それぞれの闇 -2-

ゆっくりと湯浴みを終えると、俺は着流しを来て、濡れ髪のまま、くノ一達の待つ部屋へと向かった。

さぁ、どう料理してやろうか…。
まずは、何の目的で俺達の逢瀬を見張りに来たのか吐かせて…そして、他のくノ一達が変な気を起こさないように、公開処刑だな…。

本当に、酷い仕事だ。
だからこそ、俺は遙を想う事しか出来ない。
この身体で穢す事なんて出来ない。
そんな事、したくない。

俺は、頭を振って気分を切り替えた。
既に、口元には残忍な笑みが浮かんでいる。
欲情に濡れたような、目付きに変えて部屋の戸を開けて、中に入ると後ろ手に閉めた。

くノ一達は、みな、浴衣に着替えて、俺を誘うようにしどけなく着崩している。
中でも涼風は、襟を深く抜いて、大きな胸の谷間を強調するような着方をしていた。
男を籠絡するのにもってこいな身体だ、本当に。
この身体、結構お気に入りだったのに、これが最後だね。
あー、ちょっと残念。
でも、俺に楯突く子なんて、いらない。
そんな面倒くさい女、大嫌いだ。
俺に従順なくノ一じゃないと可愛がる気にもならない。
でも、最後だから、存分に楽しませてもらおうかな。

「じゃあ、涼風、おいで…」

俺が褥に座って薄笑いを浮かべて呼ぶと、涼風は妖艶な笑みを浮かべて、俺の前に横座りに座った。
浴衣の合わせがはだけて、綺麗な脚が太腿まで露出している。

「佐助様、私達は控えの間で控えておりましょうか?」

くノ一の一人がおずおずと申し出た。

「いや、どっちでもいいけど、涼風はみんながいた方が興奮して感じるんじゃないかなぁ。俺もさ、次の子呼びに行くの面倒だし。帰って来た時、言ったけど、溜まってんの。ったく、お館様のご命令じゃなかったら、あんなのゴメンだね!抱けもしない、いい身体した綺麗な女にずっと張り付いてなきゃいけないし。もー、限界!だから、今晩は丑三つくらいまでは楽しみたいなぁ。俺だけの可愛い可愛い君達が抱きたくてたまらなくて帰って来たんだから。君達も飢えてるでしょ?」

欲情した表情の仮面を付けたまま、流し目をしてそう言うと、くノ一達は吐息を漏らし、俺に見惚れた。

遙、ゴメンね、大嘘ついちゃった。
だから、嫌なんだよ、こういうの。
本当は、純愛が好きなの。
純愛してる、君が好きでたまらないの。

これが、俺の裏の仕事。
暗殺より残酷で汚い仕事。
くノ一達を籠絡して、処女を奪って俺の虜にして、絶対に裏切らないように快楽を身体に刻み付けて、俺でしか感じられない身体に仕込むのが、俺の仕事。
だから、君をくノ一なんかにしたくないんだ。
どんなに優秀でもね…。

「佐助様…」

涼風は俺にしなだれかかり、口付けをねだるように濡れた目で俺を見つめた。
その顎をくいっと掴み、深く唇を重ねる。
キスだけで、涼風は感じたように甘い声を上げた。
本当に、よく飼いならしたつもりなんだけどね。
キスだけで、濡れるような身体に。
なのに、俺を裏切るとはね…。
何度も何度も深く唇を重ねて、そして少し顔を離すと、涼風は蕩け切った濡れた表情をしていた。

褥に押し倒して、愛撫をしていくと、たまらないように身体をくねらせた。
下半身に手を伸ばして触るともう濡れ切っている。
期待したように涼風は甘い吐息を吐いて、喘いだ。
その耳元を舌で嬲りながら、つんと立ち上がった胸の先を転がすようにいじると耐え切れないような嬌声が上がる。
愛液を指に絡めて前をゆるゆると刺激すると、切なそうな喘ぎ声が漏れた。

「ああっ!!佐助様っ!!もっと!!いつものように、激しくして下さいまし!!」
「ふふっ、相変わらずいい声だね。もっと聞きたいなぁ。もっと焦らしたくなる。簡単にイカせてあげないよ、今夜はね」
「ああっ!!」

