目の前には遙の額があり、見下ろすと、遙は幸せそうな顔でまだぐっすりと眠っていた。
起こさないようにしながら、ちらりと左手首の時計を見ると、朝の8時だった。
俺にしてはよく眠った方だ。
丁度、朝餉の時間の頃合いだ。
俺は遙を起こすか少し迷った。
昨日の疲れ切っていた様子を思い出すと、まだ眠らせてやりたい気もする。
「おい!朝餉は俺の部屋に持って来させろ。時間はまた指定する」
「かしこまりました」
俺は遙に視線を戻し、そっと抱き寄せてゆっくりと長い髪を撫でた。
しばらくそうしていると、遙はむずがるように俺の胸元に頬をすり寄せ、そして長い睫毛が震えて目が開いた。
遙は少し身体を離すと、俺を見上げて微笑んだ。
「政宗、おはよう」
「Good morning, my sweetie」
軽く触れ合うだけのキスを何度かして、俺は遙を見つめた。
「身体は大丈夫か?」
「もう少し寝たいけど、昨日よりは元気だよ?」
「そうか。今からまだ寝るか?それとも昼寝にするか?」
「政宗と一緒にお昼寝したい。それに朝餉が食べたいな」
「分かった。おい!朝餉を持って来させろ」
「かしこまりました」
俺が襖の向こうの気配に命じると、遙はくすりと笑った。
「政宗って、本当にすごいね。政宗の部屋でお食事出来るの、嬉しいな」
「俺も二人きりになれて嬉しいぜ?どうする?着替えるか?」
「ううん。どうせ昼寝するし、多分部屋を出ないから、このままでいいよ」
「そうだな。この方が脱がせやすいしな。どうせ後で抱くならこのままの方が好都合だ」
「もう…。喉渇いたな…。タバコも吸いたい」
「じゃあ、俺の部屋に行くか」
俺は遙を抱き起こし、寝乱れた夜着を整えてやると、自分も着付け直して部屋を移動した。
「遙、何が飲みたい?」
「はぁ、コーヒーが恋しい…」
「そうだな。早く輸入しなきゃならねぇな」
「あ、そうだ!インスタントコーヒーでもいいな。それなら、バッグの中から出てくるかも知れない。粉ミルクも」
「クッ、その手があったか。バッグの中から出してみろ。俺は湯を沸かすから」
「うん!」
遙はボストンバッグの中を漁り、そして歓声を上げた。
「わぁ!私のお気に入りの銘柄のコーヒー!インスタントコーヒーの中では一番高級なやつ、出てきた!それに、iPhoneが2台入ってる?何でだろう…。これ、本当にiPhoneかなぁ。何か、やけに大きいけど…。ホームボタンはないし…。見た事ないなぁ。Androidかなぁ…」
遙は首を傾げながら、コーヒーとミルクを取り出して床の上に置き、iPodをふた回りほど大きくしたような機械を2台取り出して、座り込んで手に取ってしげしげと眺めていた。
俺は、床の上のコーヒーとミルクを手に取って椅子に戻ると、タバコに火を点けた。
遙はまだ首を傾げながら、2台のiPhoneを両手に持って椅子に戻って来た。
「遙、iPhoneって?」
「携帯電話の事だよ」
「全然形が違うな。それで電話出来るのか?」
「向こうの世界ではね。この世界では電波がないから無理だと思う」
「それは残念だな。じゃあ、役に立たねぇじゃねぇか」
「そんな事、ないよ?これで動画も写真も撮れるし、ゲームも出来るの。後はパソコンみたいに調べ物も文字を書く事も出来るかな」
「すげぇな!それで動画が撮れるのか!最高にcoolだぜっ!俺にも見せろ!」
「うん、いいよ」
俺は遙から青いカバーのついたiPhoneを受け取り、サイドに付いているボタンをいじった。
綺麗な画面が現れたが、そこから使い方が分からない。
iPodと違ってホームボタンもない。
戯れに、画面を触っていると、下から画面が上に動き、ホーム画面が現れた。
iPodと同じ画面だ。
「なるほどな。この白い線を下から上になぞるとホーム画面になるのか」
