政宗のマブダチ -1-

エリザベスとのFaceTimeが終わると、成実が堪え切れないように笑い出し、小十郎は不思議そうに俺を見つめていた。
丁度、夕餉を何時間か前に終えて、クラシックを聴きながら寛いでいた所だった。

「梵、お前、最高!俺達に遙ちゃんの事を打ち明けられなかったからって、あのエリザベス女王に打ち明けて惚気てたのかよっ!あははっ!ニックネームも最高にウケたぜっ!まあ、確かにイギリス女王相手だったら、お前の秘密も漏れねぇし、都合良かったんだろうけどさぁ。だったら俺に言えば良かったのに。お前の秘密、守って来ただろ?」
「でも、お前、俺が初恋したって言ったら絶対大爆笑しただろ?それをネタにし続けただろ?」
「まあな。それしても、エリザベス女王って本当に面白い女。メサイア聞きたいからって、お前の婚儀に押しかけるなんてな!最高だぜっ!それに、案外ノリもお前そっくりだったし、世界を制覇した女王とは思えねぇ!」
「政宗様っ!それでは、エリザベス女王は、政宗様の婚儀においでになるのですか?」
「ああ、そうだ、小十郎。婚儀と上洛の準備の間でいいから、お前、遙から英語を習え。基本的に外交官を使ってもてなすが、一応国賓だから、お前も英語が話せた方が都合がいい」
「かしこまりました。政宗様の婚儀のためでございますから、寝る間を惜しんでも勉強に励みましょう」
「流石だ、小十郎!成実、エリザベスをもてなすのはお前も手伝えよ?」
「もちろんだぜっ!なかなか本場の英語を使う機会なんてねぇから楽しみだ!」
「政宗って本当にすごいね。まさか本当にニックネームで呼んでたなんて思わなかったよ…。はぁ…びっくりした…」
「佐助様が無事イギリスに到着し、ホッと致しました。あちらでも、もてなされるご様子で、安心でございます。流石は政宗様でございます」
「焔、政宗が人使い荒くて、ゴメンね。まさかイギリスに遣いをやらせるなんて、私も想像してなくて」
「いえ、これで日本とイギリスの国交も活性化されるでしょう。日本の安全がますます確立されます。そのためでございましたら、我々は政宗様の手足となる所存。いくらでもお申し付け下さいませ」
「焔、よく言った!猿飛と紫苑には礼を弾んでやらなきゃな!帰って来たら、あいつらの望みを聞いてやる。遙、茶は足りたか?」
「緊張したから、玉露が飲みたい」
「かしこまりました。すぐに申し付けます」

小十郎は、部下を呼び、玉露を申し付けた。

「それにしても、梵、お前、最高に傑作だな!yes, your majestyで乗り切れって大雑把にもほどがあるぜ、あははっ!」
「猿飛、日常会話は出来るって言ってたからな。聞き取りはもっと出来るみたいだぜ?だったら、あとは返事だけだろ?yes, your majestyで十分だ」
「あいつ、そんなに英語出来るのか。意外だったぜ。だったら、yes, your majestyで十分だな」
「だろ?」
「まあ、佐助、FaceTimeをかけさせる所までこぎつけたんだから、大したもんだよね。あんなに不安がってたのに、やれば出来るのね」
「ああ、あいつは本当に出来る男だな。後は俺がエリザベスと直接やり取りをするから大丈夫だ」
「小十郎様!玉露です!」
「おう、入れ」

部下は玉露を配膳すると、夕餉の膳を下げて静かに出て行った。

「政宗様、yes, your majestyとは?」
「王に対して、yesって返事をする時、敬意を表してyes, your majestyと返事をする。王子だったら、yes, your highnessだな。位によって細かく決まっている」
「左様でございましたか。一つ勉強になりました」
「ねーねー、政宗!佐助はイギリスに着いた?気になって少し早めに来ちゃった。入ってもいい?」
「おう、美紀か。ああ、いいぜ?小十郎、美紀の分も玉露を申し付けろ」
「はっ!」

小十郎は玉露を申し付け、美紀は部屋に入り、遙の隣に座った。

「ねぇ、政宗、佐助から連絡あった?」
「ああ。最後の連絡はロンドン郊外からだ。英語に自信ないって不安がってたから、返事はyes, your majestyで乗り切れって励ましてやったぜ!」
「あははっ!大筋で合ってるけど、それで乗り切れってすんごい大雑把!」
「大丈夫だ。pleaseも教えてあるし、そもそもあいつは日常会話が出来る。何の問題もねぇよ」
「そうだったんだ!じゃあ、安心だね!」

