ハレルヤコーラス -2-

登勢のいる部屋に入ると、美紀は猿飛と茶菓子を食べながら寛いでいた。

「あ!遙!遙もお茶する?せっかくなら、のんびり引き継ぎしようよ」
「うん、いいよ」

遙も座り、iPadをバッグから取り出して、俺の分は俺に手渡した。

「え!?何で政宗もiPad持ってるの!?」
「婚儀の打ち合わせに必要だから、遙にバッグから出させた」
「そうなんだー。婚儀の打ち合わせはどこまで進んでるの?」
「昨日、遙と披露宴の打ち合わせをしてな、まだざっくりではあるが、かなりの事が決まったぜ?遙は猿飛の忍隊の幻術を使って、7年前の出来事と甲斐での出来事を再現した馴れ初め動画を撮影するつもりだ。削れないエピソードが多いから、馴れ初め動画だけで中入り含めて20時間の見積もりだ」
「マジで!?大河ドラマ並みだね!」
「愛の大河ドラマ、婚儀編だからな!とことんまで手は抜かないつもりだ。撮影のためか、今朝、遙のバッグからiPhoneも出て来たしな。お膳立ては完璧だ。後は、美紀と猿飛の協力が必要だ」
「iPhoneまで出て来たの!?それなら撮影はばっちりだね!わぁ!7年前の再現なんて超懐かしい!私も超見たい!」
「だろ?昨日、再現動画の打ち合わせをしたが、情報が足りねぇ。そこで、美紀、お前には7年前のエピソードの再現のために、お前の心情描写を入れた手記を書いて欲しい。お前目線の手記がいいだろうな。もちろん、甲斐に現れた後の分も頼む。猿飛にも甲斐の分は書いて欲しい。甲斐での遙の事は、お前が一番把握してるからな」
「うん、俺は構わないけど、遙は大丈夫なの?そんな再現動画なんて作って。また錯乱しない?ところで、動画って何?写真の仲間?」
「佐助、動画ってこういうのを言うんだよ」

美紀はiPadで素早く動画を立ち上げて、猿飛に見せた。
猿飛は口をあんぐりと開けて驚いた。

「見たまんま動いてるし、声まで入ってる。驚いたな…。ますます遙が心配だよ。本当に大丈夫なの!?トラウマ抉るようなもんだよ?」
「私は政宗と一緒にいれば大丈夫だし、みんなにも政宗のプロポーズと佐助が何で政宗に仕えてるかお披露目したい」
「そっか。なら、俺は反対しないよ。遙のためなら、喜んで手記を書くよ。そうだなぁ。でも、俺も真田幸村と姫様については把握し切れてないから、真田幸村と姫様の手記もないと完全に再現は出来ないよ。伊達陣営の事は全く分からないし。それにばらばらの手記を元に幻影を作るのは流石に俺達でも無理だな」
「猿飛、お前は本当に仕事が出来る男だな。だから、手記を元にシナリオを作るつもりだ。遙が7年前の出来事のシナリオを書いて、俺が甲斐での出来事のシナリオを書く。7年前の画像はたっぷりあるからそれを元に再現しろ。多少の違いは構わねぇ」
「流石は政宗様だねぇ!そこまで考えての依頼だったのか!うん、それなら俺達、協力出来るよ。幻影も作り出せる」
「流石、佐助!頼りになるね!幻術の得意なくノ一とかいる?」
「うん、いるよ?何で?」
「クッ、夜伽のシーンがあるからだ。遙が恥ずかしくないようにフェイク入れるけどな。流石に俺もありのままは見せたくねぇしな。撮影の時、遙が恥ずかしくないように、幻術担当はくノ一だ」
「ええっ!?夜伽まで入れるの!?何でまた!?」
「Eternal Flameの謂れを公開するためだ」
「そっか、なら夜伽のシーンは外せないね。分かった。後でくノ一の選定をしておく」
「そうだなぁ、佐助。アングルによっては斜め上から撮影しないと上手く政宗の背中で隠れないかも知れない。くノ一に撮影頼める?そんな器用な事、流石に私じゃ出来ないよ」
「機械って難しい?」
「ううん、超簡単」
「なら、大丈夫。機械さえくれれば練習してすぐにでも出来る。はしごの上から撮れば問題ない」
「流石!多分、シナリオを書くのにまだ時間がかかるから、その後、何台iPhoneが必要か計算だな。あ、そうだ!佐助もiPhone、美紀からもらってよ!LINEで打ち合わせしたいからさ!美紀もiPhone出して、LINEのグループ作ろう?」
「オッケー!すぐに用意するね」