「何か、電波のマークの隣に見た事のないマークがある。やっぱり電波は圏外だ。これ、Bluetoothのマークとも違うな。江戸に着いてからiPadにもついてたけど、これ、何だろう?」
遙は、無言で熱心にiPhoneをいじりだした。
俺はその間に湯が沸いたので、タバコをもみ消して久方ぶりのコーヒーを淹れた。
懐かしい香りがする。
「熱いから、気を付けろ」
「うん、ありがとう」
遙は視線を上げて微笑むと、また熱心に何かを読んでいる様子だった。
「やっと、分かった。何で美紀とクラウドが使えるのか分からなかったけど、あれはクラウドじゃなくて、同期が出来るAirDropみたいな擬似クラウド機能だったんだ。Bluetoothとは違う種類の電波で、有効範囲は半径400キロか。すごい強力だな。複数台で自動ペアリングされるから、Wi-Fiの代わりになるのか。ペアリング台数も無限大だ。なら、LINEだったら、メッセージも通話も出来るし、FaceTimeも使える。これも、未来の機能かぁ。電波もWi-Fiよりも強力だし速度も速い。光回線より速いのか、予測もつかないな。多分相当重いファイルを扱えるんだ。すごいなぁ!動画の画質も次世代5K、どういう意味だろ…。多分、相当画質がいいんだ。ストレージも無限大だ。全てのデータは内蔵か。パケット食わないから動画は見放題だ。Apple Musicで世界中の音楽のダウンロードとストリーミングが可能。プレイリストの共有も出来るのか。でも、GPSは衛星がないから流石に使えないみたい。マップも天気予報も無理か。それにしても何だかすごそう…」
「つまり、どういう事だ?」
「うん、半径400キロ以内だったら、LINEを使ってメッセージも通話も出来るし、FaceTimeっていうテレビ電話も出来るの」
「マジか!それなら、例え俺が席を外さなきゃいけなくても、お前に電話出来るな!テレビ電話出来るなら、尚更安心だぜ!お前の顔が見られるからな!半径400キロ以内だったら、江戸城内だったらどこでも通じるぜ!もちろん八王子もな!今すぐ使い方を教えろ!」
「うん」
遙はアプリの概念の説明をし、画面の切り替え方と、アプリの開き方と閉じ方を教えてくれた。
LINEを開くと、友だちにすでに遙と美紀が登録されていた。
「おい、遙、今すぐ小十郎と成実の分も出せ。いちいち呼びに行かせなくて楽だ」
「ふふっ、流石、政宗。人の使い方が上手いね。流石、天下人」
遙は、あと2台iPhoneを出すと、席に戻って来て、何かを確認していた。
「小十郎と成実のアカウントも作られてるね。カバーが茶色い方が小十郎で、水色が成実か」
遙が何かをいじると、LINEの友だちに小十郎と成実の名前が加わった。
「最高にcoolだぜっ!これでいつでも小十郎と成実に連絡が取れるな!早くあいつらに渡したいぜっ!よし、遙、着替えるぞっ!」
「ふふっ、コーヒー飲んで、朝餉食べてからでいいんじゃない?それに、二人きりの時間、減っちゃうよ?」
「それもそうか。まあ、あいつらならお前の夜着見せても問題ねぇしな。着替えるのは止めだ。後で30分ほど呼び出して、使い方を叩き込んだら下がらせる。それなら、そんなに時間も食わねぇしな。それならいいか?」
「うん、いいよ。ふふっ、政宗、嬉しそうだね」
「当たり前だ!これでお前の動画も写真も撮れると思うと楽しみでたまらねぇ!」
俺はiPhoneをいじりながら、コーヒーを飲み始めた。
こくが深くて、インスタントとは思えないほど美味い。
これなら、毎朝楽しめそうだ。
コーヒーとタバコは相性がいい。
「はぁ、久々のコーヒー、美味しいな。やっぱりタバコにはコーヒーだな」
遙はiPhoneをテーブルの上に置き、タバコをゆっくりと吸いながらコーヒーを飲んでいる。
俺もiPhoneをテーブルの上に置いてタバコを吸い始めた。
