政務の時間 act. 2 -2-

「はぁ…こんなに立て続けにメタルとハードロック弾きまくったのって大学生の頃以来だな。それでも2時間か。やっぱりプロのアーティストはすごいな。ライブ2時間以上弾くもんね」
「お前も大したもんだと思うけどな。iPod持って、こっち来い」
「うん」

俺の隣に座る遙を、膝の上に抱き上げる。
遙はおとなしく腕の中にすっぽりと収まった。

「小十郎、急須を取り替えさせろ。休憩だ」
「はっ!」

小十郎は大声で部下に茶を申し付けた。

「ねぇ、政宗。プロポーズの歌、もう一度歌って?一番好きなの。Bad Medicineの前に」
「何!?梵、プロポーズしたのかよっ!俺も見たかったぜっ!聞かせろよ、プロポーズの歌」
「ああ、いいぜ。遙、Nothing But Loveかけろ」
「うん」

遙はiPodをいじって、曲を再生した。
あの日の遙の涙を思い出しながら、俺は最大限の気持ちを込めて歌い始めた。
遙の身体が小刻みに震え始める。
成実は、ほうっと感嘆の声を上げて、歌詞に聞き惚れている様子だ。
小十郎は思い出したのか、目に涙を浮かべた。
腕の中で泣き始めた遙の涙を拭いながら、俺は最後まで歌った。

「愛に勝るものはなし、か。お前、本当に変わったな。見たかったぜ、お前のプロポーズ。街道なんかで待機してる場合じゃなかったぜ」
「悪ぃ悪ぃ。遙を驚かせようと思ったら、江戸まで待ちきれなかった」
「婚約指輪なんて、貰えると思わなかったよ」
「婚約指輪?」
「うん、ほら、このダイヤが一周してるエターニティリング。婚約指輪ってね、プロポーズの時に男の人が贈る物なの」
「へぇ!遙ちゃんによく似合ってるじゃねぇか。流石は伊達男だな、梵。名前までeternityか。つくづくお前、Eternal Flameが好きだな」
「まあな」
「あの時の政宗様は、人生で一番輝いてらしたぜ、成実」
「Shit!だから、そういう大切な時は俺も呼べよなー!」
「婚儀の時はもっと輝くから大丈夫だ、成実。遙の最高に綺麗で可愛い花嫁姿が見られるからな」
「頼むぞ、梵。で?Bad Medicineって?悪い薬?」
「ドラッグって阿片みたいなのを指すんだけど、阿片って分かる?」
「ああ、知ってる。足利の時代に日本に入って来たはずだ。あれは高価で、人間を壊す薬だな」
「そっか。阿片みたいに病みつきになる恋の歌かな、ねえ、政宗?」
「そうだな。お前のキスは、阿片と一緒だな。最強のドラッグだ。俺は薬はやらねぇけど」

そう言って、俺は遙に何度かキスをした。
ああ、本当に病みつきになる。
何度キスしても物足りない。
いっそ、本当に引きこもりたい。

「ドラッグねぇ。玄宗みたいに乱心すんなよ?梵。国が乱れる。で?聞かせろよ、Bad Medicine。どんな歌か気になる」
「Okay、遙、曲をかけろ」
「うん」

遙はBad Medicineを再生した。
軽快なイントロが終わると、二人で歌い出す。
成実もノリながら、頬杖をついて歌詞を聞き取っている。
途中で茶が運ばれて来たが、俺は遙と見つめ合いながら最後まで歌った。

「やっぱり政宗にBon Jovi似合うね!」
「そうか?じゃあ、Born to be my baby歌ってやろうか?」
「American Idiotも歌いたいな」
「いいぜ?」
「お前ら、本当にラブラブだな!恋の病の次は、梵のために生まれてきた女か。American Idiotもそうなのか?」
「ううん。反戦の歌」
「ああ。こいつは戦を嫌うからな。だから、俺は戦を手早く終わらせて来た。なるべく血を流さないようにな」
「なるほどねー。それで、お前、和議にこだわって来たのか」
「そうだ」
「そのお陰で田畑もそう荒れる事もなく、江戸にも拠点をすんなり移せたのですね。遙様の影響でしたか。お陰でこの国も豊かになりました。誠に素晴らしい」
「でもね、平和だからこそ、防衛力が必要なの。他国に攻められないように。だから、常備軍は大切。伊達こそが世界の警察にならなきゃ」
「世界の警察、ですか」
「うん。圧倒的な軍事力を持ってたら、他国は手を出せない。理不尽な事が世界で起こったら伊達が調停出来る。でも、戦はダメ。せいぜい脅しまで」
「そういう事だ、小十郎。だから、甲斐に遙を迎えに行った時も数で脅した。布陣を考えたのはお前だけどな」

小十郎は、微笑んだ。

「遙様のお考えが、子々孫々と伊達家に伝わって行く事を願って止みません。お聞かせ下さい、反戦の歌を」
「うん、いいよ」

遙は、American Idiotを再生して、歌詞を表示させるとiPodを小十郎に手渡した。
成実はリズムに乗って、縦ノリしている。
俺達も最後までノリノリで歌い切って微笑み合った。

