デビアスは、世界で一番大きなダイヤのカットをした、世界有数のダイヤモンド専門店だとネットに書いてあった。
ダイヤモンドの鉱山を所有しているブランド店は少ない。
ティファニーもデビアスも鉱山を所有している。
俺は興味を惹かれて店の中に入った。
「いらっしゃいませ。何かお探しのお品物があれば、お申し付け下さい」
俺は、結婚指輪の袋をぶら下げている。
明日の祝言の指輪だ。
でも、美紀と眺めたあの雑誌を忘れられない。
本当は、遙にプロポーズをしたかった。
遙を驚かせて、その後に嬉し涙を流す遙を抱き締めたかった。
でも、きっと遙は拒むから…。
それでも、俺は、いつかプロポーズをしたかった。
生きる世界が違うのは分かっている。
でも、もし、遙と再び出会えるのなら、今度こそプロポーズをして、遙を世界一幸せな花嫁にしたかった。
「エンゲージリングを探している」
「かしこまりました。それでは、ブライダルコーナーへご案内致します」
案内されたブライダルコーナーでは、俺が夢見ていた、大粒のダイヤモンドの指輪が並んでいた。
どれも、きらきらと煌めいていて、遙の細い指を想像して、どれも似合いそうで、何で俺は遙にプロポーズ出来ないんだと、また俺達の運命を呪った。
それでも、遙に贈りたくてたまらない。
俺は、ショーケースを順に一つ一つ検分をするように、ゆっくりと見て回った。
その中に、細いリングに小さい煌びやかなダイヤモンドが一周散りばめられたリングを見つけて俺は息を呑んだ。
小さなダイヤモンドなのに、どの角度から見ても、眩く煌めいている。
「これを見せてくれ」
「かしこまりました。エターニティリングですね」
「エターニティ…?」
「ええ、ダイヤが一周しているリングの事をエターニティリングと申します。サイズのお直しが利くのはハーフエターニティでございます」
エターニティとは、永遠という意味だ。
俺達の愛は、永遠だ。
それを半分にするなんて、残酷だ。
俺と遙の別れを象徴するような、ハーフエターニティは、気が進まなかった。
俺達は、永遠に互いを想い続けるのだから…。
「いや、エターニティリングにする。サイズは9号だ」
「そうですね。お子様がお生まれになって、サイズが変わっても、小指に嵌められますから、よろしいかと存じます。結婚10年目に、カラーダイヤをお求めになる方も多いんですよ。ブルーダイヤやピンクダイヤも人気でございます」
遙の顔を思い浮かべて、儚げな遙にはブルーダイヤが似合うような気がした。
ブルーは、俺の象徴の色でもある。
10年待てば、俺は遙とまた出会えるんだろうか…。
いや、そんな事はきっとない。
その一方で、俺は、遙との再会を夢見ていた。
いつか、また出会えた時に、今度こそ遙にプロポーズしたかった。
伊達軍の野郎共と小十郎の前で、永遠の愛の象徴の、エターニティリングを贈りたかった。
「そうだな…。今のうちにブルーダイヤも買っておく。サイズは11号で」
「かしこまりました」
店員は、ショーケースからエターニティリングを取り出し、俺に手渡した。
そっと、その指輪をつまんで、ぐるりと回転させると、どの角度からも息を呑むほど、きらきらと煌めいて、その美しさに俺は見惚れた。
思わず感嘆の吐息が漏れた。
大粒のダイヤも良かったけれど、この指輪を嵌めた遙の指を想像して、切なさと同時に、遙の華奢な指に似つかわしいと思った。
いつか、また出会えるんだろうか…。
でも、出会えなくてもいい。
遙への想いを永遠にするために、帰る時に持って帰って、叶わぬプロポーズを心に描いて、遙を忘れないという決意の象徴にしても構わない。
「かしこまりました。白いダイヤとブルーダイヤでございますね。在庫はございます。裏に文字を刻みますか?」
「いや、このままでいい。指輪の名前だけで十分だ」
「そうですね。それではお包み致しますので、そちらのソファでお待ちください」
俺は、その間も、店内を見て回っていた。
すると、支配人の男が現れ、店の奥のショーケースへと案内した。
そこには、豪奢なダイヤのネックレスが飾ってあった。
どれも1千万円以上で、俺の手には届かない。
それに、遙にはもう少し細く、それでもきらきらと煌めくネックレスの方が似合いそうだった。
「すごいダイヤだな。でも、俺の婚約者は、もっと華奢な方が似合う。ダイヤが一周しているネックレスはないか?」
「それでは、お持ち致しますので、しばらくお待ちください」
間もなく包装されたリングが届けられると同時にネックレスが届けられた。
程よい大きさのダイヤが一周したネックレスで、それよりも二回りほど大きなダイヤが一粒真ん中に付いていた。
真っ白なウェディングドレスに身を包んだ遙の姿を思い浮かべる。
これを身に着けた遙はどんなに綺麗だろう…。
それは叶わぬ願いだけれど、これを見る度に、遙のドレス姿が鮮明に思い浮かぶような気がした。
「これ、いいな…。これも買って帰る」
「かしこまりました。では、お包み致しますので、少々お待ちください」
遙に渡せないのが悔しくてたまらない。
嬉し涙を流す遙を抱き締めたくて仕方がない。
それでも、いつかまた出会えるのなら…。
いや、永遠に別れてしまっても、遙をずっと想っていられる。
遙の手に渡る事は、きっともうないだろうけれど、いつかは姫を娶らなくてはならないだろうけれど、この想いは永遠にしたかった。
俺は、ネックレスと二つの指輪を受け取ると、指輪と共に部屋に持ち帰り、ティファニーの袋と共に遙の目が届かない、鎧の中に隠した。
だから、今日という日が訪れるなんて思ってもみなかった。
また出会えるなんて思ってもみなかった。
やっと、やっと、遙にプロポーズが出来る。
どんなにこの日を待ち焦がれただろう。
縁談を断り続けながら、何度この指輪を眺めて涙した事だろう。
本当は、江戸でプロポーズをするつもりだったが、武田の姫となった今、武田の家臣達の前でプロポーズしたかった。
遙の涙を見て、俺の目にも薄っすらと涙が浮かんだ。
「ずっとずっとお前にプロポーズしたかった。それが、俺の夢だった。お前に贈りたくてたまらなくて、叶わぬ願いだと分かっていたのに、ずっと大切にしていた。お前に渡せる日が来るなんて…。遙、愛してる。これからも、永遠に…。俺だけの姫だ…。それは7年前から変わらねぇ」
俺は、遙を抱き締めて、そして身体を離して、じっと嬉し涙を流す愛しい遙の綺麗な泣き顔を見つめた。
ずっとずっと、夢に描いていた、その愛しい顔を…。
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