「政宗様っ!!」
小十郎がすぐに抜刀して飛び出し、刀で真田幸村の槍を打ち落とした。
それは俺達から数十センチしか離れていない距離で、遙は悲鳴を上げて目を瞑り、俺にしがみ付いて震えた。
俺が遙を守るように体勢を整える間に、真田幸村は既に別の所へ移動していて、そこからまた槍を投げた。
真田幸村の動きを読んでいた猿飛が、小太刀ですぐに打ち落とすと、俺達は、真田幸村と睨み合った。
俺は、ニヤリと笑った。
槍がなくて、どう戦うつもりだ…?
「Hey!真田幸村、槍がなくてどう戦うつもりだ?」
「ふん。槍だけが俺の武器ではない。拳も、刀もある。伊達政宗、貴様は遙のせいで抜刀出来なかろう。必ずや、遙を仕留めて見せようぞ!」
「んだと!?ふざけんなっ!!」
そう叫んだ瞬間、真田幸村は、抜刀して間合いを急激に詰めて来た。
小十郎も間合いを詰めて、真田幸村に斬りかかると、真田幸村は小十郎の剣を受け止め、鍔迫り合いとなった。
「勘違いもほどほどにしやがれ、真田幸村!!政宗様がどんな想いで、7年間も遙様を探しておられたと思っている!?」
「遙は、伊達政宗に愛される資格などない女だ!!誰とでも寝るような、ふしだらな女だ!!」
すると、猿飛が小太刀で斬りかかり、鍔迫り合いをしていた真田幸村の刀を弾き飛ばした。
「誤解も大概にしろよっ!!あんなに身体がぼろぼろだった遙を、俺が抱く訳ないだろっ!!頭ん中、おかしいんじゃないの!?」
小十郎と猿飛は、真田幸村を斬らないように考えあぐねるように、それでも、決して俺達に近付けないように、じりじりと間合いを取って睨み合いを続けた。
小十郎と猿飛が真田幸村を斬れないのは、あの姫のためだ。
それを勘違いしている真田幸村は不敵に笑った。
その瞬間、美紀が白衣を脱いで、ナックルを拳に装着し、真田幸村目がけて走って行った。
「美紀!!?」
「幸村あああっ、覚悟しやがれっ!!」
真田幸村は虚を突かれて固まり、美紀は小十郎と猿飛の間をすり抜け、そして、華麗な回し蹴りを真田幸村の顔面にぶち込んだ。
俺も驚きのあまり、固まってしまった。
遙の射撃といい、美紀の回し蹴りといい、何で二人ともこんなに強ぇえんだ!?
美紀はそのまま、流れるように、真田幸村の脛に下段蹴りをキメ、蹲りかけた真田幸村のみぞおちに膝蹴りをすると、そのまま渾身の力でアッパーカットをキメた。
流石にナックルでのアッパーカットは真田幸村にもキツかったようで、真田幸村はよろけて膝を着いた。
「美紀!?」
驚いたように猿飛が叫ぶと、美紀はニヤリと笑った。
「ストレス発散のキックボクシングは伊達じゃないからねっ!!これじゃまだ温いくらいだよっ!!」
真田幸村は、ふらふらと立ち上がりながら、美紀を睨み付けた。
「貴様、誰だっ!?」
「遙の親友よっ!!遙の事をこれ以上傷付けたら許さないんだからっ!!」
美紀は、よろける真田幸村のみぞおちに、抉るようなパンチを決めて、今度は延髄にかかと落としをした。
しかし、ふらふらと倒れかけた真田幸村は、美紀の脚を掴んで、脚を封じた。
美紀は必死に振りほどこうとしたが、びくともせず、真田幸村は、ニヤリと笑った。
「貴様の脚は封じた。おなごであろうとも、遙の友人ならただではおかぬ!!」
そのまま、美紀を引き倒すと、すかさず猿飛が真田幸村に峰打ちで攻撃を仕掛け、美紀を背中に庇った。
「美紀、無理しちゃダメだよっ!!」
「でも、でも…!!」
「ふん、佐助、お前に俺は斬れまい。覚悟っ!!」
間合いを変えて、猿飛の後ろにいる美紀に真田幸村は殴りかかろうとしたが、その拳は小十郎の右手で止められた。
「いい加減にしやがれっ!!女に手ぇ出すなんて、腑抜けにもほどがあるぜっ!てめぇこそ、覚悟しやがれっ!!」
そう言う小十郎の身体は既に稲妻に包まれていた。
そして、それが弾けるように輝くと、小十郎は剣を地面に突き立てた。
「おらよっ!!」
前髪を乱しながら、小十郎が流れるような動きで、蹴りと拳を真田幸村に打ち込んで行く。
「政宗様と遙様は、7年前にもう結ばれてんだっ!てめぇには分からねぇ深い絆でなっ!!」
「おい、美紀っ!!」
猿飛の制止も聞かずに、美紀は飛び出し、小十郎に加わって、交互に蹴りと拳を繰り出して行った。
「政宗と遙は、世界で一番幸せな恋人同士だったんだからねっ!!遙は、7年間、ずっと、政宗を想って泣いてたよっ!!幸村なんかには一生分からない、深い絆で愛し合ってたんだからっ!!この腑抜けの卑怯者がっ!!」