「随分と難しい英語ですね。どのような歌なのですか?」
「政府に操られたメディア…瓦版とかね、そういうのに惑わされて戦を応援しちゃダメって言えばいいのかな。政宗、どう思う?」
「まあ、簡単に言えばそうだな。俺はメディア統制するつもりはねぇが、その気になれば、国全体を戦の機運に持って行くのは瓦版を意図的に使えば簡単だろ?そんな事は絶対にしねぇが、大きな戦を起こすならいい手だ。さっきの歌は、そんなのに惑わされずに本質を考えろって歌だ」
「なるほど、そういう歌だったのですね。納得致しました」
「梵、さっきの歌、ノリ良くて、良かったぜ?もっと頭の悪い歌だと思った」
「クッ…Green Dayは頭の悪い歌もあるが、基本的に反抗的だな。パンクってそんなもんだ」
「なるほどねー。いっそ、歌でこの国を統制してみたらどうだ?民もノリノリで従うんじゃねぇか?」
「そうかもな。面白い考えだ」
「それにしても、遙ちゃんって最高にcoolだな。梵も惚れるよな。俺も惚れそう」
「手を出さなければ惚れても構わねぇよ。さあ、遙、すっかり茶が冷めちまったが、タバコ吸いながら飲もうぜ」
「うん」

遙を膝の上から下ろし、俺達はタバコに火を点けた。
成実もタバコを受け取って吸い始めた。

「遙がいると、政務も楽しいな。息抜きの時に抱き締めるのが夢だった」
「俺はサボっちゃったけどね」
「聴き慣れたら捗るようになるから心配すんな。最初は驚いても無理ねぇよ」
「確かに、梵、いつもより捗ってるな」
「だろ?こんなに楽しいのは初めてだ」
「政宗様が嬉しそうで何よりでございます。茶菓子はお召し上がりになりますか?」
「疲れてねぇからいらねぇ」
「私もいらない。ギター、最高に気持ち良かった」
「お前、ベッドの中と同じ顔してたぞ?」
「え?嘘…」
「遙ちゃん、最高にセクシーだったぜ?いい物見せてくれて、thanks!」
「もう…」

遙が膨れっ面をすると、小十郎が堪え切れないように笑い出した。

「ねーねー!政宗っ!遙の様子見に来たよ!入ってもいい?」

部屋の外から美紀の声がした。

「ああ、いいぜ。入れ。茶菓子あるぞ。おいっ!誰か湯呑みを二つと新しい茶を持って来い!」
「了解ッス!」

美紀は猿飛を伴って部屋に入ると、エレキギターを見て目を瞠った。

「遙、それどうしたの?いいな、いいな!私もピアノ欲しい!」
「流石にグランドピアノは出て来ないと思うな。政宗がヨーロッパから取り寄せてくれるって言ってたよ?ストラトヴァリウスも」
「マジで!?流石、政宗、太っ腹!遙、お昼は食べれた?」
「おにぎり3つも食べちゃった。夜に野菜と肉を食べればバランスいいかな」
「今までの反動だね、きっと。胸焼けは?」
「してない」
「よし、経過は順調そうだね」

美紀はホッとしたように朗らかに笑った。

「お前がいてくれて本当に助かるぜ。昼餉はどうした?」
「馬の練習が楽しくてさ、食べるの忘れちゃった」
「まだ3時前だ。最中どっさりあるから、それでも食え」
「マジで?政宗、サンキュ!佐助も食べよう?」
「んー、じゃあ、お言葉に甘えて、貰おうかな」
「ああ。猿飛も、食え」

すぐに新しい急須も届けられて、俺達は熱い茶を啜りながらタバコを吸った。
美紀は嬉しそうに最中を食べている。
猿飛は、一口食べて驚いたような顔をした。

「流石、天下人の好む最中!皮も餡子もその辺のと全然違う!甲斐じゃ食べた事ないな。京でもなかなかないね」
「俺、甘いの苦手だから、本当に美味くねぇと食えねぇんだ。これは、俺のお気に入りだな」
「流石、政宗様!やっぱり天下人は違うね」
「天下人っつーか、俺、料理するから、それでだろ、きっと」
「政宗の手料理、美味しかったなぁ」

遙が懐かしそうな遠い目で、うっとりと微笑む。
その頬にキスをして、遙を抱き締めると耳元で囁いた。

「お前の料理も美味かったぜ?」
「ふふっ、天下の政宗様に気に入ってもらえて良かった」
「俺の事は、政宗って呼べ。遙、愛してる」
「私も政宗の事を愛してるよ?」

そのまま軽く何度かキスを交わすと、美紀と猿飛がまじまじと俺達を見つめていた。

「はぁ…相変わらずのラブラブだねぇ。どうしたら、そうなれるのやら…。馬の練習ではしゃぎまくってた私達と全然違う…」
「そうだね…。何か、ごめん…」
「いや、佐助が悪いんじゃない。多分、私のせい」
「いや、多分、俺のせい。伊達男にはなりきれないからさ」

俺は堪えきれずに笑い出した。
独眼竜は伊達じゃねぇ。
俺になろうなんざ、千年早い。

「クッ…伊達男は伊達家の専売特許だ、諦めろ。出来るとしたら、成実くらいだ。お前ぇらは、お前ぇらなりの付き合い方を考えろ。遙も伊達女だから、特別だな。美紀、お前、遙みたいになれんのか?」
「それは無理」
「なら、別の方法を考えろ」

成実は面白そうに笑い、小十郎も微笑ましそうに俺達の会話を聞いていた。

「政宗様。政務の方はいかがでございますか?」
「遙のギターのお陰でほとんど終わった。お前は?」
「あと、半刻ほどで終わります」
「俺と同じだな。お前はその後、夕餉の野菜の収穫に行って来い」
「はっ!」

美紀は最中を3つほど食べて満足したのか、茶をゆっくりと啜って幸せそうに吐息を吐いた。

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