手術が無事終わって、機材を運んでくれた忍に一日分の痛み止めと抗生物質の点滴と、栄養剤の点滴を渡して、片付けも終わって、ようやく気が抜けた。
佐助のマッサージはすごく痛かったけど、最後は気持ち良くて、一気に疲れが押し寄せてすぐに眠ってしまった。
目が覚めて、時計を見ると、朝8時過ぎだった。
政宗に手紙を書かずに眠ってしまって、しかも12時間くらい寝てしまった事に驚いた。
「遙、おはよう」
声をかけられて、隣りの布団を見ると、佐助が肘まくらをして寝っころがって、にこにこと微笑んでいた。
「随分とお寝坊さんだったね。俺の整体、よっぽど効いたんだね」
「佐助、おはよう。うん、こんなに寝ると思わなかったよ。いつ頃起きたの?」
「夜中に一度起きて、二度寝して、朝日と共に起きたよ」
「ええっ!?じゃあ、2時間くらい私が起きるの、待ってたの?」
「うん。ああ、でも、その間にお館様にはちゃんと文は書いて、部下に届けさせたよ。その後は、君の寝顔を眺めてた。君って本当に睫毛長いねー。何か見惚れちゃった」
「ああ、睫毛の事はよく言われる。あんまり鏡見る余裕、最近ないから自分じゃよく分からないんだけど。あー、何かすごくお腹空いちゃったな…。よく考えたら、昨日は朝しかご飯食べてなかった…」
「ああ、その事なら心配しないで。部下に食材持って来させて、朝餉、いつでも食べられるようにしてあるから。アマゴの塩焼きと、野菜たっぷりの溜りのお汁に、おにぎり。あとは、まだキジの胸肉が残ってたから炭火焼にして持って来させたよ。村の食材は村人に食べさせたいって言ってたから、忍の里の食材。心置きなく食べてね!俺も一緒に食べるから」
「ええっ!?いいの!?」
「うん。俺、一応、忍の里の長だからね、融通利くの。別に普通の食材だし、何も気にする事はないさ」
「わぁ…!ありがとう!アマゴの塩焼き、憧れだったんだー!」
「えっ!?そうなの!?あんなにありふれた魚が!?」
「うん。未来の世界の川はあんまり綺麗じゃなくてね、綺麗な川の上流に行かないとアマゴなんていないもん」
「そうなんだ…。それは悲しいね。でも、そんなに喜んでくれるなら、嬉しいよ。今晩は岩魚でも食べる?」
「うん!岩魚も食べた事ない!」
「ええっ!?もっと早く食べさせてあげれば良かったよ…。じゃあ、早速、朝餉にしようか。囲炉裏の部屋に移動しよう」
佐助に促されて布団から出て、佐助の後について行った。
囲炉裏の側には、名前は知らないけど、しょっちゅう治療の立ち話を一緒にして、他の村の治療の指揮を取ってくれている忍が控えていた。
「佐助様、朝餉でございますか?」
「うん。お汁温めて、アマゴ、焼いてくれる?」
「かしこまりました」
忍は手際良く囲炉裏に鍋をかけ、薪木の火を強くすると、その周りで、粗塩をふりかけたアマゴを焼き始めた。
「遙、先におにぎり一個と、キジ食べてようよ。俺もお腹空いちゃったからさ」
「うん!」
佐助が竹の子の皮の包みを開けると、おにぎりが4個入っていた。
そして、別の包みには、二人分のキジの炭火焼が入っていた。
「わぁい!もも肉も入ってる!」
「本当だね。じゃあ、頂きます!」
「頂きます!」
キジの炭火焼は、あっさりしていて香りもよく、とても美味しい。
おにぎりと交互にパクパクと食べていると、佐助がくすくすと笑った。
「そんなに焦って食べなくてもご飯は逃げないよ?」
「うー、だってお腹空いてるんだもん。あと、職業病かな?」
「職業病?」
「うん。医者って忙しくて、ゆっくり食事してる時間がないから、速く食べるのが何か癖になっちゃって。もうちょっとゆっくり食べるようにするよ。せっかく美味しいご飯だもん」
「そっかー。遙も苦労人だねぇ。ま、俺も普段はそうだけどさ」
「なーんだ、佐助も人の事、言えないじゃん」
二人でくすくすと笑っていると、別の笑い声が聞こえてそちらに目を遣った。
アマゴを焼いている忍が堪え切れないように笑っている。
「本当に仲睦まじいですね。佐助様がそんなに心から楽しそうに笑うのは珍しいですよ。とても微笑ましい。遙様は我々にもとてもお優しく、誠実で知性に溢れていて、こうしてお仕え出来る事をとても嬉しく思っておりますよ。俺がご用意したお食事もそんなに喜んで頂けて光栄です。是非、昼餉も夕餉も腕を奮わせて下さい」
「こら、焔、余計な事は言わなくていいの!でも、遙への褒め言葉はどんどん言ってあげて。夕餉もお願いねー!」
「かしこまりました」
「焔さんって言うんだ、この人。もしかして、昨日のキジも焔さんのお料理?」
「左様にございます。一昨日は、佐助様より一足早く、久しぶりに里に戻っておりました」
「焔はね、俺の右腕なの。俺が里に帰るって伝えたら先に帰って、出迎えの指揮を取ってたの」
「へぇー、そうなんだ。焔さん、昨日のキジも大変美味しゅうございました。ありがとう存じます」
三つ指揃えて頭を下げると、また笑われた。
「遙様。貴女は我々の主でございますから、もっとお気軽にお申し付け下さい。敬称なんて、以ての外です。ただ、焔とだけお呼び下さい。さて、汁物もアマゴも食べ頃でございますから、ただいまお持ち致します」
焔は、食器に盛り付けて、お盆に乗せて持って来てくれた。
「それでは、俺は、みなの指揮を取って参りますので、お二人でごゆるりとお過ごし下さい」
「ああ、焔。後で、また来て。遙が伊達政宗に文を書くから、誰かに江戸城まで届けさせて」
「かしこまりました。では、失礼致します」
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