ハレルヤコーラス -3-

しばらく集中してiPadのドレスの画像を見ていると、遙の気配を感じて俺は顔を上げた。

「どうした?休憩か?」
「うん、先読みして薬の指示をもう出して、調合も済ませちゃった。痛み止めの処置は私しか出来ないから待機だけど、他にする事もなくなっちゃった。だから、政宗がどんなドレス見てるのかなぁって気になって来ちゃった」
「お前は本当に仕事が出来る女だな。ああ、いいぜ?とりあえず、披露宴のお色直しは、動画の流れに合わせた方がいいから、ドレス選びも俺の部屋で一緒にするか。今出来るのは、教会式のドレス選びだな」
「そうだね。政宗、どんなのがいいの?」
「まず、全てのドレスに共通するのは、上半身がビスチェタイプだ。お前には綺麗な肩と背中を露出して欲しい。デビアスのネックレスを着けてな。それから、お前、ウエストが細いから、Aラインよりコルセットで細いウエストを強調した方がいいな。それで、1着目は裾がゴージャスなのがいい。ダイアナ妃みたいにな。トレーンがとても長くて繊細なレースがあしらわれたやつだ。馬車に乗る時はプリンセスタイプがいいだろう。丈が短い方が乗りやすいって言ってたからな。最後はカラードレスだな」
「流石、政宗、もう構想が決まってるんだね」
「構想は決まってるが、理想のドレスが見つからねぇ。パーツはいいのに、全体が気に入らなかったりな」
「なるほどね。じゃあ、政宗、パーツが気に入ったドレスの画像、教えてくれる?」
「そうだな…」

俺は悩みながら、いくつか画像をピッアップして遙に見せた。
遙はiPhoneで撮影して、その画像をしばらくじっと見つめていた。

「政宗は、どのパーツを入れたいの?」
「この写真は上半身のデザインだな。二の腕と胸のレースが繊細で綺麗だ。次の写真は後ろ姿のスカート部分が凝ってていい。ただ、トレーンはもっと長い方が良い。こっちの写真みたいにな。もっと長くてもいいくらいだ」
「なるほどね。前から見た姿はスカート部分はどのデザインが気に入った?」
「そうだな、素材感はさっきの後ろ姿と同じ感じが違和感ねぇな。だったら、この写真がしっくり来るか」
「分かった。ちょっとスクショ撮るね」

遙は画像を拡大してiPadのスクリーンショットを次々に撮り、追加でもう1着とてもトレーンが長く豪奢でふんわりと広がったドレスの前から見た姿と後ろ姿の写真を選び、同じようにスクリーンショットを撮ると遙のiPhoneに送信した。
そして、バッグを引き寄せて、薄型のノートパソコンを取り出した。
ノートパソコンを開くと、遙は熱心に何かを操作していた。

「お前、何やってんだ?」
「画像合成。Photoshopで簡単に出来るんだよ?」
「そんな事まで出来るのか!?」
「うん。前から見た写真と後ろから見た写真を作るから待っててね」

俺はノートパソコンを覗き込んだ。
遙はパーツを切り抜き、大きさを合わせながらコラージュのように写真を合成して行った。
前から見た姿の写真と、後ろ姿の写真はそう経たないうちに出来上がった。
俺はあまりの出来の良さに絶句した。
当日、このドレスを着た遙はどんなに綺麗だろう。
ダイアナ妃のドレスに勝るとも劣らない、素晴らしいデザインのドレスだ。

「お前、やっぱ最高!マジで天才だぜ!それ、俺のiPadに送れるか?」
「うん、AirDropで送るから、ちょっと待ってね」

遙は少し何かをいじると、俺のiPadに写真が入った。
拡大して見て、更に惚れ惚れする。

「すげぇ!最高に理想的なドレスじゃねぇか!」
「政宗様、いかがなさいました?」
「遙に気に入ったドレスのパーツを伝えたら、その通りに画像合成してドレスの写真を作ってくれたぜっ!」
「誠でございますか!?この小十郎も拝見してもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだっ!」

俺は小十郎に、二枚の写真をゆっくりと見せた。
小十郎は感嘆の吐息を漏らした。

「誠に素晴らしいドレスでございますね!遙様がこの画像をお作りになったのですか?」
「うん。政宗の希望通り?」
「ああ、もちろんだっ!それも予想以上の出来だぜっ!やっぱお前は天才だ!」
「そうかなぁ」
「素直に褒められとけ。よし、小十郎。1着目はこれに決まりだ!遙、iPadから小十郎にどうやって画像送信したらいい?」
「iPadのLINEアプリで送信出来るよ。AirDropでもいいけど」
「iPadにもLINEがあるのか!マジで便利だぜ!」