その時、美紀の玉露も運ばれて来た。
美紀は玉露を飲んで、幸せの溜息を吐いた。

「政宗が手配するお茶って本当に美味しいよね!」
「気に入ってくれて嬉しいぜ」
「それでさ、無事エリザベス女王にiPhoneは渡せたの?」
「ああ、そうだ。あいつとFaceTimeしたぜ?あいつ、俺を一目見るなり、good looking guyだって言いやがった。笑いそうになったぜ?」

美紀は腹を抱えて笑い出した。

「あははっ!ちょっ、それ、超ウケる!!good looking guyって!!それ、叶姉妹じゃん!あははっ!」
「美紀っ!笑わせないでっ!私もずっと我慢してたんだからっ!Fabulousとも言ってたよ?あははっ!」
「ちょっ、マジで!?ガチの叶姉妹だっ!あははっ!」

美紀と遙は机に突っ伏して、しばらく爆笑していた。
叶姉妹が何なのか全然分からないが、相当遙と美紀のツボにハマったらしい。
ようやく遙と美紀の笑いが収まって行って、でも茶を飲みながらまだ思い出し笑いをしていた。

「多分、amazingでheavenlyでpeacefulな世界がきっと広がってるんだね?あははっ!」
「美紀、もう、止めて!せっかく笑いが止まったのに!あははっ!」

遙と美紀はまた笑い出した。

「ねーねー、遙ちゃん。何でそんなに笑ってるの?俺、超気になる!」

遙は爆笑しながらiPhoneを操作して、ブログの記事を出して、成実に手渡した。
それを読んだ成実も笑い出し、成実は俺にiPhoneを手渡した。
記事を読んで行くうちに、何故遙と美紀が大爆笑しているのかが分かり、俺も笑いが止まらなくなった。

「あははっ!傑作だぜっ!美紀と遙!こんな面白い奴らがいるなんて思いもしなかったぜっ!」
「この小十郎も読んでもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぜ。多分、お前は糞真面目だし英語が分からないから笑わねぇと思うけど」

俺は小十郎にiPhoneを手渡した。
小十郎は記事を読んで呆れたように俺達を見た。
笑いが収まるまでしばらく時間がかかった。

「はー、面白かった!俺、これからエリザベスの事を叶姉妹って呼ぼうかな」
「成実、止めて!また笑いが止まらなくなる!」
「遙ちゃん、ゴメン、ゴメン!」
「はー、面白かった!佐助、ちゃんと休ませてもらってるかなぁ」
「ゆっくり休ませるよう、言付けたから、大丈夫だ」
「良かった!じゃあ、そろそろ時間だから、遙に引き継ぎするね」
「うん、じゃあ、向こうの部屋に行こう」
「うん!」

遙と美紀は茶を飲み干すと、襖の向こうに消えて行った。
しばらくして、遙は荷物をまとめて、戻って来た。

「遙、そろそろ部屋に戻るか?」
「いや、小十郎と英会話のレッスンのスケジュールについて1時間ほど打ち合わせしたいな」
「Okay!」

遙は、小十郎の英語力のテストをし、カリキュラムを作成した。
明日から、仕事の合間を縫って、小十郎に英語を叩き込むつもりだ。

「かしこまりました。半年でございますか。十分間に合いますね」
「ふふっ、頑張ってね!」
「もちろんでございます」
「じゃあ、小十郎、俺達は部屋に戻るぜ」
「かしこまりました」
「じゃあな!」

俺と遙は部屋に戻った。
鉄瓶で湯を沸かし、コーヒーを淹れている間に、遙はタバコに火を点けた。
俺もタバコに火を点けて、しばらくゆっくりと吸っていると、俺のiPhoneが鳴った。
LINEのメッセージの着信だ。
確認するとエリザベスからのメッセージだった。

