Yes, your majesty! -3-

作戦開始から10分後。
上空を旋回しつつ中庭を観察。
確かに中庭に人がまばらにいて、デカい円形の襟巻きを発見。
どうやら射撃の練習をしているようだ。
政宗様の言ってた通りだ!
ターゲット捕捉。いざ、尋常に勝負!

「紫苑、あれがターゲットだ。打ち合わせ通りに行くぞっ!」
「御意!」

俺達はゆっくりと高度を下げて行った。
目標まであと10メートルという所で、兵の一人が気付いて声を上げて銃を構えた。
ヤバっ!予定より早く見つかっちゃった!
銃口の向きから逃げるように凧を動かすと、エリザベス女王がハッとこちらを向いて叫んだ。

「今すぐ銃を引けっ!撃つなっ!」
「しかし、陛下!」
「言う事を聞かなければお前を撃つ!」
「Yes, your majesty!」

政宗様の言ってたyes, your majestyだっ!
ああやって返事すれば良いのね、大丈夫そう!

「Come on!貴方達、マサの忍者でしょ?早く降りて来てっ!忍者を遣いに寄越すなんて、最高にcoolよっ!マサはやっぱり最高のcool guyねっ!すっごく忍者に会いたかったわ!早く来てっ!」
「Yes, your majesty!」
「英語まで出来るなんて、最高にexcellentよっ!流石はマサだわっ!」

すげぇ!ちゃんと通じた!
魔法の言葉、yes, your majesty!
何とか乗り切れるかも!
それにしてもニックネームで本当に呼んでたんだ…。
政宗様、すごすぎるよ…。

俺はエリザベス女王の目の前に降り立って、膝をつくと懐から文を取り出して差し出した。

「マサからのお返事ね?」
「Yes, your majesty」
「いつもより遅いから気になってたの。すぐに読むからそこでお待ちなさい」
「Yes, your majesty!」

本当にこれだけで乗り切れそう!
流石は政宗様!
段々楽しくなって来た!

そっとエリザベス女王の表情を窺う。
嬉しそうに文を読み始めていた表情が、段々と驚愕に満ちた表情となり、文を読むスピードがどんどん上がって行く。
何を書いたの、政宗様!?
俺、難しい事、聞かれたら、ピンチ!
政宗様に電話した方がいいの!?
何か聞かれた瞬間にかけよう。
それしか助かる道はない。
エリザベス女王は、俺に視線を移した。

「貴方、iPhoneを持っているの?」
「Yes, your majesty」
「それでマサの顔を見ながら話せるのね?」
「Yes, your majesty」
「最高にcoolよっ!未来の話は聞いてたけど、まさか未来の道具が使えるなんて、fantasticよっ!今すぐお出しなさい」
「Yes, your majesty!」

良かった!魔法の言葉で乗り切れたっ!
俺はすぐに懐からiPhoneを取り出して、両手で捧げた。
エリザベス女王は、iPhoneを受け取り、文を参照しながら、iPhoneを操作した。

「Oh, 思ったより機能満載だわ。流石、未来の機械ね。どれだったかしら…」
「FaceTime, please!」
「そうだったわ!FaceTimeね!あら、私の顔が映ってるわ!鏡みたいですごいわっ!マサの名前をタッチすれば良いのかしら?」
「Yes, your majesty!」

良かった!
Yes, your majestyとpleaseだけで乗り切れた!
すごいよ、政宗様っ!
俺、ピンチ脱出!
あとは頼んだよっ、政宗様っ!
俺はホッとして脱力した。
エリザベス女王が政宗様の名前をタッチすると発信音が流れ、すぐに政宗様が応答した。