あの夏、二人でタバコを吸いながらコーヒーを飲んでいた記憶が蘇る。
あの頃と変わらない、優しい時間が流れて幸せでたまらない。
「政宗様、朝餉をお持ち致しました」
「Okay, 入れ」
「かしこまりました」
武装したくノ一が部屋に入り、俺達の前に配膳すると静かに下がって行った。
「わぁ!出汁巻玉子だ!政宗の手料理思い出すなぁ!今日もお野菜たっぷりだ、嬉しいな!」
「毎日喜んでくれて嬉しいぜ。昼餉と夕餉は何がいい?」
「昼餉は焼き魚で、夕餉はお刺身がいいな」
「分かった。おい!昼餉は焼き魚で夕餉は刺身だと言付けろ!風呂の時間は午後3時だ!」
「かしこまりました」
遙はまた微笑んで感心した。
タバコを吸い終わってから、コーヒーを飲み干し、俺が箸を付けると、遙もゆっくりと食べ始めた。
「政宗、iPhoneで音楽も聴けるし、音楽もプレイリストが作れるんだよ?iPodの機能は全部使えるの」
「マジでか!」
「うん。Apple Musicであの世界の音楽は何でも聴けるよ?」
「そんな事まで出来るのか!すげぇな!CDなんていらねぇじゃねぇか!」
「うん。動画も見れるしね。政宗、何か見たい動画ある?」
「そうだな…。すべらない話とか見れるか?あれは傑作だったからな!」
「ふふっ、懐かしいね。楽しそう。いいよ、それ聞きながら食べよう」
遙はiPhoneをいじると、俺と遙の前に置き、動画を再生した。
懐かしいオープニングが現れ、お笑い芸人達のトークが始まった。
遙と時折爆笑しながら、動画が終わる頃に、俺達はゆっくりと食事を終えた。
「クッ、傑作だったな!久々に爆笑したぜ。落語より面白い」
「私も朝からこんなに笑うとは思わなかったよ、ふふっ」
「おい!膳を下げて、小十郎と成実を呼んで来い!」
「かしこまりました」
すぐにくノ一が膳を下げて、静かに部屋を出て行った。
俺は鉄瓶の湯を沸かし直し、食後のコーヒーを淹れて、タバコをゆっくりと吸い始めた。
遙は食後の薬を飲んだ。
「遙、この携帯、文字盤がねぇじゃねぇか。どうやって文字を打つんだ?」
「ちょっと慣れるまで時間かかるかもしれないね。政宗ならすぐに覚えそうだけど」
遙は、iPhoneを見せながら、文字盤の出し方を説明し、文字の打ち方を丁寧に教えてくれた。
フリックという入力以外は携帯と変わらなくて、これならすぐに覚えられそうだった。
文字の切り替えも楽だし、予測変換も以前の携帯より断然進化してる。
英語のキーボードは予測変換までついていて驚いた。
「なるほどな。フリックは覚えてしまいさえすれば、携帯より速く打てるかもな。予測変換も前のより機能が断然良くなってる。これ、超絶便利だぜ!画面もデカいしな!写真はどうやって撮るんだ?」
「カメラのアプリで撮って、データは写真のアプリで見られるよ」
「便利だな。一枚撮らせろ」
「うん、いいよ」
遙は微笑んで、ピースをした。
一枚撮って、写真のアプリを立ち上げる。
その瞬間、思わず俺は口許を手で覆って、絶句した。
あの世界で、遙がくれた携帯で俺が撮った、遙の写真が全て入っていたからだった。
アルマーニのドレス姿の写真も全部ある。
あのホテルのバーの写真も。
「政宗、どうしたの?」
「7年前に俺の携帯で撮った、お前の写真が全部入ってるぜ…」
「え?嘘…」
遙は俺のiPhoneを覗き込んで、俺と同じように絶句した。
「待って、私のiPhoneも見てみる」
遙は素早くアプリを立ち上げて、そして絶句した後小声で囁いた。
「懐かしい…。政宗が新宿で買った服の姿の写真が全部入ってる…。それだけじゃない、私が今まで携帯で撮った写真が全部入ってるよ…」
二人とも絶句して、スクロールしながら写真のサムネイルを見ていると、部屋の外に気配を感じた。
「政宗様、小十郎でございます。成実もおります」
「ああ、入れ」