美紀と小十郎は、口々に、俺と遙の愛の思い出と絆を叫びながら、真田幸村に攻撃を仕掛けて行った。
真田幸村は、倒れては、また立ち上がり、小十郎と美紀の攻撃と罵りを受けながら、段々と濁った目が澄んで行くような表情を浮かべ始めた。
そう、俺が好敵手だと思った事のある、真田幸村の目付きに戻って行った。
遙と俺は、呆然としながら、小十郎と美紀を見つめてしまった。
「Oh, my…俺の言いたかった事、全部小十郎に言われちまったぜ…」
「私も…」
ようやく遙の身体の震えが止まり、遙を抱き締めた時の事だった。
またバタバタと足音が聞こえて来たと思ったら、あの姫だった。
「幸村ぁああああ!!!!」
「姫様!!!」
真田幸村の瞳が歓喜の色を浮かべた瞬間、また姫は叫んだ。
「幸村ぁああああ!!!!」
叫びながらキマったのは、ハグではなく…両脚を綺麗に揃えたジャンピングキックだった。
不意を突かれて顔面に華麗にキックをキメられた真田幸村は、今度こそ吹っ飛び、地面に倒れ伏した。
「ぐふっ…姫…様…なにゆえに…」
「幸村の馬鹿っ!!馬鹿っ!!大馬鹿っ!!遙をあんなに傷付けて許さないんだからっ!!あんなの私の幸せなんかじゃないよっ!!私の幸せは、幸村と祝言を挙げる事だけなんだからっ!!うわぁあああん!!」
姫は怒鳴ったと思ったら、大声を上げながら、泣き始めた。
慌てて真田幸村は、何とか身体を起こし、姫を抱き締めた。
「姫様、泣かないで下され。しかし、祝言は…」
真田幸村が、そう言いよどむと、姫は真田幸村の顔を平手打ちした。
「私、全部聞いたんだから!幸村が遙にした事も、遙がすっごく傷付いて死のうとした事も!!私だってあんなことされたら死にたいよっ!!死んだ方がマシだよっ!それに、遙と政宗様がどんなに幸せな恋をしてたのかも聞いたんだからっ!別れがあったのに、あんなに愛し合ってて、私感動したんだからっ!!」
真田幸村は、血相を変えて俯いた。そして、その目が驚愕に見開かれた。
「姫様…。姫様!?この、御手の痕は…?」
「私、疱瘡に罹ったの。予防接種から逃げ回ってたから…。遙があんなに私を脅したのは私に予防接種をするためだったの。でも、間に合わなくてっ!それでも、遙は、政宗様の協力で、特効薬を作って治してくれた…。ぐすっ…遙は、私の命の恩人だよっ!!」
「何と…!!」
真田幸村は更に血相を変えると、俺達の前に駆け寄り、そして土下座をした。
「遙殿の事を誤解して、姫様のおっしゃる通り、死ぬよりも辛い、あのような狼藉を働いた事、詫びても詫び切れませぬ…!!それにも関わらず、姫様の病を救って下さり、誠、御礼の言葉もございませぬ!!政宗殿と遙殿の絆がここまで深いとは、考えにも及ばず、浅はかでござった!!遙殿は、出会った頃から何も変わらぬ、純粋なおなごだと思い知らされ申した!!この大罪への報いは、この真田幸村が腹を斬る事でしか…」
すると、遙は俺の腕の中から抜け出し、真田幸村の顔を平手打ちした。
「命は大切にしなさいっ!!私達に報いる方法はたった一つ!姫様と祝言を挙げて幸せになる事なんだからっ!!」
「しかし、お館様が…」
俺は、遙の言動が愛しくてたまらなくて、思わず笑みを浮かべた。
ああ、本当に遙らしい言葉だ。
「Hey, 真田幸村、男付きの女を俺の嫁にだなんて、俺は、御免だぜ。俺の女は遙だけでいい。いや、遙でなきゃならねぇ。てめぇ、根性があるなら、信玄の背を超えてみせやがれっ!!」
「政宗様っ!!でも、それじゃあ、幸村が父上に切腹させられちゃう!!」
涙目で叫んだ姫の肩をぽんぽんと小十郎が叩いて宥め、小十郎は真田幸村の前に立った。
「甲州法度次第を逆手に取れ。当主も裁判を避けられねぇってやつだ。根回しは伊達がしてやる。信玄を訴えて、その拳で殴って来い!」
「片倉様…!」
「片倉小十郎…。そなた、甲州法度次第を…」
「ああ、当然知ってるぜ?だから、根回しは伊達に任せろ」
「そうだ、真田幸村。姫を貰い受けたかったら、戦って来い!!」
すると、真田幸村は、完全に元の瞳に戻り、目を輝かせて、姫の手を取り、信玄の部屋へと走り出して行った。
俺達も、その後を追った。
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