Don’t wanna miss a thing -3-

「姫様の事まで考えてくれてるなんて、本当に遙らしいね。そこまで回復してくれて、安心したよ。それに、俺達を信用してくれてて本当に嬉しいよ。君の力になれるのなら何でもする。何でも言って。必ず協力するから」
「佐助、本当にありがとう。ねぇ、みんなもお茶が冷めないうちにどうぞ。お菓子もね。夕餉までに武田の屋敷の造りと布陣について話せればいいから」
「こちらこそありがとね。じゃあ、遠慮なく」

俺が目で促すと、皆も少し冷めかかったお茶を飲みながら、振舞われたお菓子を食べ始めた。

さっきから思ってたけど、流石、天下人の好むお茶!
相当上等なお茶だし、料亭でも出回らないくらい美味しい!
お菓子も京の職人のお菓子かな、これは。
接待と言えば接待かも知れないけど、政宗殿と遙の前だから、何か気楽だし、お菓子も美味しい!
何か役得接待だなぁ。

遙も少しお菓子を食べながら、政宗殿にぴったり寄り添って、いつものタバコをゆっくりと燻らせている。
政宗殿もKOOLに火を点けた。

2人とも穏やかな笑みを浮かべていて、俺達も仕事で来たというのにそれを忘れて、くノ一達の嬉しそうな笑みを見ながら、つい談笑しながら菓子とお茶を楽しんでしまった。
その様子を見ながら遙がふふっと忍び笑いを漏らした。

「佐助も政宗の前だと素顔なんだねぇ」
「ああ、ごめんごめん。だってさ、何かリラックスしちゃうんだもん、君達見てると」
「Ha!relaxか!天下人も形無しだが、遙が一緒なら仕方ねぇな。堅苦しいのは今は御免だ。好きなようにしてろ」
「ありがと。んじゃ、遠慮なく」

焔がみなの湯呑みにお茶を注ぎ、俺が熱いお茶を飲んで幸せの溜息を吐くと、また遙に笑われた。

「もう、そんなに笑わないでよ。またおじいちゃんとか言うんでしょ?」
「正解。ふふっ」
「猿飛…。お前、何か哀れだな…」
「政宗殿、そんな目で見ないでよ。本当に情けなくていじけちゃうんだから」

くノ一達がそんな事はないと口々に俺を擁護すると、また遙と政宗殿は爆笑した。
その政宗殿の笑みときたら、遙が可愛くて仕方がないと言った様子で、しみじみ俺の横恋慕なんて入る余地なんてそもそもなかったんだなあと思った。

「みんな、お茶を飲んでいる所、ゴメンね。みんなを呼んだ理由について話したいんだけど…」

遙が申し訳なさそうに言うので、俺は手をひらひらと振って遮った。

「ああ、いいの、いいの。だいたいの事は、政宗殿の文に書いてあったから。真田幸村への復讐及び姫様への予防接種ね。こちら側はみんな把握してる。君の武器も必要だってね。だから、さっき返したんだ」

遙は、机の上の銃を見つめ、政宗殿は懐刀を見つめた。
政宗殿は複雑そうな表情で懐刀を手に取った。

「因果な刀だな…。遙が命を絶とうとした刀であり、それゆえ遙は俺の下に戻って来た。そして、信玄に対して俺と遙の絆を証明することにもなった。遙が命を絶とうとしたのは許せねぇが、結果的に全て丸く収めるお膳立てもしてくれた刀だ。はぁ…。しばらく俺が預かるか」

政宗殿は、着物の帯に懐刀を差すと、俺達にさっと視線を走らせた。

「元主君、真田幸村へ、武士として耐えられない屈辱を与えるんだ。お前ぇらにその覚悟はあるか?」

特にくノ一に厳しく向けられた視線に対して、若草が答えた。

「何よりお館様のご命令でございます。幸村様にお仕えしていたとは言え、私達にとって、お館様のご命令が何よりも大事でございます。そして、敬愛する遙様をこのように酷く傷つけた真田幸村を私達は許せません。政宗様に私達は絶対の服従を誓います」

若草の言葉に他のくノ一達は大きく頷き、政宗殿はふっと表情を緩めて笑った。

「偽りのない、いい目をしている。遙、お前、やっぱりたいした女だぜ」

嬉しそうに遙の髪をそっと撫でると、政宗殿はまた厳しい顔つきに戻り、俺の前に巻き紙と硯と筆を差し出した。

「武田の屋敷の見取り図を書け。姫の部屋とその周辺さえ正確に分かればいい。真田幸村は姫の部屋の前庭に追い込むつもりだ。お前なら俺の言ってる意味が分かるだろ?」
「もちろんだよ。んじゃあ、門外不出だけどお館様のお許しがあるから、遠慮なく」

俺は、さらさらと見取り図を書き、姫様の部屋に通じる通路や部屋の作りまで事細かに書いた。
政宗殿はタバコを吸いながら、じっとそれを見つめていた。

「伊達軍が駐留するんだよね?姫様の部屋からの通り道も書いておいた方がいいよね?丁度、武田の駐留地への門が姫様の部屋からそう遠くはないんだ」
「ほぅ、それは好都合だ。そちらの守りは伊達が固める。見取り図に書いてくれ」
「了解」

