愛と嫉妬は紙一重 -1-

腕の中の遙がもぞもぞと動いて、頬に柔らかい唇の感触を何度か感じて目を覚ました。
そっと目を開けると、ふわりと優しい笑顔を浮かべた遙と目が合い、それが嬉しくて俺も微笑んだ。
遙より俺が遅く目覚めるのは珍しい。
ここ数日で思ったより疲れが溜まっていたようだ。

「Good morning, 政宗」

そう言うと、遙は優しいキスをした。
俺は遙の髪をくしゃりと撫でて、笑った。

「お前と初めて眠った朝を思い出した。お前、間違えて俺にkissしたな」
「ふふっ、そうだね。でも、もう政宗の腕の中でしか寝ないから間違えないよ?」
「当然だ。Good morning, 遙」

俺も、啄ばむようなキスを何度か繰り返して、そして見つめ合った。
優しい空気に包まれて、幸せでたまらない。
あの夏、毎日遙を抱き締めて眠っていた、喜びに満ち溢れた気持ちが鮮明に蘇る。

そっと遙の頬を撫でると、遙は俺の手に自分の手を重ねて幸せそうに目を閉じた。
愛しくてたまらなくなって、遙の額にキスをして、また見つめあった。

7年の空白の時を経て、再びこうして見つめあうと、時間が巻き戻されたように、あの頃のままの気持ちと雰囲気に包まれる。
ただ一つだけ違うのは、もう俺たちは、別れに怯えなくて済むという事だ。
俺たちは、死が二人を別つまで、もう二度と離れ離れにならない。

「気分はどうだ?」
「うん、何かすごくよく眠れた。夢の内容はほとんど覚えてないんだけど、とても幸せな夢を見てた気がする。多分、政宗の夢を見てたんだね。こんなに幸せな気持ちですっきり目が覚めるなんて久しぶり。7年ぶりかな。やっぱり政宗の腕の中だとよく眠れるみたい」
「そうか、良かったな」

恐らく、焔は弱い催眠をかけたんだろう。
遙は夢の内容を覚えていない。
きっと催眠に深入りしてしまわないためだ。
遙は甘えるように、俺に抱き付いて、胸に頬を寄せて目を閉じた。

「まだ眠るか?お前、ここ数日、あんまり寝てないだろ?」
「ううん。まだしばらく政宗に甘えてたいだけ。今、すごく幸せ。7年前を思い出すの。政宗に毎日甘えて幸せだった、あの夏を思い出して。もう毎日こうして政宗の腕の中で目を覚ますと思うと、幸せでたまらないよ…」
「俺も、夢じゃないかと思うくらいに幸せでたまらねぇよ。遙、愛してる」
「私も愛してるよ」

どちらからともなく、キスをして、それが止まらなくなって、絡み合うように抱き合って、何度も何度もキスを繰り返して、それが深いキスになってしばらくして唇を離した。

これ以上続けたら、このまま抱きたくなってしまう。
でも、それは江戸に着いてからだ。
流石に小十郎の隣りの部屋では気が引ける。
俺はちらりと時計を見た。
もう10時を過ぎている。
予想以上に長く眠ってしまった。

「小十郎、そこにいるか?」

俺は、部屋の外の気配に声をかけた。

「はっ!猿飛佐助と焔もおります。申し訳ございませんが、朝餉は既に頂戴致しました。前後の守りを固める部隊の予防接種の薬が足りないので、遙様をお待ちしておりました」

遙ははっとしたように身体を起こした。

「ごめんなさい!今すぐ用意するから!衛生兵への指導は佐助と焔にやらせて。伊達軍は、佐助が味方だって知ってる?何人分?」
「猿飛には黒脛組を同行させますからご心配には及びません。申し訳ございませんが、念のため5千人分ほど。政宗様に何かございましたら、一大事でございますゆえ」
「分かった。すぐに用意するから」

遙は浴衣の乱れを直して、バッグの中から大量の予防接種の道具を出すと、小袋に分けて小十郎と猿飛を部屋に呼んだ。
小十郎は遙を見て微笑んだ。

「遙様、顔色が随分と良くなりましたね。政宗様もよくお眠りになられたご様子で安心致しました」
「ありがとう。うん、久しぶりによく眠れたの」
「そう言うお前もすっきりした顔をしてるぜ?昨日は猿飛に護衛を任せて正解だったな。これから、小十郎、猿飛、焔の3人で交代で見張りがいいだろう。お前達には、倒れられたら困る」

