昨日、成実と抱いた事を覚えていて、怒っているのではと、ふと不安になる。
「遙?」
「政宗、おはよう」
そう言って、俺に柔らかなキスをした。
俺もキスに応えて、しばらく気だるいキスに酔いしれた。
ようやく唇を離すと、遙を見つめた。
「遙、昨夜の事、覚えてるか?」
「うん…。酔った勢いで、成実に身体許しちゃった。政宗、怒ってる?」
「いや、成実に乗せられたとは言え、誘ったのは俺だからな。お前こそ、怒ってないか?」
「ううん。政宗が抱いて来た女の人に嫉妬しちゃっただけ。そんな気持ちいい事してたんだって思ったら妬けて来た」
「お前は本当に可愛いな。昨日は満足したか?」
「うん…。すごく気持ち良かった。癖になりそう」
「あまり癖になるな。ピル飲んでる間しか、あんな事出来ねぇからな。それより、そろそろ朝餉だな。着替えるか」
「うん。ねぇ、政宗。私の世界の服着ていい?着物疲れた。ジーンズ履いて、脚崩したい」
「ああ、いいぜ。俺の城なら安全だからな。お前のジーンズ姿、懐かしいな」
「ありがとう。すごく嬉しい」
遙は俺の唇にキスを一つ落とすと、俺の居室へと入って行った。
俺は用意されていた袴に着替え、俺の部屋へと入った。
遙はすでに着替えていて、鉄瓶で湯を沸かしながら、タバコを吸っていた。
俺が買ってやったゴスなカットソーに、ジーンズの、シンプルな格好だ。
鎖骨の下で、俺がプレゼントしたロザリオと片翼のロケットが揺れている。
大きな胸と細くくびれた腰が気になるが、外に連れ出せる許容範囲内だ。
「政宗、紅茶淹れようか?」
「ああ、頼む。椅子に座るとお前を抱き締められなくて寂しいけどな」
「ふふっ、ソファはないけど、イタリアなら寝椅子があると思うよ」
「なら、それも取り寄せるか」
「うん、楽しみ」
湯が沸くと、遙は丁寧に紅茶を淹れてくれた。
あの頃、俺に淹れてくれたフレーバーティーではないが、優しい時間が流れて幸せな気持ちになる。
俺達は、起き抜けのタバコを吸いながらゆっくりと紅茶を飲み干した。
「そろそろ行くか。小十郎達が待っているはずだ。そのまま俺は仕事に行くから、何かのためにバッグ持って行け。退屈するだろ。俺が持つから」
「うん」
俺は遙と一度長いキスを交わしてから、部屋を出た。
手を繋ぎながらゆっくりと廊下を歩く。
朝から最高に気分がいい。
こんな朝は久々だ。
「あれ?遙様、超可愛い格好してる!見た事ねぇッス!」
「遙様、あんなに胸、でかかったんッスね。腰のくびれもたまらねぇッス!」
「だから、遙の裸を妄想すんじゃねぇっ!遙は俺だけのもんだっ!」
俺はまた鈴なりになっている部下達に向かって怒鳴った。
隣の遙がくすくすと笑い出す。
「これだけ褒められると、ちょっとは自信つくね」
「ちょっとどころじゃねぇ。お前はもっと自覚しろ。心配でたまらなくなる。まあ、伊達でお前に手を出すやつはいねぇから大丈夫だけどな。長曾我部にも嫁がいるからあいつは安心だ。あいつも愛妻家だ。嫡男にも恵まれてる。羨ましいぜ」
「元親って奥さんいるんだね。子供かぁ。羨ましいな」
「だから、婚儀が済んだら、世継ぎ作りだ。早く俺も嫡男が欲しい」
「女の子が生まれたらどうするの?」
「ゆくゆくは東宮に嫁がせるだろうな。帝の子はまだ幼い。丁度釣り合うだろ。俺は次期帝の外戚になる。完璧だ。だから、姫でも構わねぇが、やっぱ嫡男だ」
「何かすごいプレッシャー…」
「大丈夫だ。心配すんな!毎日抱いてたら、必ず子供は出来る。男でも女でも楽しみだ!さあ、着いたぞ」
襖を開けると、白衣を着た美紀と猿飛と、小十郎、成実がいた。
昨日と同じように、俺は成実の隣に座った。
「あ、遙!ジーンズ着てるんだ。私もジーンズに履き替えようかな。今日は馬に乗るから」
