男子会 -3-

俺は成実の指定した部屋に敷布団を積み重ねさせた。
その間に遙は手術の器具を次々と取り出し、消毒液に浸していた。
そして、大きな屏風を申し付けた。

「政宗、冷めちゃっても構わないから、昼餉におにぎり用意しておいてくれる?最悪の想定で、6時間は手術に時間がかかるから、身体が持たない」
「分かった。おいっ!誰か握り飯を作って来いっ!今から米を炊けっ!」
「押忍!!」

遙はiPadを取り出して、何かを調べている様子だったが、やがて顔を上げた。

「色んな想定はしてるけど、実際診察しないと分からないし、美紀がもう手を打ってると思うから、ちょっと休憩しようかな。電話があれば到着時間が分かるんだけど、不便だね」
「そうだな。今のうちにお前を抱き締めさせてくれ。手術、時間かかるんだろ?」
「うん」

俺は遙の隣に座ると、遙を膝の上に抱き上げてキスを交わし始めた。

「政宗のキス、気持ちいい。もっと」
「止まらなくなるぞ?そのまま抱かれてもいいのか?」
「あと1時間くらいしかないんでしょう?」
「そうだな。この隣の部屋を人払いして抱いてやってもいいけどな」
「ふふっ、成実が予定より早く着いたら困るから、このまま横になって抱き合うのじゃダメ?」
「仕方ねぇな。それでもいいぜ。仮眠用の布団の上でいいか?」
「うん」

布団に移動すると、もつれ合うように抱き合いながら、濡れたキスを繰り返した。
段々とたまらない気持ちになって行って、白衣の上から豊かな胸を揉みしだきながらキスをまた繰り返している時の事だった。
庭先に気配を感じて、俺は唇を離した。
すぐに成実達が上空から降り立って来た。

「梵、遅くなって悪かった。登勢を連れて来た。遙ちゃん、治せる?」
「最終手段があるから治せるけど、まずは美紀の報告を聞こうかな。それで判断する」
「分かった」

成実は登勢を抱き上げて部屋に入って来た。
美紀達も後に続く。
美紀はバッグの中からiPadを取り出して、遙に画像を見せた。

「成実、登勢ちゃんを積み重ねた布団の上に寝かせて」
「分かった」
「遙、この心電図、どう思う?」
「十中八九、狭心症だね。どの血管が傷んでるか、血管造影しなきゃ。それから、この除脈と不整脈は心不全だね。ペースメーカーが必要だ。チアノーゼは?」
「起こしてた。ニトログリセリンと酸素吸入で何とか持ち直したよ。AEDは使わないでここまで来れた」
「了解。じゃあ、登勢ちゃんには着替えてもらって、検査と手術に入ろうか。カテーテルだけで治せれば一番いいんだけど、多分、バイパス手術が必要だと思うな」
「そっか…。大手術になるね」
「負担をかけたくないから、心臓を動かしたまま手術するよ」
「オッケー。私は補助に回ればいい?」
「うん。私は検査の準備をするから、美紀は登勢ちゃんの着替えと酸素吸入をお願い」
「任せて」

遙は俺を振り返った。

「おにぎり食べてからでいい?今の様子だと、緊急性はなさそうだから」
「ああ、いいぜ。とりあえず、茶でも持って来させるか」

俺は声を張り上げて、茶と握り飯を申し付けた。
その間に、遙は何やら道具を出して、布団の枕元に用意していた。
ほどなくして、握り飯と茶が届けられ、遙と美紀は打ち合わせをしながらせっせと食べていた。
成実は、布団に横たわる登勢の手を握りしめて、何度かキスをしている様子だった。
甲斐で遙を失いそうになった事を思い出すと、成実の気持ちはよく分かる。

「成実、心配すんな。登勢の事は遙と美紀が助けてくれるから」
「ああ。遙ちゃんと美紀ちゃんの事を信じる」
「政宗、これから検査と手術の準備をするね。気が散ったら困るから、屏風の向こう側は覗かないでね。それから、iPodで何か音楽流してて。リラックスして手術出来るから」
「Okay、任せろ」
「よし、美紀、そろそろ着替えて準備しよう」
「そうだね」

遙と美紀は屏風の向こう側へ消えて行った。
成実は不安そうな顔をして、屏風の向こう側から戻って俺の隣に座った。

「遙、何を聴きたい?」
「GACKTのThe Sixth Day、Love Letter、Diabolos、12月のLove Songの順番にアルバムかけて。その後、Bon JoviのCross Road、Mr. Bigのベスト盤とクイーンのベスト盤。それで手術が終わるはず」
「Alright、任せろ」

GACKTはテレビで何度か見た事があるが、歌はあまり知らなくて興味を惹かれた。
The Sixth Dayをかけて、屏風の向こう側のやり取りに耳をすませる。
遙達は着替えながら、消毒をしている様子だった。

