Eternal Love

厚手の上等な紙で出来た封筒の裏は、青い蝋を垂らして、伊達の家紋で刻印されていた。
いわゆる、封蝋だ。
まだ、私達が一夏の恋をしていた頃、立ち寄った雑貨屋さんで封蝋を見つけて憧れていたら、一体誰にラブレターを書くつもりだ!!ってすごく怒られたんだった。
中世ヨーロッパの道具みたいで、すごく素敵で欲しかったけど、政宗の言う通り使い道なんてなくて、名残惜しかったけれど、諦めたんだった。

政宗は、それを覚えていてくれたんだ…。

しかも、政宗を象徴するような、綺麗な蒼の蝋に、竹に雀の家紋。
もしかしたら、外国の商人とのやり取りのために作ったのかも知れないけど。
でも、政宗は、もしかしたら、再び出会う事を夢見て用意してたんじゃないかと思うと、この封蝋を見るだけで、泣けてくる。

本当に、政宗ったら、生粋の伊達男なんだから…。

表書きと裏書きの言葉だけでも、嬉しくて愛しくてたまらないのに、こんな封蝋まで使って、サプライズを仕かけてくるなんて、本当に反則。
どれだけ、あの時、平静を装うのに苦労したか。
本当に、泣きそうで、大変だったんだから。
だから、部屋で一人でゆっくり眺めたかった。

憧れの封蝋を指でそっとなぞる。
開ける時に割れちゃったら、悲しいな…。
でも、その中に閉じ込められた、政宗の想いはもっと知りたい。
私は、注意深く、ゆっくりと封を開けた。
蝋は割れずに綺麗に剥がれてホッとする。
中に入っていたのは、羊皮紙風の厚手の便箋だった。
ゴシック調の雑貨が大好きな私にとって、それも大きなサプライズだった。

平安貴族は、相手の女性の趣味に合わせて趣向を凝らした文を書いていたというけど、政宗もそうなんだ…。

政宗からの最後のラブレターをもらってから6年経つ。
あまりにも、久しぶりで、手紙を広げる前からドキドキしてたまらない。
私は、苦しいほどの胸の高鳴りを吐息をついて抑え、そっと便箋を広げた。

『Dear my sweet ma chrerie, 』

手紙は、その一文で始まっていた。

「ふふっ。初めの言葉まで私と一緒。私は、佐助がいたからフランス語を使ったけど、政宗は、あのカクテルの意味を込めて、私をマシェリって呼んでくれたんだね。政宗が、私にずっと贈りたかった、あのカクテル…。あの恋は永遠なんだって…」

そう呟いたら、今まで抑え込んで来た恋心があの頃のように色鮮やかに蘇って来て、涙がポロポロと零れて来た。
政宗の変わらない気持ちが言葉に出来ないくらい、嬉しくてたまらない。
言葉の変わりに、涙が溢れて止まらない。

私は、便箋を涙で濡らさないように注意しながら、政宗のラブレターを読み始めた。
それは、とても綺麗な筆記体の英語で書かれていた。

『遙、やっとお前を見つけた。
会えないと何度も諦めかけたけど、俺達の恋が運命ならば、再び巡り合えるって俺は信じていた。
そう願わずにはいられなかった。
俺とお前は、永遠の愛を誓ったから…。

お前がこの手紙を読んでいるなら、きっと、お前も知っているはずだ。
俺は、天下を統一した。
そして、お前と一緒に考えた政をしている。
本当は、お前にずっと傍にいて欲しかった。
お前がくれた物、全部持ち帰れたのに、お前だけがいなかった。
あの時の、悔しさ、哀しさは半身を無理やり引き剥がされたような心の痛みだった。
最後にしっかりと手を握った感触があったのに、連れて帰れなくて、辛くてたまらなかった。

俺は、お前の温もりを忘れたくなくて、一切の女を遠ざけ、舞い込む縁談も片っ端から断っている。
別れてから7年も経つのにな。
小十郎には、断るのもそろそろ限界だと言われて、俺も諦めかけた。
でも、やっとこうして、お前を見つけ出した。
小十郎は、お前を娶る事に賛成している。
だから、お前は何も心配しなくていい。
余計な事は何も考えずに、ただ、俺の腕の中に飛び込んで来い。
お前を抱き締めたくてたまらない。
再びお前を抱き締めたら、今度こそ、二度とお前を離さない。

お前を見つけ出すのには、苦労した。
でも、俺が最後にお前に贈ったエルメスのバーキンが決め手になった。
肌身離さず持ってくれてるって聞いて、嬉しくてたまらなかった。
お前がまだ俺を想っていてくれてる証だと思ったから。
それから、ガーネットのピアスの事も前田慶次から聞いた。

お前、まだ指輪してるか?
ロケットの写真を眺めてくれてるか?

