99%の真実 -2-

それから、私は佐助と他愛ないおしゃべりをしながらゆっくりと食事をした。
アマゴの粗塩を見て、これって上杉の塩かなぁなんて思いながら食べた。
焼き立てのアマゴはふっくらとして、淡白でとても美味しかった。
おにぎりも塩加減が絶妙で、とっても美味しい。

「敵から塩?」

私は、お箸でつまんだアマゴの尻尾の飾り塩をしげしげと眺めながら呟いた。

「ん?それ、未来でも有名?」
「うん。ことわざにすらなってるよ。越後の塩かなぁって思いながら食べてた」
「そうだねぇ。越後の塩が多いかなぁ。料亭だと赤穂の塩を使ってたりするけど」
「赤穂かぁ。随分と遠くから取り寄せるんだねぇ」
「甲斐には江戸から入るから、そう遠くもないさ。伊達政宗が料理好きでさ、赤穂は伊達の直轄地。伊達政宗は、塩は赤穂の塩がいいってさ、すんごく気に入ってるの」

私は思わず吹き出した。
スーパーで、政宗が塩を全種類大人買いして来て、全種類ちょっとずつ試して、結局、赤穂の塩をとても気に入った事があったのを思い出した。
もっと高級な塩もあったのに。
あの頃、シンク下収納に塩が溢れかえっていたのを思い出したらおかしくなった。
あれが全部なくなるまで大分かかったなぁ…。
使いきった時、すごく寂しくて切なくなって、泣きまくったな…。
政宗、料理上手だったなぁ。
凝り性だから、ググっては、何か作ってたなぁ…。
はぁ…政宗に早く会いたい。
まだ、料理してるんだ…。

「ああ、やっぱり遙も意外?あの人、本当に何を目指してるんだろうねぇ。武芸の達人の上に天下一の教養人なだけかと思ったらさ、何やら南蛮の、フランスって言ってたかな、その国の料理も作るって噂聞いたよ。懐石料理もあの人上手いらしいしさ。茶懐石の時、料理も自分で作って振舞う上に薄茶も立てるしさ。あの人、何者!?香辛料や南蛮の香草とかトマトっていう野菜も、南蛮とか新大陸とか南方から苗を取り寄せて、江戸城内にある片倉小十郎の畑で育てさせてるみたいだし。片倉小十郎は前々から幻のお野菜作り名人で密かに有名だし。伊達主従、絶対おかしいって!全く、天下の江戸城の中で自給自足だよ!?それも、天下人の城主とその右腕が自ら作ってるんだよ!?しかも、それを二人とも天才的に極めてるって、どんだけ!?お館様とうちの旦那の殴り合いもたいがいだけどさ、絶対伊達主従もおかしい!!つか、あの二人の極悪顔に全然似合わない!!」

今度こそ、私は腹筋が崩壊しそうなほど大爆笑をした。
小十郎のお野菜名人は、ゲームで知ってるけど、政宗ったら、トマトとハーブやスパイスまで小十郎に育てさせてるんだ!
道理で、ハーブとスパイスの原産地や加工の仕方の本を買ってた訳だ。
私の作る、フランスの家庭料理の作り方も教えてってせがんでたなぁ。
政宗にとっては、私との思い出の味なのかも知れない。
そう思うと、とても嬉しくて、切ない気持ちになるけど…。
でも、政宗がそれを食べたいがために苗まで取り寄せて、その苗を育てさせられてる小十郎の事を考えると、不憫でやっぱり爆笑が止まらなかった。

「政宗様っ!!最高っ!!食材っ、輸入してっ、こ、小十郎に、育てさせてるんだっ!?あははは!!小十郎、哀れっ!!」
「いや、それがさ、片倉小十郎がめっちゃノリノリで育ててるらしくてさ!政宗様の御為に最高のお味に育て上げる所存ってさ!!仕事以外の時間はずっと畑に籠ってるらしいよ!!それがまためっちゃ嬉しそうで真剣なんだって!!育ててる野菜に優しく話しかけてるらしいよ!!あのヤクザ顔で!!やっぱり遙、笑えるよね!?」
「あははは!!ノリノリなんだっ、小十郎っ!!ノリノリっ!!政宗様の御為!!最高のお味!!や、野菜に、優しくっ、話しかけるっ!!あはははっ!」

