そして、その動画が見たくてたまらなくなった。
切ない恋だったが、俺にとっては最高の思い出だ。
薄れていくばかりの記憶が、動画として鮮やかに残り続けるなんて、幸せでたまらなくて、遙がより一層愛しくなった。
「でもなぁ…。野郎共にお前の裸を見せる訳にはいかねぇし、喘ぎ声も聞かせる訳にはいかねぇからな。初夜の再現は難しいんじゃねぇか?」
「だから、そこは捏造するんだよ、政宗。私がほとんど吐息だけで小さく喘げば政宗の許容範囲内でしょう?それに、身体は政宗の背中で隠れるし、顔のアップで何とかなるでしょう?それがカメラワークだよ」
「なるほどな。吐息だけなら確かに許容範囲内だな。俺とお前の顔のアップなら、身体も確かに見られねぇな。ハリウッド映画の手法か?」
「うん、そういう事。あの時、政宗と見つめあって話しながら抱かれたよね。初めての晩の事は、今でも忘れられないよ」
「そうだな…。溶け合って一つになれば離れないで済むのにって言ってたな、お前」
「政宗もよく覚えてるね」
「当たり前だ。でもなぁ…流石にお前のイク顔は見せたくねぇな」
「だから、政宗が中にいる間、会話した後、しばらくキスしたでしょう?そこでフェードアウトして、政宗の腕枕のシーンに飛べばいいの。誰だって終わった後って分かるでしょう?時間も短縮出来る。そこで、私がEternal Flameを政宗に歌ってあげたよね?胸はシーツでギリギリの所を隠せばいい。胸の先さえ隠れれば許容範囲かな、シーツで隠さなくても。それで、政宗も私の頬を政宗の胸に当ててEternal Flameだって言ってくれて、そこから長いキスをしながらまた抱かれ始めたよね?そこでまたフェードアウト。どうかな?」
脳内で映像を流してみる。
確かにそれなら、夜伽をしているのは明白だが、遙の身体は見られないし、喘ぎ声も聞かれない。
俺達の切ない会話だけ伝えられて、大切な曲の謂れもお披露目出来る。
俺は改めて遙の頭の良さに舌を巻いた。
「お前、やっぱ最高に頭いいな!それなら俺も文句言えねぇし、むしろ見せびらかしてぇくらいだな。よし、その手で行く。最後のフェードアウトの後、ステージ中央に俺とお前は移動だ。そこでEternal Flameをデュエットする。二番までお前が歌ってコーラスパートを俺が歌ってハモる。どうだ?歌詞に合わせて、お互いの胸に手を当てる」
「わぁ!政宗最高!流石だね!」
「だろ?最高に盛り上がりそうだな!」
俺と遙はハイタッチをして少し紅茶を飲んだ。
「お前の見積もりだと、これで何時間くらいだ?」
「2時間かな」
「ここで中入りでもいいけどな」
「ふふっ、それは政宗に任せるよ。他に歌いたい曲は?」
「そうだな…5時間お前を抱いた後、眠るお前の寝顔をずっと見つめていたくて眠りたくなかった。後朝の歌をお前のバッグに忍ばせた後な。そこで、一曲歌いてぇな」
「あ、分かった。I don't want to miss a thingでしょう?エアロスミスの」
「クッ、正解だ。お前には敵わねぇな」
「ふふっ、だってプレイリスト政宗の曲だもの」
「それもそうだな」
遙の唇に軽くキスをすると、遙はiPadにメモをまとめた。
「それから?確か浜辺で翼を下さいを歌ったね」
「そうだな。それは動画の中で構わねぇ。お前に歌いたいのは帰り道に歌ったBorn to be my babyだ。車のシーンは撮影が難しいだろうから、そこは飛ばして代わりに俺がステージで歌う。それでどうだ?」
「うん、いいと思う」
遙はまた素早くメモを取った。
「んー、帰宅してからのお風呂のシーンは飛ばす?」
「いや、お前が右目に初めてキスしてくれた日だからな。白い入浴剤で隠れるだろう。そのシーンは入れたい」
「じゃあ、政宗に頭からシャワーかけられた所でフェードアウトしてそのシーンに飛ばそうか」
