「お館様ぁああああ!!!!」
お館様のお部屋の前を通り過ぎる勢いで、走って行くと、姫様もそれに続き、そしてお館様の前で膝を着いて頭を垂れた。
その時、政宗殿達も息を切らせながら、走って来て、廊下の外から真田幸村と姫様を見守った。
お館様は、厳しい目付きで、真田幸村を見つめた。
真田幸村は、負けず劣らず、厳しい目付きで、言い放った。
「お館様っ!!この真田幸村、姫様を貰い受けとう存じまするっ!!政宗殿からは許可を既に得てございまするっ!!」
「ふむ……ようやく来たか、幸村よ!」
お館様は、そのまま厳しい顔付きで真田幸村を見据えた。
「お館様がお許しにならねば、甲州法度次第に則り、お館様を訴えるのも、辞さない構えでございまするっ!!」
すると、お館様はニヤリと笑って立ち上がった。
「幸村ぁああああ!!!!」
そう叫ぶと、真田幸村の頬を、お館様は拳で殴った。
真田幸村は、吹っ飛び、しかしすぐに立ち上がると、言い放った。
「この真田幸村を、いわれもなく成敗なさった事も、訴えまするっ!!」
「真田幸村への制裁は俺達と姫が加えて和解した。証人は、俺がなってやるぜ、真田幸村。これは喧嘩じゃねぇ。喧嘩両成敗は、無効だ」
「この小十郎も、しかと見届けました」
「大将、俺もね」
俺達が口々に言うと、お館様は人好きのする笑みを浮かべた。
「ならば、喧嘩ではなくて、試合よっ!!幸村、姫を貰い受けたくば、この武田信玄を超えてみせよっ!!」
「望む所でござるっ!」
「幸村よ、武田道場へ移動じゃっ!!」
「はっ!!」
武田信玄は、庭に降りて駆け出して行った。
その後を真田幸村も、猛烈な勢いで追いかけ、俺達も後を追った。
すぐに辿り着いた武田道場は広々としていて、道場の真ん中には、試合用の大きな升が設けられてる。
「わぁ!リングだ!!」
美紀は、目を輝かせてそう言った。
「リング?」
「うん!格闘技をする場所の事だよ!」
「へぇー、リングって言うんだ!」
美紀は、お館様と幸村の所へと駆け寄った。
「審判は私にやらせて下さい!」
美紀がそう言うと、お館様は目を丸くした。
「お主は…?」
「遙と同じ医者で、藤原美紀と申します。遙とは長いこと親友です。格闘技は大好きなので、是非審判は、私にやらせて下さい!」
「そうであったか!遙の病も姫の病も治したのは、お主であったか!礼を言うぞ!」
美紀はぶんぶんと首を横に振った。
「姫様の疱瘡を治したのは遙です。それより、試合の規定を申し上げてよろしいですか?」
「うむ。お主の考える勝敗の決め手について述べるが良い!」
「はい!では、この升の上で倒れた後、3秒…つまりこの速さで」
美紀は、3回、リングの上を叩いた。
「3回分の間に立ちあがれなかったら負けです。格闘の種類は問いません。ただし、道具の使用や金的を攻撃するのは、規則違反です」
お館様は、朗らかに笑って頷いた。
「よい考えじゃ。お主に従おう」
「分かり申した!!」
「それでは、始まりは、遙が鳴らす、鐘の音が合図です。遙、プレゼンの終わりの鐘、用意して!」
「了解!」
遙は、バッグの中から鐘を取り出した。
「では、しばらくお待ちを!政宗達は、遙が危なくない距離まで下がって!」
「Okay!」
政宗殿達が下がると、美紀は俺の袖をくいくいと引っ張った。
「ねぇ、耳貸して?」
「あ、うん」
俺が屈むと、美紀は、内緒話を始めた。
「姫様と幸村の合わせ技で、お館様を倒せる技ってある?」
「うーん、あったかなぁ…。あ!あれだ!あるある!」
「じゃあ、姫様に伝えて。最後、お館様がふらふらになった時に、佐助が合図するからその技をしかけるようにって」
「オッケー!流石、美紀!君って頼れるねー。そんな所も好きだよ?」
そう囁くと、美紀はほんのりと頬を染めた。
あれから、姫様の治療の後に、また二度も俺の部屋で抱いたけど、まだ足りない。