涼風は、いやいやと首を横に振った。
この女は、愛撫よりも、俺と繋がる方が感じるのを知っていて、わざと焦らす。
理性がなくなった頃に、吐かせてやる。

「ねぇ、涼風?もう、俺が欲しいの?もっと楽しませてよ」

耳元で囁くと、涼風は、堪らないようにすうっと涙を流した。

「佐助様!!ああっ!これ以上はっ!!早くっ!!」
「しょうがない子だねぇ。じゃあ、俺の言う事聞いてくれたら、今までで一番の快楽をあげる。聞いてくれなかったら、そうだなぁ…。焦らしに焦らしてイカせないまま放置して、君の目の前で他の子を抱こうかな」
「イヤっ!!イヤでございます!!ああっ!」
「そう、なら俺の言う事、聞くしかないね」

口元に堪え切れない笑みが浮かんだ。
流し目で涼風を見つめると、期待に打ち震えるように身体をくねらせた。

「今日は、何で俺の様子を見に来たのかな?誰の差し金?」

涼風は、ハッとしたように顔色を変えて、唇を噛んだ。
すぐに、また焦らし始めると、涼風は堪え切れないように涙を流した。

「ほら、質問に答えない悪い子は、お仕置きだよ?さぁ、どこまで焦らそっかなー。泣いてお願いしても、今日は入れてあげないよ?」
「ううっ…はぁっ…」
「欲しくないの?最高の快楽。他の子にはあげた事のない、君だけにあげる、最高の快楽。今日を逃したら、一生あげないよ?」

欲情に濡れ切った涼風の瞳が揺れた。
人一倍、自尊心が強い涼風にとって、自分だけ特別って言葉に弱いのなんて分かり切っている。
クッ……これで陥落だね。

「幸村様でございます…はぁっ…」
「そう…。で、何て報告したのかな?」
「佐助様が、料亭で…あの女の医者と抱き合って、見た事もないような優しい表情で、泣いてる女の髪をそっと撫でながら、慰めていたと…」

真田の旦那か…。
それもまた、厄介な事を報告されたもんだ。
完全に、良からぬ方向で勘違いしてるはず。
ああ、めっちゃ溜息吐きたい。
でも、我慢、我慢。

俺は、殊更に艶っぽい笑みを浮かべると、そっと涼風にキスをした。

「ちゃんと質問に答えて、いい子だね…。それでこそ、俺の可愛い涼風だよ…。約束通り、今までで一番気持ちよくさせてあげる」

言うなり、俺は、着流しと下帯を脱ぎ捨て、乱れ切った浴衣を着たままの涼風を貫いた。

「ああっ!!」

涼風は、よっぽど焦れていたのか、奥まで貫いただけでイってしまった。

「ふふっ、よっぽど欲しかったんだね、涼風。でも、俺は物足りないなー。もっと楽しませてよ」

そう言いながら、激しく腰を打ち付け始めた。
涼風は悦びの嬌声を上げながら、ぽろぽろと涙を流した。
同じ涙でも、遙と全然違うな…。
遙の涙は、誰も穢しちゃいけないくらいに、綺麗で美しい。
あの涙は、俺を信じて見せてくれた、俺だけの秘密の純愛の涙。
悪いけど、君には永遠に忘れてもらうよ、涼風…。

俺は、涼風の首に両手をかけて、軽く締め付けた。
涼風は驚いたように抵抗したけれど、激しく腰を打ち付けると、また切なげによがりながら褥を握り締めた。

「ねぇ、涼風。真綿で首を締められながら、貫かれるのが最高の快楽なんだよ?知らなかった?ほら、こんなに締め付けて、いつもより溢れて来てる。あー、俺も最高な気分だよ。このままイカせてあげるから、快楽に歪んだ顔、もっと見せてよ」

これも大嘘。
最悪な気分だよ、全く。
涼風の醜い嫉妬を利用した旦那も憎い。
嫉妬に駆られてそれに乗っかった涼風も憎い。
こんな穢れた身体、抱かなきゃいけないなんて、反吐が出そう。

少しずつ、首を締める手に力を込めていく。
涼風は空気を求めるように喘ぐ。
かろうじて呼吸は出来るけど、意識が朦朧とするギリギリの気道の狭さ。
この麻薬にも似た、頭が痺れた状態が、一番感じる最高の快楽の状態。
涼風は涙を流しながらも、その顔は欲情に濡れ切っていて、呼吸は浅く速い。
もうすぐで、イクな…。
そして、それで、さよならだ。

「んーっ!!んんっ!!んんっ!!」

涼風は背中を弓なりに反らし、ビクビクと震え、キツく俺自身を締め付けた。
あっ、ヤバっ!!
俺もヤバい!