「流石だな。その後、ドラキュラの映画を見て、お前、結婚したくないって泣いたな。壊れるくらい、忘れられないくらい抱いて欲しいって。お前を拘束して3時間抱いたら、お前気絶したんだったな。確か軽いキスマークもたくさんつけちまったな。だから、その後数日間引きこもってたしな」
「ふふっ、そうだね」
「しかし、流石にあの夜伽のシーンはなぁ…」
「そうだねぇ…」
遙も遠い目をしてしばらく考え込んでいた。
「うん、やっぱり私が泣いて、政宗がキスマーク付けて、優しく抱いてやるって言った所まで入れようかな。シーツで胸隠せば大丈夫でしょう?アングルによれば、政宗の背中で完全に隠れるし。胸は政宗の手で隠してもいいし」
「まあ、そうだな」
「だって、あの時、私が泣いたから、政宗は結婚を決意してくれたんだもの。そのシーンは外せない」
俺もしばらく考え込んだ。
確かにあのエピソードは外せない。
そこでフェードアウトでその後どこに繋げるか。
「そうだな。お前に口移しで水を飲ませるシーンに飛ばすか。夜伽が終わった後だしな。そのフェードアウトには賛成だ」
「分かった」
「その後、数日間引きこもって、お前は俺に色々な事を教えてくれたな。手術や麻酔、ハンセン氏病、色々な感染症の事もな。だから、俺はSTIの事を覚えてた。飛沫の事もな。だからこそ八王子の里も作った。吉原もな。エレキギターも弾いてくれたな。ジャスミン茶も飲んだな。お前が外出出来ない事をいいことに、近所のスーパーで食材の買い物ついでに俺が勝手に塩も大人買いしたか。それに時間を忘れてメタルを聞きながらお前を抱きまくったな」
「ふふっ、そうだったね。よく覚えてるね。そのエピソードも入れる?」
「そうだな、そうしよう。何なら夜伽は省いても構わねぇ、長すぎる。ダイジェストで10分以内にまとめるか。その後は美紀との撮影会だったな」
「うん。私、そこで歌いたい曲があるんだ」
「お前が?どの曲だ?」
「大切なあなた。本当にあの時幸せだったから。撮影会のシーンをバックにステージで歌うよ」
あんなに歌うのを恥ずかしがってたのを思い出して、俺は笑ってしまった。
「お前は本当に可愛いな。あんなに恥ずかしがってたのに、やけに大胆じゃねぇか。絶対に野郎共、お前にめろめろになるぜ?よし、それで決まりだ。その晩の夜伽の後、俺がお前を抱き締めてキスしているシーンをバックに歌いたい曲がある」
「どの曲?」
「GACKTのTea Cupだ」
「わぁ、すっごく嬉しい…!」
「ここで中入りだな。どう思う?」
「すっごくいいと思う!流石、政宗!」
遙は嬉しそうに笑ってカタカタとキーボードを打ち、話し合った内容をまとめた。
「はぁ、一息入れようか。これで半分くらいかな。んー、まだ半分行かないかも。長いな…。何せ結ばれるまでも長かったから」
「そうだな…」
俺も遙もしばらく遠い目をしてタバコを吸い、俺はまた紅茶を沸かし始めた。
「ねぇ、政宗?この後、喧嘩のシーンでしょう?政宗がいなかった間の事、私、何も知らない」
「はぁ、仕方ねぇ。この際だから洗いざらい話してやる」
俺は紅茶を沸かしながら、空白の時間の事を全て話した。
遙は驚き、どのシーンを見て誤解したのかを話した。
そして、遙も前の男とのやり取りを全て俺に話した。
やはり、俺の誤解だったと思うとやるせないが、そのお陰で祝言が挙げられたと思えばこれもまた運命だ。
「やっぱり美紀にも取材しないとダメかな。色々段取りしてくれたのは美紀だし、美紀が何考えてたのかも知りたいから。動画にするなら尚更」
「じゃあ、心情描写を入れた手記を書いてもらったらどうだ?お前も書け。俺も書くから。iPadで書けば速いだろ?3人合わせれば、色んな謎が解けるし、それを元に動画のシナリオを書けばいい。シナリオがないと、猿飛達も困るだろ?」