二人で涙を浮かべながら、お腹を抱えて大爆笑をひとしきりして、やっとそれが収まるのに大分時間がかかった。
それから、私達は思い出し笑いを堪えながら、ようやく食事を終えた。
溜りって初めての調味料だったけど、お汁にすごくコクがあって、野菜の甘みもよく出ていて、とても美味しかった。
ちょっと冷めてしまってて、焔には悪い事をしたけど。

部屋に戻っても、また思い出し笑いをしてしまう。
クリップボードにレポート用紙を挟んでペンを握ったのに、笑うと手が震える。

「ダメだ、佐助があんなに笑わせるから!!もう!頑張って文を書こうとしてるのに!小十郎がめっちゃツボにハマって笑っちゃうよ!」
「ごめんごめん!ほら、ちゃっちゃと書いちゃいなよ、得意の英語ならすぐ書けるでしょ?」
「分かった、分かった…ふふっ…あははっ!!」

私は、笑いながら、筆記体でさらさらと要件だけを過不足なく伝える手紙を書いた。
政宗と同じ病で右目を失った子どもの治療をどうしても最後まで終えたいから、それまで待っていて欲しい、と。
江戸からまだ動かないで欲しい、と。
私の気持ちを分かって欲しい、と。
少し厳し目の言葉で、絶対に暴走しないで私の言う通りにしてとも付け加えた。
それだけじゃ政宗は納得しないし拗ねるから、モンシェリと、ジュテームだけはきちんと書いて、また伊達遙の署名も書いた。

今回だけは、飴と鞭。
政宗、ごめんね…。
でも、愛してるっていうのは、本当に伝えたかった言葉。
会えなかった分だけ何度でも伝えたい言葉。
もうすぐ、私自身の声で、何度でも直接愛してるって言うから、もう少しだけ、待っててね…。
きっと、もうすぐ会えるから…。

手紙を封筒に入れて、表書きは、伊達政宗様、と日本語で書いて、裏側に、遙より、とまた日本語で書いて封をした。
そして、それを佐助に渡した。
佐助は、中身を確認せずに、受け取ると懐にしまった。

「相変わらず、異国語で書くと、あっという間だねぇ。本当に感心するよ。読めなくて、残念」
「私は、行書が読めなくて、残念」
「だから、手習いしなさいって」
「そのうちね」
「仕事ばかりしてたらそんな暇ないでしょ?俺と今日は手習いする?」
「いや、やめとく。今日はゆっくりするんだもーん。財前教授の総回診ごっこでもしようかな」
「何それ?」
「医者の一番のお偉いさんが、患者さんを一人一人診て回るの。後ろに偉い順に一番下っ端まで引き連れてすんごい大名行列。私は、真ん中より下の方だったからなー。カッコいいよ、総回診。憧れだったなー、先頭を歩くの。白衣を靡かせて颯爽と歩くの」
「ええっ!?遙で真ん中より下なの!?どんだけすごいの、その先頭の人!?」
「めっちゃ凄いよ!ああいうのを神の手って言うの!」
「はぁ…未来の世界はすごいねー。じゃあ、やれば?総回診。ここなら先頭歩けるよ?」
「そうだねー。患者さん、一人一人見て回るの最後かも知れないし。でも、村と村が離れてるからなー。歩くの大変だなぁ。この村でプチ総回診しようかな。なんて、冗談。今日はのんびりしたいなー。あの子の容体が急変したら心配だから、ここから離れられないし」
「そうだねー」

二人で今日は何をしようか相談しようとした時の事だった。

「佐助様、お茶をお持ち致しました。それから、文を預かりに参りました」
「ああ、入って入って」
「失礼致します」

焔がお茶を持って来てくれた。
お茶を乗せたお盆を私達の前に置き、膝を付いて座った。
佐助は懐から封筒を取り出して、焔に手渡した。

「じゃあ、これ、誰かに江戸城まで届けさせて」
「かしこまりました」

焔は部屋の戸口まで行って振り返った。
その口元は楽しそうな笑みが浮かんでいた。

「お二人の笑い声は、外までよく聞こえていましたよ。伊達主従…クッ…俺もよく知っておりますから、余計におかしくて…!!誰か、内情をそこまで知らない者を遣いにやります。では、失礼致します」

焔は、笑いを堪えながら部屋を出て行った。
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