俺はLINEを立ち上げ、小十郎に送信した。
小十郎はiPhoneを確認して微笑んだ。

「遙様によくお似合いのドレスでございますね。職人に見せて、どの程度の生地が必要か見積もらせましょう。写真から型紙を起こす事も可能かと存じます」
「なぁ、遙、このモデルの顔、お前の顔に差し替えられるか?」
「うん、出来るけど、普通に化粧した写真しか私、持ってないよ?」
「それでも構わねぇ。髪を結い上げた写真がいい。合成してみろ」
「うん、分かった」

遙は、ノートパソコンをまた少しいじると、画像を俺のiPadに送信した。
ヴェールさえ被れば本番そのものの、遙の写真が出来上がり、俺は息を呑んで見つめた。

「すげぇ…。最高に綺麗だ…」
「政宗様、この小十郎も拝見してもよろしいでしょうか?」
「ああ、お前も見ろ」
「これはっ!?」

iPadを差し出すと、小十郎は絶句して写真に見惚れた。

「最高に美しいドレス姿だと思わねぇか?」
「左様でございますね。正直、ここまでとは予想もしておりませんでした。政宗様、流石でございます。遙様に大変お似合いでございます」

遙はにこにこと微笑んだ。

「やっぱり政宗は最高にセンスがいいね!こんなにゴージャスなウェディングドレスなんて、普通はないよ?流石、ロイヤルウェディングだね!」
「ああ、見惚れちまって、しばらく眺めていたいくらいだぜ…」
「ふふっ、私は政宗の言う通りにしただけだよ?」
「それでも、すげぇ…。予想以上だったぜ…」

遙は俺が写真に見惚れている間、iPhoneで何かを調べていた。

「んー、プリンセスドレスかぁ。あんまり裾が広がると、馬車に乗る時、邪魔だなぁ。そこそこ控えめで、かつちょっとセクシーな方が私の年齢に合うかな」
「そうか、じゃあ、お前の意見を取り入れて、再検索してみるぜ」
「うん」

俺はしばらく検索して、上半身がハーフカップで胸が寄せて上げられているドレスを発見した。
裾も控えめながらゴージャスで、全体的にとてもセクシーだ。
遙の大きなバストによく映えそうなドレスだ。
丈も邪魔にならない。
これなら手直しも要らなさそうだ。

「よし、馬車に乗る時はこのドレスだな。手直しせずに、お前の顔に差し替えろ」

遙はiPadを覗き込んで、ほんのり頬を染めた。

「政宗、セクシー過ぎない?」
「セクシーなのがいいって言ったのは、お前だろ?このドレス、最高だぜ!早く合成してみろ」
「もう、分かったよ」

遙はさっきと同じようにiPhoneにスクリーンショットを送ると、ノートパソコンで手早く合成して、俺に送信した。

「最高だ、遙!お前に超絶似合ってるぜっ!」

小十郎はiPadを覗き込んで、そっと顔を背けた。

「政宗様、本当にこのドレスを民衆にお披露目するおつもりですか?遙様にはもう少し上品なドレスの方がよろしいかと…。せめて披露宴でお披露目するのはいかがですか?」

俺は小十郎に言われて思い直した。
確かに民衆に初めて披露するのにこれは刺激的過ぎる。

「Okay, じゃあ、披露宴で着せる事にする。また選び直しだな」

俺はiPadの画像検索に戻った。

「Uh…そうだな。馬車に座って映えるデザインを考えるか。上半身と、スカートが凝った感じのが映えるか。上半身がシンプル過ぎるとつまらねぇからな。見栄えがしねぇ。何で上半身がシンプルなドレスの画像ばかりなんだ!?」
「だったら、政宗、マーメイドに変更してみたら?上品なレースのゴージャスな感じで、裾もそんなに長くないのが見つかるかもよ?」
「Okay、探してみる」

