政務の時間 act. 1 -2-

タバコをもう一本吸っていた成実が興味津々と言うように膝を進めた。

「ねーねー、梵。ベッドって褥の事だろ?」
「ああ、そうだ。布団よりも厚くて寝心地がいい。遙の部屋にあった」
「いーなー、梵。そこで世継ぎ作りか。たまんねぇな」
「だろ?スプリングが効いてて女も抱きやすい。だから、俺もベッドが欲しいし、引きこもるための部屋も作んなきゃならねぇな。ベッドが届く前に部屋は作るか」
「ヒュー!ヒュー!流石は梵だぜ」
「政宗、恥ずかしいからあまり言わないで?」
「何が悪い?これだけ政務に励んでるんだ。夜くらいは贅沢させてもらうぜ。誰にも文句は言わせねぇ。お前だって布団よりベッドの方がいいだろ?」
「そうだけど…」

遙は照れ隠しのようにまたタバコに火を点けた。

「筆頭!最中持って来ました!」
「おう、入れ!」

リーゼントをがっちり固めた部下が部屋に入ると、遙を見て頬を染め、無言で俺の前に最中の山を置いた。

「Hey、俺の女に見惚れたか?」

からかうように言うと、ますます顔が赤くなるのが面白くて、俺は思わず笑い出した。
成実も笑っている。

「見惚れるなって方が無理ッス。こんなにナイスバディで超美人ッスから」
「政宗、こんなたくさん!?」
「ああ、八つ時の分までな。また呼ぶのが面倒だからな。4人だから、丁度いいだろ」
「流石、政宗の部下だね!気が利く!」
「と、とんでもねぇッス!俺はただ、筆頭と小十郎様に怒られないようにしただけで…」
「それでも嬉しい!ありがとう!」

遙が嬉しそうににっこりと笑いかけると、部下は今度こそ真っ赤な顔になった。
それが面白くて、俺はわざと目の前で遙にキスを何度かした。
嬉しそうに遙が微笑む。

「そ、それじゃあ、俺はこの辺で失礼します!」

慌てたように部下は立ち上がり部屋を出て襖を閉めた。
その途端、声を張り上げた。

「伝令伝令!!俺、遙様とおしゃべりしちまったぞ!!笑顔、超絶可愛かったッス!!筆頭がキスしてたッス!!」
「うぉおおお!すげぇえええ!話聞かせろや!!伝令伝令!!遙様の話が聞けるぞ!!」
「マジでか!!伝令伝令!!」

瞬く間に伝令が広まり、足音がバタバタと遠ざかって行って、俺は笑ってしまった。
俺の涙酒も大概だったが、遙の笑顔は男殺しだ。
正に、伊達軍最強のアイドルだ。
遙は呆れたようにぽかーんと成り行きを眺めていた。
その頭を俺は軽く小突いた。

「お前はもっと自覚しろ」
「何を?」
「お前の笑顔は男殺しだ」
「そう?政宗も小十郎も成実も大丈夫じゃない」
「俺達は女慣れしてるからな。基本的に伊達軍は野郎ばっかだ」
「そうなんだ…。知ってたつもりだけど、ここまでとは…」
「さあ、遙。タバコ吸ったら最中を食え」
「そうか。そうだったね。じゃあ、頂きます!」
「昼餉はどうする?」
「おにぎりでいい」
「そうか、俺もそれでいい。仕事が溜まってるからな。おいっ!誰か今から米を炊けっ!握り飯だっ!具は俺が好きなやつだぞっ!」
「筆頭、了解ッス!」

タバコを吸い終えた遙は嬉しそうに最中を食べている。
俺も嬉しくて頬が緩む。

「虎屋の最中に似てて、すっごい上品!流石、政宗!美味しいよ!」
「そうか?俺も一つだけ食う。小十郎、成実も遠慮すんな」
「はっ!」
「一個、もーらいっ!」
「はぁ…やっぱり頭使うと身体が糖を欲しがるね」
「そうだな。俺も間食するようになっちまったぜ。もっと身体鍛えねぇとお前に嫌われるな」
「政宗の身体は十分綺麗だよ?2時間に120キロカロリーまでなら太らないから大丈夫。政宗はそのままでいいよ。最中一個くらいどうって事ないから、食べて?」
「お前がそう言うならそうするか」

熱い茶を啜って最中を食べると頭がすっきりとした。
米が炊けるまであと1時間か…。

「小十郎、成実、お前ぇらが読んだ議事録について報告だ」
「Okay!」
「はっ!」

全国の治水開墾、インフラの整備状況、今年の農産物の出来高、全国の軍備、海外勢の動き、貿易の状況など、端的に小十郎と成実が報告する。
俺も読んだ議事録の要約を小十郎と成実に話した。
遙は感心しながら話をずっと聞いていた。

「3人とも天下のブレーンだね。流石、政宗!私の世界のシステムのいいとこ採りしてる!」
「そうか?お前に褒められると嬉しいぜ。午後も頑張れば甲斐にいた頃の遅れは取り戻せるな。お前の養女縁組についての文も書く」
「そうなの?すごいね!」
「それくらいのシステムは整えたからな。いかに楽するかだ。小十郎、後で綱元に、今年の作物の出来高に応じた税率を算出させろ」
「はっ!」
「よし、じゃあここで一旦切り上げだ。そろそろ米が炊けるはずだ。小十郎、もう一杯茶だ」
「はっ!おいっ!誰か茶を持って来いっ!でっかい急須だっ!分かってるだろうな!」
「もちろんッス!」

ほどなくして大きな急須と握り飯が届けられると、小十郎は俺達に茶を振舞ってくれた。

「わー!おにぎりだ。具は?」
「多分、明太子と高菜だぜ。あと、季節的に紅鮭か」
「ええっ!?明太子なんて、この時代にあるの!?」
「朝鮮から技術を輸入した。お前の世界で気に入ったからな。どうやって俺の世界で手に入れられるか調べてた。鱈は伊達領内でたっぷり水揚げされるしな」
「そうなんだ…」
「全部お前の好きな具材だろ?」
「うん!嬉しい」
「ほら、冷めないうちに食え」

遙は余程腹が減っていたのか、ぱくぱくと握り飯に食いつき、3つも食べたので、俺は驚いた。

「お前、大丈夫か?」
「ちょっと食べ過ぎた…。夜はお米いらない…」

小十郎がくすりと笑う。

「では、夜は米はなしに致しましょう」
「うん…。炭水化物は夜6時までに控えておけば、太らないから大丈夫」
「でも、それだけ食えるようになって安心したぜ。もう大丈夫そうだな?」
「うん!検査もいらないと思う」
「よし。じゃあ、茶を飲んだら政務の続きだな」
「ねぇ、政宗。私は何してればいい?お城の探検?」
「ダメだ。お前は俺の傍にずっといろ。四次元ポケットから何か出して遊んでろ」
「そんなに都合よく出て来るかなぁ」
「いいから、遊んでろ」
「んもう、仕方ないな。馬に乗って遊ぼうと思ったのに。運動になるし」
「片時も俺から離れるんじゃねぇ」
「ヒュー!ヒュー!熱々ー!梵は本当に遙ちゃんが好きだねー。遙ちゃん、諦めな。梵が片時も離すはずがねぇよ」
「もう…分かったよ」

遙はやれやれと溜息を吐いて、ボストンバッグを引き寄せた。

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