そこにはキラキラと輝くダイヤモンドが一連に散りばめられた指輪が入っていた。
結婚指輪よりも眩い、あれが永遠の輝き、ダイヤモンド…。
「エターニティーリング…」
「そうだ、遙。デビアスのエターニティーリングだ。俺は、再会をずっと夢見てた。ずっとプロポーズをしたかった。この愛はeternity…永遠だ。もう、お前を片時も離さねぇ」
「政宗様っ!」
「筆頭…!!ぐすっ…おめでとうございます!!遙様も…!!」
政宗殿は、くすりと笑うと、遙の手を取り、遙の左手の指に指輪を嵌めながら、歌うようにこう言った。
「お前に昔、誓った言葉がやっと今日実を結んだ。あの時、互いの胸の高鳴りを分かち合ったから…。お前じゃないとダメなんだ。俺は、やっとお前を見つけた。これが終わりじゃねぇ。俺達の人生は今日からやっと始まるんだ…」
涙をぽろぽろと流す遙の涙を、政宗殿は、そっと拭った。
武田の家臣一同も含めて、伊達軍の兵士達も遙の涙にもらい泣きをしていた。
「政宗様っ…クッ…」
「遙様…。筆頭…ぐすっ…」
「姫様…。政宗様っ…」
政宗殿は、別の箱を懐から取り出した。
その中には、眩いばかりのダイヤモンドが連なった首飾りが入っていた。
それを遙の首に着けながら、政宗殿は、また歌うように言葉を続けた。
「愛だけが永遠に続くんだ。愛だけが、これからの人生を紡いで行くんだ。愛だけが、お前の心の傷を癒して行くんだ。愛だけが…愛だけが…」
そして、政宗殿は、遙を立ち上がらせて、抱き締めて、誓うように、優しく長いキスをした。
「政宗様っ…この小十郎、やっと政宗様のお幸せそうな顔を見られて本望でございますっ…!クッ…!」
右目の旦那は、涙をぽろぽろと流し、漢泣きに泣いた。
「小十郎様っ!筆頭っ!!」
「何とキザな、それでいて心に響く誓いの言葉よ…!流石は伊達男じゃ…」
お館様も目に涙を浮かべて泣いていた。
俺も何だか泣けて来て、美紀の手を握った。
美紀もぽろぽろと涙を流していた。
「遙、本当に良かった…!!政宗にプロポーズされて、本当に良かった…!!政宗ったら、あんな物まで用意してたなんて…!!」
そして、政宗殿は唇を離し、遙を抱き締めて、そっと遙をあやすように揺らしながら、歌い出した。
Guess what baby
The things we say came true today
'Cause we listened to our hearts
No one but you will ever do
Our search is through
But our journey's just beginning
Nothing but love can last forever
Nothing but love will start
To mend the place inside your heart
That needed healing
Nothing but love can last forever
Nothing but love will start
To make your head spin round and round
You know you're feeling love
Nothing but love
Nothing but love
さっきのプロポーズと、この歌の意味は同じだ…!
遙は、感極まって、嗚咽を漏らしながら泣いていた。
「こんなタイミングで、私の一番好きな歌でプロポーズするなんてズルいっ。こんなサプライズがあるなんて思ってもみなかった…ひっく…私も、政宗にプロポーズされたかったよっ。でも、別れが来るのが分かってたから、きっと私は逃げてた。こんな日が来るなんて、思ってもみなかったよ…ぐすっ…。政宗、愛してる」
美紀も意味が完全に分かっているのか、俺の手を握り返して、嗚咽を漏らしながら泣いていた。
俺も何だかものすごく感動して、溢れ出した涙が止まらなかった。
「ぐすっ…筆頭、最っ高にcoolですっ!!」
「遙様もやっとお幸せになって、嬉しいッス!!ぐすっ…」
歌い終わると、政宗殿も涙を流して、もう一度、遙に深いキスをした。
その瞬間、割れんばかりの拍手が広間に響き渡った。
その拍手は、長いこと続き、政宗殿が唇を離してもう一度キツく遙を抱き締めて、座るまで続いた。
お館様は、涙を拭って人好きのする笑みを浮かべた。
「最後に、もう一つだけ、申しつけたき儀がある」
家臣一同は、虚を突かれ、一体なんだろうとざわめき始めた。
「静まれい!!佐助の事じゃ」
俺は、驚いた。
こんなの打ち合わせで聞いてない!!
