おしゃべり -2-

「わぁ!このお茶、甘い!!いいお茶だね!!やっぱり玉露はいいなぁ!」

そして、練り切りを少しだけ切って、食べると、何とも言えない幸せな気持ちになる。
上品な甘さで、見た目も綺麗で、一番好きな和菓子だ。

佐助は、少し驚いたような顔をした後、にこにこと笑った。

「そんなに喜んでくれて嬉しいよ!それにしても、玉露の味も分かるって、飲みつけてるんだね、それも、相当」
「ん?うちの実家、玉露切らした事、ないよ?一人暮らしの時は、実家から送って来たのを、とっておきの和菓子を食べる時だけ飲んでたかなぁ」
「ますます本物だ…。それにしても、遙って一人暮らししてたんだ?」
「うん!医学の勉強のため、実家を離れてたの」
「そうなんだ…。寂しくなかった?」
「寂しい時もあったけど、気楽で良かったなぁとも思うよ。女友達にも恵まれたし。佐助って何だかその子に似てるなぁ」
「ええっ!?そりゃないよ〜。俺って女顔?」
「ううん、そうじゃなくて、一緒にいて楽しくて、気楽で、何だか安心する所かな。男の人なのに、全然男の人と話してる感じがしなくて、仲良しのお友達とおしゃべりしてるみたいな感じがする。すっごく気楽で、今、すっごく楽しい!!」

そういうと、佐助は、ものすごく嬉しそうな笑顔になった。

「そんな風に言ってくれる女の子、初めて。すっごく嬉しい!!」
「そうなの?でも、佐助ならモテそう…」
「いや、そういう男女関係の面倒なのは御免だな。そういう目で見ない女の子、いないからさ。何か、俺も気楽で楽しくて、安らぐなー。あー、本当、こんなに寛ぐの、初めてかも知れない。お菓子も美味しいし、お茶も美味しいし、それが接待じゃないから、尚、美味しい」
「佐助って苦労人なんだね…」
「本当だよ!旦那は人使い荒いし。まぁ、平和になって、仕事も楽になったから、マシだけどね!」
「まあまあ、今日は、お互い息抜きだから、仕事の事、忘れてゆっくりしようよ、ね、佐助?」
「そうだね!」

おしゃべりしながら、お菓子を食べていると、あっという間になくなって、お茶も空になってしまった。
佐助が、また中居さんを呼んで、お茶を頼んでくれた。

「そうそう!お琴聴かせてよ!風流でいいじゃない?お座敷にぴったり!」
「風流に弾ければいいんだけどね、光源氏みたいに」
「なかなかそうはいかないの、分かってるからさ、弾いてよ」
「仕方ないなぁ…」

私は、綺麗な布で覆われたお琴を畳の上に置き、袋を開けた。
爪もちゃんと全部ある。
調弦をしているうちに、少し勘が戻って来た。

「いいねぇ、調弦ですら、何だか風流に思えて来るよ。ぴったり調弦出来てるしね。あー、楽しみだなー!」
「私、覚えてる曲、少ないよ?」
「それでもいいの!俺、ちょっと横になってもいい?今、すごく幸せ。リラックスって言うんだっけ?」
「リラックス、そうだね。佐助は、リラックスしてて。働き過ぎだもん」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

佐助は、肘まくらをしてごろんと横になって、目を細めてリラックスした様子で私を見ていた。
そんな佐助を見てると、あんまり緊張して弾かなくてもいいかな、という気分になって、琴をかき鳴らした。
懐かしい響きがする。

お正月じゃないけど、何か、六段が弾きたい気分。
戯れに、何度か琴をかき鳴らした後、六段を弾き始めた。

佐助は、目を細めて微笑みながら、私の琴を聞いていた。
毎年、お正月に弾いているせいか、お座敷が実家の客間に似ているせいか、私もリラックスして、最後まで気持ちよく弾けた。

「はぁ〜、風流〜。君、普通に上手いじゃない」
「普通?上手い?」
「ああ、ごめん。うん、名人ではないけど、どこに出しても恥ずかしくないくらい上手いって事。俺、今、ものすごく幸せー。いいね、その曲。出だしと最後が最高!もう一度聴きたいな」
「うん、いいよ」

私も、六段の一番最後の節がとても好きだ。
また、六段を弾き始めた。
佐助は、うっとりしたような表情で、最後まで聴いてくれた。

「ありがとう…。はぁ、幸せー。こんな逢瀬ならいくらでもしたいよ」
「逢瀬って言うより、私にとっては女子会かな」
「女子会ねぇ…。ま、好きに呼んで。女子会でもいいから、またこうしておしゃべりして、お菓子食べて、気が向いたらお琴弾いて欲しいなー」
「そうだね。あ、それより、お茶冷めちゃった…。でも、きっと美味しいからいいや。佐助、お茶飲もうよ」
「ああ、そうしようか」

また、私達は、お茶を飲みながらおしゃべりを始めた。
私の家族の事、妹の事、美紀の事。
佐助はとても聞き上手で、話題は尽きなかった。

「失礼しても、よろしいでしょうか。お茶をお持ち致しました。お煎茶の方がよろしいかと思いまして。それから、そろそろお食事をお持ちしてもよろしいかお伺いに参りました」

