「小十郎…何がおかしい!?」
「いえ、この小十郎の出る幕などなかったと思いますとおかしくて…クッ…。皆の士気も十分に上がりました。流石は政宗様でございます。遙様も大変ご立派でございました」
小十郎は振り返り、微笑んだ。
遙も微笑み、後ろを歩く猿飛を振り返った。
「佐助、例の槍は用意してくれた?」
「ああ、遣いに届けさせたよ。姫様が使ってるのと真田幸村が使ってるやつにそっくりなやつね。ほら、あれでいい?」
猿飛は焔の持つ槍を目で示した。
遙は大きく頷いた。
「うん、完璧!伊達軍にも余ってる槍、ないかなぁ。何度か練習となると、あと何本か必要かも」
「それならば、この小十郎が用意させます。後続部隊は十分におりますし、真田幸村仕様の槍であっても、江戸からすぐに取り寄せられます」
「そうなの!?流石は天下の伊達軍だね!心強いよ。じゃあ、早めに手配してくれる?」
「かしこまりました。本日の予行演習が終わりましたら、早馬で届けさせます」
「ありがとう」
それから、雑談をしているうちに、宿の裏手に広がる草原へと出た。
薪が束ねられて積み上げられ、薪の材料となる丸太が転がっている。
遙はそこで足を止めた。
「まずは銃の威力の確認をしたいな。あ、これくらいの石がいいかも。それから、最後にこの岩かな」
遙は茶道具の中棗ほどの大きさの石を拾ったあとに、赤子の頭ほどの大きさの岩を拾った。
「ちょっ!遙!それ重いでしょ!?それ、俺が持つから!」
猿飛は、慌てて遙の手から石と岩を受け取った。
「で、何個必要なの?みんなに集めさせるからさ」
「んー。それぞれ10個かな」
「分かった。じゃあ、みんな集めて来て!それから、この石もあの丸太の上に置いて来て」
「はい、佐助様」
くノ一達は返事をすると、散り散りに石を集めに行った。
「射撃か…。お前、魔王の嫁みたいだったな、そう言えば」
ハネムーンで遊びに行った浜辺で遙とウォーターガンで撃ち合った事を思い出しておかしくなった。
遙に負けて悔しくて、遙を海に放り込んで虐めたら、遙が拗ねてしまったんだった。
その後の、浜辺に所狭しと書かれた愛してるを思い出すと、何だか切なくなってしまって、胸が締め付けられて、俺は遙を後ろから抱き締めた。
「政宗、どうしたの?」
「お前が砂に書いたLove Letterを思い出した。あの時は、こうして再会出来るなんて思わなかったから、切なくて胸が痛かった」
「そうだね…」
「お前、射撃も上手かったな。実弾はどうか分からねぇが、あれだけ俺と走り回りながら撃って外さなかったんだ。相当な腕前だろ?」
「うん、多分。でも、この銃は初めてだから、練習しなきゃ」
「ああ、そうだな」
遙を抱き締めたまま、こめかみにキスをしていると、少し気まずい表情で猿飛が戻って来た。
「あー、もう、そういうのは二人きりの時にやってよねー。思いっきり当てられちゃうよ、全く。これから実弾で練習だってのに」
「昔、実弾に近いウォーターガンで遙と撃ち合いをした事を思い出してただけだ。こいつの腕前は知ってるつもりだ。まるで魔王の嫁みたいだったぜ?」
「ええっ!?そうなの!?」
「ああ、それも浜辺を走り回りながらな。動いてない的なんて遙には容易いだろうな。問題は、真田幸村と馬鹿姫の動きだ。それはお前が一番よく知ってるだろ?そのためのシミュレーションだ。銃の威力の確認は一度でいいだろう」
「まさかそこまでとは…!本っ当に見かけによらないんだから!恐ろしい子っ!」
猿飛は目を瞠って驚き、そして溜息を吐いた。
「ねぇねぇ、佐助。私は姫様から3mくらいの庭よりの所で脅しをかけるつもりなんだけど、佐助の見積もりでは、幸村はどのくらいの距離で足止め出来そう?」