美紀も隣りで驚いている。
「佐助は、遙と共に、この甲斐の疱瘡を根絶した。その功労を祝して、佐助の願いを聞き入れようぞ。佐助よ、このわしに申したき儀があれば、申すがよい」
俺は、驚きのあまり、声を失った。
お館様は、力強く頷いた。
俺は…この業から解き放たれたい。
でも、俺は、多くを知り過ぎているから、忍頭を辞めたら、自害を命じられる。
美紀を、幸せに出来ない…。
でも、どうせ最期なら、美紀に、想いを伝えてから、死にたかった。
「お館様…俺は…忍頭としての業から解き放たれたいです…」
俺は、絞り出すような声でそう告げた。
ああ、これで、最期だ。
俺は、自害を命じられる。
家臣一同もどよめき、自害を申し出るとは、という声が聞こえて来た。
「俺は、多くを知り過ぎておりますから、自害を免れる事が出来ないのも分かっております」
「佐助!?」
隣りに座っている美紀が、驚いたような声を上げた。
「嘘でしょ、佐助?ねぇっ!嘘って言って!!」
「嘘じゃないよ、美紀。ゴメンね…」
そう言うと、美紀は泣き崩れた。
俺は、美紀を抱き締めて、その顔を上げさせた。
「守ってあげるって約束、守ってあげられなくて、ゴメン。でも、俺は、君への純愛の方を取りたいんだ。業から解き放たれない限り、君を本当の意味で愛せない。だから、最期だから聞いて。俺、君に救われた。君を好きになった。大好きだよ、美紀。俺は、本当の意味で君を愛したかったよ…。いつか君も歌ってた。本当の愛は、愛のために自害する事だって」
「そんなの、最期に聞いても嬉しくなんかないよっ!!佐助に生きていて欲しいよっ!!佐助っ!!」
美紀は俺に縋り付き、嗚咽を漏らしながら泣いた。
遙も驚いたような表情を浮かべて、涙を流し始めた。
「佐助、そんな…。生きて、美紀を幸せにして…?」
「無理なんだよ、遙…。ゴメン…」
「佐助…」
遙は顔を覆って泣き崩れた。
「私は佐助に命を救われたのに、そんな…」
家臣一同は、言葉を失った。
「よう、分かった、佐助よ。お主をその業から解き放とう」
「お館様っ!!」
美紀と遙は同時に叫んだ。
しかし、お館様は、優しい目をして笑った。
「確かにお主は多くを知り過ぎている。しかしっ!お主が政宗公に仕えるなら、政宗公に探られても痛い腹など、端からないわっ!それに、我が娘、遙の命を救い、政宗公に再び引き合わせた功労もある。我が娘の命の恩人の命を取る訳にはいかぬ。佐助は、その業から解き放たれ、政宗公にお仕えせよ。遙より授けられたその医術で、長いこと遙を匿ってくれておった美紀と共に、八王子と吉原の人々を救って参れ!」
お館様の意外で、そして、温かい言葉で、俺の穢れが全身から完全に祓われて行く感覚がして、俺の目から涙が溢れ出した。
「お館…様っ!!ありがとう…ございますっ!!ううっ、本当にありがとうございますっ!」
頭を下げて、涙を流していると、美紀が俺に縋り付き、声を上げて泣いた。
その時、廊下に焔の気配を感じて振り返ると、焔は口元をふっと緩めて笑っていた。
これは、焔の策だったんだ…。
「忍頭はそのまま続けるが良い。忍達も、佐助について行きたい者だけついて行くが良い」
すると、屋根裏や庭から、俺の部下達の声が聞こえた。
「俺達、私達は、みな、佐助様にこれからも従います。私達も遙様をお慕いしておりますから、遙様のご友人にも従います。八王子と吉原の件につきましては、佐助様と私達にお任せ下さい」
「みんな…ありがとう…。本当に、ありがとう…」
俺が礼を言うと、啜り泣きが聞こえて来た。
「甲斐の忍は、今後は霧隠才蔵に任せる。佐助、お主が望むなら、政宗公にお仕えしながら、また甲斐を訪れるが良い。いつでも歓迎致そう」
「はい、お館様…!」
「佐助よ、他に申したき儀はないのか?」
お館様は、少し厳しい目付きになった。
俺も…俺も、美紀に伝えなきゃ!!
「はい、ございます。美紀に伝えたい事が…」
「うむ、申してみよ」
俺は、立ち上がり、美紀の手を取った。
そして、政宗殿と同じように、手の甲にキスをした。
「これからも、君を守らせて。愛をよく知らない俺だけど、ありったけの愛で君の全てを包み込んであげたい。もう、二度と君を悲しませたりしないから、俺と祝言を挙げてくれる?」
「佐助っ!!」
美紀は立ち上がり、俺の首に腕を回して抱きつき、そして泣いた。
再び重ねた唇は、あの時と同じようで、意味が違う涙のキスの味がした。
「あいつら、いつの間に?」
政宗殿が、意外そうに呟いた。
「あれ?私は気付いてたよ?伊達に長いこと美紀の親友じゃないし、佐助の様子も変わってたもの」
「また隠し事していやがって、お前は…」
政宗殿は、また遙にキスをした。
広間と庭からは、割れんばかりの拍手が沸き起こり、庭を見遣ると、俺達を祝福するような、美紀の笑顔に似た眩しい太陽と、俺達の涙のような雨がぱらぱらと降っていた。
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