猿飛は手をひらひらと振って笑った。

「俺たちの事は気にしないで。流石に不眠不休は無理だけど、少々寝なくても大丈夫なように育ってるから。それにしても、遙、本当に顔色が良くなって良かった!予行演習、出来そうだね!」
「うん!佐助、悪いけど、これ予防接種の薬ね。佐助と焔は疱瘡の村で慣れてるから頼みやすくて。衛生兵にしっかり叩き込んで、後は衛生兵に任せて帰って来てくれる?」
「分かった。じゃあ、早速行って来るよ」

猿飛は風呂敷に荷物をまとめると、部屋を出て行った。

「では、小十郎は、朝餉を申し付けて参ります」

小十郎も部屋を出て、部屋の前から仲居を呼び、朝餉を申し付けた。
ほどなくして、朝餉が届けられ、小十郎は部屋の外に控えた。
遙はまだ重湯だった。
本気で心配でたまらなくなる。

「お前、本当に大丈夫か?」
「ん?あのね、重湯よりも栄養剤の方が栄養素が多いし、力もつくんだよ。だから大丈夫」
「そうか?お前がそう言うなら間違いねぇだろうけど心配だ」
「先に吐き気止めと胃の痛み止め飲むから大丈夫」
「分かった」

水差しから水を湯呑みに注ぐと、遙はピルと薬を飲み、俺が朝餉を食べるのに合わせるように、ちびちびと栄養剤を飲んだ。
重湯よりも栄養剤の方が身体が受け付けるようで、無理に重湯には手を着けなかった。
朝餉を終えると小十郎に下げさせて、小十郎に声をかけた。

「おい、小十郎。袴の用意はしなくていい。遙は洋装をする。首まで隠れるから、部屋の外に堂々と出られる。お前はそのまま控えてろ」
「承知致しました」

遙はいそいそと、服の準備をしている。
遙の部屋で見た事のある白衣と、同じく白い洋装の服と靴を取り出した。
そして、少し恥らう素振りで何かを取り出し、それを白衣の下に潜り込ませて俺を振り返った。

「えーと、政宗?後ろ向いててくれる?着替えるから」
「Why?一緒に風呂に入る仲なのに今更だろ?」
「だって何だか恥ずかしくて…」
「じゃあ、タバコ吸って待っててやるから、適当に着替えろ」
「うん…」

遙は頬を染めて、部屋の隅へ行くと、浴衣の帯を解き、腰巻を巻いたまま、下着を穿いている様子だった。

ああ、そうか。
洋装をするという事は、下着も変えるという事か。
遙が恥ずかしがるのも無理はない。
遙の世界の下着を見るのは7年振りだ。
懐かしさと興味をそそられて、俺はタバコを吸いながら、さりげなく遙の着替えを見つめていた。

遙は、浴衣をはらりと脱ぐと、綺麗な背中を露わにし、そして穿いているショーツには見覚えがあった。
オレンジ色の前がシースルーになっている、俺が遙に選んだ下着だ。
あの日の事を急に思い出して、ドキドキと胸が高鳴りだした。
遙は俯き加減にブラジャーを着け始めた。
胸を寄せ上げている様子で、もしあの下着だとしたら、見たくてたまらなくなって来た。

いや、待て、遙はFカップの筈だ。
あの時とは違う下着の筈だ。
ならば、遙は今までこんな下着を着けて仕事をしてたのか…!?
他の男に誘惑されても、いつでも下着姿になれるように…?

そう思い当たると、急に腹立たしくなって、俺はタバコを揉み消して、立ち上がり、遙の腕を掴んで俺の方を向かせた。

「きゃあっ!ま、政宗どうしたの!?何で怒ってるの!?」
「お前、今までこんなセクシーな下着を着けて仕事をしてたのか!?よりによって、俺が選んだ下着を着けやがって!!いつでも男の誘惑に乗れるように、セクシーな下着を着けてたのか!?」
「違うよ!これは政宗のためだけの勝負下着!!いつもはTシャツブラだってば!!」
「Huh!?俺のため…?」
「うん…。もう会えないのは分かってたんだけど、いつかまた会えるかなって思って、その時に恥ずかしくないように、時々セクシーな下着を買ってたの。特にこれは政宗が選んでくれたから、サイズが変わったら買い直してた。だから、これはおニューなの…」

遙は頬を染めて、囁くようにそう言った。
怒りはすぐに愛情に変わり、遙がいじらしくてたまらなくなって、俺は思わず遙を抱き締めた。
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