「よう、ベス!俺がマサだぜっ!お前とは一度顔を見て話したかったぜっ!」
「Wow!本当に顔が映ったわっ!最高にcoolよっ!マサ、思ってたよりずっとずっとgood looking guyだったのね!驚いたわ!Fabulous!」
「お前こそ、思ってたより美人だぜ?もっと怖い女かと思ってた」
「人は見かけによらなくてよ?」
「ああ、分かってる。お前は最高にキレる女だからな」
「ふふっ、それより貴方のフィアンセ紹介して?未来の世界で出会ってずっと恋してたフィアンセ。再会出来たなんて最高にロマンチックじゃない?」
「Okay!こいつが遙だ」
「Oh, my God!最高に綺麗で可愛いじゃない!貴方とお似合いよ?」
「初めまして、陛下。遙と申します。政宗と再会するために未来の世界から参りました」
「マサと再会するために!?それでこそdestinyねっ!True loveよ!私の事はベスで良くってよ。貴女はマサのフィアンセなんだから!」
「そんな恐れ多い…」
「手紙にも書いた通り、俺達は婚儀を挙げる事になった。遙がメサイアを大名達に聞かせたいって言い出してな。お前の楽団と声楽隊を借りたい。もちろん礼はたっぷりする。大量の香辛料と綿花で手を打つぜ」
「大量の香辛料と綿花ね。条件としては十分ね。でも、メサイアって?聞いた事ないわ。そんな楽譜、ないわ」
「日本にあるから、楽団をここで練習させて婚儀の日に演奏させるつもりだ」
「そんな長期間、私の楽団を使うつもり!?そもそも日本には楽団がないのにどうして楽譜だけあるの!?」
「Ha!お前なら見抜いても仕方ねぇか。メサイアはイギリスの未来の音楽だ。遙が楽譜を持っている。だから、楽譜だけここにある」
「イギリスの未来の音楽!?聞きたいわっ!何で楽譜をくれなかったの!?」
「後世に残さないためだ。歴史が変わっちまう。お前の国から巨匠が誕生しなくなるぜ?それは困るだろ?」
「それは、そうね…。確かに困るわ…。でも、そんな傑作なら私も聞きたいわっ!貴方の婚儀に押しかけてやるから、メサイアを聞かせなさい!それが楽団を貸す条件よっ!」
「ははっ!思った通りだぜ!お前ならそう言うと思った。お前をもてなす心づもりは出来ている。だから、婚儀に押しかけてもいいぜ?最前列を用意して待っててやる。自慢の船団を率いてやって来い!」
「それでこそ、私のbuddyよっ!必ず行くから招待なさいねっ!」
「もちろんだぜっ!盛大にもてなしてやるから楽しみにしてろよ?とりあえずの所は忍者達が疲れてるだろうから、休ませてやってくれ。お前にはまた後ほどFaceTimeするから、肌身離さずiPhoneを持ってろ」
「Okay!楽しみに待ってるからね!」
「Nice talking to you!じゃあな!忍者達を頼んだぜっ!あ、そうそう。忍者達、敬語が出来ねぇからそこは目を瞑ってくれ。友達感覚で話してやってくれ」
「Okay!任せなさいっ!盛大にもてなすから安心なさい。Talk to you later!」

政宗様はそこでFaceTimeを切った。
政宗様、すっげぇ、英語、ペラッペラ!
遙もすごいペラッペラ!
予想以上にすごかった!
それにしても、すげぇ、遙の婚儀、マジでヤバいレベルになっちゃったっ!
でも、俺達これからおもてなしされて、何か話せるの!?
ヤバいよ、俺達またピンチ!

「忍者達!楽しいpartyの時間よ!とりあえずお茶でもしましょう。名前は?」
「I'm 佐助!」
「I'm 紫苑!」
「Okay!佐助と紫苑ね!皆の者、引き上げよ!佐助、紫苑、ついてらっしゃい」
「Yes, your majesty!」

俺達はエリザベス女王の後をついて行った。
良かった、ギリギリ何とかなった!
やっぱりすごい、魔法の言葉!
すごく広い宮殿の中の一部屋に案内されると、豪華なテーブルと紅茶のセットがあった。

「佐助と紫苑は私の前に座りなさい」
「Yes, your majesty!」

俺達はエリザベス女王に促されて席に座った。
ほどなくして、紅茶と見た事もないお菓子が運ばれて来た。
興味津々に見つめていると、エリザベス女王はくすりと笑った。

「遠慮せずに召し上がれ。イギリスまで、どれくらい時間がかかったの?」
「About 3 days!」
「ええっ!?たったの3日!?すごいわっ!それでこそ忍者だわっ!最高にcoolよっ!ずっと徹夜?」
「Yes, your majesty!」
「それは疲れたでしょう。後でゆっくり眠らせてあげるから、今はお食べなさい。スコーンは初めて?」
「Yes, your majesty!」
「そう!いくらでも用意させるわ!好きなだけお食べなさい」
「Thank you very much!」
「どういたしまして。ところで貴方、シェイクスピアを読んだ事、ある?」

