Yes, your majesty! -1-

遙が美紀と交代すると、俺達は部屋に戻った。

「遙、どうする?今から天守閣に行くか?」
「うん!寒そうだから、コート出すね」
「ああ、そうしろ」

遙は微笑むと、ボストンバックを開けて、そして固まった。

「何で、iPhoneが一番上に乗ってるの…?これ、誰の…?私のは、ポケットに入ってる。政宗、iPhone落とした?」
「いや、持ってるぜ?ここにある」
「誰か失くしたのかなぁ…。でも、カバーがゴールドだ…。他の誰とも被ってない…。誰のだろう…?」

遙は首を傾げながら、テーブルに戻って来て、椅子に座るとロック解除をした。
そのまま設定を確認した途端、遙は驚きに目を瞠り、iPhoneを取り落としそうになった。

「どうした、遙?お前がそんなに驚くって珍しいじゃねぇか。ちょっと見せてみろ」

俺はiPhoneを遙の手から取り上げて、画面を見た。
そこには、Elizabethと書かれていた。

「Ha!最高にcoolだぜっ!これでいちいち船便でやり取りしなくて済むぜっ!今回は問い合わせたい事がたくさんあるから直接話せる方が便利だしな!返事も早く欲しかったから丁度いいぜ!遙、やるな!」
「いや、私がお願いしたんじゃないよ?何か勝手に出て来たの。でも、政宗、無理だよ?半径400キロしか有効じゃなかったら、江戸名古屋間がせいぜいだよ?イギリスまでなんて、絶対に電波が届かない」
「じゃあ、有効範囲が変更されたんじゃねぇか?確認してみろ」
「うん」

遙はiPhoneを確認して絶句した後、囁くような声で言った。

「有効範囲は、約4万キロ。赤道の長さと同じだ…。世界のどこにいても、iPhoneが通じる…」
「クッ、また科学が進んだか。お前のハレルヤコーラスのせいだな?」
「そんなつもりで言ったんじゃないもん!でも、どうしよう…。エリザベス女王がSafariで色々調べまくったら、産業革命は先に越されるし、王権もすぐに終わる。日本が支配されるのも時間の問題だよ?」
「あいつはそんな事しねぇから大丈夫だ。それに、このiPhone、俺達のと、ちょっと違うぜ?最初から入ってるアプリの種類が違う。全部英語だしな」
「え、嘘…」

遙はiPhoneを受け取り、熱心にしばらくいじっていた。

「本当だ。検索系のアプリは入ってないし、App Storeからも落とせない。使えるのは通信系とマルチメディア系と文書作成のアプリだけだ…。YouTubeも見れない。これだったら、本当に政宗と通話したりメッセージするだけの機能に制限されるね。写真と動画は撮れるけど」
「都合良く出来てんじゃねぇか!今回の伝令のために出て来たか!最高にcoolだぜっ!よし、あいつにこれから文を書くか。早くあいつにiPhoneを渡したいぜ!遙、お前はiPhoneの取り扱い説明書を英語で書け」
「ええっ!?でも、船だと2ヶ月くらいかかるんじゃない?」
「そんなにかからねぇよ、1ヶ月って所だな」
「そんなに速いの!?道理で政宗の天下統一も早かった訳だ。色々進んでるんだね」
「お前の世界とは違うって事だ。諦めて受け入れろ。それにしても1ヶ月は長ぇな。そんなに待ち切れねぇ!」
「政宗、無理だよ。飛行機なら1日かからないで着くけど、飛行機は流石に今すぐには作れない」
「飛行機ってそんなに速いのか!?」
「うん」
「Shit!飛行機、早く作りたいぜ…。いや、待て!!空からだろ?猿飛がいるじゃねぇか!あいつ、英語しゃべれるから、あいつを遣いにやらせるぜっ!凧を使わせてなっ!」
「ええっ!?流石の佐助でも、イギリスは遠過ぎるよっ!」
「聞いてみなきゃ分からねぇだろ?ダメ元で聞いてやる」

俺はLINEを立ち上げて、猿飛に電話をかけた。

「おい、猿飛、お前、今、手が離せるか?」
「ああ、政宗様。3人体制だから、随分のんびりしてるよ?回復傾向だし、余計にね」
「なら良かった。今から俺の部屋に来い。代理が必要なら、代わりの忍を任命してから、来い」
「うん、分かった。念のため、代理を指名してからそっちに向かうよ」
「Thanks!」

俺が電話を切ると、遙は呆れたように俺を見つめていた。

「政宗って、本当に呆れるほど頭がいいね。流石、天下人だ…」
「クッ、当たり前だ。これで手早く戦を終わらせて来たからな。さて、猿飛のためにコーヒーでも淹れてやるか。お前も飲むだろ?」
「うん」

