「何がいいの?あんまり激しくないのがいいよね?」
「そうだなぁ。あ!あれ弾いてよ、めっちゃホリデイと、会いたかった」
「ははっ!美紀って相変わらずアイドル好きだねー!私と好みが正反対。マーティ・フリードマンのやつでいい?」
「それなら、天城越えとポリリズムも弾いて?」
「いいよ」
「遙、マーティ・フリードマンってメガデスのか?」
「うん。政宗が帰った後に面白いアルバムが出たの」
「是非聞かせろ」
「ちょっと待ってね」
遙はiPodを持って立ち上がると、ギターの調弦をした。
そして、曲を流してすぐにギターを鳴かせ始めた。
曲調はメタルなのに奏でているのがアイドルの曲で、俺は思わず笑ってしまった。
遙も笑っている。
美紀は、遙のギターに合わせて踊りながら歌い出して、ますます俺を笑わせた。
遙のギターが最高にcoolなだけに、余計笑える。
「政宗様、遙のギターってヤバいね!」
「ああ、神業だろ?それだけに笑えて仕方ねぇ!ククッ…!」
「何でそんなに笑うの?」
「元が可愛いアイドルの曲だからだ。こんなにヘヴィじゃねぇ、傑作だっ!」
一曲歌い終わると、美紀はうきうきと笑っていた。
「やっぱ、あややはテンション上がるね!」
「あんま、俺を笑わせんな!元の曲とのギャップで笑っちまう」
「だってしょうがないじゃん!キーボードないんだもん!ん?待てよ、遙のギターが出て来るって事は、キーボード出て来るかな?出来ればピアノと鍵盤の数と大きさが同じやつがいいな。遙、どうやってギター出したの?」
「ボストンバッグにお願いしてみた」
「そっか、私もやってみる!」
美紀はボストンバッグの前に正座すると、柏手を二つ打って祈り、ファスナーを開けた。
「本当だ…。キーボードが入ってる…。どんなのだろう」
美紀はキーボードをするするとバッグから出して歓声を上げた。
「やった!ピアノと鍵盤の数もサイズも同じ!タッチもおんなじ感じだ!これならピアノの曲弾けるな。ペダルもあるし。後は、スタンドと椅子だな。便利だな、これ」
「本当?ねぇ、美紀。ショパン弾いてよ。佐助も惚れ直すよ、きっと。ピアノ弾いてる美紀はセクシーだからね!」
「そうかな?」
「うん!」
美紀はいそいそとキーボードのスタンドと、椅子を組み立てて、キーボードを設置した。
ふと見遣ると遙もバイオリンを取り出し、布で拭いている。
「美紀、出来るならピアノ協奏曲第1番合奏しよう?私、コンマスパート弾くから。第1楽章だけでいい。その後、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を弾こう。そうしたら、政宗の仕事の時間に丁度いいと思うから」
「あ!それ、いいね!遙のiPodにピアノのパートなしのカラオケあればいいんだけどねー」
「ちょっと見てみる。…あ!あった!」
「完璧!じゃあ、早速始めようか。ピアノ始まるの遅いから、いつ始めてくれてもいいよ」
「分かった」
遙はiPodをいじると、すぐにバイオリンを弾き始めた。
ドラマチックでいて、どこか哀しげな音色に胸を鷲掴みにされた。
バイオリンに視線を落とす遙の目元が切なげで色気がある。
俺を含め、全員が感嘆の吐息を吐いた。
「何とお美しい…」
「ああ、そうだな、小十郎。最高に綺麗だ。見惚れちまって仕事になんねぇ」
「そうですね…」
遙の演奏から約4分が経過した頃合いに、美紀が柔らかく手を構えてピアノに力強く両手を落とした。
とてもドラマチックな演奏に鳥肌が立った。
今まで美紀なんて眼中に全くなかったのに、雰囲気に呑まれたような美紀の表情に目が釘付けになる。
あいつ、こんな顔も出来るんだな…。
憎まれ口叩いてる時と大違いだぜ。
確かに遙の言う通りセクシーだ。
遙のバイオリンよりはるかに上手い。
美紀は医者じゃなければ音楽家になってたというのがよく分かるようなテクニックだ。
ストレス解消のピアノは伊達じゃねぇ。
俺達は、ただただ驚いて美紀の演奏に聞き惚れていた。
ふと我に返って時計を見ると、10分が経過していた。
「小十郎、仕事の続きだ」
「左様でございますね。しかし、美紀にあんな才能があったとはつゆ知らず。この小十郎も楽が好きなものですから、つい聞き惚れてしまいました」
「いや、構わねぇ、俺も同じだ。いい気分で仕事出来そうだぜ」
「そうですね」
俺はいい気分のまま、残りの議事録に目を通して行った。
10分ほどして、演奏が終わり、次の曲が始まった。
力強く優雅でどこか切ない旋律に酔いしれる。
最高の気分だ。
遙も美紀のピアノに呑まれたように、気持ち良さそうにバイオリンを弾いている。
これは仕事が捗る。
俺は予定よりも早く仕事を終えて、じっと二人の演奏を眺めながら聴き惚れていた。
猿飛の顔はとても真剣で、食い入るように美紀を見つめていた。
やがて間もなくドラマチックな演奏が終わった。
俺達は拍手をした。
成実は指笛まで鳴らしている。
美紀が照れくさそうに笑う。
「ほら、猿飛。何をぐずぐずしてやがる。このタイミングで抱き締めてキスしてやれ。俺ならそうする。お前ぇらの関係、改善させたいんだろ?」
「え?ああ、うん」
猿飛は言われて気付いたように立ち上がり、美紀に歩み寄るとぎゅっと抱き締め耳元で囁いた。
「君のピアノ、最高に上手くて、君も綺麗だったよ。惚れ直した」
そう言って美紀に優しくキスをした。
美紀は真っ赤に頬を染めて猿飛を見上げていた。
「やれば出来るじゃねぇか、猿飛。その調子で美紀を口説き落とせ」
「なかなか政宗様みたいには行かないけどね、頑張るよ」
美紀は落ち着かないように、視線を彷徨わせていた。
「ね、ねぇ、遙?あの歌、政宗に歌ってあげなよ!」
「あの歌って?」
「聖子ちゃんの大切なあなた」
「えーっ!?恥ずかしいよ!」
「Eternal Flame歌うくせに今更でしょ?カラオケでよく歌って政宗思い出して泣いてたじゃん!再会した今がチャンスでしょ?」
「まあ、そうだけど…」
俺を想って泣いてた…?
