街道付近のいくつかの集落で疱瘡が流行しているとの情報を手に入れた。
そこには、数日前には真田幸村と共に女の医者が現れたらしいが、その後、ぱったりと現れなくなったらしい。
流石に甲斐の信玄公の屋敷は警備が厳しく、全ての部屋を探る事までは出来ない。
武田への黒脛組の偵察は、あくまで戦が起こらないか監視するだけに止まるという信玄との約束で、それ以上の事は干渉出来ない事になっている。
武田の屋敷にいるとしても、どこの部屋にいるかまでは分からない。
つまり、遙の情報は、前田慶次から寄せられたのが最後で、それ以上何も分からないままだ。
もう、甲斐を離れたのか。
いや、もしその女の医者が遙なら、病人を放って何処かに行くとも思えなかった。
まさかとは思うが…。
遙は疱瘡の病に倒れてしまったのか…!?
そう思うと今すぐにでも甲斐に駆け付けたくなる。
何処にいるかさえ分かれば、俺は遙を攫って帰るつもりだった。
いつか遙の友人が話していた。
遙の時代の医学ならば疱瘡の患者を救えると。
でも、ここは遙が生きていた時代とは違う。
疱瘡は死の病だ。
遙の美しい顔が病に侵されて行くと思うと気が狂いそうだ。
それでも、俺は遙がどんな姿になっても愛する気持ちは止められないだろう。
「どこにいるんだ、遙…!!」
天守閣から、遠い甲斐の方角を祈るような気持ちで見つめる。
斥候を率いて俺自身が甲斐に出向くか…。
そう思って伝令を飛ばそうとした時だった。
「政宗様、こちらにおられましたか」
背後から小十郎の声がして、俺は振り返った。
小十郎は少し目を見開き、そしてやれやれと溜息を吐いた。
「甲斐に行かれるおつもりですね。しかしなりません」
「何故だ!?遙はきっと甲斐にいる!!」
「政宗様!ご自分のお立場をお忘れですか!?貴方は天下人なのですよ!?今までのように軽々しくお出かけになってはなりません!政宗様を失えば、この国は再び乱れます!それに甲斐に行きながら信玄公の姫とお会いにならないというのであれば、伊達と武田の間に亀裂が生じます!また戦乱の世に戻ってもよろしいのですか!?せめて黒脛巾組が何か情報を掴むまで、今しばらくお待ち下さい!」
小十郎が厳しい口調で俺を叱咤した。
小十郎の言う事はいちいち正論で、俺は何も言い返す事が出来なかった。
大国武田との戦ともなれば、もし、遙が甲斐にいるなら戦に巻き込まれる。
戦に巻き込まれた女の末路は哀れ極まりない。
遙を絶対にそんな目に遭わせる訳にはいかなかった。
もし、情報通り、真田幸村と遙が一緒にいるならそんな危険はないだろうが…。
そこまで思い至って、目の前が開けた気持ちになった。
「小十郎、真田幸村の身辺を探らせろ。遙が一緒にいる可能性が高い」
「すでに探らせております。しかし、猿飛佐助が張り付いていて近付く事が出来ないそうにございます」
「あいつもそばにいるのか!?」
武田の主力の二人が張り付いているとすると、余程の重要人物に違いない。
それが遙かどうか分からないが、何か引っかかる。
「俺が甲斐に行くにはどうすればいい?」
「政宗様ご自身では甲斐に行っても身動きが取れないでしょう。まずは信玄公にお会いする必要がございます。あちらが隠し立てする以上、政宗様がおいでになっても無駄足かと。ここは今しばらく黒脛巾組に任せるしかありません」
「Shit!!面倒くせぇ。愛する女一人探しに行く事すら出来ねぇなんて情けねぇ」
誰か送り込めないか?
前田慶次を送り込む事も考えたが、猿飛佐助がもうすでに何か勘付いていそうだった。
つまり、手詰まりの状態だ。
俺はロケットを握りしめ、空に浮かぶ月を見上げた。
遙…。
どうか無事でいてくれ…。
俺は、お前が疱瘡にかかっても、愛し続けるから…。
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