黒脛巾組の頭領が俺の元を訪れた。
「政宗様に申し上げます。甲斐の探索の件ですが、猿飛佐助率いる忍隊の妨害にあっております」
「Ah〜?そんなもん、蹴散らせ。他に、変わった事は?」
「昨日、真田幸村が女を連れていたそうにございます」
真田が、女を?
珍しい事もあるものだ。
あの朴念仁が。
でも、そんな事はどうでもいい。
遙の事しか俺には興味がない。
「それで、遙という女の事は?」
「いまだ、はっきりとは分かりません。それを確かめに行った部下が一人、猿飛佐助に殺されております。聞く所によると、真田幸村といた女が遙と呼ばれていたそうにございます。未確認情報にございますれば、はっきりとした事はまだ」
「何だと!?」
遙が…。
遙が真田幸村と一緒にいるだと…!?
遙、何故、真田なんかと一緒にいるんだ!?
何故、俺の所に来ない!?
「分かった。引き続き、探索を続けろ」
「恐れながら、政宗様。甲斐にて疱瘡の流行の兆しがございます。街道から城下町の間の集落で起こっております。このまま探索を続ければ、味方に被害が出ます」
「何っ!?疱瘡だと!?」
母上の冷たい表情が脳裏を過ぎった。
遙のお陰で随分救われたとはいえ、俺の心に深い傷を残している事には変わりがない。
疱瘡は、いったん流行すればあっという間に広まってしまう。
黒脛巾組が甲斐から持ち帰らないと誰が言い切れる?
疱瘡が広まれば、俺のような子供がたくさん出来てしまう。
そんな事は許せない。
でも、遙は…?
遙の事をすぐにでも探させたい。
それでも、俺は城主としての選択をするしかなかった。
「分かった。今までに疱瘡に罹った事のある奴等だけで探索隊を再編成しろ。規模は小さくてもいいから、引き続き任務に当たれ」
「かしこまりました。では、早速そのように致します。御前を失礼致します」
俺は火も点けずに煙管を咥えた。
甲斐の奴等は何かを隠している。
それが遙のような気がしてならないが、向こうも尻尾を出さない。
何とかして人を甲斐に送れないか。
俺は、腕利きの医者を送るという手紙を信玄に書く事にした。
ついでに、幸村といた女の事についても書く事にした。
数日後、信玄から返事が届いた。
忍の妙薬を使うから医者は必要ないという返事と、婚儀を催促する内容が書かれていた。
幸村の女の事には触れられていなかった。
それが、やはり何かを隠しているような気がしてならない。
猿飛佐助が俺の部下を殺した事も気になる。
警戒してるだけなら追い返すくらいが関の山だ。
今までにこんな事はなかった。
いくら考えても、結局、その女が遙ではないかという結論に至る。
でも、確たる証拠はどこにもない。
黒脛巾組の、報告を待つしかない。
俺は歯痒い思いでいっぱいだった。
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