「そうだね…。じゃあ、手記を元にシナリオを書くよ。夜伽のシーンはフェイク入れて。それを佐助に見せるのでいい?」
「Okay. 最終チェックは俺がするけどな。さぁ、紅茶を飲め。もう少し休んだら続きだな」
「うん」
遙は少し冷めてしまった紅茶を飲み始めた。
俺も甘い紅茶を飲みながら、またタバコに火を点けた。
「シナリオを書くなら、細かい話は今は端折って構わねぇ。とりあえず、歌の段取りだけでも決めようぜ」
「うん、そうだね。その方が手っ取り早いね」
「よし、次にお前が歌うのはBreathlessだ。あれだけ俺を誘惑したからな。是非、野郎共の前でも同じように歌ってもらおうじゃねぇか!」
俺がくすくすと笑うと遙は頬を染めた。
「えー?字幕まで流すのに恥ずかしい」
「夜伽のシーンを流すのに今更だ」
「うっ、そうだけど…。でも、流石にあの日の夜伽は披露出来ない…」
「クッ、分かってる。だから、ホテルの窓際で俺が何でいじめ始めたか理由を話した後にフェードアウトだ。少しは捏造するから安心しろ。着衣だし、吐息で喘ぐだけならいいだろ?」
「それなら大丈夫。はぁ、良かった…」
遙が心底安心したように溜息を吐くので、俺は笑ってしまった。
むくむくと悪戯心が湧き上がる。
ここで、一曲入れてやろうか。
入れるなら、絶対にあの曲しかねぇ!
俺はニヤリと笑った。
「安心するのはまだ早いぜ?俺はそこでステージで歌う。曲は、GACKTのVanillaだ」
遙はまた真っ赤に頬を染めた。
「やだ…。あの曲、超エロいんだもん」
「ああ、知ってるぜ?登勢の手術中に聞いたからな。あの晩にぴったりじゃねぇか。そうだな…。間奏の最後の、イク〜!ってセリフは本番お前に生でやらせるか。覚悟しろよ、遙!」
「そんな恥ずかしい事出来ないよっ!」
「いいじゃねぇか。絶対最高に盛り上がるぜ?そうだな、エロい手つきでお前を触りながら歌うか。鼻血で倒れる奴もいるかもな。楽しみだ!お前の声しか俺は絶対認めねぇからな!」
「はぁ…夜伽の再現までするんだもんね…。仕方ないから、やる」
「いい子だ。最高に色っぽいセリフ、期待してるぜ?」
俺は遙の頭をよしよしと撫でて、短くなりかけたタバコを吸った。
「そうだな…。Last Songも考えていたが、それは、空白の7年間に回した方がいいな。今のところは、他にはお前との別れの瞬間の歌しか思い付かねぇ。俺はこの世界に帰って来て、荷物は持ち帰れたのにお前だけが連れて帰れなくて、泣きに泣いた後、小十郎達と出陣した。出陣シーンで、7年前の動画はフィナーレだな。その後、俺がステージで、GACKTの再会〜story〜を歌う。エンディングテーマソングだな。歌の後、Give awayとして、お前がエルメスのバーキンを受け取るエピソードを入れて前半のグランドフィナーレだ。それでどうだ?」
「はぁ、政宗、流石だね…。そんなドラマチックなエンディング、大号泣しちゃうよ。再会〜story〜か…。政宗と別れた後、よくよく歌詞を聞いて声が枯れるまで泣いたよ。あの別れの瞬間、そのまんまで」
「そうか。俺も、登勢の手術の間に聞いて、泣いた。これで成実も泣かせられると思うと楽しみだぜっ!あいつも切ないって言ってたからな!絶対に泣かせてやるぜっ!」
「ふふっ、政宗、楽しそうだね。うん、その構成でいいと思う。ここで中入りだね」
遙はまた、iPadにカタカタとメモをまとめた。
「ふう。あとは空白の7年間か…。武田の屋敷と甲斐の宿で政宗がどう過ごしてたかちょこっと聞いたけど、どうする?私は働いてばっかりだっからなぁ。一応政宗のエピソード用に1時間見積もってはあるけど」
「俺も戦ばっかりだったからな。そんなにエピソードはねぇ。だから、主に歌で構成だ。お前に歌って欲しい曲がある。そうだな、その間ずっとバックに俺達の空白の7年の回想シーンを流すか」
