村を成敗する大義名分も得られる。あの天下人が甲斐を攻め滅ぼさないのは、遙様が止めていらっしゃるからこそでございます。我々の力が必要とあらば、喜んで遙様に従います。くノ一の選定は、この焔にお任せ下さいませ。涼風の二の舞は御免こうむりたく」
「そうだねぇ…。その方がいいかも。焔、頼んだよ。俺は、あの子の右目の処置の指示をして、若草を呼んでくるよ。時間がないから急がなきゃね」
「はい。ではすぐに」
焔は風のように走り去って行った。
俺は、政宗殿の指示通りに文を焼き捨てると、若草を呼びに行った。
若草は、村長の家で憔悴しきった表情で、ぼんやりと座り込んでいた。
「若草。ほらほら、そんな顔しないの!可愛い顔が台無しでしょ?これから、遙に会いに行くから、この点滴の袋、あの子の付き添いに渡していつも通りだって遙の指示を伝えてくれる?その後すぐに出発だ」
「遙様にお会いするのですか?」
「ああ、そうだよ」
「では、では、遙様は…!ご無事に落ち着かれたのですね?ああ!良かった…!!」
若草は、目に涙をいっぱいためて、ホッとしたような表情を浮かべた。
「ほらほら、泣かないの!急がなきゃいけないから、事付け、きちんと出来るね?」
若草は、輝くような笑みを浮かべて深く頷くと、遙から預かった荷物を持って、部屋を走り出て行った。
俺は、部屋の奥に入り、遙の武器と政宗殿の懐刀を懐にしまって、村の広場に行った。
そこには既に、くノ一達を連れた焔が俺を待っていた。
どの子も、遙にとても好意的だった子達だ。
この面子ならば、遙の指示に間違いなく従う。
「焔、みんな、ご足労ありがとね。もうすぐ若草も合流するから。焔から、今回の任務の内容は聞いた?」
皆は、無言で大きく頷いた。
「あの純粋無垢でお優しい遙様にとっては、あの事件はとても辛い出来事だったに違いありません。私達は、佐助様がいらしてこそ、この身を捧げる事も出来ますが、遙様は、ただのおなご。とても深く傷付かれたのは私だって分かります。そして、それを癒せるのが伊達政宗だけということも。遙様のために、私達は手足となる所存でございます。それに、姫様の事も気がかりです。遙様が今回の事件を理由に姫様をお助けする事を拒んでも仕方ないのに、またこの地を訪れるお気持ちにも心を打たれました。私は、佐助様と遙様のご命令に従います」
他の2人も厳しい表情で、大きく頷いた。
「君達は、遙の性格を本当によく分かってくれてるんだね。安心した。恐らく俺と焔が真田幸村を牽制して、君達が遙を守る事になると思う。君達の真心を信頼してるからね!」
パチンとウィンクをすると、くノ一達は頬を染めて、また大きく頷いた。
その時、若草も村の広場に走って来た。
「佐助様!患者様の容体は回復傾向です!浸出液の量も少し減り、濁りなし。あと数日もあれば、水がたまる事もなさそうでございます!」
「若草、ありがとね。遙にそう伝えたら喜ぶと思うな。じゃあ、みんな、政宗殿の所に急がなきゃだから、鳥を使うよ。若草は俺が担いで行くから、いいね?」
「はい!」
「かしこまりました」
皆は、それぞれの愛鳥を呼ぶと、その脚に捕まり甲斐の外れの宿場町へと俺達は急いだ。
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