館に戻ると、里を守っていた忍達が集まり、俺を出迎えた。
「佐助様、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいま。また明日には出るけどね」
「では、今晩はごゆるりとお過ごし下さい」
「ああ、そうする」
忍達の中には、涼風もいた。
「ああ、そうそう。俺、久しぶりだからさ、誰か抱いてから寝るよ。そうだなぁ…涼風がいいかな。んー、それだけじゃ足りないかな。相当溜まってるし。くノ一の子、みんなおいでよ」
くノ一達の顔が喜びで輝く。
その中でも、涼風は、特に嬉しそうに目を輝かせていた。
涼風は、とても美しい。
妖艶な美女、という表現がよく似合っていて、俺との身体の相性も抜群だ。
だが、気が勝ち過ぎる。
腕も確かだし、男を籠絡して情報を聞き出すのも上手いから、俺は特に目をかけていた。
ただ、嫉妬深く、よく手懐けないと、他のくノ一にも辛く当たる事もあり、それだけが俺を悩ませていた。
だからこそ、遙と顔を合わせないように、別の村に派遣したり、そこで指揮を取らせたり、遙が別の村の治療に当たる時は、また異動させながら、極力遠ざけていた。
「じゃあ、いつもの褥に行くか。俺、湯浴みをして来るから、みんなも湯浴みをしたら、そこで待っててね」
パチンとウィンクをすると、一斉に甘い溜息が漏れて、頭を垂れると、皆、散って行った。
俺は、館の奥にある自分の部屋に行き、忍装束を脱ぎ捨てた。
そして、部屋の外に設えてある、俺専用の露天風呂に入って、空を見上げた。
こうして星を眺めると、遙の歌声を思い出す。
Close your eyes.
Give me your hand, darling.
Do you feel my heart beating?
遙の歌声を思い出しながら、その優しい調べをなぞるように歌う。
その続きはどういう曲だったんだろう。
きっと、最後までとても幸せな歌に違いない。
俺とは無縁な…。
願っても叶わない、純愛の恋歌…。
白く濁った温泉に浸かったまま、岩に身体を預けて溜息を吐く。
まだ、遙を抱き締めた感覚が身体に残っている。
華奢な身体に、穢れのない綺麗な笑顔。
瞬く星々にも似た、煌めく宝物。
どれだけ手を伸ばしても、絶対に手に入らない、星のような存在。
こうして湯に浸かって、身体を清めても、どう足掻いても穢れ切ったこの身体。
でも、君を抱き締めた時は、何だか少しは穢れが祓えたような気がしたんだ…。
君を抱き締められて嬉しかった。
それが、君の癒しになったのなら、尚更…。
こんな俺でも、誰かを癒せるなんて、思いもしなかった。
血で手を汚すのは、俺も君も変わらないのに、君の手は、人の命を助けるためにある。
俺の手は、人の命を奪うためにある。
似たもの同士なのに、存在意義が正反対だ。
君は、今頃もう眠っている…?
愛する男に抱き締められながら、愛の言葉を囁き合う、幸せな夢を見ている…?
早く、君が幸せになれるよう、俺は願ってるよ…。
本当に、君が大切で、君の幸せだけを願ってる。
遙の事を想っているだけで、心が穏やかになっていった。
明日は、遙にとって、特別な思い入れのある手術…。
汚い仕事は早く終わらせて、また、こうして温泉に浸かりながら、星々に想いを馳せよう。
明日の手術の成功を願おう。
君の面影を追い求めながら…。
俺は頭まで湯に浸かると、濡れ髪のまま、冷たくなった水を滴らせたまま、風呂から上がった。
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