気になって仕方ない。
「遙、失恋の歌か?」
「ううん、可愛いラブソング。可愛すぎて恥ずかしい…」
「可愛いならお前にぴったりじゃねぇか。聞かせろ、今すぐに」
「どうしても?」
「どうしてもだ」
「はぁ、仕方ないなぁ…」
遙は憂鬱そうに溜息を吐いて、iPodを再生させた。
ポップな音楽が流れ出す。
めぐり会えたね 待っていた運命の人に
広い世界で 一人だけ大切な貴方
遙は恥ずかしがりながらも、歌い続ける。
あまりにいじらしく、真っ直ぐな遙の想いが伝わって来て嬉しくてたまらなくなった。
俺は立ち上がり、遙をキツく抱き締めた。
「俺こそやっと巡り合えた。お前は俺だけの運命の恋人だ。この世で一番大切な女だ」
「政宗」
「こんな歌を俺に隠れて歌ってたなんて、可愛いにもほどがあるぞ!」
そう言って、俺は何度も遙の唇を奪った。
「遙、愛してる」
「私も政宗を愛してるよ」
「はぁ…。やっぱり遙と政宗には敵わないね」
「美紀、お前はもっと素直になれ」
「そうだよ。AKBのヘビーローテション、佐助に歌ってあげなよ。美紀もそういう気持ちなんでしょ?」
「うっ…何気なく歌うのはいいんだけど、改めて歌詞考えると恥ずかしい」
「いいじゃない。たまには自分の気持ちに素直になったら?ギター弾いてあげるから、歌いなよ」
「うん…」
遙はiPodで曲を再生させてカウントを取ると、ギターを弾き始めた。
すぐに美紀らしいきゃぴきゃぴとした歌が始まった。
でも、歌詞は美紀らしくないストレートなラブソングだ。
遙のギターに合わせて美紀は踊りながら歌い出した。
猿飛は薄っすらと頬を染めて聞き惚れている。
成実は、くすくすと笑っていた。
美紀が歌い終わると、猿飛は美紀に抱きつき、その頭をくしゃくしゃと撫でた。
「美紀、超可愛い!!俺の事、そう思ってくれてるの?」
「うん…」
俺達は笑いながら指笛を鳴らした。
「お前ぇらも関係改善して来てるな。まだまだだけどな。俺が認めたら祝言を挙げさせてやるから、楽しみにしてろよ?」
「うん、政宗、ありがとう」
「政宗様、ありがとう」
「では、小十郎は野菜の収穫に行って参ります」
「ああ、頼む。なぁ、遙、もっと歌ってくれよ」
「英語の歌でいい?」
「構わねぇよ。何を歌ってくれるんだ?」
「クイーンのI was born to love you と、エルヴィスのI want you, I need you, I love you かな」
「いいタイトルだな。聞かせてくれ」
「うん、いいよ」
遙はギターを弾きながらiPodに合わせて歌い出した。
これは、男が女に向けて歌っている曲だが、最大限の愛が込められた歌だ。
曲もキャッチーでとてもいい。
歌い終わると、次の歌を歌い始めた。
とても甘いラブソングだ。
遙というより俺向きだ。
ロマンスなんかいらないと思っていた俺を変えたのは遙だから。
少しでも離れていたら死にそうなほどだ。
ずっと抱き締めていたい。
そして、俺は遙を永遠に愛し続ける。
「遙、お前、この曲、俺に歌って欲しいんだろ?」
「ふふっ、バレた?I was born to love youもね」
「遙も政宗様に負けないくらいキザだねー。ねぇ、美紀。美紀もiPod持ってないの?部屋で二人で歌おうよ」
「持ってるよ。でも、恥ずかしいなー」
「Hey, 美紀。それくらいで恥ずかしがってるなら、祝言なんて挙げさせてやらねぇぞ?お前ぇらは一から恋をしろ」
「政宗がそう言うなら仕方ないか。佐助、部屋に戻ろう」
「うん、じゃあ、政宗様、失礼するね。最中ちょっともらって行っていい?」
「ああ、いいぜ。じゃあな」
美紀と猿飛は部屋を出て行った。
俺と遙は、成実に茶化されながら、夕餉の時間までラブソングを歌って遊んでいた。
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