「3m…って、10尺くらいだよね?うーん、15mから20mかな。君に槍が届かない距離ってなるとそのくらいだな」
「分かった!じゃあ、政宗、少し下がろう」
遙は、丸太から20mの距離まで下がった。
正直、棗ほどの大きさの石は豆粒程にしか見えない。
でも、槍の太さを考えると、妥当な的とも言える。
真田幸村本人を撃ち抜くなら楽勝だが、槍となると話は別だ。
遙の失敗を考慮に入れて、俺が渾身のHell Dragonで真田幸村を吹っ飛ばすのが一番確実で、俺もスッキリする。
いずれにせよ、この復讐は、どの形を取っても上手く行くよう練られている。
改めて俺は遙の頭の良さに舌を巻いた。
「うん、じゃあそろそろ始めようかな。この間は右手で練習したから、今回は左手の片手撃ちで」
「Huh!?左手!?お前、右利きだろ?」
「えええっ!?遙、左手でも撃てるの!?」
俺と猿飛が叫んだのは同時だった。
小十郎も目を瞠って驚いている。
「だって左手も器用じゃないと手術出来ないし、そもそもギターの早弾きなんて出来ないよ?」
「ギター!?南蛮の!?遙、あれも弾けるの!?」
「ああ、こいつのギターの腕前は教会の南蛮人どころじゃねぇよ。神業だ」
「独眼竜にそこまで言わせるほどとは…!!君、本当に何者なのっ!?」
「ただの外科医だけど?んー、両手で二刀流で撃ってくのもいいな。本番ではそうなるから。じゃあ、小さい方を両側から順に撃ってくよ」
遙は白衣の内側から銃を取り出すと、何かの装置を確認してから、両手にそれぞれ銃を持って構えた。
「まずは小さい的の方から行くよ。結構銃声が大きいから、耳を塞いでた方がいいかも知れない」
「いや、それじゃ、本番で俺が手助けする時に遅れる。このままでいい。小十郎、いいな?」
「もちろんです」
「分かった。じゃあ、遠慮なく。流れ弾に当たらないようにみんな私の後ろにいてね」
「はい」
猿飛の部下達は頷き、遙の後ろに下がって控えた。
遙はそれを確認すると、両腕をクロスさせて、小さな的に照準を合わせた。
一呼吸置くと、遙は次々に発砲した。
一発目はゆっくりと、二発目からは立て続けに全ての的を撃ち抜いた。
撃たれた石は粉々に砕け散って飛散した。
物凄い威力の銃だ。
それも、反動がほとんどない。
遙は涼しい顔をして銃を見つめて、満足そうに笑った。
一方の猿飛は、引きつった笑いを浮かべていた。
俺と小十郎は驚愕に目を瞠って、遙を呆然と見つめていた。
「ふう、相変わらず軽い撃ち心地!!反動がほとんどないから腕を痛めないし最高だね!照準の精度も抜群だし、破壊力も申し分なし!ただ、槍はもっと細いからそれだけが心配だなぁ…」
「いやいやいやいや、十分だって!そんだけの威力なら、多少外れても弾丸の風圧で何とかなるくらいだよ!」
「左様でございます。遙様、正直政宗様の出番がないのではと、この小十郎、心配になって参りました」
「大丈夫だ、小十郎。例え遙が成功しても、真田幸村は俺が吹っ飛ばす。これだけは譲れねぇ」
「ふふっ、死なない程度だったら私は政宗を止められないなぁ。幸村が大怪我したら、手術してあげるから大丈夫。さて、これだけじゃ心配だから、次は連射モードで練習しようっと。流石に連射モードだと左手はキツそうだから右手で大きい的を撃つよ!」
遙は銃の装置をいじると、左手は威嚇するように構えたまま、また腕をクロスさせて、今度は右手で赤子の頭ほどの大きさの的に照準を合わせた。
そして、おもむろに遙が引き金を引いた瞬間、俺たちは驚きに思わず声を上げて、一歩後退した。
一体全体、この銃はコンパクトなのにどうなってやがるんだ!?
