爺やとの再会 -2-

八王子には、30分ほどで着いた。武蔵の境と八王子は近い。
そこから、しばらく獣道を通り抜けると、隠れ里がある。
先方の部隊は、少し離れた所で待機して、街道の守りを固めていた。
猿飛の忍隊も木々の間で護衛をしている。
俺達が馬を下りると、遙は部下を呼び、バッグを受け取ると、その中から姫の治療の時にしていた手袋を出して、それを俺達に渡した。

「これを嵌めていれば、患者さんに触っても大丈夫。あとはマスクね。これも着けてくれる?」

遙は、俺が風邪を引いていた時に着けていたマスクを手渡した。
小十郎は、見よう見まねで、手袋とマスクをすると、俺達を先導して歩いて行った。

「政宗様は、以前はマスクを着けずに爺やにお会いしましたが、大丈夫なのですか?」
「らい菌の感染力は低いの。濃厚に接触しなければまず大丈夫。くしゃみとかね」
「左様でございましたか。安心致しました」

門の所まで来ると、全身を布で覆った男が現れた。

「お願いだ、ここを燃やさないでくれ!俺達は静かに暮らしてぇんだ!」
「俺は片倉小十郎だ。政宗様もいらっしゃる。爺やに取り次いでくれ」
「ま、政宗様!?これはご無礼仕りました。早速、爺やの所へご案内致します」

男は安心したように、爺やの小屋に案内をした。
爺やは相変わらず、縁側で石臼で薬草を粉にしていた。

「爺や、久しいな。甲斐で少し手間取った」

爺やは、顔を上げると、俺の眼帯を見て微笑んだ。

「これは、政宗様。そして小十郎様ではありませんか。そのお嬢さんは…確か、遙様でしたかな」
「はい、如月遙です」

遙が名乗ると、爺やは、涙を浮かべて咽び泣いた。

「やっと…やっと、里の者を救える日が来るとは…!!」

遙は優しく、爺やの手を握った。

「必ず、治療致します。そして、お顔も身体も、元のお姿に戻します」
「ああ、何と言う事だ!!この崩れた顔まで元通りになるとは!!」
「まずは、病気を引き起こしている元の、物質を身体から完全に取り除きます。お身体の治療はその後になります」
「元通りになるのなら、いくらでも待ちますとも!すぐに治療を開始して下さるのかのう?皆、待ちわびておりました」

咽び泣いている爺やには悪いが、俺は今日にでも江戸に帰るつもりだ。
もう、片時も遙を離したくない。

「爺や、悪いが、今日は江戸に帰る。遙は…この医者は、俺の妻となる女だ」
「何と…!!では、あの政宗様の文は、恋文でございましたか!!とても、お優しい、綺麗な御仁とは思いましたが、政宗様の許婚であったとは!!それでは、この里の者達は…」

爺やは、哀しそうな表情を浮かべて、静かに泣き始めた。
その時の事だった。

「遙!政宗!遅れてごめーん!!途中から慣れて来て、予想より早く着いたんだけど、間に合わなかった?」

美紀が、猿飛を伴って庭に入って来た。
爺やは、驚いたように目を瞠った。

「お主は、猿飛佐助…!里の者に手を出すなら、この爺やが守り抜く…!」
「爺や、落ち着け。猿飛は、俺に仕えてる。正確には、遙にな」
「何と…!!あの冷徹で、真田幸村に絶対の忠誠を誓っていた、猿飛佐助を配下に入れるとは…!流石は政宗様の許婚でございます。誠、政宗様が必死になって爺やを甲斐に送り込んでまで、探していらしたおなごでございますな!では、そちらのお嬢さんは?遙様と色違いの鞄をお持ちでございますが…」
「私は、藤原美紀です。遙とは親友で、私も医者です。お顔を元通りにする手術は私が行います。それが専門ですから」

爺やは、目にまた涙を浮かべて、静かに泣いた。

「遙様が政宗様の許婚とお聞きして、諦め申した。しかし、新たなお医者様が、里の者を救って下さるとは…!!」

美紀は目を細めて笑うと、爺やの肩をぽんぽんと叩いた。

「遙も政宗を護衛に必ず訪れますから、元気出して?病原体を殺すには半年かかるから、その後、手術でお身体を治します。明日にでも、お薬の飲み方の指導に来るから、待っててくれる?」
「半年かかろうと、一年かかろうと、明日から治療して下さるのなら、感謝してもし切れません!!」
「治療法の確認を今晩、遙と話し合います。だから、待っててね?」
「そういう事ならば、待ちましょうぞ」
「それから、佐助と忍隊が手伝ってくれるから、村に入ってもいい?」
「猿飛佐助が…!?ああ、いいとも、いいとも。それで村の皆が助かるのであれば」
「俺と忍隊は、遙を手伝って甲斐の疱瘡を根絶した。だから、爺さん、遙に叩き込まれた俺達の医術を信頼して欲しい」

爺やは、驚いたように目を瞠った。

「治療不可能の疱瘡を根絶ですと…!?分かり申した。猿飛様の腕を信じましょうぞ。どうか、どうか、村の皆を…!」
「分かってる。遙から聞いた。とても哀しい哀しい病だと。でも、疱瘡と違って治療薬がある。気を落とさないでくれ」
「ありがとう、本当にありがとう存じます」

爺やは何度も頭を下げた。

「爺や、遙は病み上がりだ。明日は美紀と猿飛が来る。皆にそう伝えてくれ。俺は遙を一刻も早く江戸に連れ帰って休ませる」
「政宗、私は大丈夫だよ?」
「胃の腑をあんだけ病んで、死にかけたくせに無理すんじゃねぇ」
「死にかけた…!?それは大事でございます!!どうか、政宗様の下でご養生なさって下され」
「爺や、そういう訳で、悪ぃが俺達は江戸に帰る。明日まで、待っててくれ」
「承知仕りました。では、道中、お気を付けて」
「ああ、爺や、またな」

爺やの庭を出る時振り返ると、爺やは感激したように咽び泣いていた。

俺は、本当に遙と美紀の医術に改めて感心した。

これで、里の者がみんな助かる。
こんな差別なんてなくなる。

俺達は、晴れ晴れとした気分で、手袋とマスクを外すと、江戸へ向かって馬を疾走させた。

そして、午後4時頃に城に着くと、城では、俺達を野郎共が待機していた。
また野郎共は、遙に見惚れて、鈴なりになって熱い視線で遙を見つめていた。

「伝令!伝令!筆頭がラブラブの姐さんが来たッス!!」

瞬く間に城中の野郎共が走って来て、入口を塞ぐほどに出迎え…いや、遙に見惚れた。

「流石は筆頭が惚れた姐御ッス!めちゃめちゃ綺麗ッス!!」
「あの、儚気な所もまた堪んねぇッス!!」

城中の皆に遙を見せびらかしたいと思っていたが、それは撤回だ。
あんなの狼の群れだ。

「てめぇら、見せもんじゃねぇ!!さっさと政宗様に道を開けやがれっ!!開けねぇ奴はこの俺が斬る!!」
「ヒィィ!!サーセン!!」

小十郎が皆を蹴散らして、やっと道が開いた。
俺は、美紀と猿飛が2人きりで過ごせる部屋と忍隊に部屋を与えるよう指示した。
俺はというと、ドッと疲れが出て、自分の部屋でやっと遙と2人きりになってホッとした。

これから忙しくなる。
でも、それはとても嬉しい忙しさだった。


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