見取り図が出来上がると、遙と政宗殿はそれをじっと眺めた。

「佐助、お館様はどの程度、私達に協力的?」
「全面的にだよ」
「全面的?それは予想外だけど好都合だな。じゃあ、姫様のお部屋と前庭に通じるルートは、お館様の兵で全面封鎖。ただし、こちらの門に通じるルートは伊達が固める。政宗、どうかな?」
「ああ、猿飛の兵力を警備には割きたくねぇからな。俺も同感だ」
「ルートって通路の事でいいんだよね?了解。お館様にお伝えしておくよ」
「信玄が事の成り行きを見たいって言ってたな。我が娘の事だ、心配だろう。手出しをする可能性はないんだな?」
「ないね。それは確かだよ。お館様は姫様に心底呆れてらっしゃたし、政宗殿と遙の絆が見たいって。絶対静観するとのお約束だよ」
「なら、信玄にはこの渡り廊下で復讐劇を見てもらうか。姫の前庭も姫の部屋もよく見える。俺と小十郎が待機するのもここだな」

政宗殿は、筆でさらさらと見取り図に布陣を書き足して行った。

「くノ一のみんな、みんなの専門は?戦闘?諜報?」
「諜報もこなしますが、主に戦闘でこざいます。若草のみ薬師です」
「それは心強いな。姫様に脅しをかけたら、姫様が逃げられないように威嚇。姫様の行動の予測はみんな分かる?」
「直情的な方ですから、もちろん。私達を牽制出来ないとなると、真田幸村を呼ぶと思います」
「そう、予想通りだね。幸村がどこから来るかは分からないけど、武田の警備は、幸村を前庭に誘導する方向で動いてもらう。前庭の、姫様がよく見える所まで幸村が来たら、後は佐助の忍隊が足止め。精鋭ばかりで固めて」
「了解。伊達軍は動かないの?」

そう尋ねたら、政宗殿が唇の端を吊り上げて笑った。

「味方の裏切りの方が精神的に堪えるだろ?だから、俺と小十郎の出番は最後だな」
「なるほどね。それは、政宗殿の策?」
「いや、遙だ」
「はぁ、本っ当に君って恐ろしい子!敵には絶対回したくないね!」
「だって、幸村が動揺してくれた方が戦闘力落ちるから好都合なんだもん。佐助だって同じ手を使うでしょ?」
「まぁね。じゃあ、真田幸村の牽制はあの日の面子で。屈辱が蘇るだろうからね!…まぁ、君の嫌な気持ちまで蘇ったら困るけど…」
「私は政宗と小十郎がいれば大丈夫。政宗は、私を絶対傷付けさせないから」
「当たり前だ。遙を傷付けようとした瞬間、俺は刀を抜く。俺に与えられた大義名分がそれだ」
「なるほどね。全くよく出来てるよ、流石だね。天下人の妻を傷付けようとしたら、政宗殿が刀抜いてもお館様でも止められないからね。真田幸村は八方塞がりだ。姫様もね」
「その通り。姫様には十分脅しをかけて、動けない所で若草ちゃんに予防接種をしてもらうつもり。これが第一目標で、ついでに幸村に復讐」
「それなんだけどさ、君の腕前は知ってるつもりだけど、実戦ではどうなの?」
「だから、みんなを呼んだの。明日から予行演習をして、色々なケースを想定して動けるようにするつもり。まぁ、実戦で私の手に負えなかったら全部政宗にお任せ。必要に応じて小十郎も参戦。双竜が揃って応戦したら、流石の幸村も動けないでしょ?」
「本当に抜かりがないね。君の言う通りだよ」
「小十郎には後でこの見取り図を見せる。予行演習が済んだら、信玄に当日の段取りを伝えろ。決行は一週間後だな。小十郎の疱瘡の免疫が出来るのにそのくらいかかる」
「了解。でも、遙は大丈夫なの?えーと、その…痣なんだけどさ…」

遙はさっと青褪めた後、弱々しく笑った。

「包帯を巻くし、別の服装をするから大丈夫。さぁ、作戦会議はこれくらいでいいかな。政宗、そろそろ夕餉にしない?」
「そうだな。わざわざ来てもらったんだ。上等な酒を振舞わせてもらう。小十郎!」
「はっ!」

部屋の外から右目の旦那が返事をした。

「夕餉を申し付けろ。あと、酒だ。お前も部屋の中に入れ。部屋の外の監視は黒脛組に任せろ」
「承知」

右目の旦那は、仲居に夕餉を申し付けると、部屋に入った。

ほどなくして、夕餉が運ばれて来て、俺達は酒を飲み交わしながら、甲斐での遙の働きについての思い出話をした。
政宗殿と右目の旦那は、感極まったように、涙を浮かべて話を聞き、俺の女子会の話になるとお腹を抱えて大爆笑した。

遙は微笑みながら話を聞いていたけれど、夕餉にはほとんど手をつけず、栄養剤をゆっくりと飲んでいた。
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