俺は素早くホーム画面に切り替えた。
「お前達もテーブルにつけ。遙がお前達にiPhoneを渡す」
「iPhone、動画を撮る機械でございますね。かしこまりました」
「やったぜ!俺も未来の道具、超楽しみだ!」
小十郎と成実は、余っている二脚の椅子に座った。
「お前達も、コーヒー飲むか?オスマン・トルコと貿易するまでもなく、遙がバッグから出してくれた」
「コーヒーでございますか。では、茶器の用意と湯の仕度はこの小十郎が致します。政宗様は、どうぞそのままで」
小十郎はキャビネットから二人分の茶器を出して配膳すると、湯を沸かし始めた。
「なぁなぁ、遙ちゃん!早くiPhoneくれよ!」
「うん、いいよ。茶色が小十郎で、水色が成実ね」
遙は小十郎と成実にiPhoneを手渡した。
「なんかつるつるしてて、真っ黒だな。どうやって使うんだ?」
俺は小十郎と成実に、画面の立ち上げ方とロック解除の方法と、アプリの概念と種類の説明をした。
その間に湯が沸き、遙がコーヒーを淹れてくれた。
「遙様、申し訳ございません」
「ううん、いいの。まだ熱いから、政宗の説明聞いてて」
「遙ちゃん、ありがとう!めっちゃいい香りがするな!」
「ふふっ、タバコと相性いいんだよ?」
「マジで!?超楽しみだぜ!」
俺が一通り遙から聞いた説明を終えると、成実は声を上げ、小十郎は感嘆の吐息を漏らした。
「すげぇな!そんなに遠くまで有効範囲なら、伝令兵なんていらねぇじゃねぇか!」
「クッ、お前まで俺と同じ事、言いやがる。流石は俺の従兄弟だな」
「政宗様、大変便利でございますね。これでいつでも政宗様の安否を確認出来ると思いますと、非常に安心でございます」
「で?LINEってどうやって使うんだ?俺、早く使ってみたい!」
「よし、ここからは、遙、お前が説明しろ。俺もLINEは初めてだからな」
「うん、分かった」
遙は、メッセージ機能と、文字盤の出し方、文字の入力方法、スタンプの使い方、そして通話機能の使い方を説明した。
「あ、そうだ。一斉送信出来るように、グループも作っておくね」
遙が自分のiPhoneを何か操作すると、LINEのホームに伊達家というグループが加わった。
「すげぇ!これ、何!?」
「私と政宗と小十郎と成実に、一斉にメッセージを送るグループ。ここのトークに書き込めば、4人に一斉にメッセージを送信出来るよ。4人で話し合いたい伝令事項があったら、ここに書き込めば、いちいちそれぞれの人に送らなくても済むの。グループ通話も出来る」
「これは大変便利でございますね。政宗様のお手を煩わせずご命令をすぐに一斉にお伝え出来るとは…」
「これ、超便利だな!俺も使おうっと!俺、通話してみたい!この機械から声が聞こえるんだろ?超やってみたい!」
「じゃあ、遙が説明した通りに俺にLINE通話をかけてみろ」
「Okay!」
成実は、遙の教えた通りにiPhoneを操作した。
俺のiPhoneから着信音が流れ、俺は電話に出た。
応答のボタンは至ってシンプルで分かりやすかった。
「成実、機械を耳に当てろ」
「Okay!なぁ、梵、聞こえるか?」
「ああ、聞こえるぜ?通話品質も問題ねぇな」
「すげぇ!マジで機械から梵の声が聞こえるぜっ!マジですげぇ!」
「分かったから叫ぶな。切るぞ」
俺は電話を切った。
小十郎は驚きに目を瞠り、遙は微笑んでいた。
「この小十郎も試してみてもよろしいでしょうか」
「ああ、いいぜ。俺がお前にかける」
俺が小十郎にLINEをかけると着信音が鳴り出し、小十郎は困ったように固まった。
「小十郎、青のマークをタッチして」
「かしこまりました」
遙が説明すると、小十郎は画面をタッチして、恐る恐るiPhoneを耳に当てた。
「小十郎、聞こえるか?」
「政宗様っ!確かに政宗様のお声でございます!この機械から確かに聞こえます!」
