男子会 -2-

梵の言う通り、亘理城には一刻もかからずに着いた。
登勢の部屋の前の庭に凧を降ろさせると、俺は真っ直ぐに登勢の下へと向かった。
登勢は布団に臥せり、真っ青な唇で辛そうに呼吸をしていたが、俺の姿を見るなり涙を浮かべた。

「成実様…もう会えないかと思った…」
「馬鹿な事を言うんじゃねぇ。俺と梵がお前を見捨てる訳ねぇだろ?梵が腕利きの医者を寄越してくれた。お前は治るんだ。応急処置が終わったら、お前を江戸に連れて行く。梵の許婚は、表向きは武田の姫だが、本業は腕利きの医者だ。江戸に着いたら本格的な治療をするらしい。お前と夜伽も出来るようになる。だから、気を強く持て」
「まさかそのような事が…。嬉しい…」
「登勢、愛してる」
「成実様、私も…」

俺は登勢に何度か柔らかいキスをして美紀を見遣った。
美紀は、バッグの中から様々な器具を取り出して準備をしている所だった。

「私は美紀。その唇の色、間違いなくチアノーゼだね。登勢ちゃん、このお薬を舌の下に固定してゆっくり溶かしてくれる?その間喋らないでね。それで楽になるはずだから。その間に胸のあたりにからくりをつけるね。ひやっとするけど、痛くないから我慢出来る?」
「はい」

登勢は、美紀から薬を受け取ると、舌の下に固定した。
その間に美紀は、着物の合わせから手を突っ込み、器具を取り付けている様子だった。
洗濯バサミのような物で、指を挟んで数値を見ると、表情を険しくして、登勢の口と鼻を覆うように透明なマスクを被せた。
しばらく部屋には不思議なピッピッと言う音が響いていたが、やがてほとんど紫色だった登勢の唇の色が元の色に戻って行って、俺はようやく少し安心して脱力した。

「とりあえずの危機は脱出したかな。成実、間に合って良かったね」
「ああ。お前は登勢の命の恩人だ」
「いや、完全に治すまでは気が抜けない。これはあくまで応急処置だから。もうしばらく酸素吸入を続けたらすぐに江戸に向かうよ。遙と政宗が待ってる」
「美紀、ありがとう。少し身体が楽になったみたい…」
「そう、良かった!もう少しこのマスクの中でゆっくり呼吸しててね。もっと楽になるから」
「はい」
「良かったな、登勢!美紀ちゃん、治せそうか?」
「遙に診てもらう必要があるけど、私の見立てが正しければ、手術で治せる。一応、胸の音も聞かせてもらうね」

美紀は、耳に器具を装着すると、そこから伸びた管の先を着物の合わせから差し込んで、何か音を真剣に聞いている様子だった。

「心雑音はなし。心臓の弁に異常はないから、多分狭心症で間違いないかな。あとはカテーテル検査して、どの程度冠状動脈が傷んでるかが問題だ。それは江戸に戻ってから調べるよ」
「そうか。あとどれくらい待てばいい?」
「とりあえず、30分…えーと、四半刻くらいかな。そしたら江戸に向かおう」
「Okay. 頼りにしてるぜ!」

俺は祈るような気持ちで、ずっと登勢の手を握り、頭を撫で続けた。
やがて、四半刻が経った頃、美紀は器具を外して荷物をまとめた。
そして、登勢の脈を取り、少し眉間に皺を寄せた。

「やっぱり心不全かな…。ペースメーカー入れなきゃだな。これも遙と相談だ」
「治らないのか?」
「すごく激しい運動が出来ないってくらいで、馬に乗るくらいは問題ない。夜伽も激しくなければ大丈夫。ただ、手術後1ヶ月は我慢して」
「そうか、1ヶ月か…」

1ヶ月も女断ちした事なんて、あまりなくて自信がない。

「太夫の所も通ったらダメだからね!変な病気もらったら登勢ちゃんにうつるからね!」
「Okay, okay, 行かねぇよ。登勢を守るためだ」
「よし!じゃあ、佐助、江戸に向かおう。なるべく早く帰りたいんだけど、時間の見積もりは?」
「んー、上手く行けば、1時間ちょいで行けるかも」
「オッケー!焔は、登勢ちゃんが気絶したらすぐに私に知らせてね」
「御意」
「じゃあ、急ごう。登勢ちゃんは温かい着物に着替えて」
「はい」

登勢が、屏風の向こう側で着替えると、美紀は何か白い湿布のようなものを登勢の着物の背中に貼った。

「それ、何?」
「カイロ。身体を温める道具。気温差は心臓に負担をかけるから、なるべく温かくね」
「なるほどね。便利だな」
「準備も出来たし、出発しよう!」

俺達は庭に降りると、凧に乗って江戸へと急いだ。
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