「分かった。どの曲?」
「あなたに逢いたくて、だ」
「あの曲かぁ…。泣けて来そう。政宗を想って毎晩聴いてたよ」
「やっぱりな。俺もお前が寝てる間に聞いて泣いた。小十郎も泣いてたぜ?お前の俺への愛の証の歌だ。だから、歌って欲しい」
「分かった。泣かないように頑張る」
「そうだな…。俺は、GACKTのこの夜が終わる前に、を歌うか。季節外れだけどな」
「はぁ…。また泣けて来そう。切ない曲だ」
「GACKTがそんな曲ばかり歌ってるなんて知らなかったぜ。隠してたな?」
「違うよ!政宗が帰った後に偶然聞いて気に入ったの!」
「そうか、ならいい。お前はその後に、Last Songを歌え。あれは女の歌だからな。その後、俺は、君に逢いたくてを歌う」
「GACKTメドレーか…。切なくて泣けて来そう。別れた後も愛し続ける失恋ソングばかりだ…」
「そうだな。でも、お前、そういうつもりで俺のプレイリストに加えたんだろ?」
「そうなんだけどね。それで、幕間の歌はおしまい?」
「そうだな」
「私、あと一曲、歌いたい」
「なんて曲だ?」
「絢香の三日月」
「それは知らねぇな。今すぐ聞かせろ」
「うん」
遙はミュージックに画面を変えると、曲を流し始めた。
三日月に願いを託して強がっていた遙の姿が容易に想像出来て、なんだか泣けて来る。
俺は遙を抱き寄せて、首筋に顔を埋めて、そっと涙を流した。
こんな曲まで聞いて、俺を想っていたなんて、可愛いにもほどがある。
俺は電話で好きだって伝える事すら出来なかったというのに。
俺はまた遙の愛の深さを思い知った。
「お前って本当に健気な女。愛しくてたまらない。三日月に願いを託してくれてたか」
「うん。三日月の度に歌ってた。政宗を想いながら。三日月は政宗の象徴だから。三日月に願うって約束したから」
「そうだったな…。よし、それも歌ってくれ」
「うん」
遙はそっと身体を離すと、iPadにメモを取った。
「この後、甲斐編?後半?」
「いや、その前に入れたいエピソードがある。俺が天下統一をした後、大名達と会議を開いた話はしただろ?翌日、小十郎に無理矢理婚儀を進められそうになって、俺は逃げ出した。仙台の浜辺で、泣きながらEternal Flameを歌った。その時、小十郎にお前の写真を初めて見せて、その後小十郎は縁談をさり気なく断ってくれるようになった。その動画の後に、今度は俺が一人でステージで歌う」
「そんな事があったんだね…。男性バージョンのEternal Flameがあるから、それで歌う?」
「そんなのがあんのか!?」
「うん、エリック・マーティンの」
「そうか。聞いてみたいぜ」
「うん、いいよ」
遙はミュージックに画面を変えると曲を流し始めた。
俺も好きだった、Mr. Bigのヴォーカリストの歌だ。
俺の想いにそのまま重なるハスキーな歌声にしばらく酔いしれて、甘い溜息を吐いた。
「流石はエリックだぜ。これも最高にいいな。よし、これで歌う」
「分かった」
遙は画面を変えるとメモを取って、ホッと一息吐いた。
そして、タバコに火を点けて、ゆっくりと吸い始めた。
「ここから、甲斐の話かぁ…」
「お前、本当に大丈夫か?嫌なら無理に動画にしなくてもいい。7年前のだけでも十分だ」
「んー、でも、政宗のプロポーズは嬉しかったし、何で今、佐助が政宗に仕えてるか伝えたいし…。美紀も不可思議な存在だし」
「そうだな…。野郎共も不思議には思ってるだろうからな。お前が錯乱しないなら、俺は止めない。シナリオは俺が書く。お前のフラッシュバックが心配だからな。お前には無理させたくねぇ」
「分かった。その方が助かる。じゃあ、ちょっと情報の整理をしようか。手記を書いてもらう人を決めなきゃ。私と政宗と美紀はもちろん、佐助と小十郎と幸村もかな?んー、姫様もかな?場合によってはお館様も。成実もか」