「忍者達を寝かしつけたわよ。このまま朝まで眠らせた方がいいかしら?」
「いや、忍者は短時間睡眠に慣れてるから、dinnerに招待してやってくれ。起こしても問題ねぇよ。その後、朝まで眠らせればいい」
「分かったわ。盛大なpartyを申し付けるわ。ところで、貴方とフィアンセの再会について、詳しく教えてくれる?」
「構わねぇけど、相当長くなるぜ?俺の婚儀の披露宴で、7年前の恋と再会からプロポーズまでの経緯を一挙公開するから、お前も披露宴に参加するか?俺達の馴れ初めだけで20時間のストーリーだ。LINEで伝えるのには限界がある」
「Amazing!そんなに長いの!?是非、披露宴にも参加させて!招待状は後ほど船便で正式に送ってくれるので構わないわ。大臣達に見せなきゃいけないから、面倒だけど、送ってくれる?」
「ああ、いいぜ。婚儀の日程が決まったらすぐに招待状を手配する。婚儀は9月末だ。それより、お前の城をFaceTimeで見せてくれよ!何ならベッドも見せてくれ。日本にはベッドがなくてな、代わりにもっと薄い布団で寝る。遙の部屋にはベッドがあったから、昔、そこで二人で寝ていた。それが懐かしくてな。出来れば、俺もベッドが欲しい」
「あら、ベッドが欲しいの?それくらいなら、婚儀のお祝いにプレゼントするわよ」
「マジか!?だったら、礼に、未来の音楽をもっと聞かせてやるから楽しみにしてろ。お前のためだけに、コンサートを開催させるぜ!早めに江戸入りしろ。何なら2ヶ月くらいいても構わねぇ。歌舞伎のロミオとジュリエットも見せてやるぜ?お前とヨーロッパ式の狩もしたいしな!お前も鷹狩りしてみるか?」
「Really?それは楽しみだわ!ベッドの礼としてはそれで十分よ!最高級のベッドを用意するから楽しみにしててね!何なら楽団と声楽隊と一緒にベッドは先に送ってあげるわ。貴方のフィアンセがベッドに慣れているなら、布団は慣れないでしょう?早めに手配するわね」
「Thanks!助かるぜ!滞在中のお前の部屋も城内に用意してやるから、スペアのベッドを先に持ってこい。それから、楽団と声楽隊の規模を後で教えてくれ。ステージのサイズを決めるのに必要だ。今はコーヒーブレイクだ。終わったら、俺からFaceTimeをかける。それでいいか?」
「あら、お楽しみ中に邪魔をしたわね。いいわよ。私のホールのステージのサイズを調べさせてまた連絡するわ。あと30分後くらいのつもりでいるわね。じゃあ、またね!」
「Okay!Talk to you later!」

LINEを終えて、俺は飲み頃のコーヒーを飲み始めた。
遙は先ほどのやり取りが気になるようで、興味津々の表情をしていた。

「政宗、随分嬉しそうだったけど、誰とLINEしてたの?」
「エリザベスだ」

遙はコーヒーを吹き出しそうになり、咳をしていた。

「いい加減、慣れろ。エリザベスと俺はマブダチだ。お前との恋の話を誰にも出来なかったから、エリザベスに惚気ていた。だから、お前との恋の事もある程度は知っている。とりあえず、ゆっくり休め。後でエリザベスとのLINEを見せてやるから」
「うん、分かった。はぁ、まさか政宗、誰にも話せないからって、エリザベス女王に打ち明けてたなんて、思いもしなかったよ…。はぁ…最強だ…。とうの昔から歴史が変わり始めてたのか、納得…。そりゃ、エリザベス女王のiPhoneも出て来るよね。これからどうなるんだろう…」

遙は溜息を吐いて、タバコに火を点けた。

「ほら、遙。エリザベスとのLINE、読みたいだろ?」
「うん」

遙は俺からiPhoneを受け取り、タバコを吸いながら、LINEを読み始めた。

「何か、初めて話した時も思ったんだけど、エリザベス女王の英語って基本的にアメリカ英語なんだね。ガチガチのイギリス英語だとばかり思ってたから、びっくりしたよ。その割に返事はyes, your majestyだったけど」
「こんなもんじゃねぇのか?」
「全然違うよ!何かカルチャーショック」
「それもお前の世界とは違うって事だ。諦めて受け入れろ」
「はぁ、イギリス英語は疎いから助かるけどね。道理で政宗の英語がアメリカ英語な訳だ。ベッドまでくれるなんて太っ腹。どんなベッドか楽しみだな」
「俺も楽しみだ。これからあいつとFaceTimeするからな。多分、城内を見たがるはずだ。夜だからどこまで映るか分からねぇけど。おいっ!行燈の火を強めろ」
「かしこまりました」