美紀はバッグの中を覗いて、固まった。

「iPhone6 plusと同じ大きさなのに、ホームボタンがない。これ、Android?」
「ううん、iPhoneだよ。ロック解除の仕方が違うだけで使い方は一緒」
「そっか、なら安心だ」

美紀はiPhoneを取り出し、画面をいじるとすぐにコツを掴んだようだった。

「ロック解除の方法、分かったよ。画面が大きくていいね。私、寝転びながら、これで手記書くよ。その方が楽」
「クッ、好きにしろ。手記はクラウドで共有だ。猿飛、お前は筆で書いても構わねぇが、あまりに量が多いようだったら、多分、iPhoneの方が楽だぜ?俺も分厚い紙の束渡されても困るからな」
「じゃあ、iPhoneってやつで書いてみるけど、難しい?」
「遙は1時間で千文字以上書けるらしいぜ?筆より速いんじゃねぇか?」
「そんなに!?分かった。美紀から後で教えてもらうよ。真田幸村と姫様は筆でいいよね?」
「ああ、構わねぇ。遙は行書が読めねぇが、俺なら読めるから問題ねぇ。早くシナリオを書き始めたいから、明日までには甲斐に伝令を飛ばせ。当時のありのままの心境を包み隠さず書いた手記にしろって伝えろ」
「了解!」
「政宗、グループ作ったけど、これでいい?」

美紀に言われてiPhoneのLINEを確認すると、愛の大河ドラマ撮影部隊というグループが作られていた。
猿飛の名前も追加されている。

「クッ、なかなかいいセンスじゃねぇか!よし、思い付いた事があったらこのグループに書き込むぜ。ちなみに、iPhoneの電波の有効範囲は半径400キロらしいぜ?例えお前が八王子にいて、遙が江戸にいてもFaceTimeで治療の打ち合わせ出来るぜ?良かったな!LINEも使えるしな!」
「マジで!?それは心強いな。それでさっき、小十郎が向こうの部屋で、まるで電話してるみたいな話し方してたんだね。LINEで政宗と通話してたのか」
「そうだ。小十郎にも成実にもiPhoneを渡してあるからな!美紀、何か必要な物があれば、LINEで小十郎に言付けろ。その方が気が楽だろ?」
「流石、政宗!うん、その方が気楽だな。小十郎、いない時もあるからさ。呼んでもらうの気が引けるし。メッセージなら忙しくても後で読んでもらえるからね!」
「はぁ、それにしても手記かぁ。美紀と結ばれたエピソードまで入れるなら、俺の秘密も暴露しなきゃいけないのか。暴露しないで美紀とのエピソードは書けないからさ」
「この際だから、包み隠さず、全て書け。必要ないと俺が判断したら削ってやる。必要なら、公開だな」
「うっ、でも、俺、政宗様に怒られそう」
「遙の命を救った事に免じて許してやるから書け。お前には他にも協力してもらうから怒らねぇよ」
「はぁ、良かったー!で、他に協力する事って?」
「小十郎達には秘密にするから今は言えねぇな。LINEで知らせてやるから、早く使い方をマスターしろ。黒脛組とお前の忍隊には知らせてやる」
「分かった」
「政宗、私も知りたい!」
「お前にもある程度は秘密だな。その方が本番感動するだろ?お前、ネタバレ聞きたいのか?」

しばらく美紀は考えて、首を横に振った。

「やっぱお楽しみに取っておく。政宗の演出が楽しみだしね!」
「Okay, 猿飛には俺から直接指示を出す。忍隊で情報を共有しても構わねぇ。動画のシナリオは、猿飛、お前に直接送る。遙、メールで確か添付出来たよな?」
「うん」
「よし、完璧だ。俺からは今のところは以上だな。登勢の治療が終わった頃に、猿飛、お前を俺の部屋に直接呼び出して打ち合わせたい事がある。今はとりあえず、登勢の治療が優先だ。空き時間があるようなら手記を書け」
「分かったよ、政宗様」
「うん、私も書く。じゃあ、遙に引き継ぎするね」

美紀と遙はiPadを開き、引き継ぎを始めた。
登勢は間もなく食事が出来るようになるらしく、俺は本当に安心した。

「よし、美紀、登勢の食事については小十郎に言付けろ」
「うん、分かった。食事は布団の上で出来るように、台と座椅子が必要なんだけど」
「ああ、それなら材料さえ提供してくれれば、俺達がちゃちゃっと作るよ」
「猿飛、流石だな。どんな木材が必要か美紀と打ち合わせて小十郎に言付けろ。すぐに手配するはずだ」
「流石、政宗!小十郎には後でLINEするよ。じゃあ、遙、あとはよろしくね!佐助に早速iPhoneの使い方教えてくるね!」
「美紀、ありがとう!じゃあ、また後でね!」
「うん!」

