未来の道具 -2-

成実は嬉しそうにタバコを吸いながら、iPhoneをいじっている。

「すげぇ!画面を変えても音楽が鳴りっぱなしだぜ!なぁ、遙ちゃん、音楽を止めるのはどうやるんだ?」
「ん?ミュージックのアプリに戻って、ここをタッチすればいいよ」

遙が成実のiPhoneをタッチすると、音楽が止まった。

「すげぇ!便利だ!なぁなぁ、遙ちゃん、俺、もっとメタルとハードロックが聴きたい!色んな曲が聴きたい!」
「ふふっ、分かった。じゃあ、メタルとハードロックの特集の雑誌を貸してあげるね。おすすめのアルバムとメタルの歴史が書いてあるから、片っ端から聴いてみるといいと思うよ?」

遙はバッグの中から少し厚めの雑誌を取り出すと、成実に手渡した。
成実は、パラパラと雑誌をめくって真剣に読み始めた。

「成実、コーヒーが飲み頃だぞ?冷めないうちに飲めよ。せっかく淹れてやったんだ」
「悪ぃ悪ぃ」

成実はコーヒーを飲みながら、雑誌を読んでいる。

「へぇ!梵と遙ちゃんが歌ってたのって、ボン・ジョヴィだったのか。すげぇ有名なバンドだったんだな!」
「うん、そうだよ?コーヒー飲んでる間だけでもベスト盤、聴く?」
「マジで!?聴く聴く!」

遙が自分のiPhoneで再生すると、懐かしい、Livin' on a prayerが流れ始めた。

「遙ちゃんが手術中に聴いてたのはこれだったのか!最高にcoolだったぜ!」
「いいから、お前はコーヒーを飲んでろ」
「少しくらいゆっくりしてもいいだろ?」
「少しならな」

イントロが終わると、遙は嬉しそうに歌い出した。
俺も懐かしくなって、遙と歌い始めた。
サビの所が最高に盛り上がる、俺お気に入りの曲だ。
途中からノリノリになって、遙の肩を抱き寄せ、中盤のサビを歌い終えると、遙とハイタッチをした。
堪え切れないように成実が笑った。

「お前ら、本当にラブラブ。俺も早く登勢を抱き締めてぇな」
「だったら早く見舞いに行け」
「分かってる」

間奏が終わると俺達はまた歌い始め、成実はタバコを吸いながらゆっくりとコーヒーを飲んでいた。
ラストまで歌い切る頃には成実もコーヒーを飲み終えて、タバコをもみ消した。

「俺もこの曲、超気に入った!遙ちゃん、ありがとう!当分退屈しないぜ!じゃあ、iPhoneとこの本、持って行くからな!」
「成実、iPhoneは肌身離さず持ってろ。お前にいつLINEするか分からねぇからな」
「Okay!じゃあ、俺、登勢の所に行って来る!コーヒー最高に美味かったぜ、thanks!俺も文字の早打ちの練習するぜ!梵、遙ちゃん、またな!」

成実はひらひらと手を振ると、部屋を出て行った。
ようやく遙と二人きりになれて、俺はホッとした。

「遙、コーヒーは足りたか?」
「うん、美味しかった」
「おい!茶器を洗ってキャビネットに戻しておけ!それから水差しを取り変えろ!」
「かしこまりました」

すぐにくノ一が現れ、茶器と水差しを盆に乗せて下がって行った。

「遙、寝所に移動だ」
「iPhone持って行ってもいい?」
「ああ、いいぜ?俺も持って行く」

俺と遙はiPhoneを持って部屋を移動した。
遙は布団に転がり、iPhoneをいじりだした。
俺は遙の腰を引き寄せ、後ろから抱き締めた。

「お前、何して遊んでるんだ?」
「昨日、打ち合わせした、音楽のプレイリストを作ってるの。どれくらいの長さになるかなって思って」
「プレイリストか。確かに通しで聴いてみたいな。すぐに作れそうか?」
「うん」

