ああ青春のラブレター -3-

読み進めていくうちに、政宗様の表情が険しくなっていく。

「何で、ねぇんだ!!」
「何がでございますか?」
「I love you、だ!!何で、愛してるって言ってくれねぇんだ!?」
「そ、そうですね。些か不自然ですね…」

政宗様は、目を光らせて先ほどよりも真剣に、I love youの言葉を探すように、文を読み進めて行く。
視線を辿ると、もう殆ど、文の終わりの方まで読み終わっている。
まさか、遙様は、政宗様に愛してるとのお言葉を書いていないのでは…!?
そう思うと、血の気が引く思いがした。
政宗様は、荒れに荒れに荒れ狂うだろう。

どうか、最後に、書いてありますように!!
そう願わずにはいられなかった。

「ん?これは…」

政宗様が意表を突かれた表情を浮かべた。
じっと文を見つめて、そして、額に手を当ててくつくつと笑い始めた。

「Te quiero. Te amo. Como yo nadie te ha amado. か。ククッ!最高だ、遙っ!!それでこそ俺の女だ!!」
「テキエロ…?」
「後で説明するから黙ってろ」
「は、はぁ…」

政宗様は、今度は顔を顰めてじっと文を見つめながら考えこんでいる。

「イッチ…いや、違うな。英語だと痒いって意味だし綴りが違う。別の国か…。……そうか!分かったぞ!イッヒ・リーベ・ディッヒか!!次は、ジュ…?ああ、これは知ってるぜ、ジュテームだなっ!!お次は…何だ、これは…アルファベットじゃねぇ…。Shit!謎解きかよ!この変てこな記号は何だっ!?ん…?記号…!?はぁ…お前、ハングルまで書くのか!?覚えてねぇけど、あいつが書ける、唯一のハングルは、これしかねぇ!!サランヘヨだっ!!ククッ!クックックッ…!!ははは!!あーッハッハッハッ!!」
「ままま、政宗様!!お気を確かに!!」

まるで、気が触れたように…いや…この方の高笑いは悪役の高笑いにしか聞こえねぇ…!!
こんな政宗様を見られたら、政宗様の沽券に関わる!!
いや、十分悪役顔では、いらっしゃいますが、あまりにお似合い過ぎでございます!

政宗様は、涙を浮かべてまだ高笑いをしている。
それが、段々収まっていくと、今度は、男泣きに泣き始めた。

「くっ…ううっ…ううっ…遙っ!!…お前っ!!…うううっ!!」

一体どうなってやがるんだ!?

「ままま、政宗様!!」
「止めるんじゃねぇ、小十郎っ!!嬉しくてっ、堪らなくてっ、泣かずにいられるかっ!!」
「は、はぁ…」

嗚咽がやっと収まっていって、俺はどっと疲れた。
早く部屋に帰りたい…。

「あいつ、各国語でI love youを書きやがった!猿飛が読めたんだろうな。あいつ、本当はI love youって書きたかったのに、我慢してたな。あいつなりの苦肉の策だ。俺が欲しい。愛してる。あいつほど、俺を愛してる奴はいねぇ、ってな。それがスペイン語で書かれてる。その後は、ドイツ語、フランス語、朝鮮語で、愛してるの嵐だ。泣かずにいられるかっ!」

各国語で、愛してるの嵐…。
日本語でも、英語でも、解読されてしまうような監視の下で、遙様が必死になって、政宗様に伝えたかったお言葉…。
どれか一つでも、届けばいいと思って、思い付く限りの言語を駆使なさったのだろう。
そのいじらしさを思うと、俺ですら泣けて来る。