「くっ…!!はぁっ!!…っ、はぁ、はぁ、ふふっ、最高だったよ、涼風」

俺も、涼風の中に出し切ると、一気に両手に力を込めた。
首の骨が折れる感触がして、涼風は事切れた。

俺は、まだ上がった呼吸を整えながら、濡れ髪をかきあげて、くノ一達を見遣った。
くノ一達は、驚いたように目を瞠っていた。

「佐助様…なにゆえに…」

その中の一人が、囁くような声で呟いた。
俺は、くすりと笑った。

「君達が仕えるのは、あくまで俺様。俺に断りなく俺の上司に直接接触するなんて、俺を愚弄してるね」
「しかし、幸村様からのご依頼が直接ある事もございますれば…」
「まあね。俺が偵察で甲斐を離れてたらしょうがない。でも、みんなも聞いただろ?何で真田の旦那が俺の事を探る訳?俺の部下だったら断って当然だろ?」

そう言うと、皆は黙った。

「でも…涼風が不憫でございます…。佐助様、その女人と抱き合っていたのはなにゆえでございますか?」

はぁ、涼風は嫌われ者だと思ってたけど、庇う子もいるんだね。

「勘違いしないで欲しいね。俺が料亭に行く時ってどういう時?」
「それは…諜報の時でございます」
「その通り。まぁ、彼女を連れて行ったのは別の目的だけど…。いい?甲斐の疱瘡を根絶させるのがお館様のご命令。そして、それが出来るのはあの女…遙だけだ。俺が今、仕えているのは、お館様と遙。遙の事は、伊達も欲しがっている。お館様は、遙の身柄を引き渡す代わりに、姫様の婚儀を伊達政宗に承諾させるおつもりだろうね。そのためには、遙を毛筋一つも傷付けちゃいけない。心も傷付けちゃいけない。流石にあの子も精神的に参ってたからね。仕事を続けてもらうためには慰めるのも必要だった。だから抱き合ってたのさ。俺が無駄な仕事をしないのは知ってるでしょ?今、真田幸村は良からぬ事を企んでいるようだから、俺が率いる忍隊は一時的に真田幸村の配下から離れて、お館様と遙だけにお仕えする。だから、今後、俺の許しが出るまで、真田幸村の命令は無効だ。いいね?皆にそう伝令を飛ばしとくように」
「承知仕りました」

みなが深々と頭を垂れて、ようやく一息吐く。

「あーあ、何か興醒めしちゃった。久々の涼風の身体、良かったしね。最後にあんなに締め付けてくれて、何か満足しちゃった。涼風も満足だろ。最期に最高にいい気持ちで逝けたんだから。俺って慈悲深いからね。最期くらいは最高の快楽をあげたいんだよね。俺、今日はゆっくり寝るから、君達はまた今度可愛がってあげる。近々ね」

パチンとウィンクをすると、青ざめていたくノ一達も、ホッとしたように微笑んだ。

「佐助様、ごゆるりとおやすみ下さいませ」
「ああ、おやすみ。じゃあね!」

ひらひらと手を振ると、俺は部屋を出た。

早く、この穢れた身体を清めたい。
真っ直ぐに自分の部屋に急ぐと、俺は、また露天風呂に入り、空を仰いだ。
満天の星空が広がっている。
深い溜息を吐いて、また遙の美しい顔を思い浮かべた。

患者に向ける慈愛に満ちた笑顔。
患者を助けられなくて流した悔し涙。
泣きながらお礼を言う、泣き笑いの綺麗な涙。
二人きりの逢瀬で見せる楽しそうな笑顔。
想い人を想って切ない涙を流す綺麗な泣き顔。

遙、ゴメンね…。
こんなに穢れ切った俺が、君の事を好きになって。
君があまりに純粋で綺麗だから、憧れるんだ。
憧れて止まない。
綺麗な綺麗な煌めく宝物…。
俺自身はどんなに穢れてもいい。
それで、君が守れるならば…。

君は何も知らなくていい。
知っちゃいけない。
こんな穢れた俺の姿なんて…。
だから、俺を男として見ちゃ絶対にいけない。

君にとって特別に大切な、明日の手術が成功しますように…。
君の笑顔が守れますように…。
そう、星空に願った。
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