遙は指先で素早く画面をいじっていた。
俺が戯れに髪をかきあげ、うなじにキスを繰り返すと、遙は身悶えた。

「政宗、集中出来ないよ…」
「俺は暇だ。好きにお前の身体を触りながら待つ」
「もう…。キスだけにしてね?」
「ああ、いいぜ」

遙の夜着の襟をぐいと引いて綺麗な背中を露わにすると、俺はキスの雨を降らせた。

「まだか?」
「んっ、あともう少し」
「早くしろ。お前を抱きたい」
「もう…仕方ないな…」

遙は溜息を吐いて、まもなくしてプレイリストを作り終えた。

「政宗、出来たよ。やっぱり甲斐編の曲が少なくてバランス悪い」
「そうか、だったら、俺は、お前と再会する前のエピソードのどこかで、Skid RowのI remember youを歌う」
「I remember youか、切ないね。じゃあ、私はMISIAの逢いたくていま、を政宗を思い出して号泣した女子会のエピソードの後に歌うよ」
「よし、それで編集し直したら、逢いたくていま、を聴かせろ」
「うん」

遙は素早く編集し直すと、曲を流し始めた。
切ない綺麗な旋律が流れ始める。
歌が始まると、俺は息を呑んで遙にキスをするのを止めて、歌詞をじっくりと聴き始めた。
サビの歌詞が始まった途端に涙が溢れて来た。
俺を想って猿飛の胸を借りて号泣した遙の気持ちが痛いほど伝わって来て、溢れた涙が止まらなくて、俺は遙をキツく抱き締めて泣いた。
遙も肩を震わせながら泣いていた。
曲が終わった後もしばらく涙が止まらなくて、そのままプレイリストの曲を聞いていた。

「お前が猿飛の胸を借りて号泣した気持ちがよく分かった。俺もお前に会いたくて会いたくてたまらなかった。もう一度抱き締めたかった。お前を探していた、ずっと。夢の中でいいから会いたかった」
「佐助の胸を借りて泣いてゴメンね。でも、どうしても政宗に早く会いたかったの。すぐにでも会いたかったの」
「いや、構わねぇ。お前の気持ちはよく分かった。お前は本当に健気な女だ。愛しくてたまらない」

俺は遙をこちらに向かせて唇を奪った。
何度もキスを交わしながら、夜着をはだけさせて、遙を抱き始めた。
溢れる想いのままに、キツく抱き合い、俺は激しく遙を何度も抱き続けた。
ようやく激情も落ち着き、性欲も満たされると、俺は脱力して遙に腕枕をした。
遙はまだ喘ぎながら、身体を震わせていた。
遙が落ち着くまでゆっくりと後頭部を撫でると、しばらく経ってようやく遙は落ち着いた。

「政宗、いつになく激しかったね。でも、政宗があんなに早くイクの珍しかった。相変わらず立て続けに復活してたけど」
「お前がいつになく可愛かったからだ。いつも可愛いけどな。あんなに俺の事を想ってくれてたと思ったら、可愛くて仕方なくなった。遙、愛してる」
「私も政宗を愛してるよ」

もう一度、深いキスをしばらく交わすと唇を離した。

「政宗、今、何時?」
「そろそろ12時だな。あっという間に昼餉の時間だぜ。参ったな…」
「お昼寝、止めておく?」
「いや、今の所は満足した。この2時間半で5発やったからな。お前とゆっくり昼寝して抱き合って、風呂に入ってから登勢の所に行くか」
「うん。流石に少し疲れたよ。お昼寝出来るの嬉しい」
「そうか。やっぱり無理させちまったか。午後はゆっくり出来るから安心しろ。昼餉が届くまでゆっくりしてようぜ。プレイリストの曲を初めから聴かせろ。全部でどれくらいの長さだ?」
「2時間くらい」
「結構な長さだな。まあ、構わねぇ。24刻スペシャルでも構わねぇからな」
「ふふっ、スケールが違うね。2日に分ける?」
「構成次第だな。一挙公開の方が盛り上がりそうだけどな」
「そうだね。じゃあ、プレイリストを流すよ」

遙はiPhoneを手に取ると、プレイリストを初めから流し始めた。
君のためにできること、が流れ始める。
俺は遙と抱き合いながら、小声で歌い始めた。
遙は嬉しそうに微笑みながら、ずっと俺が歌うのを聴いていた。

「政宗様、昼餉をお部屋にお持ち致しました。いつでもどうぞ」
「Thanks. 遙、移動出来るか?」
「うん」

俺は遙を抱き起こすと、夜着を着付けてiPhoneを持って部屋を移動した。
遙は椅子に座ると、置きっ放しだったタバコを手に取り、一本吸い始めた。
俺も鉄瓶を火にかけると、タバコに火を点けた。