連射とは聞いたが、こんなの聞いてねぇ!!
まるで、遙と一緒に観た映画のマシンガンだ!!
次々に撃たれた岩は、哀れなほどに粉々に砕け散り、それこそ砂になったんじゃないかと思うほどに破壊されていった。
……真田幸村の槍なんて、目じゃねぇな。
本気で遙は俺の出番を奪うつもりか!?
いや、真田幸村は、絶対に報復する。
その前にHell Dragon決定だ!
「ね、ねぇ、遙!?今の、何!?あの岩が粉々だなんて、危なくない!?ってか、絶対危ないってば!真田幸村、死んじゃうよ?」
「ん?反動で失神くらいはするかもだけど、幸村には当てないから大丈夫!」
「Hey、遙っ!失神したら、俺の出番がねぇだろっ!!」
「だって幸村怖いんだもん!大丈夫!幸村は強い子だと思うから失神もしないし政宗の出番は絶対あるから!」
「…まぁ、そう言われればそうか。信玄と殴り合いしても平然としてるしな。なら、安心だ」
「ちょっとー!変な所で安心しないでよっ!!足止めする焔と俺の気持ちにもなって!」
「だから、目で合図するから、その瞬間しゃがめば大丈夫だってば!これから、本番の予行演習するから、それでタイミング叩き込んでね!」
「俺、まだ死にたくないよ!」
「だから、当てないってば!んもう。政宗ー!佐助が私の腕を信じてくれないよー」
遙は俺に抱き付いて、俺の胸に額をすり寄せた。
「Hey, 猿飛。あの小さな的を外さなかったんだ。文句あっか!?」
「そうだ、猿飛。てめぇ、遙様の腕前をないがしろにするつもりか!?ぁあ!?」
小十郎と二人でギロリと猿飛を睨み付けると、猿飛は慌てて首をぶんぶんと横に振った。
「いや、ないない、それはないってば!!ちょっ!二人共お館様より怖いんだけどっ!!分かったってば!じゃあ、姫様のお部屋と前庭の再現するから、それで許して!!」
猿飛は、焔と共同して術を使い、姫の部屋と前庭を再現した。
これなら、当日武田の屋敷へ行っても戸惑う事はなさそうだ。
俺と小十郎は、渡り廊下に控え、遙達を見守った。
猿飛は真田幸村と姫の幻影も作り出し、皆、遙の指示通りの配置についた。
そこからのshowは、ゾクゾクするほど本気で見ものだった。
はっきり言って、一発目でこんなに上手く行くとは思わず、Hell Dragonが一瞬遅れたほどだった。
「遙も猿飛達もマジですげぇな!!俺のHell Dragonが遅れたくらいだ!!」
「またまたー、ご謙遜しちゃって!政宗殿も流石だったよー。ほら、雷で焦げちゃって、俺、ショック…」
猿飛は、少し焦げた忍装束を見せてうな垂れた。
「悪ぃ、Hell Dragonのタイミングも合図するから、その瞬間下がれ」
「頼むよ、政宗殿ー」
「まぁ、とりあえず、今日はこの辺で切り上げだな。猿飛、よくやった!遙もな!」
俺が軽く手を上げると、二人はハイタッチをして笑った。
「本番、絶対、成功させようね!」
「そうだね、遙!政宗殿のタイミングが気がかりだから、また明日練習ねー。さぁ、宿に戻ってゆっくりしようか」
「ああ、そうだな。おい、小十郎、引き上げだ」
「はっ!」
俺たちは笑いながら宿へと戻って行った。
その頃、俺はまだ遙の異変に気が付いていなかった。
まさか、決行の日にあんな事が起きるなんて、その時は思ってもいなかった…。
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