小十郎は驚き、目を瞠った。
「お前まで叫ぶな。十分聞こえるてるぜ?よし、切るぞ」
俺が電話を切ると、小十郎はハッとしたように、耳からiPhoneを外してテーブルの上に置いた。
「とりあえず、コーヒーでも飲め。そろそろ飲み頃だ。せっかく遙が淹れてくれたからな」
「はっ!」
「遙ちゃん、ありがとう!」
小十郎と成実は一口飲んで、少し驚いたようだった。
「苦すぎたか?」
「いえ、慣れない味でございますから。落ち着く香りが致しますね」
「遙ちゃん、これ、めっちゃ美味しい!確かにタバコに合いそうだぜ!」
「じゃあ、お前も一本吸え」
俺達はタバコに火を点けて、ゆっくりと吸い始めた。
「てっきり、動画を撮る機械だとばかり思っておりましたので、驚きました」
「これ一台で、本当に色々な事が出来るんだよ?」
「左様でございますか。それで、動画はどのように撮るのでございますか?」
「うん、すごく簡単に撮れるんだよ?」
遙はカメラのアプリの動画機能の説明を始めて、どうやって拡大縮小するかカメラワークの説明をし、どのアプリで動画を確認するか説明した。
それから、様々な写真の撮り方を説明した。
まさか、俺も一眼レフの機能まであるだなんて思いもしなかった。
小十郎と成実は驚き、俺の部屋と俺と遙が笑いながら会話をしている動画と写真を撮って、アプリで確認してまた驚きの声を上げた。
「すげぇ!梵と遙ちゃんがさっき見たまんま動いてるぜ!声まで入ってるぜ!これなら婚儀の様子も保存出来るな!マジですげぇ!」
「大変驚かされました!まさか、ここまで精彩に動画もお写真も撮れるとは夢にも思わず、度肝を抜かれました!しかも、操作がこれほど簡単だとは、思ってもおりませんでした!これならば、黒脛組も容易く操作出来ます!」
「あのね、撮った動画も写真も、LINEで相手に送れるんだよ?」
「マジでか!俺もそこまでは知らなかったぜ!遙、やり方を教えろ!」
「うん」
遙はLINEの画面に戻し、説明しながら伊達家のグループに7年前の俺の写真を送った。
メールの着信音に似た音が3台のiPhoneから鳴り、遙はどうやってメッセージを開くのか説明をした。
俺達はメッセージを開き、そして驚きの声を上げた。
「すげぇ!これ、あっちの世界にいた頃の梵じゃねぇか!写真まで送れるなんて、マジですげぇ!」
「驚いたぜ…」
「この小十郎も驚きました…」
「ふふっ、じゃあ、今のうちに文字の打ち方、練習して?トークに何か書き込んでみて?慣れるまでコツがいるから」
遙はもう一度丁寧に文字盤の出し方や、文字の打ち方、漢字変換の仕方、アルファベットの打ち方、顔文字や絵文字の打ち方、メッセージの送信の仕方を教えて、小十郎と成実は、伊達家のトークに書き込んだ。
成実は、伊達成実参上!と書き込み、小十郎は、お邪魔致します、と書き込んだ。
既読数まで表示されていて、これは便利だ。
しかも、小十郎と成実のメッセージが一つの画面で読めるから、離れたまま会議が出来る。
俺は驚いた。
「これ、慣れるまで確かにコツがいるな。上手く速く打てねぇ。筆の方が速ぇ」
「ああ、そうだな、成実」
「慣れたらすごく速く打てるようになるよ?私は半刻で千文字以上打てるよ?」
「そんなに!?俺も頑張る!伝令兵の返事待つより速いからな!」
「この小十郎も精進致します」
「よし、成実と小十郎、お前達は一対一のトークで打ち込んで速く打てるようになるまで練習してろ。俺に用がある時だけ俺に直接か、伊達家に書き込め。いいな?」
「Okay!小十郎を選んでメッセージすればいいのか?」
「そうだよ、成実」
成実が何か打ち込むと、小十郎のiPhoneだけが鳴った。
これなら遙との時間は邪魔されなさそうだ。
小十郎はメッセージを開き、何かを打ち込んで、今度は成実のiPhoneだけが鳴った。