言われて検索してみると、上半身のデザインも凝っていて、裾がゴージャスだが馬車に乗りやすそうなドレスばかりが現れた。

「遙、お前最高にcoolだぜっ!理想的なドレスばかりで今度は選び切れなくなって来たぜ…」
「ふふっ、ゆっくり選んで?」
「ああ、そうする」
「それに選び切れなかったら、披露宴に回してもいいんだよ?そこでプリンセスドレスを着るのもアリなんだよ?」
「それもそうだな。上品なのにセクシーで、お前に似合いそうなドレスばかりだぜ…。片っ端から着せてみたい」
「ふふっ、いくらでも着るよ?」
「ああ、楽しみでたまらねぇ!とりあえず候補を5着までに絞るか」
「うん、楽しみにしてる」

俺は悩みに悩んで、1着のドレスを選んだ。
上半身には繊細なレースが織り込まれ、綺麗な身体のラインを強調しつつ、膝から下は豪華なレースがふんだんにあしらわれて、いくつもの層になって広がっているドレスだ。
細いウエストを強調するようなデザインで、馬車に乗った時に、膝下のレースが映えるのは間違いないドレスだ。

「遙、これはどうだ?」
「わぁ!ゴージャス!上品なのにセクシー!これなら着れるな。座った時に映えるね!」
「だろ?」
「政宗様、この小十郎も拝見してもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぜ?」

小十郎は写真を見て微笑んだ。

「これならば上品でございますね。遙様に誠に相応しいドレスと存じます」
「おい、遙、お前の顔写真に差し替えろ」
「ふふっ、分かってる」

遙は素早く作業を終えると、俺のiPadに写真を送った。

「思った通りだぜ!お前に最高に似合うな!可愛くて上品なのにセクシーだ!本番が楽しみで仕方ねぇ!」
「政宗がそんなに喜んでくれて、良かった」
「次はカラードレスか!どんなのがあるか楽しみだぜ!」
「あのね、政宗。私、晩餐会で着たいドレスがあるんだ」
「お前が?どんなドレスだ?」
「うん。ちょっとiPad借りるね」

遙は素早く検索すると、俺にドレスを見せた。
綺麗なブルーの可憐なプリンセスドレスだ。

「これはね、映画のシンデレラのドレスなんだよ?」
「シンデレラ?」
「うん」

遙はシンデレラのストーリーを話し始めた。
遙の世界のおとぎ話だ。

「平民とも言える私が政宗と結婚するなんて、本当にシンデレラストーリーだと思うの。だから、着てみたいなって」
「お前が着たいなら、俺は反対しねぇよ。このドレスも最高に綺麗だからな。それにブルーは俺の象徴だ。伊達の晩餐会に相応しいドレスだな。よし、これで決まりだ」
「お伽話ですか。遙様は可愛らしいですね。政宗様に相応しい奥方様は遙様しかおりません。そのようにご謙遜なさらないで下さい。しかし、このドレスは誠にお似合いになると思います。海外の姫君そのものでございます。誠に婚儀に相応しいドレスでございます」
「そうだな、小十郎。このドレスを着た遙は姫君そのものだな。よし、遙、この写真もお前の顔に差し替えろ」
「分かった」

遙は写真を編集すると俺のiPadに送信した。
写真のモデルより遙は美しく、とてもドレスが似合っていて、本番の日が楽しみで仕方なくなった。

「よし、最高に気に入ったぜ!遙、休憩入れないか?縁側でタバコを吸おう。成実、お前はどうする?」
「俺も行く!遙ちゃんのドレスも超見たい!」
「分かった、iPadを持って行ってやる」
「では、小十郎は灰皿と茶を申し付けます」
「Thanks, 小十郎!」

俺達は縁側へ出た。
ゆっくりとタバコを吸い始めると、すぐに灰皿と茶が持って来られた。
遙は熱い茶を飲んで、ホッと吐息を吐いた。

「案外決める事多くてバタバタしちゃうね。でも、楽しいね」
「そうだな!楽しいが、流石に俺も少し疲れたぜ。あとのドレス選びはもっとゆっくりやる」
「うん、それがいいよ、政宗」
「なぁなぁ、梵!遙ちゃんのドレス、見せてくれよ!」
「ああ、いいぜ」