「そっか。八王子に行くんだもんね」
「うん」
「美紀、爺やには俺から文を書くから、まずは馬の稽古だ。治療はそれからにしろ。猿飛、お前が責任持って指導しろ」
「了解!」
隣から成実が遙の顔を覗き込む。
「遙ちゃん、その着物、超可愛いねー!ぼんっ、きゅっ、ぼんっ、て感じでさ。超セクシー!」
「まあ、遙は細身だけど、骨盤はしっかりしてるし安産体型だね」
「そうなのか?」
「うん。だから、政宗も安心して子供作りなよ。なかなか出来なかったら、私が不妊治療してあげるから、大丈夫。意地でも男の子産ませられるよ」
「マジでか!お前、すげぇな!」
「それが私の専門だからね」
「美紀、お前ぇが専門で助かったぜ。政宗様のお世継ぎが何よりも大事だ。伊達の基盤を盤石にさせるためにな。では、政宗様、朝餉を始めてもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わねぇ」
「おい!政宗様が来られた。朝餉を持て!」
「はっ!」
ほどなくして朝餉が運ばれて来た。
旬のイワシの焼き物数匹に、野菜たっぷりの味噌汁、トマトとキャベツのサラダ、それに白米だ。
あの頃、遙が作ってくれた朝餉を思い出して、俺特製のドレッシングもある。
ヨーロッパの香草と酢とオリーブ油と塩で作ったものだ。
「わぁ!私が作るご飯によく似てるね!あの頃を思い出すなぁ。ドレッシングまである。ドレッシング、政宗の手作り?」
「ああ、そうだ。それに、野菜は全部小十郎が育てたものだ。美味いぜ?」
「憧れの小十郎の野菜だ…」
「ほら、冷めないうちに食え。俺も食う」
頂きます、と遙と同時に言って、俺は箸に手を付けた。
「このお味噌汁美味しい!野菜の旨味たっぷりで。今までで一番美味しい!」
「本当だ!流石、お野菜名人、小十郎!」
美紀まで大喜びをしている。
小十郎は嬉しそうに笑っている。
「遙様がそんなに喜ばれて、とても嬉しく思います。夕餉はきんぴらごぼうに、焼き鳥のネギまでもお召し上がりになりますか?鍋の季節ですから、鶏鍋でも致しましょうか」
「小十郎、いいideaだ。夕餉はそれで決まりだな」
「わぁ…小十郎のお野菜たっぷりの鍋、美味しいんだろうなぁ…。お肉もたっぷりだと嬉しい」
「ああ、いいぜ。お前がそんなに喜ぶとはな。ああ、そういえば、小十郎。遙の白無垢だが、モチーフを決めた。生地を織って刺繍するのに半年はかかりそうだから、早速手配しろ。いくつか作らせて、その中から決める。それから青山に教会を作らせろ。そこでキリスト教式の式も挙げたい」
「かしこまりました。流石は政宗様でございます。この小十郎も、いつ切り出そうか見計らっておりました。早くお世継ぎをもうけて頂きたいからでございます。何をモチーフになさるのですか?」
「朝餉が終わったら教えてやる」
俺は悪戯っぽく笑った。
流石の小十郎でも思いつかないと思ったら、楽しくて仕方ない。
遙は始終小十郎の野菜に感心しながら、ゆっくりと朝餉を終えた。
茶が運ばれて来て、俺も朝餉を終えると食後のタバコに火を点けた。
成実が俺の肩を抱いて楽しそうに笑う。
「なぁ、なぁ、梵。俺、お前の考えてるモチーフ分かったぜ?お前なら、絶対あれしかねぇな」
「まだ言うな、成実。遙に少しは考えさせる。謎かけだ」
「まあ、お前がもったいぶる気持ちも分かるから、黙ってるけどさぁ。この伊達男が」
成実は笑いながら俺の頭を小突いて、身体を離して俺のタバコを吸い始めた。
遙は不安そうに俺を見つめた。
その頭をくしゃりと撫でる。
「謎かけ?難しいの?外れたらペナルティとかある?」
「そんなの、ねぇよ。ヒントをやるからお前なら絶対に分かる」
