「ねぇねぇ、政宗様。俺達は、凧に乗ったら江戸まであっという間だけど、騎馬隊はキツいよね?例の宿場で一休みするの?」
「そうだな。遙が疲れるだろうから、二晩ほどは宿場でゆっくりするつもりだ」
「分かった。じゃあ、俺達も馬で向かうよ。忍の襲撃に備えて、馬に乗るのは俺と美紀だけ。あとは護衛に回すよ」
「Thanks. 心強いぜ。じゃあ、さっさと馬に乗って出発だな」
俺は、駐屯地へ向かうと、遙を先に馬に乗せて、俺も馬に乗ると、後ろから抱き締めた。
「政宗、もう一人で馬に乗れるよ?」
「ダメだ。俺がお前をもう離したくねぇんだ」
「もう、どこにも行かないよ?」
「これから、宿まで爆走するからな。お前に無理をさせる訳には行かねぇよ」
「流石に爆走はキツいな…。もう、甲斐とはお別れだね。来た時の迂回路を通ろう。江戸に疱瘡の粉塵を持って帰る訳には行かないから」
「I see」
猿飛を見遣ると、猿飛も美紀を馬の前に乗せた所だった。
「じゃあ、帰るぜ。先鋒、行け!!」
「押忍、筆頭!!行くぜっ!!Ya-ha!!」
先鋒が走り出した。
それに続いて、俺達も走り出した。
途中、成実の部隊に出会って、俺は、馬を停めた。
成実は、目を瞠って、遙に見惚れた。
「梵が、7年も縁談を断り続けたのってこの子のため?分かる気がするなぁ。すごく綺麗で儚気な美人って言うのかな。それも、予想以上の美人だよ。俺は、政宗の従兄弟、伊達成実。よろしくね!」
「伊達成実…。よろしくお願いします」
「Hey, 遙に見惚れてんじゃねぇ!!さっさとしんがりを勤めやがれっ!!」
「はいはい。遙ちゃん、またねー。梵からは、遙ちゃんの事、色々聞いてるからさ。またお話しようねー」
「成実、余計な事を言うんじゃねぇっ!!遙、行くぞ!」
「あ、うん。成実、またね!」
「はーい。行ってらっしゃい」
俺は、また馬を爆走させ始めた。
あと半刻もあれば宿に着く。
やがて、武蔵との境の宿場に着いて、馬を降りると例の部屋へ向かった。
着いた時には、もう午後4時を回っていた。
部屋に着くと、遙は疲れたのか、机に肘をついて座り、俺は、遙の隣りに座った。
ほどなくして茶が届けられて、遙は一気に飲み干した。
「お前、相当疲れてるな」
「うん…。あれだけのスピードだったし、馬に乗るのも久しぶりだったから」
「悪かった。早く甲斐から抜け出たくてな」
「そうだね…。でも、全て丸く収まったし、痣も消えたから何かホッとしたよ」
「まだ、真田幸村の事は許せねぇけどな」
「もう二度とあんな事は嫌だよ。ここに来ても思い出すけど、温泉は嬉しいな」
「別の宿場が良かったか?」
「ううん。国境付近だから、何か安心する。後ろは成実が守ってくれてるし、政宗に守られてる感じがするから」
「そうか。お前の事は、これからはずっと守ってやる」
「うん。政宗と一緒にいると安心するよ…」
そう言って、遙は俺に抱き付いた。
「遙、ちょっと待ってくれ。着物に着替える。その方が落ち着くからな」
「あ、うん。懐かしいな…。政宗の鎧を脱ぐのを、初めての晩に手伝ったね…」
「そうだったな…」
俺は、籠手を外して遙の頬を両手で包むと、触れるだけのキスを何度か繰り返し、遙に手伝ってもらいながら、鎧を脱いだ。
そして、袴と小袖に着替えるとやっと落ち着いた。
「ほら、遙、もういいぞ。いくらでも抱き締めてやるから」
遙は本当に嬉しそうに笑って、俺の背に腕を回して俺に抱き付いた。
「政宗の身体、あったかい…。すごく幸せだよ」
「俺もだ、遙。お前、身体が冷え切ってるじゃねぇか。ちょっと待ってろ。火鉢をもう少しそばに寄せるから」
火鉢を机の前に寄せて、鉄瓶で湯を沸かしてもう一杯遙の湯呑みに茶を注ぐと、遙はホッとしたようにタバコを吸い始めた。
俺も、タバコを吸い始めると、やっと身体の疲れが取れて行くような気がした。
お互いにタバコを吸い終わると、遙を抱き締めて、その髪に手を差し込んで、俺達はキスを交わし始めた。
触れるだけのキスから、段々と深いキスに変えて行くと、遙は俺の着物の襟を握って、鼻にかかった甘い声を上げ始めたが、廊下の奥から人の気配を感じて俺はキスを止めた。
「政宗?」
「誰かが来る。おそらく小十郎と猿飛達だな」
「そんな事まで分かるの?」
「独眼竜は伊達じゃねぇ、you see?」
「ふふっ。久々にその台詞聞いたよ。政宗の声、大好き」
「そんな可愛い事、言ったら抱きたくなるから、後でな」
もう一度、触れるだけのキスをすると、襖の向こうから小十郎の声が聞こえた。