俺は相変わらず、お前が愛しくて、恋しくて、記憶は段々薄れていくのに、まだ指輪もピアスもロケットも外せない。
いや、外したくない。

俺は、お前を必ず攫いに行く。
まぁ、仮に失敗しても、お前、どうせ江戸に来るつもりだろ?
猿飛が、きっとすぐに信玄に報告をして、交渉に入るだろう。
でも、武田は、お前を手放す代わりに、俺に無理矢理姫を押し付ける可能性もある。
だから、その前に俺はお前を攫うつもりだ。

あの世界の祝言が、真似事の結婚式だったとしても、俺にとっての妻は、お前だけだ。
それは、ずっと変わらない。
お前しか抱きたくない。
お前を抱いていいのも、俺だけだ。
姫なんか娶るのはまっぴら御免だ。

お前がいる村は、もうすでに特定している。
時期を見計らって、お前を必ず取り戻す。
この俺の手でな。
疱瘡の事は心配するな。
連れて行く部下は、免疫があるやつだけ連れて行く。

お前がどうしても、疱瘡の患者の治療を続けたかったら、一旦お前を攫って、伊達預かりの身にしてから策を練る。
だから、ぐだぐだ考えて、俺を拒もうなんて気は絶対起こすんじゃねぇ。
もう一度言うが、お前は、ただ、俺の腕の中に飛び込んで来ればそれでいいんだ。
今度こそ、お前を一生守ってやる。
二度ともう離さない。

遙、お前を愛してる。
狂おしいくらいに、ずっと、ずっと、お前を毎日焦がれ、愛し続けている。
恋しくて、恋しくて、たまらない。
お前、今頃、前より綺麗ないい女になってるだろうな…。

早く、会いたい。
会いたくてたまらない。
その優しい声で、俺の名前を呼んで、愛してるって言って欲しい。
俺も、離れてた分だけ、何度でも、お前に愛の言葉を囁きたい。

だから、待っててくれ。
必ずお前を取り戻しに行くから。
遙、愛してる。
俺の、大切な、大切な、宝物。
必ず、生涯かけて、お前を愛し、守り抜く。

With eternal love,
政宗』

「永遠の愛を込めて、か…。ううっ…ひっく…」

最後の署名は、筆で書かれた懐かしい政宗の文字だった。

政宗は、何で、私の欲しい言葉ばかりくれるんだろう…。
初めから泣きっ放しで、涙が止まらなかった。

私も政宗と離れてしまって辛くて仕方なかった。
ずっと傍にいたかった。

私も政宗にもう一度会いたくてたまらなかった。
何度、再会を夢に描いただろう…。
政宗に抱き締めて欲しい。
ずっと傍にいたい。
あの結婚式は、政宗にとっても本物の結婚式だったんだって思ったら、幸せ過ぎて、おかしくなりそうだった。
外科医になって、仕事はキツかったけど、お陰で結婚を先延ばしに出来て本当に良かった。
最後に政宗に抱かれたままの身体でいられて、本当に良かった。

私が交渉のネタにされて、政宗が誰か正室を娶るなんて、嫌だ。
政宗が他の誰かを抱くなんて、絶対にイヤ。
同じ疱瘡の治療を続けるなら、政宗の庇護の下で続けたい。

佐助には悪いけど…。

でも、これだけは譲れないの。
政宗と私は、再会するために存在しているのだから。

政宗の抱き締めてくれた感触を思い出そうとしてみる。
でも、何だか夢のように曖昧で、とても悲しくなる。
早く抱き締めて欲しい。
その力強い腕で、息が苦しくなるくらいに強く。
早く、会いたい。
会いたくてたまらない。

私は、声を殺して泣きながら、政宗の手紙を何度も何度も読み返して、やがて泣き疲れて眠ってしまった。

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