「成実は余計な事しか書かねぇから、必要ねぇ。真田は姫と出来てやがったし、お前に懸想してたから、どんな気持ちだったか書かせるか。じゃねぇとすっきりしねぇしな。姫もそうだな。あの騒動は全部あいつのせいだからな!それくらいは罪滅ぼしにやらせるぜっ!」
「政宗ならそう言うと思った。じゃあ、後で佐助にお願いしなきゃ」
遙は素早くメモを取って、手を止めてしばらく考え込んでいた。
そして、やがて溜息を吐いた。
「ダメだ。全然歌が思いつかない…。甲斐では忙し過ぎた…。歌を聞く暇もなかった…。Eternal Flameしか歌ってない」
「そうだな。お前は本当によく頑張ってたからな…」
よしよしと頭を撫でてやると、遙は甘えるように俺の肩に頭をくっつけた。
「そうだなぁ。強いて言えば、Everythingかなぁ。あと、Nothing but love」
「Everythingか。あれは嬉しかったぜ?お前の想いの深さをまた思い知った。そうだな…。お前とデュエットするか。お前にも歌って欲しい」
「うん、嬉しい。私も歌いたいし、政宗のEverything、すっごく嬉しかった。どのタイミングにする?」
「少し前後するが、猿飛が宿に初めて泊まった晩、俺とお前が朝まで眠った後だな。動画をそこで止めてデュエットだ。本当はそこでエアロスミスを入れたかったが、前半で歌うから代わりにEverythingだ。起きてる間はお前とEverythingを交互に歌ってたから、くどくなるしな」
「流石は政宗だね。いいと思う」
「それから、動画が終わった後に、改めてNothing but loveを歌ってやる。それが甲斐編のグランドフィナーレだ。エンディングテーマソングだな。そうだな…動画のフィナーレは、前田慶次との会見後に変更だ。あいつが全ての始まりだったからな」
「そっか…。そうだよね、慶次は私達の恩人だもんね。政宗に賛成。その後、誓いのキスか。その方がNothing but loveが続かなくていいね。分かったよ。それにしても、あれだけ甲斐では色んな事が起きたのに、案外歌う曲、少ないね。何だか残念」
「じゃあ、お前、琴でも弾くか?六段と春の海」
「動画の長さ次第かな。ドレスじゃ弾きにくいし」
「クッ、それもそうだな。歌か…。お前をもう一度口説き落とした日、俺がエルヴィス歌っただろ?あの時は4曲歌ったか。流れ的に全部歌うと間が悪いから、再会の後、初めてお前を抱いた後のシーンで、眠るお前を抱き締める俺の姿をバックに、SurrenderとCan't help falling in loveを歌うのはどうだ?ロックンロールは、カラオケで改めて歌ってやるから。Can't help falling in loveはカラオケで小十郎と被っても構わねぇ」
「Surrenderかぁ…。あの時はすごくドキドキして苦しかったなぁ…。政宗がステージで歌ったら、またドキドキしそう…。蕩けそう…」
「クッ…それでお前が陥落するなら、いくらでも歌ってやる」
「ふふっ、流石、政宗。忘れないうちにメモしておくね」
遙はまたカタカタとメモを取った。
「ふぅ、これで全部かな?」
「そうだな…。俺も少し考える」
俺はすっかり冷めた紅茶を飲みながら、ゆっくりと考えを巡らせ始めた。
エアロスミスは前半で歌うから、被らないように外したし、代わりにEverythingも盛り込んだ。
プロポーズの歌がエンディングで、遙を口説いたエルヴィスも歌う。
あと、他に、取りこぼした曲はないか…。
しばらく考えて、そこで俺は思い出した。
猿飛の存在を。
登勢の手術中にあいつは言っていた。
届かない愛と知っていたのに抑え切れずに愛し続けた、と。
「遙、猿飛に歌わせるのは、アリか?」