美紀は手早く荷物をまとめると、猿飛と共に部屋を出て行った。

「美紀も猿飛も本当に出来る奴らだぜ。これで伊達も安泰だ。披露宴が楽しみでたまらねぇ!」
「ふふっ、そうだね。美紀はすごく優秀だよ?手記も楽しみだね!じゃあ、私は診察して来るね」
「ああ、登勢を頼む」
「うん、任せて」

遙は俺の頬にキスをすると、iPadを持って屏風の向こう側に消えて行った。

「おい、小十郎、部屋に入れ」
「はっ!」

俺が襖の向こうの気配に命じると、すぐに小十郎は部屋に入って来て俺の前に座った。

「俺が電話で伝えた言付けはどうなってる?」
「はっ、まだ完全には手配が完了しておりませんが、段取りは出来ております。明日か明後日までには手配が完了する見込みでございます」
「それなら十分だな。俺と遙が休んでいる間に手配を進めれば構わねぇ。今は直接会って打ち合わせしたい事を進める。日本には荷馬車はあるけど、人を乗せる馬車はねぇだろ?だから、オーダーメイドさせる。もちろん人力車もな」
「かしこまりました」
「二人乗りだから、それを元に招待客の人数を計算してその数だけ作らせろ。美紀と猿飛の分もカウントする。あいつらは遙の命の恩人だから、全ての式に参加させる。念のため予備の馬車と人力車もいくつか多めに作っておけ」
「はっ!では、早速、馬車と人力車の画像をお見せ下さい」
「Okay!」

俺はiPadを開いて画像検索をした。
確か、遙はオープンカーみたいな馬車がいいって言っていたから、箱型ではなく、長椅子だけの馬車が良さそうだ。
俺は、シャーロック・ホームズのドラマを思い出して、あの時代のロンドンの馬車の画像を見つけて小十郎に見せた。
小十郎は物珍しげに眺めていた。

「なるほど、これが馬車でございますか。確かにパレードで政宗様と遙様の晴れのお姿を披露するに相応しい馬車と存じます。民衆からもこれならお二方のお姿がよく見えるのは間違いございません」
「Okay. 忘れないうちに、iPhoneでこの画面を撮影しておけ。俺もブックマークしておく」
「かしこまりました」

小十郎は懐からiPhoneを取り出し、画面を撮影してアプリで画像を確認した。

「よし、次に人力車だな」

俺は人力車を画像検索して、小十郎に見せた。

「なるほど、馬車を小振りにして、人に引かせるのですね。確かにこれは斬新です」
「だろ?祭りとよく合うだろ?」
「左様でございますね。では、お写真を失礼致します」

小十郎は写真を撮った。

「ねぇ!政宗!私、お神輿の先頭じゃなくて、お神輿の後ろがいい!私もお神輿見たい!」

屏風の向こう側から遙の声が聞こえて来て、思わず笑ってしまった。

「Okay!お前にも祭りをちゃんと見せてやるから楽しみにしてろよ!前田慶次を神輿の上に乗せてやるぜ!最高に盛り上がりそうだな!」
「流石、政宗!すっごく楽しみ!」