俺は鉄瓶の湯を沸かし始めた。
遙は熱心にエリザベスのiPhoneをいじっていた。

「ねぇ、政宗様、入ってもいい?」
「ああ、いいぜ?」

猿飛は部屋に入ると物珍し気に俺の部屋を見回し、そして困ったようにテーブルの前に立った。

「いいから、座れよ。話はそれからだ。丁度、湯が沸いたから、コーヒーを淹れてやる」
「はぁ、噂には聞いてたけど流石は南蛮かぶれの伊達男だね。こんな部屋初めて見るよ。じゃあ、失礼」

猿飛は椅子に座った。
俺がコーヒーを淹れると、猿飛はまた困ったような表情を浮かべた。

「こんなの見た事ない飲み物だよ。紅茶とも違う。でも、すごくいい香りだね」
「遙のお気に入りの飲み物だ。まだ熱いから火傷するぜ?」
「遙のお気に入りか。未来の飲み物なら、納得。で?話って?」
「ああ、お前をイギリスに遣いにやりたい。お前、英語しゃべれるだろ?俺と遙の文と、iPhoneをエリザベス女王に届けて欲しい」

猿飛は驚いて、口をあんぐりと開けて固まった。

「ほら、政宗、いくら佐助でも無理だよ」
「話は最後まで聞かねぇと分からねぇだろ?」
「何でまた、俺がご指名なの?そんな恐れ多い。政宗様には外交官がたくさんいるじゃん」
「お前に空から向かって欲しいからだ」
「ええっ!?空から!?いや、休みながらなら出来なくもないし、確かに船より速いけど…」
「やっぱな!俺の思った通りだぜっ!な?遙。聞いてみなきゃ分からねぇだろ?」
「はぁ、政宗って本当にすごいよ…。それで?何日で着くの?」
「俺、そもそも世界の地理、よく知らない。エリザベス女王ってイギリスのどこにいるの?」
「ロンドンのバッキンガム宮殿だ」
「バッキンガム宮殿ねぇ。まあ、いいよ。後で地図見せてくれたら。どれくらい遠いの?」
「佐助、ちょっと待ってね。大陸を通るルートを最短で検索するから」

遙はSafariを立ち上げて検索をした。

「そうだな、約9300キロだよ、佐助」
「全然想像つかない。それってどれくらい遠いの?」
「江戸城から名古屋城まで約360キロだから、その25倍くらいかな?」
「25倍!?ちょっと待って!それ、めっちゃ遠いじゃん!行けなくもないけど、帰って来るのも考えると、一泊くらいは休まないと絶対無理!」
「エリザベスにお前をもてなすよう言付けてやるから安心しろ。それに大陸を通るルートだから、どこでも休めるだろ?」
「まあ、そりゃそうだけど。何日かかるかなぁ…。計算出来ないなぁ…」
「じゃあ、遙。お前が代わりに計算しろ」
「うん」

遙は電卓を立ち上げた。

「じゃあ、佐助、1秒でどれくらいの距離を飛べるの?最速で」
「相当上空を飛べば、平均的に50mは進むんじゃないかな」
「ええっ!?そんなに!?って事は、時速150kmか。相当速いな。ロンドンまで9300キロだから、2.6日で着くか。約2日半だよ、政宗」
「最高にcoolだぜっ!3日後にはエリザベスと話せるのか!楽しみでたまらねぇ!」
「ちょっと待って!3日で着くのは構わないんだけど、そもそも何でエリザベス女王にiPhone渡す訳?ってか、遠過ぎて使えないんじゃないの?」

俺はエリザベスの楽団を借りる事になった経緯と、そのため未来の科学が進んで有効距離が変更された話をした。
猿飛はあんぐりと口を開けて固まった後、深い溜息を吐いた。

「俺、まさか政宗様がエリザベス女王とそんなに仲良しだなんて知らなかったよ…。そりゃ婚儀に来るかもね。急ぐ理由も分かったよ。それにしても桁が違いすぎる…!道理で政宗様の英語力が半端ない訳だ。まさかニックネームで呼び合うほど仲良しの文通友達だったなんて思いもしなかったよっ!はぁ、びっくりした…」
「佐助、私も人生で一番びっくりしたよ。佐助だけじゃないから、安心して?」
「遙でもびっくりするよね?そうだよね?はぁ、良かった…」
「まあ、とりあえずコーヒーでも飲んで落ち着け。そろそろ飲み頃だ」
「ありがとう、政宗様」