「はぁ、落ち着く…。夜伽の後のタバコはまた格別だな」
「クッ、そうだな。俺も落ち着く」

二人でしばらくプレイリストを聴きながら無言でタバコを吸って、火を消した。

「遙、何が飲みたい?」
「お煎茶」
「分かった」

俺は急須と茶葉を出すと、煎茶を淹れてやった。
遙は曲に合わせて、大切なあなたを歌い出した。
俺は笑いながら遙の頭を撫でた。

「お前、昼餉が冷めるぞ?」
「お煎茶が熱くてまだ飲めないから」
「クッ、そうか。だったら終わるまで歌ってくれ」
「うん」

遙は続きを歌い出した。
遙と結ばれたばかりの幸せな日々を思い出しながら、俺は遙の歌声に聞き惚れた。
最後まで歌い終わると、遙は嬉しそうに茶を飲んで溜息を吐いた。

「うん、丁度飲み頃!美味しいな」
「俺も少し飲んだら、冷めないうちに昼餉を食う」

俺も半分くらい茶を飲むと、昼餉を食べ始めた。
流れているのは、GACKTのTea Cupだ。
二人きりの午後に相応しい、幸せなラブソングだ。
遙もゆっくりと昼餉を食べ始めた。
曲がBreathlessに変わると、遙は固まり、頬を染めながらぱくぱくと昼餉を食べ始めた。

「だからゆっくり食えって言っただろ?」
「だって、恥ずかしくて。ねぇ、これ本当に歌わなきゃダメ?」
「大切なマシェリのエピソードの前のエピソードだからな。お前の祝言のワンピースもあの時買っただろ?だから、この歌は外せねぇな」
「うっ、やっぱりそうだよね。でも、Vanillaは流石に…」
「夜伽のシーンの代わりに歌うんだ。お前、Vanillaを抜くなら、代わりに夜伽の再現シーンに差し替えるぞ?着衣だし、俺は見られても一向に構わねぇ」
「やだやだ!Vanillaの方がマシ!」
「よし、じゃあ、最高に色っぽいイク〜!を期待してるからな!後で練習だ」
「恥ずかしくて無理!」
「無理なら夜伽中に録音して、それを代わりに流すぜ?」
「そんなのもっと無理!」
「だったら、言われた通りにやれ!」
「分かったよ!もう…」

曲はVanillaに変わり、遙はますます頬を染めた。
俺はくつくつと笑いながらゆっくりと食事をし、間奏の後から口ずさみ始めた。

「さあ、そろそろだぜ、遙。やってみろ。拒否権はなしだ。やらなかったら、午後も抱きまくる」

遙は慌てて首を横に振った。
俺も歌い始めた。

「白い花に囲まれて、いーくー」
「イク〜!」

吐息混じりの、殊更艶っぽい声で遙は啼いた。
俺は笑いながら遙の肩を抱き寄せた。

「お前、やれば出来るじゃねぇか!伊達に毎日俺に抱かれてねぇな。最高に色っぽかったぜ?本番もその調子でやれ。期待してるぜ?何人鼻血で倒れるか楽しみだ!」
「もう…」

まもなくVanillaは終わり、再会〜story〜に曲が変わった。

「おい、遙、音楽止めろ。流石に今泣くわけにいかねぇ。聴くなら食後だ」
「分かった」

遙はすぐに音楽を止めた。
そして、ホッとしたように食事を再開した。
軽めの昼餉はその後、そう経たないうちに食べ終わった。

「おい!膳を下げろ」
「かしこまりました」

俺が命じると、すぐにくノ一が現れて膳を下げてテーブルを拭いて、灰皿を替えて下がって行った。
俺はタバコに火を点け、ゆっくりと吸い始めた。
遙は欠伸を噛み殺して、薬を飲んでからタバコに火を点けた。

「どうする?すぐに寝たいか?」
「すぐに横になったら胃もたれするから、しばらくお茶が飲みたい」
「分かった。もう、プレイリスト、再生していいぜ」
「うん、分かった」