「無菌室じゃないのが懸念だね」
「そうだね。抗生物質の投与で何とかなるかな」
「そうだといいけど。じゃあ、美紀、カテーテル検査を始めるよ」

しばらく部屋には音楽だけが鳴り響いていた。

「やっぱり冠状動脈が傷んでるね。バルーンで何とかなるレベルじゃない。バイパス手術が必要だ」
「オッケー、遙。想定内?」
「うん、このまま手術だね。専門的だから佐助に手伝わせる訳にはいかないし、人手が足りないから美紀には大変な思いさせるけど」
「大丈夫。頑張るよ」
「頼りにしてるよ」

そのまま、また遙はしばらく黙り込んで、部屋には電子音が響いていた。
やがて、遙は美紀に手術の器具を渡す指示を送ったり、補助の指示をする声が聞こえて来た。
アルバムは終わりの方になっていて、Last Songという歌になっていた。
あの頃、遙がよく口にしていた台詞とそっくりな歌で、なんだか泣けて来そうになった。
遙はただ聞き流しているだけなのか、至って冷静に美紀に指示を飛ばしていた。
君のためにできること、という曲に変わると、俺は遙との出会いの事を思い出した。
あの頃は再びこうして腕に抱けるなんて、思いもしなかったけれども、ずっと傍にいて守ってやりたいと願っていた。

そして、曲は再会〜story〜という曲に変わった。
歌詞を聞いて行くと、遙との別れの瞬間から、会えなかった7年間の想いが蘇って来て、涙がこみ上げて来る。
遙はどんな想いでこの曲を聴いていたのだろう。
成実は、俺の髪をくしゃりと撫でた。

「お前達の別れってこんな感じだったのか?」
「ああ」
「それは辛かったな。だから、天守閣であんなに寂しそうだったのか」
「そうだ」
「でも、これからは一緒だから、泣くな、梵」
「分かってる」

曲が終わると俺は涙を拭い、アルバムをLove Letterに変えた。
屏風の向こう側からは、遙が冷静ながらもピリピリとしながら手術している気配が伝わって来る。
アルバム1枚が1時間として、あと5時間はかかる見積もりになるか。

「成実、あと二刻半はかかる。席を外したかったら好きにしろ」
「登勢の命がかかってるのに、そんな事出来る訳ねぇだろ?梵だって遙ちゃんから離れたくなくてここにいるんだろ?」
「まぁな。それに登勢は俺にとっても幼馴染だしな」
「そうだな…。それにしても、この歌、いい歌だな。抱き締めて、身体中に溢れる温もりで君を愛したい。どんな時もどこにいても、全ての君をいつまでも、か。俺にとって、登勢はそんな存在だ」
「俺にとっての遙もそうだ」
「梵もやっと愛に目覚めてくれて嬉しいぜ。やっぱ俺達、従兄弟同士だな」
「ああ」
「そっか…。そういうのを愛って言うんだね。そんな気持ち、なくはないかな。まだよく分からないけど」
「猿飛、お前はまだまだだな。もっとスキンシップをしてみろ。そういう気持ちになるから」
「スキンシップねぇ。努力はしてみるよ、政宗様。お茶でも汲んで来ようか?」
「ああ、頼む。なぁ、遙、タバコ吸ってもいいか?」
「縁側で吸って来て」
「Alright、成実、お前は?」
「俺も行く」

猿飛は茶を沸かしに部屋を出て行き、俺と成実は縁側に移動してゆっくりとタバコをふかして部屋の中から聞こえて来る音楽に耳を傾けていた。

「胸に残る温もりも、奪った唇も忘れはしないから。遠く離れてももう無くさない、この愛だけは、か。切ないな、梵」
「ああ。俺の想いそのままだな。遙がどんな想いで聞いてたか思うだけで、泣けて来そうだ。あいつはどれだけ俺を泣かせたら気がすむんだ。GACKTがこんな歌を歌ってたなんて知らなかったぜ。あいつ、隠してたな」

一曲、噛みしめるように聞き取りながら、次のタバコに火を点けると曲が変わった。

「今度は、君に逢いたくて、誰よりも会いたくて、もう一度この手を繋いで欲しい、か。本当に遙ちゃんは健気だな」
「ああ、そうだ。だからこそ、愛して止まない大切な女だ」

しばらくすると猿飛が大きな急須と湯呑みを盆に乗せて縁側にやって来た。
今、かかっている曲は、遙がプレイリスト政宗に加えていた曲だ。
確か、曲名は、Love Letter。

「永遠を歩いてゆける。これからもずっと二人で。この胸に強く抱き締めた想いは変わらない。たった一つだけの愛してる、か。俺にそうプロポーズして欲しいって言ってたな、そういえば。別の曲でプロポーズしたけどな」
「Nothing But Loveだったよな、確か。梵らしくて良かったぜ?確かにこの曲もいいけどな。誓い合う約束を忘れないで。誰よりも大切だから。描いた夢を少しずつ叶えて行こうよ、か。祝言にぴったりだな」
「幸せな恋歌だねぇ。遙と政宗様にぴったりだ」
「そうだな」
「政宗、この曲でアルバム終わるから、次のアルバムかけて」