猿飛は一口飲んで、驚いたように目を瞠った。

「流石、お嬢様の遙が好む飲み物!何か癖になりそうなほど美味しいよ!」
「ふふっ、良かった。そんなに気に入ったなら、美紀のバッグから出してもらいなよ」
「え!?そんなに簡単に手に入るの!?」
「うん。普通にどこでも売ってるよ?」
「驚いたな…。うん、後で頼んでみる。それにしてもなぁ…。俺、日常会話の英語しか出来ないから、敬語とか分からないよ。困ったな」
「猿飛、返事をする時はyes, your majestyで、あとは依頼の助動詞を全部過去形にして話せばそれなりに敬語になるから安心しろ。そうだな、遙?」
「まあ、大筋で合ってる」
「一応、遙がiPhoneの取り扱い説明書を書くが、あいつが面倒がるようなら、FaceTimeとLINEの使い方だけ説明して来い。それくらいなら出来るだろ?とりあえずpleaseを語尾につければ大丈夫だ」
「なるほど、pleaseね。それくらいなら出来る。はぁ、緊張でドキドキして来た…。俺、屋根裏とかで諜報するので聞き取りには自信あるけど、実際に本格的に話した事って数えるくらいしかないからさ」
「でも、それで通じたんだろ?」
「まあね」
「だったらその調子でやれ。いざとなったら、お前のiPhoneで俺にかけろ。俺が説明してやる」
「その方が助かるよ、政宗様!」
「じゃあ、とりあえずエリザベスとの面談までこぎつけろ」
「分かった。善処する」
「よし、遙、今から文を書くぞ。お前も英語なら書けるだろ?」
「うん」

俺が便箋と筆記用具を用意すると、二人でエリザベスに文を書き始めた。
過不足ない文はそう経たないうちに書き終わった。
遙も取り扱い説明書を書き終わったようだった。
それぞれの便箋を封筒に入れて、封蝋で封印すると、猿飛に手渡した。

「食料と水は必要なだけ部下に申し付けろ。準備が出来次第、出立出来そうならしろ。遙、猿飛に地図をLINEしろ」
「うん、分かった」

遙は何枚かスクリーンショットを撮ると、猿飛にLINEした。

「確認だが、お前、LINEとFaceTimeの使い方は分かるな?」
「ああ、美紀に教えてもらった。入力も楽だね。筆より速い」
「流石だな。途中、休憩しながら、何時間飛んだか報告しろ。それで大体の到着時間が計算出来る。出立直前にまたLINEだ。いいな?」
「うん、分かったよ。遙、不安になったら電話するからね?俺、英語以外分からないからさ」
「Google翻訳使えば代わりにしゃべってくれるよ?」
「そんなのがあるの!?使い方教えて!」
「うん」

遙はGoogle翻訳を立ち上げて説明をして、どこの国で何語が使われているのか説明した。
俺も初めての機能で本当に驚いた。
これなら、もっと手広く貿易出来そうだ。

「よし、猿飛、現在地の報告でも構わねぇ。とにかく、お前の現在地を把握しておきたいからな。何かあったらすぐにLINEしろ」
「うん、分かった。紫苑も連れて行くよ、不測の事態のために。紫苑も英語が話せるからね。江戸城の指揮は焔に執らせる」
「そうだな、バッキンガム宮殿で兵に囲まれたら厄介だからな。そうしろ。まあ、日本の忍についてはあいつにはもう文で知らせた事があるから、あいつの耳に入ればすぐに兵を引くから安心しろ。忍者に会いたいって言ってたからきっと喜ぶぜ?凧を使う事も知ってる。だから、俺からの遣いだってすぐに分かるぜ?あいつはよく中庭で射撃の練習をしているらしい。昼餉の後から午後の紅茶タイムまでの間って言ってたな。紅茶は午後2時らしいぜ」
「佐助、ロンドンの時計をインストールしておきなよ。時差があるから」
「そんな事まで出来るの!?教えて!」

遙は時計のアプリの説明をしてロンドンタイムを設定した。
俺もiPhoneの時計にロンドンを追加した。

「よし、これで安心だ。どう見ても不審人物だから心配してたよ。女王が知ってるなら大丈夫だ。その時間に中庭目指して凧で降りるね。じゃあ、コーヒーご馳走様。すっごく美味しかったよ!準備して行って来るね!俺も初めての外国楽しみ!」

猿飛は立ち上がり、文とiPhoneを懐に入れると、一礼をして部屋を出て行った。

「遙、天守閣、今から行くか?」
「ううん。今日は驚き過ぎて、疲れちゃった。お布団でごろごろしたいな」
「そうだな。もうすぐ12時だしな。今日はそっとしておいてやるから、ゆっくり眠れ。俺も何か疲れた」
「そうだよね。あんなにドレス選び頑張ったもんね。じゃあ、着替える」
「俺も着替える」

俺達は着替えて寝所に移動し、iPhoneを枕元に置いて横になった。
しばらくキスを交わしているうちに、遙はうつらうつらとし始めて、間もなく眠ってしまった。
遙の寝顔を眺めているうちに、俺のiPhoneが鳴り、通知を確認すると、猿飛の出立の知らせだった。
午前0時に出発するとの事だった。
遅くとも4日後にエリザベスと話せる。
そう思うと楽しみでたまらなくなった。
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