中居さんの声ではない。
女将さんの声だ。

「あ、入って入って」
「はい、失礼致します」

佐助がそう言うと、女将さんはきちんとお作法通りに襖を開け、お座敷に入って来て、にっこりと笑った。

「先ほどのお琴は、そちらのお嬢様でしたか。お見事だと主人と感心しておりました。幸村様がおいでにならないとは思わず、仕入れたお肉が余りそうなので、また明日もおいでになって下さいまし。たいしたおもてなしも出来ませんのに、あのようなお琴をお聞かせ下さったお礼に、明日のお食事のお勘定は、お心ばかりですが勉強させて頂きます。また明日もお琴をお聞かせ下さい」
「へぇ、遙、すごいね!うん、明日も寄らせてもらうよ。それに、そのうち茶懐石も食べに来ようかな」
「まあ、嬉しいお言葉、ありがとう存じます。その折には、せっかくですから、最後のお茶はお二人でお楽しみ下さいませ。お嬢様の方が、お茶もお上手かと思いますので。お道具のご用意はこちらで全て致しますから、ごゆるりとお寛ぎ下さい。では、お煎茶をどうぞ」

女将さんは、テーブルの上に、お茶を置くと、深々と頭を下げて、お座敷から出て行った。

「明日も来るの?」
「うん。3人分手配しちゃったんだ。旦那、大食漢だからさ、女将もご主人も、旦那が来なくて困っただろうね。だから、責任取って、明日もここでお夕飯。あー、明日もつかの間の息抜き出来ると思ったら、何か、すごく嬉しいなー」
「明日もご馳走…。はぁ、私も幸せー。いいのかなぁ、仕事サボって」
「いいんじゃない?こんな贅沢、なかなか出来ないし。俺も、今日だけじゃ足りないし。連休、夢だったんだよねー」
「あ、分かる!貴重な休みも月一回あるかないかだったから、連休って本当に夢だったなー」
「遙こそ、苦労人じゃん」
「そうかもね」

そう言って、二人でくすくすと笑った。

「仕事の話に戻って悪いんだけど、武田のお屋敷の人、全員に予防接種した方がいいと思う。お館様だけじゃなくて、若様や姫様、お世話をしてらっしゃる方々も、疱瘡にかかったら大変だもん。村は閉鎖してるけど、かさぶたが剥がれる時に、風向きによっては、飛び火するかも知れないから」
「そうだね…。明日の朝にでも、部下を派遣するよ。今日は、お休み!仕事の話はこれでおしまいね!」
「うん!」

私達は、また他愛ないおしゃべりに戻って行った。
ほどなくして、お食事が届けられた。
私が食べたかった、お肉とお野菜たっぷりの鍋だ。

「君はゆっくりしてて。牡丹鍋、初めてなんだろ?」
「うん」
「先に、鹿肉の炭火焼を食べてて」
「わぁ…!!ありがとう!頂きます!うわぁ、美味しい!!」
「本っ当に嬉しそうだね!良かった良かった」

佐助は、にこにこと微笑んだ。
微笑みながらも手際良く鍋に綺麗に野菜とお肉を入れている。

鹿肉は、炭火の香ばしさと、あっさりした赤身肉がとても美味しい。
本当に、人工ではないタンパク質に飢えてたんだなぁ。
パクパクと食べていたら、佐助がくすくすと笑った。

「俺の分も食べていいよ?」
「牡丹鍋が食べられなくなっちゃうし、明日も来るからいいの。佐助も鍋奉行ばかりしてないで、冷めないうちに食べなよ」
「はは!鍋奉行なんて、上手い事、言うね!じゃあ、野菜は任せたよ」

そう言って、佐助も鹿肉をパクパクと食べた。
私は菜箸で、佐助が綺麗に入れたお野菜の形を崩さないように、お野菜を飾って行った。

やがて、お野菜にもイノシシ肉にも火が通り、お味噌の土手を崩しながら、またおしゃべりをしながらゆっくりと食事をした。
豚肉より、少しクセがあったけど、お味噌と相性が良くて、美味しくて、私にしたらたくさん食べた。

「もっと具材、追加する?」
「ううん、もうお腹いっぱい。腹八分目、かな。これ以上食べたら、馬に乗れなくなっちゃうから」
「分かった。男の人と同じくらい食べるって言ってたけど、やっぱり少食かな。普通の女の子と変わらないよ?いや、確かにそれよりはちょっと多かったけど」
「そう?いつもより、たくさん食べたよ?」
「だから細身なんだね。俺も忍だから、節制してるの。今日は、久しぶりにたくさん食べたけど。じゃあ、鍋、俺がさらえて、少し休んだら帰ろうか」
「うん!」

佐助は、鍋を空にすると、下げてもらって、またおしゃべりしながら一服した。
そして、女将さんにお礼を言って外に出ると、少し冷たい秋風に身を震わせた。

「ちょっとゆっくりし過ぎたかな。風邪引かないように、帰りは少し馬を飛ばすよ」
「うん!佐助の腕、信用してるから」
「ははっ!嬉しいねぇ!んじゃ、急いで帰ろう」

人もまばらな城下町は歩きやすくて、すぐに厩に着いた。
また佐助にお姫様抱っこされながら、馬に乗って帰途に着いた。
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