遙はプレイリストを再生した。
タバコをゆっくりと吸いながら、じっと歌詞に耳を澄ませる。
これで聴くのは二度目だが、やはりあの日の遙との別れを鮮明に思い出す。

「政宗、泣かないでこの曲歌える?切な過ぎるよ…」
「俺をなめんな。歌ってるうちに慣れる。何なら本当に泣いても構わねぇ。本番はこれで絶対に成実を泣かせるからな!」
「ふふっ、本当に根に持ってるんだね」
「あいつ、大爆笑しやがって、許せねぇ!」
「だから、何を話したの?」
「俺の涙酒だ。小十郎相手に毎晩お前との思い出話をして飲みながら泣いてた。お前が恋しくて仕方なくてな。野郎共も廊下で鈴なりになって俺の話を聞きながら大号泣してた中、成実だけがひいひい言いながら廊下で大爆笑してやがった。あいつだけは、本番は絶対に泣かせてやるぜっ!」
「そっか、それは政宗も怒るよね。じゃあ、私も政宗に協力してあげる。精一杯、心を込めて、切なく歌い上げるよ。振り付けもそれなりに考える」
「それでこそ俺の女だ!何なら演技でもいいから涙を流しながら歌え」
「多分、勝手に涙が出て来るから大丈夫」
「よし、それで成実を泣かせろ。もらい泣きさせろ。成実は観客席最前列に座らせる。あいつの泣き顔が見たい」
「ふふっ、頑張る」

俺と遙はハイタッチをしてしばらくプレイリストの曲に聞き惚れた。
空になった湯飲みに煎茶を追加し、ゆっくりと飲みながら披露宴本番に思いを馳せた。

「政宗がいない間は悲しくて恋しくて仕方なかった曲ばかりだ。本当に切ない…」
「もう俺はお前を片時も離さないから大丈夫だ。あとは本番、あの頃を思い出しながら、切なく歌い上げろ」
「うん。涙声にならないように気をつける」

絢香の三日月で俺はまた涙ぐみ、遙は囁くような声で歌っていた。

「遙、俺のiPhoneにも同じプレイリストを作れ」
「うん、いいよ」

遙はそのまま歌いながら、俺のiPhoneをいじりだした。
三日月が終わると、エリック・マーティンのEternal Flameが始まった。
曲に合わせて俺が歌い出す。
ただ、歌っているうちに、エリックの声はいいのに曲のアレンジが気に入らなくなって来た。
あの日の俺は、哀しくて寂しくてたまらなかったから、もっと静かなアレンジの方がいい。

「遙、俺が歌うEternal Flameは他のバージョンに変更だ。他にカバーしてる奴、いねぇのか?」
「たくさんいるよ」
「どうやって探すんだ?」
「ミュージックでApple Music内を検索してみて。私のiPhone使っていいから」
「Okay」

ミュージックを立ち上げて検索すると、本当にたくさんのカバーがあって驚いた。
その中で男がカバーしているバージョンを探した。
そして、試しにShane FilanのEternal Flameを再生した。
アコースティックギターだけで切なく歌うアレンジは、あの日の俺の気持ちそのものだった。

「よし、遙。俺のEternal Flameはこのバージョンに変更だ」
「誰が歌ってるの?」
「Shane Filanって書いてあるぜ」
「分かった。変更しておく。このアレンジ、切ないね」
「ああ、そうだな。あの日の俺の気持ちそのものだ。今にも消えそうなEternal Flameだったからな…」
「そっか…。だったらこのアレンジの方がぴったりだ。それにしても政宗ってやっぱり完璧主義だよね。流石伊達男だ」
「変な所で手を抜かねぇだけだ。それなりに楽はしてるぜ?遙、プレイリストは作れたか?」
「もうちょっと待って」

俺はしばらくEternal Flameを噛みしめるように歌っていた。

「政宗、出来たよ。私のiPhoneも変更しておく」

遙は俺にiPhoneを返すと、自分のプレイリストも変更した。

「ふう、何か疲れちゃった。そろそろお昼寝しようかな」
「ああ、いいぜ。お前を抱き締める昼寝は最高だろうな。来い」

俺達はiPhoneを持って寝所へ移動した。
布団の上に横になって遙を抱き締める。
遙は、自分のiPhoneでアラームをセットして、俺のiPhoneでもう一度先ほど聞いていたEternal Flameを再生した。
しばらく抱き合い、じゃれるようなキスを繰り返しながら、Eternal FlameとI remember youを聴いて、次に逢いたくていまを聴いてまた二人で涙を流しながらキツく抱き合った。
やがて、Everythingが始まった頃に遙はぐっすりと眠りにつき、俺はその幸せそうな綺麗な寝顔を眺めながら最後のPreciousまで聴いて、幸せな気持ちでいっぱいになりながら眠りに落ちた。

もう、俺達を引き裂くものは、きっと何もない。

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