小十郎は堪え切れないように笑い出した。

「遙様は大変可愛らしいですね。かしこまりました。政宗様と遙様の人力車の前には、前田慶次を乗せた神輿を配置致しましょう」
「頼んだぜ、小十郎!な?遙って超絶可愛いだろ?」
「左様でございますね。政宗様がこれほどまでに遙様を愛でるお気持ちもよく分かります。他には何を打ち合わせ致しましょう?」
「昨日の晩、遙と披露宴の流れについてもっと細かく打ち合わせをした。今のところ、披露宴のお色直しの回数は、8回だ。教会式と合わせると、11着分のドレスを選ぶ必要がある」
「かしこまりました。もう回数を決められたのですね。流石でございます。政宗様、11着で満足なさいますか?」
「こればかりは選んでみねぇと分からねぇな。11着に絞れなかったら、お色直しの回数を増やして調整する。中入りのタイミングを変えれば融通が利く」
「かしこまりました。生地さえ織らせれば、仕立てにはそうお時間もかかりませんから、ゆっくりデザインを選んで下さい」
「ああ、そうする。それから、披露宴は12刻じゃ収まらねぇ事が分かった。遙が作る馴れ初め動画は、中入り含めて10刻の予定だ。それも作ってみねぇとどれだけの長さになるか断言出来ねぇ」
「10刻でございますか!?」
「ああ。7年前のエピソードも甲斐でのエピソードも削れないエピソードが多いからな。なるべくダイジェストに編集するつもりだが、多分、相当長くなる」
「かしこまりました。一生に一度の婚儀でございますから、政宗様のお気の済むような動画をお作り下さい。長くても致し方ないでしょう」
「Thanks!動画のためのシナリオは俺と遙が書く。伊達陣営の手記は俺が書くつもりだが、お前にも手記を依頼すると思う。俺の背後でお前が動いていた件については、俺は把握してねぇからな。遙との再会までのエピソードで、俺が書けそうにない手記についてはお前が書け。猿飛達にも依頼してる。そうだな、俺のプロポーズまでを動画にするから、遙が吐血した後、お前らが何をやっていたかについてはお前が書け。最後に俺が全ての手記に目を通してシナリオを書く」
「かしこまりました。そこまで綿密にお考えでしたか。そして、動画はどのように撮影なさるおつもりですか?話し声は所々聞こえてはおりましたが…」
「猿飛の忍隊に幻影を作らせてiPhoneで撮影する。甲斐での復讐の予行演習と同じだ。あのクオリティなら動画に出来る」

小十郎は驚いたように目を瞠った。

「まさか、そこまでなさるとは、この小十郎、思いも致しませんでした。それは政宗様の策でございますか?」
「いや、遙だ。遙はさらに動画に一捻り加えるつもりだ」
「遙様が…!流石でございます。そして、一捻りとは?」
「当日までの秘密だ。お前達を驚かせたいからな!段取りは黒脛組と猿飛の忍隊で共同で行う。だから、司会もお前がやる必要はねぇ。それについては、遙とまた相談する」
「かしこまりました。では、政宗様に全てお任せ致します」
「よし、それで決まりだな。ライブとカラオケについてはまた遙から指示があるだろうから、それを待つしかねぇな。いずれにせよ、登勢が治ってからしか無理だ」
「左様でございますね。他には何かございますか?」
「そうだな…。小十郎、お前も遙の世界の時間の数え方を覚えろ。指揮系統がしっかりする。確か振り子時計がイギリスにあったな。輸入して城内の目立つ所にいくつか置いて、野郎共にも叩き込む。成実、お前もこっちに来い!今から時間の数え方を説明するから」
「今行く!」

成実は屏風の向こう側からすぐに姿を現して、俺の隣に座った。
俺はiPhoneを見せながら、時間、分、秒、時刻の数え方を説明した。
小十郎は感嘆の吐息を漏らした。

「こちらの方が単純で分かりやすいですね。確かにこれなら細かく時間を指示出来、指揮系統もしっかり致します。季節に左右されないのも便利でございます」
「ああ、遙は忍隊全員にこれを叩き込んで完全に指揮下に置いていた。だから、超短時間であの布陣を敷けたんだ」
「梵、あの布陣って何?」

俺は遙が取った策と遙が予測していた俺達の布陣について、成実に説明した。

「マジですげぇ!遙ちゃんってやっぱ只者じゃねぇな!そんな指揮官、聞いた事もねぇ!そこまで見抜いてたなんて、マジですげぇ!しかも10秒以内!?」
「まあ、俺も伊達軍全員に秒単位を叩き込めばそれくらいの指揮は執れるけどな。でも、遙には及ばねぇかもな。流石に10秒以内じゃ俺でも無理だ。あいつは天才だ。ガチの天才だ」
「梵よりすげぇって半端ねぇな…。外国の牽制なんて目じゃねぇ…」
「まあ、とにかく、これから遙と話す時はこの時間の単位で話せ。俺もこの方が指示を出しやすいから、俺に話す時も同じだな」
「かしこまりました」
「分かったぜ、梵!じゃあ、俺、登勢の所に行って来る!」

成実は、屏風の向こう側に消えて行った。

「小十郎、俺はこれから遙のドレス選びをする。お前にはたくさん言付けちまったから、そこから手を付けろ。上洛前に出来る事は終わらせたい。上洛の時期も登勢の回復の速さ次第だ。上洛に関して今打てる手はねぇ。時期が確定してから長曾我部と打ち合わせをする」
「左様でございますね。では、小十郎は早速手配を始めます」
「ああ、頼んだぜ」

小十郎は文机を引き寄せ、仕事を始めた。
俺は横になりながら、iPadに目を落とした。

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