「政宗様、小十郎でございます。猿飛と美紀もおります」
「ああ、入れ」
「はっ!」
小十郎は、部屋に入り、猿飛と美紀を促すと、襖を閉めた。
「遙、調子はどう?診察に来たよ」
美紀は、相変わらずの明るい声でにこにこと遙に話しかけた。
「うん。胃の痛みもなくなって来たよ。もう普通食でいいと思うんだけどな」
「とりあえず、触診させて」
「うん」
遙は横になり、美紀は遙の胃の辺りを押して、痛みがないか確認していた。
時折、遙は顔を顰めて、まだ遙の身体が本調子ではない事を俺は悟った。
「薬が効いてるから、大丈夫だとは思うけど、消化のいいものだけね。刺激物は避けて、ご飯は普通で大丈夫」
「かしこまりました。そのように申し伝えます」
「あれだけの潰瘍だったら仕方ないよね。でも、ステージTからUくらいまでは回復してると思う」
「同感」
美紀は、ホッとしたように笑った。
「江戸に着いて、政宗と一緒にいたら、きっとすぐ治るよ」
「そうか。なら良かった」
猿飛もにこにこと笑って、遙を見つめた。
「ねぇねぇ、政宗様。夕餉の前に、温泉入ってもいい?」
「構わねぇよ。何なら俺達が風呂から上がったら、美紀と一緒に入るか?」
美紀は、頬を染めた。
「いや、くノ一のみんなと仲良くなりたいから、普通の温泉にしとく。…後で借りるかも知れないけど…」
「好きにしろ」
「政宗様、太っ腹だねぇ。俺も、部屋に温泉があったからさ、何か恋しくて。美肌の湯、楽しみだなぁ。夕餉の前に温泉入ってもいい?男湯入るし」
「構わねぇよ。夕餉はどうする?」
「ん?遙の食事は遙に任せるよ。もう大丈夫だから。何かあったら呼んで。私はくノ一達と女子会したいからさ」
女子会と聞いて、俺と小十郎は思わず笑ってしまった。
「好きにしろ」
「あ!俺と遙の女子会を思い出して笑ってるだろ?楽しかったけどさ」
「あれは傑作だったな。遙が俺一筋だって分かって嬉しかったぜ?もうすぐ夕餉だ。ゆっくり温泉に浸かって来い」
「うん、そうするよ。美紀、行こうか?」
「うん。じゃあ、遙、またね!」
「うん、じゃあね!」
遙は、美紀を見送ると、またタバコに火を点けた。
「小十郎、美紀と遙の浴衣と小袖を申し付けろ。流石に野郎共に、遙の白衣を見せる訳には行かねぇからな」
「はっ!護衛は、この小十郎が勤めます」
「ああ、そうしてくれ。あと、茶だ」
「では、一旦、下がります」
小十郎が下がって行って、俺もタバコに火を点けた。
「遙、ゆっくりタバコを吸ったら、風呂セットだ」
「うん。流石に武田の屋敷で石鹸を使うのは気が引けたから、久しぶり」
「じっくり時間をかけて洗ってやるよ」
「うん…」
遙は恥ずかしそうに頷いて、ゆっくりとタバコをふかしていた。
こうして、遙と二人きりで気兼ねなく過ごすのは、本当に久しぶりだ。
まもなくして茶が届けられて、ゆっくりと飲みながら、また次のタバコに火を点けた。
「今まで我慢してたから、その反動かな。タバコが美味しい」
「良かったな。俺もやっと落ち着いた。もう少しゆっくりしたら、風呂だな」
「うん。そのまま寝ちゃいそうだけど」
「好きにしたらいい。眠れそうなら、眠れ」
「ううん、政宗とご飯食べたいもの」
「そうか。だが、無理だけはするな」
「分かった」
遙は嬉しそうに笑うと、胸いっぱいに煙を吸って、幸せそうに、煙を中空に吐き出した。
俺は、遙の髪をくしゃりと撫でた。
確かに、いつもの風呂上りとは感触が違う。
早く風呂に入れないとな。
しばらくそうしてリラックスしていると、小十郎の気配が近付いて来た。
「政宗様。風呂の仕度が整いました。小袖も政宗様のお着替えも風呂場に置いてございます」
「Thanks、小十郎」
「遙様は、白衣のままお風呂場に向かいますか?」
「うん、そうする」
「しかし、その白衣なぁ…。身体のラインが丸見えじゃねぇか。野郎共にその姿を見せる訳にはいかねぇよ」
「そう?じゃあ、次亜で消毒して、浴衣で行こうかな」
「ああ、そうしてくれ」
「政宗様ならそうおっしゃると思いまして、こちらに浴衣を用意致しました」
「流石だな、小十郎。部屋の外に置いておいてくれ。着替えが終わったら、お前が先導しろ」
「承知」
「小十郎、後でいいから、たらいにお水汲んで持って来て。白衣を次亜に浸して消毒しておくから」
「かしこまりました」
俺は、部屋の外に置かれた浴衣を受け取り、遙を着替えさせて風呂セットを持つと、小十郎に先導させて風呂場に向かった。
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