既に、遙には抱いた事のない、安らぎに満ちた気持ちで胸がいっぱいに満たされている。
これが本当の愛なのかまだ分からないけれど、美紀が大切でたまらない。
可愛くてたまらない。
出来れば、この手でずっと守って、離したくない。
なのに、俺が業から解き放たれない限り、本当に幸せには出来ない。
でも、この試合で何かが変わる予感がしていた。
もしかしたら、俺は今、生まれて初めての純愛をしているのかも知れない。
俺のずっと憧れだった純愛を…。
美紀の手をギュッと握ってから、俺は、姫様を呼んだ。
姫様は、すぐに俺達の所へ駆け寄って来た。
「姫様、姫様。あのね、旦那との例の技、俺が合図したら、お館様にかけてくれる?」
「例の…!あっ!父上を倒した、あれ?」
「しーっ!声が大きいよ。いい?俺が姫様って叫ぶのが合図ね?」
「佐助、分かった、ありがとう!」
姫様は、微笑むと、遙達の下へと駆け寄って行った。
俺達も足早に遙達の下へと向かった。
「遙、お館様のテーマは、ロッキーのテーマにしよう。お館様は、赤コーナーね。幸村は、猪木のテーマで、青コーナーね。真田ボンバーイエーだよ?」
美紀がそう言うと、遙は堪えきれないように笑い出した。
「美紀、ロッキーはボクシング!それに、ボンバーイエー、やるの?」
「何、そのボンバーイエーって?」
俺が首を傾げると、美紀は嬉しそうに目を輝かせて言った。
「応援の事だよ!幸村を応援するの。リングに上がるまでやってね?真田!ボンバーイエー!」
「幸村の応援!?それなら、私、頑張る!」
「姫様、サンキュ!ありがとね!それから、幸村が勝ったら、1、2、3、ダーっ!って叫んでくれる?」
「もちろん!」
「じゃあ、遙、iPodよろしく!」
「はいはい。美紀、楽しそうだねー。ふふっ」
遙は、笑いながら、iPodとスピーカーを用意した。
美紀も楽しそうに笑って、手をひらひらと振ってリングへと駆け出した。
「では、お館様、私の合図と共に、リング…升へと上がりましょう」
「うむ」
「幸村も待っててね」
「分かり申した!!」
美紀が遙に合図をすると、テンションが上がるような曲が鳴り始めた。
ロッキーのテーマだっけ?
「まずは、赤コーナー!武田信玄!!」
美紀は、お館様を伴って、リング中央へと進んで行った。
遙が拍手をすると、姫様も拍手を始め、伊達主従は苦笑いをしていた。
お館様は、リング中央で、拳を振り上げ雄叫びを上げた。
次に、美紀は真田幸村に駆け寄り、遙は音楽を変えた。
「次は、青コーナー、真田幸村!!」
その瞬間、姫様と遙は同時に手を叩きながら叫んだ。
「真田!ボンバーイエー!真田!ボンバーイエー!」
その、ボンバーイエー!に俺も加わると、伊達主従は、堪えきれないように笑い出した。
そして、政宗殿は、遙を引き寄せ、唇にキスをした。
「遙、お前は、やるな。笑えるし、妬けて来る」
政宗殿は、笑いながら、何度かキスを繰り返した。
ああ、俺、遙のこの姿を見ても、もう胸が痛くならない。
俺、本当に遙への思いを封印出来たんだ…。
むしろ、嬉々として真田幸村を誘導する、美紀の方が可愛くて仕方なかった。
真田幸村は、リングの中央へ行くと、拳を振り上げた。
「絶対に、姫様を貰い受けて見せるっ!!」
「真田!ボンバーイエー!幸村、頑張って!」
姫様は、声の限りに叫んだ。
真田幸村もお館様も、ニヤリと笑って、そして向き合った。
「両者、向き合いました!遙!鐘を鳴らして!」
遙が鐘をチーンと鳴らすと、美紀は「Fight!」と叫び、後ろに飛びすさった。
お館様と真田幸村は、それを聞いて、すぐに殴り合いを始めた。
美紀は、駆け足で戻って来ると、俺の隣りに座った。
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