俺は、政宗様の翻訳を思い出して切なくなった。

「Yes, your majesty!I love Remeo and Juliet!I cried really hard in the end!」
「そう!マサの翻訳で読んだのね?」
「Yes, your majesty!」
「忍者でも読んだ事があるなんて、coolだわっ!シェイクスピアもそこまで有名になって、最高の誇りよっ!次は何を翻訳させようかしら。楽しみだわっ!」
「Me too!」

エリザベス女王は上機嫌に話を続けた。
聞き取りは慣れているから、大丈夫だ。
あとは、簡単な会話とyes, your majestyで全部乗り切れそうだ。
良かった!全部通じてる!
俺、案外英語しゃべれるかも!
気分もほぐれて来ると、段々と色々な表現を思い出して、スムーズに会話が出来るようになって行った。
多分、この調子だと、聞き取りと話すのはさほど違いがない。
過去に諜報で覚えた表現を思い出しながら、俺は会話をした。

「貴方、相当緊張してたのね。英語、初めより上手くなってるわよ?流石忍者ね!」
「いや、政宗様みたいにはいかないよ」
「マサは特別よ!あのロミオとジュリエットを瞬く間に日本で流行らせたんだから、相当翻訳も上手いのね!全く感心するわ!」
「政宗様のロミオとジュリエット、すっごく切なくて、最後は号泣。俺、滅多に泣かないのに。俺、純愛に弱いんだ」
「そうなのね。マサも純愛してたものね。それも7年目に突入って聞いたわ」
「そうなんだよ。政宗様と遙の純愛って、俺のすごい憧れでさ。俺、絶対遙を守って政宗様に返してあげる騎士になりたかったんだ。その時、俺は遙の想い人が政宗様って知らなかったんだけどさ」
「それ、手紙にもさらっと書いてあったわ。詳しく聞いてもいいかしら?」
「俺、政宗様の許可なしじゃ、詳しく言えない。でも、エリザベス様には政宗様、きっと教えてくれると思うよ?すっごく仲良しみたいだからさ。LINEで聞いてみたら?」
「LINE?使い方教えてくれる?」

俺はiPhoneが全部英語で戸惑ったけれど、形は覚えていたから、何とか使い方を説明した。

「使い方、分かったわ。手紙より、楽ね。これからは気軽にマサにLINEするわ」
「うん、そうしてくれる?ねぇねぇ、エリザベス様。俺、騎士について詳しく知りたいな!何か、すごい憧れなんだ!」
「あら!忍者の方がすごいのに、変わっているわね。じゃあ、教えてあげる」

エリザベス女王は、騎士階級の成り立ちや、歴史、儀式について詳しく教えてくれた。
正に俺の憧れの世界が広がっていて、真剣になって、色々俺は質問した。
エリザベス女王は笑いながら俺の質問に答えてくれた。

「そんなにイギリスに興味を持ってくれて、嬉しいわ。マサもいい忍者を持ったわね。明日で構わないから、色々忍術見せてくれる?」
「お安い御用だよ!」
「じゃあ、今日はそろそろ眠りなさい。徹夜なんだから。お腹が空いたら私に直接LINEしなさい」
「でも、俺、英語話せても読めないんだ」
「遙の説明書に、ボイスメッセージのやり方が書いてあったわ。説明してあげる」

エリザベス女王は、ボイスメッセージのやり方を教えてくれた。
これはかなり便利だ。

「分かった!これで連絡するね!」
「夜中でもいいわよ。遠慮しないで。じゃあ、寝室に案内するわね」

エリザベス女王は自ら俺達を寝室に案内してくれた。

「エリザベス様、ありがとう!俺達、明日、張り切って忍術披露するね!」
「うん、楽しみにしてる!おやすみね!」

何か見た事もない寝台が二台あって戸惑ったけど、横になってみると、今まで体験した事がないくらいふかふかで、俺にしては珍しく、着替えもせずに、まもなくぐっすりと眠りに就いた。

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