俺はiPadで遙の顔写真に差し替えたドレスの写真を見せた。

「すげぇ!何で遙ちゃんがもうこれ着てるの!?いつの間に試着したの!?全然気付かなかったぜ!」
「試着じゃねぇ。写真を合成したんだ。このドレスも、遙が俺の希望を聞いて合成してアレンジして作ったドレスだ。ゴージャスだろ?」
「すげぇ!ダイアナ妃のよりゴージャスだぜっ!それに遙ちゃんに超似合ってる!」
「だろ?後ろ姿はこんな感じだ」
「こんなの見た事ねぇ!すげぇ豪華だぜっ!打掛なんて目じゃねぇくらい豪華だ!」
「教会の赤い絨毯に映えるだろうな。楽しみでたまらねぇ!」
「梵、やっぱお前のセンス、最高だぜっ!大名達も絶対に驚くぜ!」
「だろ?馬車に乗る時はこのドレスだ」
「すっげえセクシーなのに超可愛い!清楚な遙ちゃんにぴったりだぜ!座った姿がまた映えるだろうな!民衆もきっと熱狂するぜ?」
「望むところだ。それで、晩餐会はこれだな」
「カラードレスか!まるで姫君じゃねぇか!すげぇ似合ってる。伊達家の親戚達も大名達も絶対遙ちゃんに見惚れるぜ!」
「お前がそう言うなら間違いねぇな。これで決まりだ!はぁ、集中してたから流石に疲れたぜ。嬉しい疲れだけどな。ゆっくりタバコを吸って、茶を飲んだらホッとするな」

俺はゆっくりとタバコをふかした。
思ったよりも疲れた。
これなら、今晩はおとなしく眠れそうだ。
充実感でいっぱいだ。
熱い茶を飲むと、また少し疲れが取れた。
遙は一本吸い終わって、茶を飲み干すと、立ち上がった。

「私、登勢ちゃんの様子、見に行って来るね。そろそろ処置の時間だから。また戻って来るよ」
「遙ちゃん、ありがとう!登勢、今日も食べれないのか?」
「うん、でも、明日の夕餉からは食べれるようになるから心配しないで?」
「マジで!?良かったぁ!美味いもん食わせてやりたいなぁ!」
「少しずつ慣らさなきゃいけないから、すぐには無理だけど、普通食になったら、登勢ちゃんの好きな食べ物、美紀に伝えてね?すぐに手配してくれるはずだから」
「分かったぜ!美紀ちゃんと交代したら、伝えておく!」
「じゃあ、行って来るね」

遙は部屋の中に入って行った。

「なぁなぁ、梵。俺も登勢のドレス姿が見たい!」
「あのなぁ、成実。これは俺と遙の婚儀だ。ドレスは遙だけに決まってるだろ?だから、ダメだ」
「せめて晩餐会だけでもいいだろ?パレードはお前の護衛につくから、登勢は江戸城に帰らせる事になるし。なぁ、舞踏会みたいな感じにさ、登勢にもドレス着せたら華やかだろ?」
「花嫁より豪華になったら困るから、却下だ」
「そこまでは華やかにしねぇよ。もう少し控えめにするからさぁ。なぁ、いいだろ?俺と登勢の祝言、もっと地味だったし、白無垢だったし。俺だって登勢にドレス着せたい!」
「政宗!イブニングドレスを検索してあげて!参列者はイブニングドレスで参加する事が多いから!花嫁と衣装の色が被らなければ大丈夫!」
「遙ちゃん、マジで!?なぁ、梵。今すぐイブニングドレスを検索してくれ!」
「俺は疲れた。休憩中だ。お前、自分のiPhoneでやれよ。Safariで調べられるだろ?打ち方の練習にもなるから、自分でやってみろ」
「そうか、その手があったか!よし、今すぐ調べるぜっ!」

成実は、懐からiPhoneを取り出して、イブニングドレスの検索を始めて声を上げた。

「すげぇ!可愛いのからセクシーなのまで色々あるぜっ!1着に絞るのが難しいな…」
「だったら、教会式と晩餐会の2着に絞れ。それなら出来るだろ?」
「え!?2着も選んでいいの!?」
「それくらいはな。遙に花を添えるなら構わねぇ。何なら、護衛を綱元と交代して、お前もパレードに参加するか?」
「マジで!?俺、登勢と馬車に乗れるの!?俺も登勢の綺麗なドレス姿を見せびらかしたいぜっ!登勢は超絶可愛いからなっ!」
「クッ、流石は俺の従兄弟だな。同じ事、考えやがる。ああ、いいぜ。俺と遙の馬車の後ろはお前と登勢の馬車だな。お前は伊達の世継ぎだ。民衆にお披露目するのもいいだろうな」
「梵、お前、最高!流石は梵だぜっ!じゃあ、俺もドレス選びしようっと」

成実はタバコを吸いながら、真剣にドレスを選び始めた。

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