「政宗様、使い方は心得ました。成実もこの小十郎も、おそらく明日までにはそこそこ速く打てるようになりそうでございます。使い方も単純でございますね」
「そうだな、小十郎!あとは打つ速さだけだぜ!」
「小十郎、俺は早速今日からお前にLINEで伝令するから、iPhoneを肌身離さず持ってろ。俺の言付けを見逃すなよ?」
「かしこまりました。合図の音も心得ましたので、いつでもご連絡下さい」
「ふふっ、防水だから安心してね?じゃあ次にFaceTimeの説明するね?」
遙はFaceTimeというテレビ電話の説明をし始めた。
遙が成実にかけると、電話に出た成実は声を上げて驚いた。
俺は遙のiPhoneを覗き込み、小十郎は成実のiPhoneを覗き込んだ。
画面には成実と小十郎が映っていて、俺は本当に驚いた。
これなら遠くにいても遙の顔を見ながら話せる。
遙の安否がいつでも確認出来る。
「梵と遙ちゃんが動いてるぜっ!」
「声まで聞こえるでしょう?」
「本当だ!遙ちゃんの声だ!これ、離れてても使えるのか!?」
「うん、そうだよ?」
「マジですげぇ!」
「成実、俺にはかけまくるなよ?夜伽中だったら無視するからな?かけるなら、俺からかける。LINE通話なら夜伽中でも出てやる」
「まあ、確かにお前ならいつ夜伽してるか分からねぇからLINEの方がいいな。上洛の時に使えるな!違う船に乗っててもこれならお前と打ち合わせ出来るぜっ!」
「ああ、そうだな。つまりはそういう使い道だ」
「大変驚かされました…。軍議に大変便利でございます。かしこまりました。普段はLINEで連絡を取り合いましょう」
「そうだな!遙、他にはどんなアプリがあるんだ?」
「うん、あのね」
小十郎と成実は、コーヒーを飲みながら遙の説明をじっと聞いていた。
遙はiPhoneを見えるように操作しながら丁寧に説明した。
説明が終わると小十郎は微笑んで頷いた。
「かしこまりました。大変分かりやすい説明でございました。メモは便利ですね。Safariでこの小十郎も遙様の世界の官僚制について調べる所存。URLの共有もスクリーンショットも心得ました。LINEで共有出来ますね。政宗様と成実と書類を共有出来るアプリも大変助かります。これで政務も捗ります。政宗様も遙様とお部屋にいながら目を通す事が出来ますね」
「ふふっ、流石、小十郎。政宗も心置きなく引きこもれるね」
「ああ、そうだな!超絶便利だぜ!よし、他に質問がなければコーヒーを飲み干したら下がれ」
「梵、俺、あと一本だけ吸いたい。後でミュージックで遊ぶぜっ!メタリカとメガデス聞くぜっ!ライブの動画も超見たい!」
「成実、お前本当に嬉しそうだな。ああ、いいぜ。遙、コーヒーをもう一杯淹れてやるから待ってろ」
「うん」
俺が火を点けてやると、成実はゆっくりとタバコを吸い始めた。
湯を沸かしている間、俺も遙ももう一本タバコを吸い始めた。
成実は余程気に入ったのか、早速メガデスのアルバムを流し始めた。
遙が嬉しそうに軽くヘッドバンギングをしている。
やがて俺と遙のコーヒーを淹れる頃には成実もタバコを吸い終わった。
「お前、そろそろ帰れよ」
「俺もコーヒーもう一杯欲しい。これ、超美味いぜ!」
「仕方ねぇなぁ。小十郎、お前は?」
「いえ、小十郎はこの辺で下がり、忘れないうちにメモにて文字の打ち方の稽古を致します。遙様のように速く打てるまで稽古する所存」
「流石だ、小十郎!いくら俺がLINEしてもお前が返事を打てなかったら意味ねぇからな。しっかり稽古しろよ?」
「はっ、もちろんでございます。では、失礼致します」
小十郎は一礼をして下がって行った。
俺は成実にもコーヒーを淹れてやった。
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