部屋の中から遙の声がして、俺は部屋に戻りLove Letterが終わるとDiabolosにアルバムを変えてまた縁側に戻った。

「あと、二刻か。日暮れギリギリだな。遙は元気になったとはいえ日がまだ浅い。こんなに長時間集中していて大丈夫なのか心配だ」
「そうだな。でも、遙ちゃんにしか出来ねぇんだろ?」
「多分な」
「負担をかけちまって悪ぃけど、頑張ってもらうしかねぇな。手術が終わったらゆっくり休んでもらうから」

俺達は言葉少なに、タバコを吸いながら茶を飲み、音楽をしばらく聴いていた。
歌を聴きながら、猿飛は溜息をついた。

「届かない愛と知っているのに、抑えきれずに愛し続けた、か。美紀に出会うまでは遙の事、そう思ってたな。遙が他の男の事想ってるの知っていたのにね。でも、俺は遙の幸せだけを願ってたから、その男に返してあげたかった。守ってあげられなかった事だけが悔しかったけど。本当に本当に、遙の事は守ってあげたかった」
「そうだな、猿飛。遙を返してくれて礼を言うぜ。でも、俺が遙を傷付けたようなものだ。だから、自分を責めるな。あの事件があったからこそ、遙は武田の姫という血筋を得たようなもんだしな。あの事件はきっと避けられなかった。これからは俺が命を懸けて遙を守るから安心しろ」
「そりゃ、天下の政宗様だからもう遙の事は心配してないよ?それより、美紀を幸せに出来るか心配だな。俺、浮気なんて絶対しないけど。友達感覚ってのが抜けきらないんだよね。美紀といると、純粋に楽しいんだ」
「俺も遙といると楽しいぜ?いいんじゃねぇか?それも」
「何て言うかさ、政宗様と遙みたいなラブラブに美紀は憧れてるんだよねー。コツは何なの?こっそり教えてよ」
「コツなぁ…。遙とは、ただ抱き合ってキスしてるだけで幸せでたまらねぇけどな。お前が言うラブラブってそういう事だろ?」
「俺、仕事柄、望んでキスした事ないからさ、だから分かんないのかもね、そういう感覚」
「なるほどな、お前忍頭だったもんな」
「そういう事」
「ふーん、猿飛、お前も大変だったな。俺も梵と同じ意見。遊びで抱く女は別にキスしなくてもいいけど、登勢は特別。夜伽も出来ない身体だったけど、こんなに大切でたまらないから、抱き締めたくなるしキスもしたくなる。夜伽なしで5年以上夫婦だぜ?」
「成実様、マジで!?それ、めっちゃ参考になる!どうやったら身体の関係なしで夫婦でいられるの?」

成実は遠い目をして、タバコの煙を中空に吐き出して考えていた。

「そうだな…。夜伽をしたら、俺が登勢を殺してしまう。だから、出来なかったな。でも、愛しくて堪らないから抱き締めたくもなるし、深入りしない程度のキスもしたくなる。最大限に我慢してたぜ。だからこそ、派手に女遊びしてたんだけどさぁ」
「女遊びしたら浮気になるから、やっぱ参考になんないや」
「これからはしねぇよ。やっと登勢を抱けるし。でも、激しいのはダメだろ?それに抱けるまでに1ヶ月かかるだろ?その間、耐えられるか自信ねぇなぁ」
「大丈夫だ、成実。遙の写真を貸してやるから、それで抜いて我慢しろ」
「マジで!?それなら外で女抱かなくても済むな!で?梵。どれくらい過激なんだ?」
「超絶過激だ。俺が7年間それで耐えられたくらいだからな!あの頃、遙、まだ幼さが残る清楚で可憐な感じで、身体はセクシーだったから、ギャップでそそられてたまんねぇ感じだ。写真撮っておいてマジで良かったぜ。今の遙も綺麗でセクシーでそそられるが、あの頃はあの頃で堪らなかった。まるで、小悪魔だ」
「小悪魔…。超絶可愛いんだろうな…」
「ああ、そうだ。超絶可憐だ。恥ずかしがってた所がまたそそる。絶対抜けるから安心しろ。1ヶ月くらいどうって事ないぜ」
「ちょっとー、政宗様!俺も見たくなるじゃん!遙の21の頃の姿!ってか、写真って実物見たまんまに写るやつの事?」
「ああ、そうだ。今の遙より、バストは一寸ほど小さいが、日本人にしたら十分デカい。何だ、お前も見たいのか?一緒に見るか?」
「え?いいの!?俺、怒られるかと思った!」
「遙に手を出さなきゃ構わねぇよ」
「政宗!アルバム終わってる!次のに変えて!」

部屋の中から遙の声が聞こえて、俺は慌てて部屋に戻った。

「12月のLove Songで良かったか?」
「政宗、内緒話で忙しそうだから、Bon Joviかけて」
「分かった」

遙はよほど集中してるのか、俺達の密やかなやり取りには気付いていない様子だった。
俺は遙が部屋に置いて行った新しいタバコの箱を持ってまた縁側に戻った。
手術が終わるまであと3時間だ。
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