鉄瓶と急須も届けてもらったから、しばらくゆっくりお茶が飲める。
はぁ…何か、俺、傷心…。
でも、やっぱり、遙を愛する夫の所に返してあげたいなぁ。
姫君の騎士じゃないのが残念だけど。
そうなんだよ!
俺が傷心なのは、遙が姫君じゃないからなんだよ!!
憧れだったのになぁ、お姫様の騎士って…。
王子様にお姫様をお返しする騎士が良かったよ…。
「ねぇねぇ、遙。今日はお茶で女子会しようよ!」
「あははっ!佐助、よっぽど女子会気に入ったんだね。いいよ!今日はどんなおしゃべりかなぁ?」
「恋バナ!!」
「あははっ!!佐助って、本当に女の子みたいだねぇ!今度は、佐助の恋バナ、聞かせてくれるの?」
「いや、君の恋バナ、もっと聞きたいなぁって思ってさ」
「はぁ…私の恋バナ、か…。ううっ、酒が欲しい…」
「んもう!お酒に頼るんじゃないのっ!いいじゃん、素面で話す恋バナもさ!」
「素面でねぇ…。じゃあ、せめて、タバコ!」
「はい、どうぞ、灰皿」
「サンキュ!」
遙は、鞄からタバコを取り出すと、ライターで火を点けて、ゆっくりと煙を吸い込んだ。
そして、タバコの箱を文机の上に置いて、そこに肘をついて、遠い目をした。
懐かしそうに、でも、切なそうにタバコの箱を見つめる瞳が潤んで揺れている。
そんなに遠い昔の恋なのかな…。
そんな昔に生き別れたのかな…。
「あのさ、結婚してるって聞いてから考えてたんだけどさ、遙、俺に行き遅れの年増って言ってなかったっけ?あれって嘘?」
「ふぅ…微妙な所だなぁ」
「微妙って、何が?」
遙は深い溜息を吐いた。
「正式な結婚式…祝言じゃなかったから。証人は美紀がなってくれたけど、二人だけの祝言だったから…」
「ふーん。じゃあ、両家揃っての祝言じゃなかったんだ」
「そういう事」
「でもさ、駆け落ちした男女だって二人で祝言挙げたら立派な夫婦だよ?いいじゃん、祝言挙げたなら夫婦で」
「うん…そう思えればいいんだけどね。はぁ…」
遙はまた深い溜息を吐いて、タバコを深く吸い込んで、ゆっくりと煙を吐いた。
「不思議なんだよねぇ。祝言挙げたのに、素直に夫婦って思えない遙がさ。どうして?」
「うん…。夫婦として暮らした時間があまりにも短かったからかな。それから、離れ離れになってから、もう随分と長いからさ」
「ふーん。結婚生活、どれくらいだったの?」
「約2週間から3週間くらいだったかな」
「えええっ!?そんなに短いの!?」
俺は驚きのあまりしばらく絶句した。
そりゃ、遙も人妻って意識がほとんどないのもしょうがないよ…。
全然所帯染みてないし。
だから俺も遙は未婚だとばかり思ってた。
夫婦って意識が芽生えるにはあんまりにも時間が短過ぎる。
恋人同士って感覚が抜け切る訳がない。
「ね?だから、微妙なの。こうして夫婦の証の指輪、いまだに外せないのにね。夫婦って言うより、まだ恋人を想ってる感じ。まぁ、彼とだったら一生、恋人夫婦でいたいかなって思うけどね」
「恋人夫婦かぁ…。それもいいんじゃない?一生恋してられるっていいなぁ。そういう、純愛、憧れるなぁ」
「佐助って、見た目、軽そうなのに、意外。つくづく純愛好きだねぇ」
「うっ、俺、今、すごく傷付いた!俺ってそんなに軽く見えるの!?」
「だって口調が軽いんだもん。でも、だから話しやすくていいんだけどさ。ごめんねー、意地悪言って」
遙は、俺の頭をよしよしと撫でた。
何か悔しいけど、すごく言い返したいけど、こんな風に優しく頭撫でられたら、何かすごく嬉しくて何も言えないじゃん!
本当に、ズルい子!!
「はぁ…。この天然無自覚め…」
「何が?」
「ううん、こっちの話」
遙は、またゆっくりと煙を吸い込んだ。
遠い目をしたまま。
「ねぇ、それってどれくらい前の話?何でそんなに遠い目をするのかすんごい気になるの」
遙の瞳が哀しそうに揺れた。
「勉強と仕事に打ち込んで、なるべく考えないようにしてたんだけどなぁ…。はぁ、あれから約7年かぁ…」
俺は飲みかけていたお茶を吹きそうになってむせた。
「げほっ、げほっ、ちょっ、ちょっと待って!!今、7年って言った!?」
「うん、そう、7年って言ったよ」
俺は、あんまりにも予想外の時の長さに唖然とした。
7年も経ったら、想い人の面影も忘れて、他の男に目を向けてもおかしくないのに。
夫婦生活がたったの2、3週間。
それで、7年も経っても忘れられないなんてどんだけ!?
俺のくノ一だって、そんなに放っておいたら絶対離反するのに、その男、どんだけ床上手なの!?
いや、待て、それだけじゃないか。
遙は、純愛してるんだった、そうだった。
俺の物差しで測っちゃいけない、うん、そうだ。
純愛は永遠の愛だからね、うん。
「ちなみに遙、祝言挙げた時、いくつだったの?」
「21才だったかな」
「じゃあ、適齢期だね…って!遙っ!?今、28才なの!?えええっ!?若作りにもほどがあるっ!!どう見ても、20代前半!22か23位にしか見えないよっ!!」
「うん、よく言われる。見習いとよく間違えられる。はぁ…貫禄がないんだよねぇ」
「いや、君はそのままでいい。下手に貫禄なんてない方がいい」
あの肝っ玉母さんの顔が浮かんで慌てて首をぷるぷると振った。
多分、遙と年がそんなに違わないのに、この差は一体何なんだ!?
所帯染みるって悲しいねぇ…。
「でさ、話を戻すけど、離れ離れになったのは何で?生き別れになったんでしょ?」
「うん…はぁ…どうしようかなぁ。美紀しか知らないんだけどなぁ…」
そうか…。
遙の抱えた秘密っていうのは、生き別れの原因なのか…。
それで、辛そうな闇のように感じたんだ…。
「まぁ、君の存在自体が不可思議な存在だから、今は何聞いても驚かないよ。忍は口が固いしね。俺って話し方は軽いけど、これは、相手を油断させるための誤魔化し。忍の忠義は絶対だからね。君は俺の主。君には幸せになって欲しいんだ。返せるものならその男の所に返してあげたい。それが、俺の本音で、俺の願い」
真っ直ぐに遙の目を見つめてそう言うと、遙の瞳が揺れた。
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