「遙様っ!!何と健気な!!」

思わず一筋涙を流すと、政宗様も俺の肩に手を置き、また咽び泣いた。

「政宗様っ!まだ文は終わりではございませんっ!!最後まで読んで差し上げて下さいっ!!」
「っ…!!ああ、そうだなっ!!…ううっ!!」

政宗様は、涙を手ぬぐいで拭って、一息吐くと、また文に目を落とした。

「With the bridal vow, か。結婚の誓いと共に…。結びの言葉だな。刻まれてるんだ、指輪の裏に」
「そうですか…素敵な結びのお言葉ですね」
「ああ…」

政宗様は、また幸せそうな、遠い目になった。

やっと、終わった…。
やっと、解放される…。

「ん?何だ?この署名!?読めねぇっ!!」

いや、まだ終わりではないのか!?
あと少しだ、耐えろ、小十郎!!
ええ、耐えてみせますとも!!

「Ah……名前だよな。だから、Harukaを探せばいい訳だ…。ん…?これか?Haruka…。そうだな、この部分は間違いねぇ。だが、他は?如月にしては短いな。何だ、これ、読めねぇ!何だ、これ!!どう見てもOかDじゃねぇか!!いや、待て!!D…っ!?………うううっ!!」
「ままま、政宗様!?」

また政宗様が泣き出した!!
何だって署名なんかで泣かせるんだ、遙様は!!
一体何をお書きになったのでございますか!?

「ううっ…あんまりっ…俺をっ…これ以上、喜ばせんなっ!!涙が、止まんねぇっ!!ううっ…」

また嬉し泣きでございますか!?

「政宗様、さあ、涙を拭って、この小十郎に教えて下さいませ。正直、署名で泣かせる女なんて初耳です!!」
「んなこたぁ、分かってる!!隙をっ、突かれたっ!!ううっ!!」
「……何と書いてあったのでございますか?」

俺は辛抱強く尋ねた。
これで、最後だ。
これを耐えねば、今までの苦労が水泡に帰す。

「伊達…遙って…署名されてるっ…ううっ…」
「だ、伊達でございますか!?」

女が伊達を名乗るなど…。
いや、遙様は、苗字を持っておられた。
女なのに、如月という苗字を…。
まさか…。

「政宗様…小十郎の推測ですが、夫婦になると、女性の苗字が変わるのですか?」

政宗様は、涙を一生懸命拭いながら、こくこくと頷いた。

「伊達、遙って事は、俺と遙が夫婦の証なんだっ…。あいつ、伊達を名乗ってくれてるっ…ううっ…俺達、離れてても夫婦だったんだって思ったらっ、今までっ、姫を娶らなくてっ、本当に良かったってっ…ううっ…遙だけがっ!!俺の妻なんだってっ!!そう思ったら泣けずにいられるかっ!ううっ!!」

今日の政宗様は、本当に泣き上戸で、仕方ねぇなぁ。
でも、お気持ちも分からなくもねぇ。
二度と会えないと思っていた女に操を立て続ける事、7年。
そして、再会した時に、まだ互いに夫婦だと、操を立て続けていたら、俺だって泣けてくるだろう。

「政宗様、本当によく我慢して来られましたね。必ず、遙様をこの城にお迎え致しましょう」
「Thanks, こ、小十郎っ!!」
「では、小十郎は、これにて、失礼致します」

政宗様は、今度は俺を止めなかった。

やっと解放された…。

部屋に帰って、政宗様の事を思い出す。
あんなに泣き上戸な政宗様は、初めてだ。
ずっと心を閉ざした、悲しそうな顔ばかり見ていた。
でも、今日の政宗様の泣き顔ときたら…。
嬉しくて、堪らなくて、泣かずにはいられなくて…。
そんな、政宗様を見られて、この小十郎は、幸せ者にございます!

そんな風に思ったら、何だか、あまりにもめでたくて、何だか泣けて来た。
ぽたり、と落ちた涙が床を濡らす。

「ああ、すっかり、俺も政宗様に当てられちまったな…。今日は、一人で祝い酒でも飲んで、泣くか…」

遙様…。
もうすぐお迎えに参ります。
お辛いでしょうが、どうか耐え抜いて下さいませ…。

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