くノ一達が行燈の火を強めている間に、俺達はゆっくりとタバコを吸って、コーヒーを飲み終えた。
そろそろ約束の30分後だ。

「遙、用意はいいか?」
「うん、いいよ」
「よし、かけるぜ!」

俺がFaceTimeをかけると、すぐにエリザベスが出た。

「ハ〜イ!待ってたわよ!partyは言付けてあるわ。ここが私の寝室よ!」

エリザベスはカメラを反転させると部屋の中を見せてくれた。
とても豪華でヨーロッパらしい部屋の作りを動画で見るのは初めてで、遙と溜息を吐きながら見惚れた。
ベッドは天蓋付きで、細工も凝っていて、とても広かった。

「流石は世界のイギリスの女王の部屋だな!すげぇゴージャスだぜっ!」
「そうかしら?これと同じベッドでいいかしら?」
「ああ、最高だぜっ!基本的に日本の部屋は一部屋が小さくて、間仕切りがあって、用途によって部屋を分けている。そんなに広くねぇし、豪華な装飾もねぇな。せいぜい襖と欄間が凝ってるくらいか。お前の部屋に比べたら見劣りするぜ?」
「そうなの?マサの部屋を見せてよ」
「Okay!」

俺はカメラを反転させて、部屋全体を映して、次に寝所を映して、縁側を出て中庭を映した。

「これが、噂の襖と障子ね!ライトがとても素敵だわ!中庭もほんのり灯りが灯って素敵じゃない!オリエンタルで素敵だわ!紙と木で出来てるって本当だったのね!」
「ああ、そうだ。他には何が見たい?」
「お風呂場!ヨーロッパはお風呂に入る習慣がないから、私なんて1ヶ月に1度の入浴で変人扱いよ?毎日でもお風呂に入りたいわ」
「クッ、それは大変だな。江戸に着いたら毎日風呂に入れてやるから安心しろ。何なら風呂の習慣をイギリスで流行らせろ。よし、風呂場を見せてやる」

俺達は風呂場に移動した。
脱衣所を説明して、風呂場の洗い場と浴槽を説明すると、エリザベスは声を上げた。

「Amazing!随分、合理的じゃない!それならお湯も汚れないわね。全部木で出来てるのも素敵ね!私もこんなお風呂場欲しいわ!」
「職人を派遣してやるから、お前の城にも作るか?」
「日本に行ってから決めるわ。楽しみよ!」
「そんなに風呂好きなら、温泉も連れて行ってやるから、楽しみにしてろよ?」
「温泉?」
「天然の湯で、色々な成分が入っている。肌がつるつるになる、美人湯もあるぜ?」
「Fantastic!是非、行きたいわ!」
「Okay, 任せろ!お前の城ももっと見せてくれ!」
「Sure!」

エリザベスは部屋を出て、広い回廊や豪奢な広間を見せてくれた。

「最高にcoolだぜっ!やっぱ、建物の規模が全然違うな!」
「バッキンガム宮殿の中を見るなんて初めてだよ!すごいなぁ!」
「ふふっ、遙まで喜んでくれて嬉しいわ。何ならハネムーンにイギリスにいらっしゃい。護衛の船団をつけてあげるから安心なさい」
「マジかよ!?後で小十郎に相談するぜっ!」
「わぁ!新婚旅行がイギリスだなんて、最高に素敵だね!」
「早く貴方達に会いたいわ。9月が待ちきれないわ!」
「本当は城の外観も見せてやりてぇが、城門まで遠過ぎて無理だ。夜だしな。そろそろ夕餉だろ?また明日、ティータイム辺りに連絡するぜっ!LINEなら24時間好きな時にメッセージくれ。忍者達を頼むぜっ!」
「Okay!まだまだ dinner timeじゃないけれど、私はdinnerの首尾を確認するわ。忍者達を盛大にもてなさなきゃいけないからね!じゃあ、マサ、遙、またね!」

エリザベスはFaceTimeを切った。
遙は始終感心していた。

「政宗って、本当にすごい人とお友達なんだね!私、この時代だから、海外旅行なんて諦めてたよ」
「俺も他の国に行くなら信頼出来ねぇが、エリザベスの所なら安心だな。初めての海外旅行、俺も楽しみだぜっ!遙、今、11時半くらいだが、もう寝るか?」
「ううん。何か佐助の事が心配だし…」
「そうだな。じゃあ、もうしばらく起きているか」

遙はタバコを吸いながら、熱心にiPhoneをいじっていた。

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