ああ青春のラブレター -1-

遙に文は届いただろうか。
どんな気持ちで俺の久々のLove Letterを読んでるんだろう?
猿飛に見張られて、泣きたくても泣けねぇんじゃないだろうか。
かえって、遙には辛いかも知れねぇ。
でも、伝えたかった。
俺の気持ちを。
今も、変わらず、深く、深く、愛していると。
いまだに忘れられなくて、毎日、恋い焦がれていると。
遙を泣かせるのは辛いけど、伝えられずにいられなかった。

でも、泣かせるのは、もうすぐ終わりだ。
必ず攫いに行くから。
待っててくれ、遙…。

俺があえてSTIという言葉を使ったのは、遙へのメッセージだけではない。
恐らく、猿飛佐助が検分するだろうから、あいつの英語力を試すつもりだった。
あいつが、俺ほどの英語力を持っているなら、STIの意味も分かるかも知れない。
まぁ、まず、無理だろう。
問題は、封印された方の表書きの言葉だ。
あれを解読されたら、遙は文を取り上げられてしまう。
それにしたら、武田は全く動いていないから、遙に文は届いたと考えられる。

爺やに会いに行ってから、まだ2日目だが待ち遠しい。
爺やなら首尾よくもう八王子に帰還しているはずだ。
そろそろ、あと4日ほどで前田も江戸に着く。

待ち遠しくて、苛々しながら煙草を燻らせていると、部屋の外から慌ただしい足音と怒号が聞こえて来た。

…誰かが遠くで走ってる?

「廊下で立ち話してんじゃねぇ!!邪魔だ邪魔だ、どきやがれっ!?」
「小十郎様、痛いッス!突き飛ばさなくても…」
「ぁあ!?俺に文句とはいい度胸だっ!!」
「ひぃいい!!」
「てめぇら全員、俺の前を開けろっ!!壁に張り付け!!」
「は、はいいい!!」

小十郎の声が遠くから聞こえたと思ったら、猛スピードで近付いて来る。
それに伴い、バタバタという足音、それも走ってる音が近付き、俺の部屋の前で止まった。

「はぁ、はぁ、ま、政宗様っ!!小十郎でっ!ございますっ!!」

どこから走って来たのかは知らないが、小十郎の息が完全に上がってる。
まさか、厩から全力疾走して来たのか!?
小十郎がこんなに慌てるとはよっぽどの事だ。
悪い知らせか、いい知らせか、少し不安になる。

「ああ、遠くから、よーく聞こえてたぜ、お前の声と、足音。いいから、入れ」
「も、申し訳ございませんっ!!はぁっ、はあっ、し、失礼致しますっ!」

小十郎は、勢い良くスパーンと襖を開けると、勢い良くまたスパーンと襖を閉め、俺の前に大股に歩いて座って、頭を下げると同時に、懐から出した茶色い封筒を俺に差し出した。
いつも憎いくらいに礼儀正しい小十郎が、こんなに急いてるのは、俺に火急の知らせがあるからだ。

「つい1刻ほど前、八王子から知らせが入り、この小十郎が、爺やから直々に預かりました、遙様からのお返事にございます!!急いでおりました故、ご無礼仕りました!!」
「でかしたぞっ!小十郎!!」

俺はそう言うなり、文を引ったくった。
小十郎は、額に汗を浮かべて、荒い呼吸を整えている。

「Hey!!誰か茶を持って来い!!でっかいヤカンでな!!」

声を張り上げると、廊下から、「今すぐ行って来るッス!!」という返事が聞こえた。

「ま、政宗様、この小十郎の事はお気になさらずに…」
「いいから、ここで少し休め。戦略を練らなきゃならねぇなら、またお前を呼びに行くのは面倒だ」
「では、お言葉に甘えまして、はぁ…」

小十郎は、手拭いで汗を拭い始めた。
俺は、茶色い封筒の中から文を出して広げた。

それは、あの世界で、遙が使っていた、レポート用紙だった。
紛れもない、遙の文だ…。

手紙でも、やっとこうして言葉を交わせられるのが嬉しくて堪らなくて、目頭が熱くなる。

立ったまま、大急ぎで書いたんだろう。
いつものブロック体ではなく、筆記体で書かれている。
俺が読む書物も筆記体が多いから別に問題はない。
遙の筆記体って、こんな文字だっただろうか…。
立ったままの殴り書きのせいだろうか…。
記憶がこんなにも風化していて哀しくなる。

俺は、乱れた筆記体の文字をゆっくり読んで行った。

『Dear my sweet mon cheri,』

手紙は、その一文から始まっていた。
俺の名前を敢えて書かない、Darlingという言葉も避けて、代わりにフランス語を使っている。
猿飛佐助を警戒していたのが、ありありと分かる。
でも、それは間違いなく、遙らしい、俺の呼び方だった。
涙で視界が滲み出す。
蘇る、優しい遙の声。

「遙……俺は、お前のモンシェリ、か…。お前こそ、俺だけのマシェリだ…」

また、涙が溢れ出す。
懐かしくて、愛しくて、たまらない。
ずっと、ずっと、探していた。
同じ空の下に存在したかった。
文でもいいから、言葉が欲しかった。

胸の中で、もう一度、俺だけのマシェリ、と呟く。
あの日、遙に送ったカクテルを思い浮かべながら…。
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