残り香 -1-

昼近くに起きて、シャワーを浴びるとジャスミンのソリッドパフュームを手首と耳朶に付けるのが日課だ。
ジャスミンの香りを身に纏うと心が安らぐ。
まだほかほかと湯気の立つ身体に柔らかなワンピースを着てリビングに行くと、政宗が待ち焦がれたように私を抱き締めた。

「お前、すげぇいい香りがする」

毎回そう言いながら私の首筋に顔を埋める政宗が愛しい。

「ジャスミンだったよな」
「うん、そう。茉莉花とも言うよ」
「茉莉花か。名前しか聞いた事ねぇ」

ジャスミンの事はよく知らない。
なかなか純粋にジャスミンの香りのする香料も売ってなくて、このソリッドパフュームを見付けたのも偶然だった。

「香料さえ分かれば何とかなるか。あまり考えたくねぇが、俺一人で元の世界に戻った時、この香りが傍にあったらいつでも鮮明にお前を思い出せるような気がする」

ジャスミンのエッセンシャルオイルは高価だ。
でも政宗なら容易く手に入れてしまうのかも知れない。
それよりはジャスミン茶の方が安いし、リラックス出来る。
私は以前とっておきのジャスミン茶を買っていた事を思い出した。

「そんなにジャスミンが好きならジャスミン茶飲んでみる?」
「Really!?茶まであるのか!I wanna taste it!お前と同じ香りの茶だな!」

早く早くとせがむ政宗が可愛いと思いながら、私はお湯を沸かした。


ガラスのティーポットに毬状の茶葉を入れて、お湯を入れたポットを持って私達は奥の部屋に行った。
カーテン越しに、午後の柔らかな日差しが部屋に差し込んでいた。
その床にガラスのティーポットとカップを置く。

「この茶、変わってるな。毬みてぇだ」
「うん。一人だともったいないから特別な時しか飲まないの。お湯を入れるから見てて」

お湯を注ぐと、茶葉がふっくらと膨らみ、そして茶葉が段々と花が咲き乱れるように花開いていく。
政宗は感嘆の声を上げてティーポットに見とれていた。

「すげぇ、まるで花だ。お前と似た香りがする」
「綺麗だよね。私も一人で飲む事もあるけど、やっぱり心を許した誰かとこうして見るのが一番好き」

十分に茶葉が開くと、それぞれのカップにお茶を注いで香りを楽しみながら飲む。
何気ない穏やかな日常。
それがこの上ない幸せだった。
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