「え?佐助?どの曲?」
「GACKTの、届カナイ愛ト知ッテイタノニ抑エ切レズニ愛シ続ケタ、だ」
遙はハッとしたように顔色を変えた。
「政宗、嫉妬しない?美紀の嫉妬も心配だな…」
「終わった事だろ?猿飛は命より美紀への愛を選んだ。だから、あいつらはもう乗り越えてる。俺は猿飛が哀れなくらいだしな。でも、あいつなりにお前の事を深く想って、俺にお前を返しに来たんだ。信玄を裏切ってまでな。野郎共に見せてやりたいぜ、その姿」
「じゃあ、佐助さえ良ければ、歌ってもらおうかな。どのタイミング?」
「そうだな…。俺の知る限り、俺にお前を返してから、あいつがその歌を歌うタイミングはねぇな。お前が考えろ」
「そっか。私、政宗にべったりだったもんね。だったら、再会の前か…」
遙は遠い目をしてじっと考え込んで、やがて溜息を吐いた。
「絶対に怒らないで聞いてくれる?」
「ああ、いいぜ」
「私が自害しようとした時、佐助に告白されたの。好きだよ、愛してるよって。私、泣きながら、政宗しか愛せなくてゴメンって謝った。でも、佐助は私の救いで大好きだったって言った。佐助はその後、泣きながら、愛する君を苦しませたくないから、せめて介錯させてって言った。佐助の合図で私は自害したはずなんだけど、目が覚めたら政宗の腕の中にいたの」
「なるほどな、そういう経緯だったのか。本当にあいつが出来る男で良かったぜ。お前、本当に危なかったな。俺はお前を失う所だった。あいつにも盛大な祝言を手配してやんねぇとな」
「流石、政宗!怒ってない?」
「お前が死んでたら怒ってたけどな。それも大激怒だ。よし、お前が気絶した瞬間に動画はブラックアウトだ。そこで猿飛に歌わせる。どうだ?」
「はぁ、流石は伊達男だねぇ。演出がダイナミック!みんな切なくて泣いちゃうよ」
「望むところだ。大号泣が聞きてぇからな!絶対に成実を泣かせてやるぜっ!」
「ふふっ、政宗、相当根に持ってるね?」
「ああ。あいつだけは、絶対に泣かせる」
「政宗、何を話したの?」
「そのうち教えてやる。そうだな…。俺もこれ以上は思いつかねぇな。また思い浮かんだら教えてやる。お前も何か思い浮かんだら、メモしとけ」
「うん、分かった」
遙はメモを取ると、ホッと一息吐いた。
「今日の所はここまでかな。はぁ、もう12時になっちゃったよ…。政宗、これから抱くの?流石に身体がだるいよ…」
「はぁ、仕方ねぇなぁ。風邪を引かれても困るし、今日はおとなしく寝てやるか。ぐっすり眠って、起きたら抱かせろ」
「やっぱりそうだよねぇ。明日のシフトは、夜10時から逆算か。美紀が6時間休むから、午後4時から私の担当だね。わぁ、相当ゆっくりだ…。殿様出勤だ…」
「上手い事言うな。俺は天下人だから当たり前だ。たっぷり時間はあるから、俺が満足するまで抱くぜっ!いいな?」
「はぁ、勤務時間が6時間だけならそんなに疲れもしないか。7年間も待ってくれたから、政宗の自由にさせてあげるよ。でも、起きてもだるかったら、手加減してね?」
「無理はさせねぇよ。倒れられたら困るしな。お前、もう寝るか?」
「政宗にもう少し甘えたい。タバコ吸いながら紅茶飲んで、ラブラブトークしたいな」
「お前って本当に可愛いやつ。ああ、いいぜ?1時間くらいならな。先に薬を飲め」
「あ、うん」
遙が薬を飲むのを見届けて、俺は茶葉を入れ替え、また紅茶を淹れてやった。
遙は始終ご機嫌で、タバコを吸いながら俺に甘えるように身体をすり寄せ、動画作りの話に花を咲かせた。
俺も遙の頭を撫でながら、7年前が懐かしくなって、動画の構成の案を出し、1時間後に、着替えて寝所で横になり、遙を抱き締めてキスを繰り返した。
遙はまもなく眠ってしまい、しばらくその幸せそうな寝顔を眺めてから、行燈を消させて俺も眠った。
⇒Next Chapter
しおりを挟む
top