秘密 -2-

「ねぇねぇ、政宗殿とのデート、もっと聞かせてよ」
「うん…。政宗って酷いんだよ?政宗が真面目な顔をして、遙を頼むなんて言うからさ、二人の別れが悲しくて。私、二人をけしかけたから、自分の責任だと思って泣いちゃったの。そしたら政宗がさ、化粧が落ちるから泣くな、とか、遙ほど素材が良くないから困るだろとか、そんな事、言ったんだよ?…政宗は抱き締めたりはしなかったけど、私、政宗の肩に頭くっ付けて泣いちゃったな…」

佐助は、くすくすと笑った。

「政宗殿は、本当に遙にぞっこんだったんだね。美紀ちゃんは、何も悪くないよ。でも、その慰め方、ちょっと酷いなー」
「でしょ?でしょ?でもね、それだけ遙を愛してるのが嬉しかったよ。だけど羨ましかったなぁ。ここだけの話ね、政宗に、俺に惚れたかって聞かれて、そうかも知れないって言っちゃったんだ…。絶対内緒ね。遙を一途に愛する政宗の愛情に憧れちゃったの…」

そう言うと、佐助は驚く事なく、ただ哀し気に笑った。

「何かその気持ち、分かるかも。俺も、墓場まで持ってかなきゃって思ってた秘密があるんだ。俺、遙に男として見ちゃいけないって言っておきながら、遙に恋してた。遙が誰かを想ってるの知ってたのにね。それが政宗殿だと分かってからも、やっぱり恋してた。政宗殿に遙をお返しするまで。遙が命を絶とうとした事は話したよね?」

私は頷いた。
佐助は、とても哀しそうな、それでいて愛しい思い出を懐かしむような、切な気な表情を浮かべた。

「真田幸村に遙が襲われて…見ただろ?あのキスマーク。遙をすぐに清めてあげたくて、気を失ったままの遙を湯浴みさせたのは俺なんだ…」
「佐助が!?…何かあった…?」

佐助が幸村みたいな事をしてたら許せないと思う一方で、佐助の表情を見る限り、とても切ないけれど、佐助にとってはかけがえのない、優しい思い出のような気がなんとなくした。

「うん…。話を少し戻そうか。俺、遙に恋してから、遙の幸せだけを望んでた。あまり深くは話せないんだけど、俺、汚い仕事もしてるからさ、遙の弱みにつけ込んで抱き締めた事もあったんだ。何か、その時、俺の穢れが祓われたような気がして、遙にどんどん惹かれていった。それで…絶対に内緒にしてね。湯浴みをさせた時に、どうしても遙の唇に触れたくなって、触れるだけのキスをしたんだ。あの時の幸せな気持ち、俺、一生忘れられないよ…。俺、本当に本当に、遙の事が好きだった。遙が命を絶とうとした時にもそう言ったんだけど、政宗しか愛せなくてゴメンって謝られちゃった。政宗殿に遙をお返ししてから、俺の恋心は封印。でも、あの時の幸せな気持ちは、ずっと胸の中に残ってるよ…」

佐助は、思い出したように、一筋涙を流して、それから堰を切ったように、ぽろぽろと涙を流し始めた。

「あれ、おかしいな…。忍は演技でしか泣かないのに…」
「佐助…。本当に、遙の事が好きだったんだね」

私の政宗に対する恋心とは比べ物にならない、佐助の遙への想いが伝わって来て、私は佐助の頭をそっと撫でた。
ゆっくりゆっくりと撫でていると、佐助は、涙声で言った。

「あんまり優しくしないでよ。俺、今、珍しくすごく不安定なんだから。甘えたくなるだろ?」
「強がってないで、甘えてもいいんだよ?初対面の女にすぐには甘えられないだろうけどさ」
「ゴメン…。このまま、もう少しだけ泣かせて。それで、もう、遙への想いは、完全に封印するから」

遙を想って、涙を流す佐助は、純粋そのもので、穢れてなんかいなかった。
むしろ、とてもとても綺麗だった。

「佐助は、穢れてなんかいないよ。穢れてる人はこんなに純愛なんてしないよ」
「純愛?違うよ。俺のはただの横恋慕。本当は穢れ切ってるんだ…」
「たまたま遙が政宗に恋してただけで、佐助は遙に純愛してたんだよ。今もまだ…。キスして、それが最高の思い出だなんて、純愛以外の何物でもないよ。ところで、佐助の穢れって何?」

そう尋ねると、佐助の表情が固まった。
もしかして…。
前に漫画で読んだ事があるけど、忍頭は、くノ一を手懐けるために、処女を奪って快楽で虜にするってやつ…?
佐助が、穢れてるって言ってるのは、そのせい…?

「ねぇ、佐助。もしかして、佐助の言う穢れって、くノ一関連の事?その…忍頭の役目の、くノ一を手懐ける…アレの事…?」

佐助は驚いたように目を瞠った。

「何で、それを…?」
「やっぱりそうなんだ…。本で読んだ事があるんだよ。佐助、辛かったでしょ?そんな純愛する人がそんな事しなきゃいけないなんて、本当に辛いよね…」

佐助は、歯を食いしばり、膝の上の拳を握り締めて、声を殺して泣き始めた。

「知ってたんだね…。ううっ…。だから、俺は穢れてるんだっ…。身体を清めても清めても、穢れが祓えないんだ…」
「そう思ってるうちは穢れてなんかないよ。佐助の心はとても綺麗だよ?」
「でも、身体が…!!」

小刻みに震えながら、泣く佐助を見ていたら、政宗を想って泣く遙とダブって見えて、私は思わずそっと佐助を抱き締めて、背中をさすった。

「遙の代わりになれなくてゴメンね。穢れを祓ってあげられないかも知れない。でもね、佐助は本当に穢れてなんかいないよ」

そう繰り返すと、佐助は、私を抱き締めて声を殺して泣いた。

「何でだろ…。今まで焔にしか弱みを見せた事、ないのに、出会ったばかりの君に、何でこんな弱みを見せられるんだろ…」

私は答えに困り、ただ佐助の背中を撫で続けた。
やがて、佐助は泣き止み、少しすっきりしたような表情になって、私を見つめた。

「政宗殿と遙が、君を信頼してるのが分かった気がする。君の明るさと優しさが癒しなんだね。俺も何か救われた。俺達、政宗殿と遙にそれぞれ恋してた同志だね」

そう言って、佐助は、眩しそうに私を見つめて切な気に笑った。
そして、何故かその笑顔に、私の胸はドクンと脈打ち、佐助がとても可愛く思えた。


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