「そう?」
「謎かけですか。政宗様、ヒントとは?」
「ああ。一番格式の高いモチーフだ。お前ならそれで一発で分かるだろ?」
小十郎は目を細めて微笑んだ。
「得心致しました。実に政宗様と遙様らしいモチーフでございますね。これ以上お似合いのモチーフはございません」
「だろ?俺もそれしかねぇと思った」
遙は驚いたように目を瞠った。
「小十郎、それだけで分かったの?」
「左様でございます。遙様も、少しお考えになればすぐにお分かりになると思います」
遙はその美しい眉をひそめて考え込んでいる。
「格式の高いモチーフか…。着物はあんまり詳しくないし、結婚を避けてたし、着せられてもウェディングドレスだと思っていたから、全然思いつかない」
「私も結婚の時に色々見て回ったけど、白無垢はお花のモチーフが多かったかな。あとは、鶴亀?格式までは分からないなぁ」
「俺も婚儀には興味なかったから、柄の格式までは知らないや。お手上げ」
美紀と猿飛まで眉間に皺を寄せて悩んでいる。
「確かに鶴亀は縁起がいいが、それはハズレだ。俺達の愛は千年や万年じゃきかねぇ。もっと、俺と遙らしいモチーフだぜ」
「政宗様と遙らしいモチーフか…。千年や万年じゃきかないか…。それより長いってなると…あっ!俺も分かった!確かに鶴亀より縁起がいいね。ヒュー!ヒュー!流石天下一の伊達男っ!」
「ええっ!?佐助も分かったの?ずるいっ!こっそり教えてよ!」
「じゃあ、耳貸して。遙にはまだ内緒」
猿飛が美紀の耳元で囁くと、美紀は驚いたように目を瞠って、そして笑顔になった。
「そりゃ、遙、喜ぶねー!流石は政宗!最高の伊達男だよっ!」
「だろ?」
俺が嬉しそうに笑うと、遙は拗ねた表情で俺の袂を引いた。
「ねぇ、政宗。何で私だけ仲間外れ?ずるい…。私だけ分からない」
「拗ねるな、遙。じゃあ、あと二つヒントをやる。まず、モチーフは動物だ。そして、俺とお前が一番大切にしてる曲と深い関係がある。お前なら、このヒントで絶対分かるだろ」
遙は眉間に皺を寄せて、視線を落として悩んでいる。
「一番大切な曲だから、間違いなくEternal Flameだよね?」
「ああ、そうだ」
「それで、動物?永遠に燃える炎と動物…?まさか…?」
「ああ、そのまさかだ」
みるみるうちに、遙の目に涙が浮かんで、遙は俺に抱きついた。
俺は遙の後頭部をあやすように撫でた。
「ずるい…。まさか火の鳥がモチーフだなんて、政宗ったら、本当に生粋の伊達男なんだから…」
「嬉し涙なら、いくらでも泣いていいぜ?ただし、単なる火の鳥じゃねぇ。つがいの鳳凰だ。火の鳥は確かに不老不死で、永遠の炎を身に纏う鳥だが、鳳凰はつがいでな。片方が死ぬと、もう片方も後を追って死ぬ。永遠の愛の象徴のつがいだ。これ以上、俺とお前にぴったりの白無垢なんてねぇよ」
「政宗っ…!」
遙は、すんすんと鼻をすすりながら、泣きじゃくった。
皆が微笑ましそうに遙を見守る。
「良かったな、遙ちゃん。梵が世界最高の伊達男で。そんな白無垢用意出来るの、梵くらいだ」
「うんっ、嬉しい…」
「私も鳳凰の事までは知らなかったけど、遙、本当に良かったね!」
「うんっ…」
「この小十郎の沽券にかけましても、最高級の白無垢をご用意させて頂く所存。早速手配致します」
「ああ、頼んだぜ、小十郎。婚儀の後に着せる打掛も鳳凰の柄でいくつか作らせろ。目一杯、張り切れ」
「はっ!」
遙はしばらく泣いていたが、やがて泣き止み身体を少し離したので、少し長めのキスを交わした。
皆は、そんな俺達をずっと微笑ましそうに見守っていた。
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